2008年4月
特許業務法人オンダ国際特許事務所
常任理事 谷尾唱一

1990年4月に国家プロジェクトとして、黄浦江と揚子江に挟まれた518平方キロという広大な地域に「新上海」つくりが始まった。「浦東新区開発計画」である。浦東新区を中核として、上海を21世紀初頭に国際的な金融・貿易・経済センターにしようというものである。1992年のケ小平による「南巡講和」が発表されたころより開発が加速した。この開発計画によって土地を接収された農民は20万8000人、その内再就職した農民は14万7000人、養老年金受給者が6万1000人となって、実質20万人余の農民が都市住民となった。 そんな中に、黄浦江を挟んだ旧市街はもちろん、浦東新区の開発・発展を一望できる金茂大厦(Jin Mao Tower)と東方明珠タワーの高層建築がある。 金茂大厦は1999年8月にフルオープンした高さ340.1メートル、88階建ての高層ビルである。わが上海オフィスはこのビル27階の一角にある。
このビルは、最上階の88階が展望台となっており上海市内の観光名所の一つでもある。そのため、ビルの周辺は四六時中各地方からの観光客が絶えない。また、87階にはスカイラウンジがあり、黄浦江沿いの夜間照明をはじめ夜景を眺めながらの一杯は憩いの一瞬でもあるが、時として雲中・雲上での酒盛りとなることもある。
この金茂大厦に隣接して1997年に建設着工した492メートル101階建の巨大ビル「上海環球金融中心」が、2008年3月にオープンする。施主は日本企業の森ビルである。このビルは設計承認段階で、塔頂に円形の空間を設けたデザインが「日の丸」を象徴するとして中国当局から苦情を受け、結局、逆台形にすることで落ちついたという。ご難はさらに続き、このビル名を「上海秀仕」(上海ヒルズ)に名称変更するとプレス発表した途端に、再び当局から苦情が出た。その後、工事火災もあった。紆余曲折しながらも、この巨大ビルが正式オープンする。浦東地区の景観も人の流れも変ってしまうだろう。
どうやら中国人は世界初、世界一が好きらしい。この「上海環球金融中心」も着工時は世界一の高層オフィスビルであった。さらに、ドイツからの技術導入によって世界初の商業運転を行っているリニアモーターカーもある。2002年12月に開通した。浦東の地下鉄2号線「龍陽路」駅から「浦東国際空港」駅までの約30キロを、瞬間最高時速431kmで走行する。快適というよりも恐怖感が先だ。
あちらこちらで、ある日突然公道が封鎖される。旧道路の真ん中に工事用のバラック小屋が突然出現し、人の流れも車の流れも変えられてしまう。さらに驚くべきことに、周囲を塀で囲んだ工事現場の中に、道路横断用の信号機が現役で稼動している様は、まさに異様としか言いようがない。日本でも会計年度末ともなれば、道路の掘り返しは腹立たしいほど繰り返し行われるが、こんな工事現場は見たことがない。古いものをドンドン取り壊し、新しい何かが際限なく作られていくのだろう。
近代化へ一直線の道のりとして、人々はこれを「活力」と言うかもしれないが、現地生活者や旅行者にとっては、最早「活力」の域ではなくバブルを背にした公害に近い。北京とは異なり上海は黄砂による被害はないが、それでも建設ラッシュによる相当量の粉塵が四六時中飛散している。マンションのベランダの粉塵汚染は中途半端ではないのだ。洗濯物も見事に変色する。青い空は見たことがない。台風一過でも半日もすれば上空は濁ってしまう。 中国は古いものを壊しながら建築資材をリサイクル使用しなければ、資材不足になるというが、他国からの廃鋼材の取り込みも半端でなく旺盛のようだ。 浦東中心部を少し離れれば、上海世界博を見込んでの新しいホテルが林立してきた。マンション群も然りである。見方を変えればこれらは都市再開発といえなくもないが、そんなに作って大丈夫かよと心配になる。一説には季節労働者を含めた総人口が2,000万人という上海では大丈夫にしてしまうのだろう。
地下鉄2号線もこれまでの「中山公園駅」から虹橋空港寄りに延長し新しい「淞虹路駅」ができた。いずれ虹橋空港が終点になるという。そればかりではない。東側終点の「張江高技(ハイテクパーク)」駅から浦東空港へ伸びる東側延長線も計画されている。また最近では、虹口区にある3号線(高架線)の終点「江湾鎮」駅から、宝山区の「江楊北路」駅へと伸びる3号線北側延長線の10駅も開通した。さらに近々、地下鉄6号線、8号線と、9号線の第一期路線が開通する予定だ。6号線は浦東を黄浦江と平行に走る路線で、外高橋のコンテナ埠頭から「世紀大道」駅を経由し、浦東区南部の万博会場予定地まで伸びる。8号線は市北東部の楊浦区から虹口区を通り、「西蔵(チベット)路」を南に向かい、1号線と2号線が交わる「人民広場」駅を経由して、そのまま南に黄浦江を浦東区へ渡る。9号線の第一期は市西部郊外の松江区にある「松江新城」から東へ徐家区の「桂林路」駅を結ぶ路線で、第二期以降では「桂林路」駅から東へ延長され、3号線と4号線が接続する「宜山路」駅と1号線の「徐家匯」駅を経由して市中心を横断、浦東の「世紀大道」へと至り、さらに東の「金橋輸出加工区」へと向かう計画らしい。
ものすごい路線事業が着々と進んでいるが、市内の道路渋滞は解消されるのだろうか。路線拡大による利用者の増加よりも、自家用車の台数増加のほうが多ければ何の解決策にもならない。加速する上海市民の生活様式の変化が道路事情にも大きな影響を及ぼすことだろう。
