リーヒ・スミス米国発明法案|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

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リーヒ・スミス米国発明法案

2012年1月
米国特許弁護士 ブライアン・ピー・ファー

2011年9月16日、オバマ大統領の署名により、米国特許法に大きな変革をもたらすリーヒ・スミス米国発明法案が立法化されました。この新法における重要な変革として先発明主義から先願主義への移行が挙げられます。新法の多くの条項は大統領の署名から12~18ヶ月後に施行されますが、制定後直ちに或いは10日以内に施行された条項も存在します。施行されたのはベストモード要件、特許表示、納税関連特許、庁料金、再審査、及び訴訟の併合禁止(dis-joinder)に関する条項です。

特許表示に関する条項は特に歓迎すべきものです。以前、パテントメディアで紹介したように、アメリカでは存続期間が満了した特許や無効となった特許の番号を製品から外すことを怠ったとして、特許権者が訴えられる訴訟が何百件も起こされています。これらの訴訟の根拠となっているのが、期限の切れた特許の番号を製品に記載し続けるのは詐欺的であり虚偽表示とみなされる、というものでした。

虚偽表示に関する条項は制定された日に係属中であった訴訟、及び制定日以降に開始された訴訟に適用されます。つまり、制定日以前に開始された訴訟でも、現在、係争中であれば適用を受けます。具体的には「製品に付された後、その権利期間が切れた特許の表示は違反にならない」という文言が改正により加えられています。条文ではさらに、原告は疑いのある表示によって競争阻害が引き起こされたことを示す必要があるとしています。この条項が制定された日には、約200件の虚偽表示に関する訴訟が係争中でした。

加えて、実質的表示(virtual marking)と呼ばれる表示方法が可能になりました。つまり、特許製品に‘patent’やその省略形である‘pat.’と表示した上で、製品と特許番号を関連付ける無料でアクセス可能なインターネット上のアドレスを付加してもいいことになりました。この改正により、製品に特許番号を表示するのがより容易に、より便利になりました。

ベストモード要件に関して、新法では「ベストモードの非開示は特許クレームを無効或いは権利行使不能にしない」としています。条項が適用されるのは制定日以降に起こされた訴訟のみなので、2011年9月16日より前に起こされた訴訟には影響しません。

料金に関する改正は制定の10日後、つまり9月26日に施行されています。制定日以前の料金から15%増加しました。また、超小規模団体(micro entity)の規定を満たす場合、料金は75%免除されます。超小規模団体の条件は以下の通りです。

  • 過去の米国出願で発明者となっている件が4件以内である団体(外国出願、仮出願、国際出願は除く)
  • 総所得額がアメリカの年間平均世帯収入の3倍($150,000)を超えないこと
  • 出願を上記の枠を超える所得がある団体へ譲渡していない、譲渡する義務がないこと

更に、米国の高等教育機関も超小規模団体に含まれます。外国の教育機関については、過去の出願数や収入の要件を満たしていない場合、micro entityとは認められません。しかし、米国特許庁が関連規則を実施するまでmicro entityに関わる条項は施行されません。一方で庁料金の15%アップは既に施行されています。

納税関連特許に関する条項が新たに設けられました。この条項によれば「納税義務を減じたり、回避したり、遅らせるようないかなる手法も、発明時或いは出願時に公知であろうと非公知であろうと、先行技術と十分な相違はないとみなされる」としています。係属中の特許出願、施行日或いはそれ以降になされた出願、及び施行日或いはそれ以降に付与された特許に適用されます。

当事者系(inter partes)再審査手続に関する条項には実質的な変更が加えられています。主な改正条項は制定の1年後に施行されますが、制定後、直ちに施行された条項もあります。施行された条項は、当事者系再審査請求を要求できる基準に関するものです。新たな基準では「少なくとも1つのクレームを拒絶にできる合理的な可能性」を示す必要があります。以前の基準では「特許性についての新たな疑義」を示せばよかったわけですから、改正で基準が厳しくなっています。「特許性についての新たな疑義」は査定系(ex parte)再審査の基準として引き続き使用されます。

