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7. パテントマップを利用したアイデア創出事例

前回は、企業活動や研究開発活動の中の様々な場面で活用されるパテントマップについて、その活用場面にスポットを当てて、いくつかの事例について解説しました。

全6回シリーズの最終回(今回)は、技術系統図型パテントマップを活用したアイデア創出事例についてご紹介します。

(1)特許ポートフォリオ構築に役立つ技術系統図型パテントマップ

様々な種類のパテントマップの中でも、技術系統図型パテントマップは、強い特許を生み出していくにあたり、自社特許のポジションを確認し、特許ポートフォリオ(特許網)の状況を把握することが可能です。さらに、アイデアを創出する場面では、アイデア創出のきっかけとなるトリガー情報としても活用することが可能です。
このような機能を有する技術系統図型パテントマップだからこそ、特許ポートフォリオ(特許網)の構築に役立てることができます。

今回のシリーズの第4回(2010年7月配信号)では、「Wクリップ」を題材にして技術系統図型パテントマップの作り方を紹介し、実際に作成までを行ないました。(図25)
このパテントマップを模造紙の大きさに拡大印刷をしたものをアイデア創出会議に持ち込みます。模造紙の周りを5〜8人のメンバーで取り囲みブレインストーミングを行なうのです。

アイデア創出会議の時間を有効活用するために、通常は、作成した技術系統図型パテントマップをブレインストーミング参加メンバーに事前配布し、会議開催までにアイデアを3つ以上考えてくるよう準備してもらいます。考えたアイデアは付箋紙(75×75mmをよく使用しています)に記入して持参していただきます。

ブレインストーミングの開始とともに、まずは事前に準備してきたアイデアの発表から行ないます。アイデアの説明とともに、技術系統図型パテントマップの関連する系統項目の周りに付箋紙を貼り付けます。

図32は、アイデアを記載した付箋紙をパテントマップに貼り付けた始めた状態の図です。

「機能付加」の既存アイデアに触発されて、「ペンを保持する」「測長メモリを付ける」「挟持可能枚数を表示」といった新たな付加機能のアイデアが創出されています。
さらに、「収納コンパクト」に関して「レバーの収納」のアイデアが提案され、「操作性」向上のための「レバーの長さ違い」や「使用時に指当り部が伸縮する」といったアイデアも創出されています。
また、書類のコーナー部で留めるための既存アイデアに対しては、コーナー部の形状に沿った形のWクリップが提案されました。

図
図32 アイデアを貼り付けた技術系統図型パテントマップ

このようにして、準備してきたアイデア記入済みの付箋紙を、模造紙上のパテントマップの関連する系統項目の周りや、具体的に触発された既存アイデアの横に、どんどんと貼り出していきます。

事前に準備してきたアイデアの発表が終わってからも、提案されたアイデアから連想されるアイデアをその場で付箋紙に記入して貼り付けます。提案されたアイデアと別のアイデアを結合することにより生まれる新たなアイデアについても、付箋紙に記入して貼り付けます。
この「アイデアの連想と結合」こそが、複数人のメンバーで実施するブレインストーミングの醍醐味です。

付箋紙に書いて貼り付けるアイデアは、技術系統図型パテントマップの系統項目に無いアイデアでも構いません。模造紙の余白の部分に貼り付けておき、数が多くなってきたら同じような内容のアイデアをグルーピングしておきます。

(2)ブレインストーミングについて

パテントマップとは直接関係はありませんが、ここで、ブレインストーミングについてご紹介します。

アメリカの大手広告会社の創立者である、アレックス F.オズボーンが創案したブレインストーミング法は、オズボーンの死後も、様々な国の様々な機関で改変が検討され、いくつかの独立した手法として確立されています。

その代表的なアイデア創出技法を表2にまとめました。

表2 ブレインストーミング法などのアイデア創出技法

方法の内容

メリット

デメリット

ブレイン
ストーミング法

自由発言形式で、最も基本的ないわゆるブレーンストーミング法。

ツールを用いることなく安易にできる。

声の大きな人が主導権をとり、控えめな人は座っているのみになりがち。

カードBS法

アイデアをカードに書き出し、それを発表するということを繰り返す。

声の大きさに関わらず、全ての参加者がアイデアを出しやすい。まとめが容易。

参加者の能力差、知識レベルの差が反映されやすい。

ゴードン

参加者に具体的な要求について知らせず、要求に関連する最上位のテーマ(暖める,速くする等)を達成するためのアイデアを出させる。適当な時期を見計らって、具体的な要求を周知させ、既出アイデアを参考にして、さらなるアイデアを出させる。

