商標について
商標とドメイン(ドメイン名の保護)

1.ドメイン名について

ご承知のように、ドメイン名は、e-commerceに不可欠なインターネット上の住所にあたるものである。インターネット上に存在する各コンピュータは、もともと32ビットの数値文字列からなるIPアドレスで識別されているが、これを実用面から文字列に置き換えて表したものがドメイン名である。
ちなみに、オンダ国際特許事務所のドメインはhttp://www.ondatechno.comであるが、この文字列のうち、http://www.の部分は通信手段等を示すので、一般的にはondatechno.comの部分がドメイン名と言われる。もっとも、.comの部分も登録者の組織属性を示すものであるから、ドメイン名で主たる識別力を有する(要部となる)のはondatechnoの部分にあるといえる。そして、このようなドメイン名には、自社やその取扱い商品等に関するホームページへのアクセスを容易にするために、自社の名称や商品名・登録商標等が使用されることが多い。

なお、これらのドメイン名は、「〜.com」のような一般トップレベルドメイン(gTLD)と「〜co.jp」のような国別トップレベルドメイン(ccTLD)に大別される。そして、米国の民間非営利団体ICANNとの契約のもと、gTLDについては米国の民間企業VerySign Registry Servicesが、ccTLDについては各国のNetwork Information Center(日本ではJPNIC)が登録を管理している。

しかし、このドメイン名の登録は、基本的に先着順で好きな文字列を選択することができ、登録機関もこれを審査することなく登録している。また、もともとドメイン名はIPアドレスを文字列に置き換えているにすぎないため、全く同一のドメイン名でない限りは、登録ができてしまう。その結果、他人の会社名や登録商標と同一又は類似するドメイン名が不正に登録されるという事態を招いている。さらに、ドメイン名に関しては、従来のアルファベットや数字等に加えて日本語等も登録できるようになること、また「恩田.JP」のような汎用ドメインの登録を認めると共に一組織複数ドメインの登録を認める等の登録要件の緩和が図られることから、我が国でも今後一層の混乱が予想されている。

なお、このようなドメイン名の不正登録に関しては、世界知的所有権機関(WIPO)の仲裁調停センター、全米仲裁協会(NAF)、紛争解決連合体(eRes,注1:eResについては、2001年11月30日をもって活動を中止した。)、紛争解決機関(CRP)がICANNによる統一ドメイン名紛争処理方針の認定処理機関(注2:新たにアジア地域のドメイン名紛争処理機関として、ADNDRCが認可され、2002年2月28日から受付を開始した。)となっている。また、我が国のjpドメインに関しては、工業所有権仲裁センター(弁理士会と日本弁護士会による共同運営。H13.4.21より日本知的財産権仲裁センターに名称変更)がJPNICによるJPドメイン名紛争処理方針の認定機関となっている。

WIPOによる日本企業に関係する裁定としては、「hitachi2000.net(移転の裁定)」や「jal.com(理由なし)」のほか、本年3月には三共製薬の申立に係る「三共.com」に関して日本語ドメイン名初の移転の裁定が下されている。

なお、これらの裁定の詳細はWIPOのホームページを参照頂くとして、以下我が国のjpドメインに関する裁定を紹介する。

2.我が国におけるドメイン名に関しての裁定

工業所有権仲裁センター(H13.4.21より日本知的財産権仲裁センターに名称変更)による裁定は、基本的には登録機関(JPNIC)と登録者との間の契約に基づく解決である。  
申立手続の流れは、次のとおりである。

(1) 申立人は、申立書を工業所有権仲裁センター(H13.4.21より日本知的財産権仲裁センターに名称変更)に郵送及びE−mail双方で送付することにより申し立てる。申立理由の字数は10,000字が上限。申立料は、パネリスト1名の場合で18万円、3名の場合で36万円。

(2)仲裁センターは、申立対象となったJPドメイン名についてJPNICに照会する。

(3)仲裁センターは、方式の審査をする。不備があった場合は、申立人は5日以内に補正する。補正しなかったときは取下げたとみなされる。

(4)仲裁センターは、料金納付の確認をする。

(5)仲裁センターは、ドメイン名登録者に対し、申立書を郵送・FAX・E-mailの3つの方法で送付する。この送付日が、手続開始日となる。

(6)仲裁センターは、ドメイン名及び手続開始日を当事者(申立人と登録者)とJPINICに送付する。

(7)登録者は、手続開始日から20日以内に、仲裁センターに対し答弁書を郵送及びE-mailで送付する。答弁書の字数は10,000字が上限。

(8)仲裁センターは、申立人に答弁書を送付する。

(9)仲裁センターは、答弁書提出から5日以内に裁定を下すパネリストを予め定められたパネリスト候補者から指名する。パネリストは原則1名であるが、当事者のいずれかからの希望により3名も可能。

