機能的特徴の解釈および 技術特徴の画定-中国専利権侵害訴訟判例の紹介(2019) 最高法民再348号|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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機能的特徴の解釈および 技術特徴の画定-中国専利権侵害訴訟判例の紹介(2019) 最高法民再348号

2022年5月
中国弁理士 尹文会

一審原告:深圳来電科技有限公司(以下、来電公司)
一審被告、二審上訴人:深圳街電科技有限公司(以下、街電公司)、安克創新科技術股份有限公司(原湖南海翼電子商務股份有限公司、以下、海翼公司)
再審請求人:深圳街電科技有限公司

1.はじめに

 中国専利の請求項では、機能的な限定、いわゆる「機能的特徴」を記載することはできるものの、その権利範囲の解釈基準は日本よりも厳しくなっている。機能的特徴の定義や侵害判定の基準は、主に以下の司法解釈で定められている。

最高人民法院 専利権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干の問題の解釈(法釈 〔2009〕 21号)
第四条

 請求項において機能又は効果により表現されている技術的特徴について、人民法院は明細書及び図面に説明された当該機能又は効果の具体的な実施形態及びそれと均等な実施形態と合わせて、当該技術的特徴の内容を解釈しなければならない。

最高人民法院 専利権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干の問題の解釈(二)(法釈 〔2016〕 1号)
第八条

 機能的な特徴とは、構造、成分、手順、条件又はそれらの間の関係などについて、発明創造において果たす機能又は効果を通じて限定を行う技術的特徴をいう。ただし、当業者が請求項を閲読するだけで直接かつ明確に上記機能又は効果を実現する具体的な実施形態を解釈できる場合はこの限りでない。
 明細書及び図面に記載された、前項における機能又は効果を実現するために不可欠な技術的特徴と比べて、被疑侵害技術案に対応する技術的特徴を、基本的に同一の手段により、同一の機能を実現し、同一の効果をもたらし、かつ当業者が被疑侵害行為が発生した時に創造的な労働をすることなく想到できるものである場合、人民法院は、当該技術的特徴が機能的な特徴と同一又は均等であるものと認定しなければならない。

 上記司法解釈で規定されたように、中国専利における「機能的特徴」の範囲は通常、明細書に記載された実施形態に基づき解釈されるが、「記載された機能的特徴の均等の範囲」が多くの専利権侵害事件の焦点になっている。

 一方、技術的特徴自体の画定、つまり本件専利の請求項/被疑侵害製品において、どこまでの記載/構成が一つの技術的特徴に該当するかの判断も、侵害訴訟の勝敗を決める要因の一つである。この点について、中国最高人民法院(日本の最高裁に相当する)は、「相対的に独立して一定の機能を実現でき、かつ、相対的に独立した技術的効果を得られる特定の技術ユニットを一つの技術的特徴として認めるべきである」という基本的な指針を打ち出していた。しかしながら、この指針があっても、「広すぎず、狭すぎず」という理想的な状態についての明確な基準が存在していないため、実際の訴訟実務において、「機能的特徴をどのように画定すべきか」が争点になる場合も多い。

 本判例では、最高人民法院による再審において、機能的特徴の解釈および技術特徴の画定についてその判断基準について言及するとともに、一審、二審の認定を覆した。以下、本判例の内容を詳細に紹介する。

 

2.背景

 

(1)本件専利(登録実用新案)について

専利番号:ZL201520103318.2
発明の名称:吸収式充電装置
出願日:2015年2月12日
登録日:2015年6月24日
専利権利者:来電公司

【請求項1】

吸引ローラー機構と、充電機構と、主制御PCB(11)とを含み、前記吸引ローラー機構は、第1モータ(13)と、第1モータ(13)に動力を伝達することができるように連結された伝動アッセンブリと、伝動アッセンブリに連結された第1段ローラーアッセンブリ(24)とを含み、前記第1段ローラーアッセンブリ(24)は対向する2つのローラーを含み、前記第1モータ(13)は主制御PCB(11)に電気的に連結されており、前記充電機構は主制御PCB(11)に連結された充電PCB(18)を含んでいることを特徴とする、吸収式充電装置。

機能的特徴の解釈および 技術特徴の画定-中国専利権侵害訴訟判例の紹介(2019) 最高法民再348号 | 2022年5月発行第124号機能的特徴の解釈および 技術特徴の画定-中国専利権侵害訴訟判例の紹介(2019) 最高法民再348号 | 2022年5月発行第124号

本件専利の明細書には、以下が記載されている。

【0007】
 当該伝動アッセンブリは、第1プーリーセットを備え、当該第1プーリーセットは、第1モータの駆動軸に連結されたプーリーⅠと、1段ローラーアッセンブリの一方の端部に連結されたプーリーⅡと、プーリーⅠとプーリーⅡとを連結する歯付きベルトⅠとからなることが好ましい。当該伝動アッセンブリは、例えば、ギヤ伝動機構など他の実施形態を用いてもよい。

