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5. 技術系統図型パテントマップの作り方

前回は、「技術系統図型パテントマップ」の成り立ちとともに、作成例と活用方法について解説しました。

今回は、特許調査により抽出された特許情報に基づいて「技術系統図型パテントマップ」を作成する方法をご紹介します。

(1)今回の作成事例について

今回の作成事例は「Wクリップ」です。皆様のお手元に「Wクリップ」があれば手にとってみてください。つまんだり、開いたりしながらお読みいただければイメージしやすいと思います。

図
図20 Wクリップの機能とニーズ

図20に、図面を中心として、Wクリップの基本機能とニーズを書き出してみました。
Wクリップの基本機能は「書類の束を挟む」ことですが、別の用途を考えることができれば新しい商品を提案できるかもしれません。また、「Myオリジナル」「環境・エコ」「高級品嗜好」などの近年のニーズに応じて必要な機能を兼ね備えていく必要もあります。

今回は、Wクリップの新機能を模索するためのアイデア創出活動に利用することを技術系統図型パテントマップの作成目的とします。
もっと具体的な場面を設定しましょう。

【場面設定】
文具メーカーA社は、新規に「Wクリップ」を取り扱うことにしました。そこで、商品企画担当部門では、多少コストが高くなっても、文具売り場で思わず欲しくなるような独自の新機能を付加したWクリップを企画することになりました。新機能についてのアイデア創出を行なうために、どのようなパテントマップを作れば有効でしょうか。

読者の皆さんも文具メーカーA社の商品企画担当者になったつもりで考えてみてください。

(2)関連特許の抽出

まずは特許調査を実施して、Wクリップに関連する特許を抽出します。
検索式は、以下の3つのアプローチを行ないました。

(A)FI=B42F1/02B
(B)Fターム=2C017BA01
(C)発明の名称=ダブル*クリップ+Wクリップ
検索式=(A)+(B)+(C)

FIのB42F1/02Bは「ダブルクリップ;山形クリップなどの、紙クリップまたは類似の締付け具」という内容であり、Wクリップそのものの特許分類です。対応するFタームである2C017BA01も「ダブルクリップ;山形クリップ」というWクリップそのものに付与される特許分類です。
これらの特許分類が付与されていない関連特許が存在するかもしれませんので、念のため発明の名称中に「ダブルクリップ」または「Wクリップ」を含む特許は全てヒットさせてスクリーニングを行なうことにしました。

平成21年7月の時点で、上記検索式に該当する件数は653件であり、この653件をスクリーニングしたところ、約40件のWクリップに関する特許が抽出されました。今回は、平成10年以降に発行された10件のWクリップに関する特許に限定して技術系統図型パテントマップの作り方を説明します。

関連する特許の抽出を終えましたので、次は関連特許一覧リストを作成します。
今回作成した関連特許一覧リストを、図21に示しました。

図
図21 関連特許一覧リスト

出願番号や公開番号など各種の番号と日付、出願人といった書誌的事項の他にも、Wクリップのように形があるものについては、要部を表す図面を加えることで視覚的に捉えることができ、特許の内容をより把握しやすくなります。
さらに、発明の課題や発明のポイントについても100字程度で要約文を作成しておけば、特許公報を参酌しなくても理解することができます。

公報番号の部分に公報全文pdfデータへのハイパーリンクを埋め込んでおけば、必要なときに公報全文や全図を容易に参酌することが可能です。

また、一覧表データの印刷範囲は図21のように特許の概要がわかる必要最小限の情報のみが印刷されるよう設定してあったとしても、印刷範囲外には特許請求の範囲の全文テキストや審査経過データも一緒に取り込んで一覧化しておくことをお勧めします。もっといえば、使用されている特許データベースにてダウンロードし得るCSVデータの項目の全てを一覧表に残しておけば、今後の用途が広がります。

特許調査を終え、関連特許一覧リストが完成しました。これで、文具メーカーA社がこれから参入しようとしているWクリップ市場の技術動向を、商品企画部門のメンバーで共有することができますね。

(3)カード化とKJ法によるグルーピング

次に、一覧にした調査結果をグルーピングしてみましょう。この作業は、机の上に積まれた本を分類ごとに整理して、本棚へ納めていく作業に似ています。著者別、年代別、分野別など本にもさまざまな観点でのグルーピングがあるように、特許にもさまざまな切り口が存在します。
ではまず、一覧化した関連特許を一件ずつカードにします。カードにすることで、実際に動かしながらグルーピングを検討することが容易になります。カードを利用してグルーピングしていくという手法は、KJ法の手法を思い浮かべていただくと分かりやすいかもしれません。
ご存知の方も多いと思いますが、KJ法とは、データをまとめるために考案された手法で、特に共同作業による「創造性開発」に効果があるといわれています。具体的方法としては、データをカード上に記述し、それらのカードを任意の観点でグループごとにまとめて図解化します。