新規、基本的、革新的なアイデアを出す場合に適する。

リーダーの考え方に大きなウエイトがかかり、リーダーの先入観によって結果が大きく左右される。

ブレイン
ライティング法

参加人数分の表形式用紙を一定時間(例えば5分)ごとに送り回しながら、各欄にアイデアを記入する。

声の大きさに関わらず、全ての参加者がアイデアを出しやすい。まとめが容易。集まることなく実行可能。

参加者の能力差、知識レベルの差が反映されやすい。

MBS法

参加者があらかじめアイデアをメモに書し、それを発表する。アイデア提案者がアイデアを説明し、それに対して互いに質問したり、批判したり、新たに提案したりする。最後に全体をまとめてさらに全員で検討する。

複雑、要緊急、現実プランが要求されるようなテーマに適する。

検討作業に時間がかかる。アイデアが出にくい。声の大きな参加者に引きずられやすい。

ワークデザイン法

最終目的に到達できるように、具体的提案と目的の検討とを交互に重ねる

行き詰まったテーマについて、根本から考え直すことができる。一人でも実行できる。

現状を固定したマイナーチェンジ的な改善には不向きな場合が多い。

ベーシックな「ブレインストーミング法」に加えて、「カードBS法」「ゴードン法」「ブレインライティング法」「MBS法」などの、ブレインストーミング法から派生した各手法と、問題解決技法のひとつである「ワークデザイン法」について比較検討しました。各手法について、方法の内容とメリット、デメリットについてまとめています。
それぞれの手法には、それぞれの特徴がありますので、アイデア創出の目的に合わせて最適な手法を選択すればよいのです。

今回紹介している技術系統図型パテントマップを活用したアイデア創出手法では、アイデアを付箋紙に書いて貼り付けているので、表2の中の「カードBS法」を利用しているともいえます。

ブレインストーミングの成功要因の一つに、「質より量」というものがあります。アイデアの質を問う前に、まずは、少しでも多くのアイデアを創出しようという考え方です。
今回の「Wクリップ」のアイデア創出活動では、アイデアの量を増やすために「ブレインライティング法」を実施しましたので、その概要もご紹介します。

まず、ブレインライティング法について説明します。

ブレインライティング法はドイツで発展したブレインストーミング手法で、「635法」とか「無言のブレインストーミング」、「沈黙のブレインストーミング」とも呼ばれています。
「635法」の635とは、
・「6」人の参加者が
・各自「3」つのアイデアを
・「5」分以内で考える
という過程を繰り返すところから付けられています。

図33は、ブレインライティング法で使うシートと作業様子の絵です。

図
図33 ブレインライティングシートと作業様子
(出展:日科技連出版社「創造力辞典」)

参加者は6人が理想的ですが、6人でなければならないというわけではありません。各人の目の前にブレインライティングシートを置きます。最初は1行目に3つのアイデアを5分以内に記入します。5分が経過したら、シートを左手の人に回します。自分のところには、右手の人からシートが送られてくるので、送られてきたシートの2行目には、1行目に書かれたアイデアを読んで連想されるアイデアを記入します。
基本的には上の行に書かれたアイデアに触発されてアイデアを記入するのですが、触発されたアイデアが浮かばなかったときには、新たなアイデアを記入します。

この作業を6ラウンド行なえば、シートは一巡し、3案×6行×6枚=108個のアイデアを強制的に出すことができるのです。

ブレインストーミング法は、どうしても声の大きい人、発言頻度が高い人、に引きずられる傾向にありますが、ブレインライティング法は、発言の少ない人、おとなしい人からも平等にアイデアを引き出すことができます。

図
図34 「Wクリップ」のブレインライティングシート

図34は「Wクリップ」のブレインライティング実施時に実際に記入されたシートです。Wクリップの操作性を改良するアイデアが、たくさん創出されています。

今回は、技術系統図型パテントマップを使ったアイデア創出の段階で、アイデアが一通り出尽くした後に、アイデア出しの方向性を検討することにしました。
出されたアイデアが貼り出されたマップを俯瞰しながら、メンバー全員でアイデア出しの方向性を検討しました。

基本構造は変わることが無いであろう「Wクリップ」の市場に新たに参入する後発メーカーとしては、「使い勝手を徹底的に良くすることを追求したWクリップを作っていこう!」ということになりました。
技術系統項目でいう「操作性」を向上させるアイデアを、できるだけ多く、漏れなく抽出するために、ブレインライティングを実施しました。