【0008】
 当該伝動アッセンブリは、例えばプーリーセット伝動、またはギヤ伝動など、様々な形態を含んでいる。

【0035】
 伝動アッセンブリは、第1プーリーセット及び第2プーリーセットを備え、第1プーリーセットは、第1モータ13の駆動軸に連結されたプーリーⅠ14と、1段ローラーアッセンブリ24の一方の端部に連結されたプーリーⅡ16と、プーリーⅠ14とプーリーⅡ16とを連結する歯付きベルトⅠ15とからなり、第2プーリーセットは、1段ローラーアッセンブリ24の他方の端部に連結されたプーリーⅢ7と、2段ローラーアッセンブリ25の側面に連結されたプーリーⅣ5と、プーリーⅢ7とプーリーⅣ5とを連結する歯付きベルトⅡ6とからなる。

 

(2)訴訟の経緯
  • 来電公司は、海翼公司が被疑侵害製品を製造する行為を実施しており、また、街電公司が被疑侵害製品を製造、許諾販売、販売、使用する行為を実施しているとして、一審法院である北京知識産権法院に権利侵害訴訟を提起した。
  • 一審法院は、被疑侵害製品が請求項1における技術的特徴である「第1モータに連結された伝動アッセンブリ」を含み、請求項1に限定された全ての技術的特徴を有するので、権利侵害を構成するとの判決を下した。
  • その後、海翼公司と街電公司は、一審判決を不服とし、二審法院である北京市高級人民法院に控訴した。
  • 二審法院は、請求項1の技術的特徴である「第1モータに連結された伝動アッセンブリ」に対し一審法院の認定を維持した。
  • 街電公司は、一審法院、二審法院が「伝動アッセンブリ」について事実認定及び法律適用において誤っているという理由で、最高人民法院に再審を請求した。
  • 再審において最高人民法院は、一審法院、二審法院の「伝動アッセンブリ」に関する事実認定が誤っているとし、一審判決及び二審判決を取り消すと共に、原告である来電公司の訴訟請求を全部却下した。

 

3.争点

 機能的特徴である「伝動アッセンブリ」の解釈、および、被疑侵害製品における技術的特徴の画定が妥当であるか。

 

4.判決の詳細

<一審>

 来電公司の提訴に対し、街電公司と海翼公司は、被疑侵害品は、モータによりローラーユニットを直接駆動するものであり、請求項1にかかる発明と比較すれば、少なくとも「第1モータに動力を伝達できるように連結された伝動アッセンブリ、伝動アッセンブリに連結された」の技術的特徴を有さず、本件専利の請求項1の保護範囲に属さないと主張した。

 一審法院は、次のように判示した。

 まず、本件専利の請求項1に記載されている「伝動アッセンブリ」は、当該分野に共通する技術用語ではなく、機能的特徴に該当する。そして、本件専利の明細書によれば、伝動アッセンブリは、プーリーセット伝動やギヤ伝動など様々な実施態様を含むものである。したがって、伝動アッセンブリは、第1モータから第1段ローラーアッセンブリに動力を伝達する、1つの部品又は複数個の部品の組み合わせとみなすべきであり、この動力伝達は、歯車伝達またはプーリーセット伝達などの様々な形態で実施されている。

 これに対し、被疑侵害製品は、軸をローラーセットの溝に挿入することで、動力を伝達するものである。請求項1における「伝動アッセンブリ」と比較すれば、被疑侵害製品における動力伝達のための構成により同様の機能、効果を得られる。しかも、被疑侵害製品における動力伝達のための構成は、本件専利の請求項1に記載された「伝動アッセンブリ」から容易に想到できないことを証明できない。よって、被疑侵害製品は、本件専利の請求項1の「伝動アッセンブリ」を含み、本件専利の請求項1に記載された全ての技術的特徴を有する。

<二審>

 海翼公司と街電公司は、一審判決に不服し二審法院である北京市高級人民法院に控訴した。

 二審法院は次のように判示した。

 被疑侵害品の場合、円筒形のハウジングに囲まれたモータアッセンブリにおいて、出力軸は、モータの出力軸ではなく、モータの動力を減速した状態で出力するように、一連のギヤ機構を介してモータの出力軸に連結されたものである。このような減速モータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する装置であり、主要な部品として、ステータと、ロータと、出力軸と、ハウジングなどを含み、モータアッセンブリと減速機アッセンブリとにより直接構成されており、様々な機械装置や電気装置に広く使用されている。

 当業者であれば、通常、減速モータをモータと減速機構との組み合わせとみなし、減速機構を減速モータの一部とみなすが、請求項1に記載した「伝動アッセンブリ」の一部とみなすことも可能である。

 また、減速モータは、広く普及しているので、動力伝達の手段として使用することが当分野の慣用の技術手段である。被疑侵害品の上記特徴と比較すると、請求項1に記載の伝動アッセンブリは、基本的に同一の技術手段を用い、同一の機能及び同一の効果を奏し、当該分野において共通の技術手段であり、両者は同等の置換手段を構成してきたものである。したがって、被疑侵害品は、請求項1に記載された「第1のモータに連結された伝動アッセンブリ」の技術的特徴を有している。