次に、訴訟の併合を禁止する条項(dis-joinder)について説明します。訴訟併合禁止条項により、特許権者は、その特許を侵害した疑いがあるという理由のみでは、単一の特許訴訟において複数の被告を訴えることができなくなります。この条項の目的は、特許を実施しない団体(NPE)が、自らが所有する特許を複数の企業が侵害したとしてまとめて訴えることを防ぐことです。この条項は、制定日及びそれ以降になされる訴訟に適用され、NPEによる訴訟数を減らすのが目的であるのは明らかです。

先願主義(first inventor to file system)への転換は、102条(b)項への変更により実現されます。以前は、米国出願日以前に米国で開示、販売、公用された発明について1年間のグレースピリオドが設けられていました。今回の改正によりグレースピリオドの適用は発明者の一人による開示、或いは発明者の一人から発明の知見を得た者による開示に限られるようになります。また、新規性の喪失の理由となる公用と販売は米国内に限られなくなります。

旧102条(b)項によれば、先行技術とは「米国における特許出願日より1年以上前に、米国あるいは外国で刊行物に記載され、あるいは米国で公然と使用され、販売されていた」技術と定義されていました。改正後の102条(b)項では、以下のいずれかの条件を満たす場合、「クレームに記載された発明の有効出願日から1年前あるいはそれ以降に開示された技術は、クレーム発明に対する先行技術とはならない」としています。ひとつめは、「発明者、共同発明者、あるいは発明者または共同発明者から直接的または間接的に発明の主題を知り得た者が行った開示」、もうひとつは「第三者による開示であって、その開示より前に発明者、共同発明者、あるいは発明者または共同発明者から直接的または間接的に発明の主題を知り得た者が開示している場合」です。

さらに、今回の改正では「出願人による発明より前に」という表現が102条(a)項から削除されています。代わりに、「有効出願日より前に」という表現が使われています。従って、より早い発明日を示すことで、先行技術を取り除くことができなくなりました。さらに、改正後の102条(a)項(2)では、「122条(b)項に従って公開されたとみなされた特許出願に記載された発明(出願人による発明の有効出願日より前の有効出願日を持つ他の者による特許あるいは特許出願)」が先行技術となるとしています。つまり、外国出願の優先権を主張して米国でなされた出願が公開された場合、外国での出願日を基準に先行技術とされるのです。これにより、米国出願に対して先行技術となる範囲が大きく広がります。

102条(g)項は削除されました。この条項は抵触審査(インターフェアレンス)において、発明が他者によってなされたかどうかを判断するためのものであり、米国の特許制度を先発明主義ならしめたものです。また、今回の改正によれば、他者による発明は、修正された102条(a)項(1)の条件を満たさなければ先行技術になりません。つまり、米国での有効な出願日以前に他者の発明が刊行、公用、あるいは販売されていなければ先行技術になりません。102条(a)項(2)によって先行技術となる可能性もあります。つまり、米国での有効出願日以前に出願された別の発明者による出願は先行技術になります。102条の改正は制定の18ヶ月後、つまり2013年3月16日に施行されます。

抵触審査はもはや行われなくなるため、特許審判抵触部に関する項目も削除されました。特許審判抵触部は異議審判部に置き換えられました。異議とは冒認立証手続に関するもので、先の出願の発明者がクレーム発明を後の出願の発明者から得たかどうかを判断します。冒認立証手続の申請は、後の出願と実質的に同一の発明のクレームが最初に公開された日から1年以内になされる必要があります。

2013年3月16日に102条の改正が施行されると、クレームを拒絶するのに使える先行技術が増えるため、特許の取得は難しくなるでしょう。この点、外国出願の優先権を主張する米国出願あるいは特許は、その外国での出願日を基準として、他の米国出願に対する先行技術とされます。更に、販売と公用は米国だけには限らず、世界中どこで行われても新規性喪失の理由になります。