(3)アイデアの深掘り

アイデア創出会議の後半において重要な作業となるのが、おすすめアイデアを選定し、選定したおすすめアイデアを深掘りする作業です。

ブレインストーミングの成功要因の一つには、「質より量」というものがあり、より多くのアイデアを創出することが重要であると説明しましたが、アイデア創出会議の後半で重要なことは、出されたアイデアから重要なアイデアを取捨選択することです。アイデア創出会議を成功させるためには、この「発散と収束」という工程をいかにうまく行うのかにかかっています。

特許アイデアの創出活動の場合には、できるだけたくさんのアイデアを、漏れが無いように抽出し、その中から、自社の商品や事業を保護するために効果的であると思われるアイデアを取捨選択するのです。
まずは、いかに発散させ、その後、いかに収束させるかということが重要なポイントとなります。

アイデアの取捨選択の方法としては、第1シリーズの第4回(2009年7月配信)のメールマガジン配信記事にて、ポートフォリオマトリックス法によるアイデア選択事例(図3−3)と、評価マトリックス法による開発テーマの選択事例(図3−6)を紹介しています。しかし、これらの評価手法は別途多大な時間を要することになってしまいます。

そこで、アイデア創出会議の中では、発散作業後すぐに収束作業に入るために、ブレインストーミングを実施するグループ単位で、おすすめアイデアを選択し、選択したアイデアについてアイデアの深掘り作業を行なっています。

「Wクリップ」のアイデア創出活動では技術系統図型パテントマップに貼り出された「操作性」に関するアイデアと、ブレインライティングにより書き出されたアイデアを眺めながら、おすすめアイデアを選定しました。
今回は、2グループでブレインストーミングを行ない、各グループが操作性の向上に効果的と思われる3つのおすすめアイデアを選択しました。2グループで6つのおすすめアイデアが選択されました。図35は選択されたアイデアを示すものです。

図
図35 選択された深掘り対象アイデア

おすすめアイデアの深掘り作業は、深掘り対象アイデアの課題の再確認から始めます。

いま一度、アイデアが提案された背景を見つめなおし、浮き彫りとなった課題を明確にします。課題は複数あっても構いません。
そして、明確になった課題を解決するアイデアを検討します。特に、「提案されたアイデアがベストモードのアイデアなのか?」「提案されたアイデアの代替案は何か?」「提案されたアイデアをより具体化するとどうなるか?」さらには、「具体化されたために発生する新たな課題は何か?」というように思考を展開し、連想を繰り返します。そうすることにより、おすすめアイデアを深めていくことができます。

(4)パテントマップへの創出アイデアの補充とまとめ

特許公報が電子化される以前は、紙の公報の図面を模造紙に切り貼りして作成していましたが、パソコンが普及した現在はパソコンでパテントマップが作成されます。
今回の事例で紹介しているWクリップの技術系統図型パテントマップもワープロソフトで作成しています。

アイデア創出会議にてポストイットにより貼り出されたアイデアは、パソコンにて作成したデータに追加します。電子化しておくことによりネットワークを介して共有化することができます。

技術系統図型パテントマップの場合は、全体を俯瞰することができるので、「どの部分に創出されたアイデアが集中しているのか」であるとか、逆に「どの部分は創出されたアイデアが少ないのか」ということを確認することができます。
また、深掘りを行ったアイデアや出願することになったアイデアを識別表記することにより、どの部分に自社の特許が存在しているのかを確認することができます。つまり、自社の特許ポートフォリオ(特許網)の構築状況を確認できるのです。
技術系統図型パテントマップが特許ポートフォリオの構築に役立つことをご理解いただけたと思います。

8. 最後に

「技術情報としての側面」と「権利情報としての側面」を併せ持つ特許情報は、企業における研究開発活動には必須なものです。
研究開発戦略、技術開発戦略、さらには、事業戦略を立案するうえで特許情報を有効活用することが求められています。
そのために、特定のテーマに関連する特許情報を統計的に、時系列的に、系統的にまとめて視覚化したパテントマップを効果的に活用したいものです。

「パテントマップ」は、戦略を立案し、実行していくときの案内役となります。この「パテントマップ」を作成し、使いこなすための体制を構築することをお勧めします。社内のみならず社外のアウトソーシングも上手く活用していきましょう。


 

 

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