<再審>

 街電公司は、「伝動アッセンブリ」にかかる一審法院、二審法院の事実認定及び法律適用が誤っていることを理由とし、最高人民法院に再審を請求した。

 再審請求人(街電公司)は次のように主張した。

 技術的特徴「伝動アッセンブリ」は、機能的な特徴であり、第1モータおよび第1段ローラーアッセンブリと独立して構成される要素であり、第1モータと第1段ローラーアッセンブリとの間で動力を伝達するものである。二審法院は、被疑侵害品のどの部分が「伝動アッセンブリ」に相当するかを明確に説明しておらず、しかも「機能的特徴」にかかる比較方法に従い判断を行っていないため、「請求項1に記載された伝動アッセンブリと被疑侵害品の直接伝動は、均等の置換手段に該当する」と判断したが、この判断は、事実認定においても、法律の適用においても誤っている。

 最高人民法院は再審請求人の主張に対し次のように判示した。

 請求項に記載された技術的特徴を画定する場合、一般的には、相対的に独立した機能を実現できる技術ユニットを1つの技術的特徴として取り扱うべきであり、異なる技術的機能を実現する複数の技術ユニットを1つの技術的特徴として画定することは適切ではない。減速モータは、モータとギヤ機構が一体となったモータであり、当業者であれば、通常、モータとギヤ機構が一体となったものとして取り扱うので、全体として一つのものとみなすべきである。

 減速モータの一部であるギヤ機構は、出力を減速させることが主な機能である。被疑侵害品の場合、モータ軸は、ギヤアッセンブリを介して突起のある軸に連結されており、このギヤアッセンブリと同様に減速モータの一部を構成するものである。被疑侵害品は、減速モータの軸をローラーアッセンブリの溝に挿入することで動力を伝達しており、直接連結することで動力を伝達する形態である。

 一方、請求項1に記載された「伝動アッセンブリ」は、モータから独立しており、モータの一部ではなく、その機能は、モータの出力をローラーに伝達することにより、モータが機械構造内に装入されている状態であってもローラーを駆動することを実現することである。このように、被疑侵害品の減速機構は本件専利の「伝動アッセンブリ」と比べて、技術的手段、機能及び効果はいずれも同一でもなく均等でもないので、被疑侵害品は本件専利の「伝動アッセンブリ」を有していない。

 

5.まとめ

 最高人民法院は、「モータとギヤ機構とによって構成された減速モータ」という被疑侵害製品の構成について、機械的に分割することができない技術的特徴であると認定した。そして、機械的に分割できない減速モータの構成と比較して、本件専利の「第1モータに連結した伝動アッセンブリ」が「モータの一部ではなく、モータから独立するものである」と限定的に解釈した。

 さらに、本件専利における「第1モータに連結した伝動アッセンブリ」という機能的特徴に対し、最高人民法院は、モータからの動力を外部の装置に伝達できるものであれば、この機能的特徴によって限定された範囲に属すると解釈しておらず、明細書に記載された「モータからの動力を変速することなくそのまま出力する」という実施形態レベルで解釈している。そして、「第1モータに連結した伝動アッセンブリ」による機能については、広義的に「動力を伝達できる」と認定しておらず、明細書の記載に基づいて「モータが機械構造内に装入されている状態であってもモータからの動力をローラーに伝達できる」まで厳しく解釈した。

 このように、最高人民法院は、本件専利の機能的特徴の解釈、および被疑侵害製品における技術的特徴の画定について、一審、二審と異なる基準で行い、被疑侵害製品が本件専利と比べて「第1モータに連結した伝動アッセンブリ」という技術的特徴を有していないと認定し、一審、二審の判決を覆した。

 

6.訴訟実務における指針

1)中国では、機能的特徴の解釈の基準は基本的に「限定主義」に基づく。即ち、機能的特徴の範囲は、同様の機能・効果を実現することができれば、それによって限定された範囲に属するとのことではなく、原則的には明細書に記載された特定の実施形態、およびこれと均等のものまで限定的に解釈される。

2)争点となる技術的特徴が機能的特徴である場合は、明細書および図面において当該機能的特徴に対応する部材自体の構成だけではなく、関連する部材との協働関係等も、「均等」の範囲を判断するための重要な要素である。さらに、機能的特徴による機能、効果を画定する際に、当該機能的特徴のみによるものだけではなく、発明全体における機能、効果も考慮される。

3)どのように技術的特徴を画定するかは、対象専利請求項の構成要素だけではなく、被疑侵害製品においても重要なポイントである。被疑侵害製品において機械的に分割できない構成であれば、この構成の一部を抽出して本件専利の技術的特徴と比べることを、中国人民法院は認めない傾向がある。そのため、被疑侵害者は争点となる技術的特徴が、被疑侵害製品における関連部品と一体であることを強調し、対象専利との相違点を主張することが有効ではないかと考える。