(10)パネルは以下の3つの裁定要件に従い検討し、これらの要件に該当する場合は、ドメイン名の登録の取消請求又はドメイン登録の申立人への移転請求のいずれかについての裁定を下す。なお、裁定は、原則パネリスト指名後14日以内に下される。

 

裁定の要件
(a)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他の表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること。
(b)登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと。
(c)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること。

(11)仲裁センターは、裁定受領後3日以内に、両当事者及びJPNICに裁定内容を通知し、その裁定内容をウェブサイト上で公表する。

(12)JPNICは、裁定結果の通知を受けてから10日以内に登録者が出訴した場合は、裁定結果の実施を見送り、出訴がなかった場合は裁定結果(ドメイン名の登録取消又は移転)を実施する。

なお、この裁定結果後に、申立人或いは登録者が採り得る法的手段としては、以下のものが考えられる。

@)裁定理由なし(申立人が負けた場合)

A)取消若しくは移転の裁定(登録者が負けた場合)

ちなみに、下表4は、平成13年4月10日時点での、工業所有権仲裁センター(H13.4.21より日本知的財産権仲裁センターに名称変更)に対し裁定の申立がなされた事件とその結果である。

表4:工業所有権仲裁センター(H13.4.21より日本知的財産権仲裁センターに名称変更)における裁定事件)

事件番号
JPドメイン名
手続開始日
事件の現状
JPNICの対応
JP2000x-0001
AXIS.CO.JP
2000/11/13
取下げ
 
JP2000-0002
GOO.CO.JP
2000/11/24
移転
出訴により裁定結果実施見送り中
JP2000-0003
YUZAWAYA.CO.JP
2001/01/04
取下げ
 
JP2001-0001
ITOYOKADO.CO.JP
2001/01/15
移転
裁定結果実施
JP2001-0002
SONYBANK.CO.JP
2001/01/25
移転
出訴により裁定結果実施見送り中
JP2001-0003
ICOM.NE.JP
2001/02/01
移転
 
JP2001-0004
REDHAT.CO.JP
2001/02/08
取下げ
 
JP2001-0005
MP3.CO.JP
2001/03/16
係属中
 
JP2001-0006
RCC.CO.JP
2001/04/04
係属中
 
JP2001-0007
SUNKIST.CO.JP
2001/04/06
係属中
 

 

この中で、我が国でも特に話題を呼んだ「goo.co.jp(移転の裁定・提訴)」の事件を以下に紹介する。

申立人「株式会社エヌ・ティ・ティ エックス(以下、NTT−Xという)」は、1999年に日本電信電話株式会社(NTT)の関連会社として設立された会社である。同社は、同じNTTの関連会社である株式会社エヌ・ティ・ティ・アドが1997年に開設したインターネット上の検索情報サービスgooサイト(http://www.goo.ne.jp)の運営事業の営業譲渡を受けて運営していた。なお、申立人のドメイン名「goo.ne.jp」の登録は、1997年の2月である。また、同社は、第35,38,42類に「goo/グー」等の商標権を有していた。

一方、登録者の有限会社ポップコーンは、1994年に設立された会社であり、1996年JPNICに対し「goo.co.jp」というドメイン名を登録していた。

以上のように、登録者のドメイン名登録の方が、申立人のドメイン名登録より早かったのである。しかし、登録者は、申立人がgooサイトを開設した後の1999年9月頃から、登録者のドメイン名を専ら申立外有限会社リアルが運営するアダルト画像を有料提供するサイトへの転送目的に使用していた。

そのため、申立人は、登録者が登録ドメインに対し何らの権利も正当な利益も有しないとして、登録ドメインを申立人に移転するよう裁定を求めたのである。

そして、これに対してパネルは、上述した3つの裁定要件(a)〜(c)に従い、次のように判断した。

(裁定要件(a)について)

まず第一に、申立人の証拠に基づき、申立人の有する商標権と共にgooサイトで用いられている「goo」及び「goo.ne.jp」の表示は、遅くとも1999年8月末(登録者が当該ドメインを転送目的で使用する前)には高い顧客吸引力を取得しており、申立人はこれを継続して使用する正当な利益を有していると認定した。

ついで、登録者のドメイン名「goo.co.jp」と申立人のドメイン名「goo.ne.jp」において主たる識別力を有するのは「goo」の部分であり、両者は要部が同一であり、全体も類似であると認定した。また、登録者のドメイン名の要部「goo」と申立人商標とは、称呼が同一で外観において類似し、全体としても類似すると認定した。そして、申立人のgooサイトが著名になったことを考慮して、登録者ドメイン名と申立人のドメイン名及び商標とは、出所の混同を生じるおそれがあると認定した。(裁定要件(c)について)

次に、パネルは、登録者のドメイン名の使用態様を検討した。登録者のドメイン名のサイトは、全く独自の情報が掲載されておらず、同サイトにアクセスすると瞬時に自動的にアダルト画像が掲載されたサイトに転送されるようになっていた。また、転送先のサイトは次々とアダルト画像が表示される(ポッピング?)ようになっており、全ての画像を閉じないとサイトが閉じられないようになっていた。またこのサイトが転送目的に使用された時期は申立人サイトが著名になった以降であると認定した。