図22は、カードにした10件の関連特許です。各カードには、「出願番号」「出願人」「課題要約文」「発明のポイント」「要部代表図」の情報を記載しています。

図
図22 関連特許のカード化

次に、グルーピング作業によって形成されたグループ、つまり特許群にタイトルを付けます。このタイトルこそが、系統項目を表しています。先の本の例でいう分類に当たる部分です。
グルーピングの着眼点、すなわち、技術層別の切り口については、「部位」「構造」「機能」「課題」「材質」などの様々な切り口があるので、いろいろな切り口でグルーピングを行なうとよいでしょう。この切り口の参考となるのがIPC(国際特許分類)、FI(ファイルインデックス)、Fタームなどの特許分類の分類項目です。特許分類は、まさに、技術を体系的にふるい分けするために構築されたものですから、階層化された分類項目は技術層別の切り口として参考になります。

図23では、「部位」を切り口にグルーピングを行なった例を示しています。「レバー部」「板バネ片」「板バネ背部」という部位別の系統項目でまとめられています。

図
図23 部位別にグルーピングしたKJ法の例

図24では、「機能」を切り口にグルーピングを行なった例を示しています。こちらは、「挟持特性」「操作性」「収納コンパクト」「軽量化」「機能付加」という機能別の系統項目にまとめられました。

図
図24 機能別にグルーピングしたKJ法の例

文具メーカーA社の商品企画の話に戻しましょう。今回は、機能別の系統項目に基づき技術系統図を作成することにしました。なぜならマップ作成の目的が、Wクリップの新機能に関するアイデア創出活動で利用することにあるからです。

今回の作成事例では10件の特許のみを題材にしているため、系統項目は階層的になっていませんが、グルーピング化の対象件数が増えれば、グループの中に小グループができたり、グループ同士をまとめて大グループを作成することができたりするため、項目の階層化が図れます。

技術テーマ調査を実施し、独自の技術分類体系を構築する場合にも同様な手法を用います。関連特許を技術内容毎に層別グルーピングし、グループにタイトルを付ければ技術分類項目となります。

(4)Wクリップの技術系統図型パテントマップ

Wクリップに関連する特許情報を機能別にグルーピングすることで導き出された系統項目を用いて、技術系統図型パテントマップを作成しました。(図25)

図
図25 Wクリップの技術系統図型パテントマップ

作成したパテントマップを眺めると、題材として取り上げた10件の特許の全体像を俯瞰(ふかん)することができます。

「書類の束を挟む」というWクリップの基本機能は、もちろん必須の要求特性ですが、その他にもいろいろな機能が付加されていることが伺えます。
まず、「挟持特性」という機能については、「より厚いものを挟めるようにするためのもの」や、「書類をめくりやすくするために挟む位置を工夫したもの」、「挟んだ書類を抜けにくくするためのアイデア」が見られます。その他にも、操作性や収納性、コンパクト化を図ったものを見受けられます。
また、挟持機能とは別に付加される機能として、「書類を検索するためのインデックス機能」や「さらに別の挟持機能を付加したもの」や「フックを付加して吊り下げられるようにしたもの」も見られます。

こうして関連特許を技術系統図型パテントマップにまとめることにより、テーマの全体像と、個々の特許の全体における位置付けと内容について把握することができます。

さらに、作成した技術系統図型パテントマップに課題情報を付加するとよいでしょう。今回調査した10件の関連特許には、「書類厚さ対応、書類角部対応、抜け対策」「指が痛い、怪我する」「レバーが邪魔になる、レバーを脱着したい」「軽い、安い」「資料検索、追加挟持、吊り下げフック」といった課題が記載されていました。
系統項目毎の特許に記載されている課題のキーワードを抽出し、列記したものが図26です。

図
図26 課題情報の付加事例

これで、新機能を付加したWクリップを企画するためのアイデア創出用技術系統図型パテントマップが完成しました。これをみんなで囲んで、いざアイデア出しといきたいところですが、さらに、ひと工夫加えることをお薦めします。
それは、このアイデア創出用技術系統図型パテントマップを模造紙の大きさに拡大印刷することです。なぜなら、アイデア創出活動で創出されたアイデアを市販の付箋紙に書いて、マップ上にラベルアップすることができるからです。付箋紙であれば、移動も簡単にできるため、グループを何度でも再構成することもできますし、アイデア創出活動の記録として、しばらくそのまま残しておくことも可能です。

 

今回は、「技術系統図型パテントマップ」の作り方について解説しました。
無から有を生み出すアイデア創出活動は大変困難であることは、以前にもお伝えしました。アイデア出しを行なう際にも、「何かアイデアはないか・・・」と漠然と考えるより、「この課題を解決するための他のアイデアはないか?」と具体的に考えた方がアイデアは出やすいです。次回は、「技術系統図型パテントマップ」の様々な活用場面を紹介します。

(注)本文中の「KJ法 」は、株式会社川喜田研究所の登録商標です。


 

 

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