以上のことから、登録者は、利用者が両サイトを混同して登録者サイトにアクセスする機会があることを奇貨として、誤ってアクセスした場合に利用者は強制的に転送先サイトにアクセスさせられ、利用者の意に反して多数のアダルト画像に接せざるを得ない状況に置かれることを知りながら、あえてこれを放置容認して申立人とそのサイトの社会的信用が毀損される虞が生ずる結果となることに意を介さず、またこれを利用して利用者の一部が画像を有料でダウンロードすることを誘引し商業上の利益を得ることも意図しているものと認定した。このことから、登録者のドメイン名の使用は、社会的に許される程度を超えたものであり、不正の目的で使用されていることに該当すると認定した。

なお、登録者のドメイン名登録が申立人サイトの開設及び申立人商標の登録時期より早いので、登録者は不正の目的で登録したとはいえないとの登録者の主張に関しては、登録時に不正目的がなくともその後不正の目的をもって使用することが該当することは、裁定要件(c)の規定から明らかとして一蹴している。

(裁定要件(b)について)

最後に、パネルは、登録者がドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないことを検討した。まず、上記のとおり、登録者のドメイン名の取得は申立人のサイトの開設及び商標登録に先立つものなので、取得時においては登録者がドメイン名を登録することは自由であり、正当な利益を有していないとはいえないと判断した。しかし、その後不正の目的でドメイン名を使用する場合には、その登録を維持する正当な利益は失われると解すると判断した。これは上記裁定要件(b)の趣旨を、単に「登録」自体についてのみならず、その後当該ドメイン名の登録を維持する上において正当な利益を有していない場合も含むと解釈したことによる。このように解さないと、一旦登録してしまえば、その後いかに不正な態様で使用してもこれを放置することになり、裁定要件に該当するか否かによってドメイン名の使用から発生する登録者と第三者との間の紛争を処理するという処理本心の基本理念に反するからであるとしている。

なお、登録者が、登録者ドメイン名の名称で一般に認識されている事実がないことも理由となっている。登録者の商号は「有限会社ポップコーン」であり、ドメイン名が使用されたサイトも専ら転送目的で使用されており、独自の情報掲載がなされておらず、登録者が「goo」或いは「goo.co.jp」の名称で一般に認識されている事実がなかったからである。

以上のことから、登録者には当該ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないと判断した。

3.ドメイン名を巡る裁判例

ドメイン名を巡る我が国の裁判例として、先ほど商標との関係で少し触れた富山地方裁判所平成10年(ワ)第323号事件(名古屋高等裁判所に控訴中、通称「JACCS事件」)を紹介する。この事件は、ドメイン名に関する我が国初の司法判断である。この事件において、富山地方裁判所の一審判決は、原告の主張を認めて、不正競争防止法第2条第1項第2号に基づき被告による「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名の使用と、当該ホームページ上における「JACCS」の表示の使用差止を認めた。  この事件では、ドメイン名が不正競争防止法第2条第1項第1号,2号に規定される「商品等表示」に該当するか否かが争点になったが、判決は、本件のドメイン名は、ホームページ中の「JACCS」の表示と共にホームページ中の商品の出所を表示する機能を有するとして各号規定の「商品等表示」に該当すると認定した。  

だとするならば、単にURLの表示としてのみ使用された場合はどうか?不正競争防止法の適用が認められるかどうか議論が生じると考えられる。

また、この事件に関しては、差止対象を巡っての議論がある。すなわち、本件では、原告の主張に従い、使用差止の対象が「http://www.jaccs.co.jp」となっているが、ドメイン名である「jaccs.co.jp」の部分だけを差止の対象とすべきであったとの意見がある。なぜなら、上述したように、「http」の部分は単なる通信プロトコルを示し、「www」の部分はそのドメイン名が単にワールドワイドウェブ上に存在していることを示すに過ぎないからである。本件判決の差止対象では、被告がメールサーバーで使用したり、他の通信プロトコルで使用することは禁止されないとの意見がある(弁護士桐原和典、CIPICジャーナル vol.109 「ドメイン名を不正競争防止法で保護した判例」)。

4.ドメイン名の保護に関する法改正の動向について

なお、現在我が国では、ドメイン名の不正登録に関して、以下のような行為規定を不正競争防止法に織り込む改正が今期通常国会に挙げられる予定である(注3:改正不正競争防止法は平成13年12月25日より施行されました。)。  

詳細は、経済産業省のホームページ(http://www.meti.go.jp)で確認できるので、今後の動向に注意されたい。

 

定義)
第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一〜十一(略)

十二 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメインを使用する行為

十三〜十五(略)

2〜6(略)

7 この法律において「ドメイン名」とは、インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう。