特許侵害訴訟の損害賠償額の算定|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

特許侵害訴訟の損害賠償額の算定|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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特許侵害訴訟の損害賠償額の算定

2017年5月
弁理士 中嶋恭久

<はじめに>

ある日突然内容証明郵便で警告書が舞い込んだ。或いは、現場から他社の侵害品を発見したという報告を受けた。特許権を巡る係争はある日突然降りかかることも多いものです。
このような場合、まず、特許権の内容を確認し、侵害するとされる製品を確認・特定し、侵害の成否を確認するための鑑定などを経て、無効理由などの権利の有効性を確認して、それでも特許権の侵害の可能性が高いと判断された場合は、対応を考えることになります。

一般的に発明者は、自らの特許権の価値が高いと評価して高額の損害賠償金がごっそり取れるものと考えがちです。
一方、侵害者の立場では、特許権の価値が低いとして都合よく低率の実施料を想定します。但し、他社特許を見逃した知財担当者は内心高額の損害賠償を取られたらどうしようかと夜も寝られないかもしれません。実際74億1668万円もの損害賠償が認められた例もあります*。人間にとって一番怖いのが「わからない」ということです。暗闇や、底の見えない穴などは心を不安にするものです。
米国では、3倍賠償などが話題になりますが、我が国では実際どうなんでしょうか。
そこで、実際の裁判になった場合には、どのようにして損害賠償額を決めているのかを解説したいと思います。
(*東京地判平成14年3月19日判決アルゼ事件)

<損害賠償請求とは>

まず、損害賠償請求とは、何でしょうか?特許侵害をすれば損害賠償をするのは当たり前…、みたいな気がしますが、そのためには法律的な根拠が必要です。
そりゃ根拠は特許法じゃないか…とも思えます。確かに、特許法の第68条には「特許権の効力」が規定されています。また、特許法第100条から第106条までは、「第二節 権利侵害」とあります。第102条には「損害の額の推定等」というタイトルが付けられています。第100条には「差止請求」ができるとも書いてあります。でも、どこにも「損害賠償ができる」とは書いてありません。
実は、損害賠償ができる根拠は、民法にあるのです。

損害賠償請求の原則

⇒特許権侵害に対する損害賠償請求は、民法709条「不法行為による損害賠償」に基づいて行われます。

民法 第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

特許法は民法の特別法に当たるものです。民法という基本法に対して、特許権の特殊性をフォローするための規定が特許法に規定されているのです。この短い条文が、一番根本的な損害賠償請求権の根拠なのです。

<要件事実と立証責任>

民法第709条は、損害賠償請求を行う者に、すべての要件事実についての立証責任があるとするのが通説です。
「要件事実」というのは、法律が効果を発揮するための必須条件となる事実です。
では、「立証責任」とは、何でしょうか?
その名のとおり立証する責任ですが、責任がある方が、その事実が立証できない場合の不利益を甘受します。言ってみれば、どちらに立証責任があるかで、何もしない場合、あるいはできなかったときのデフォルトが変わってきます。
もし、損害賠償請求の要件事実を立証できなければ、損害賠償請求ができないという不利益を甘受することになります。

<立証責任の転換>

ここで「立証責任の転換」という考え方があります。
例えば、本来立証責任が特許権者にあるものを、侵害者の責任とすることです。一般法である民法第709条では本来特許権者が、損害の金額の立証をしなければなりません。つまり損害額ゼロがデフォルトです。
しかし、特許法第102条第1項や第2項は、損害額を推定する規定で、規定の一定の要件を満たすと損害額が推定されます。一旦推定がなされますと侵害者が反論しない限り、その金額の100%が損害額として認められてしまいます。つまり、立証責任が、特許権者から侵害者に転換されたといえます。
「推定規定」とは、立証責任を転換する規定であるともいえます。

<民法第709条における「損害」とは>

民法第709条に基づく「損害」には「積極的損害」「消極的損害」「精神的損害」が含まれるといわれています。「積極的損害」とは、積極的な形で現実に支出された費用を指し、特許権侵害事件では、弁護士費用などが積極的損害にあたるとされています。「消極的損害」とは不法行為がなければ得られたであろう利益であり、得べかりし利益あるいは失われた利益という意味で「逸失利益」とも呼ばれています。「精神的損害」は、「慰謝料」といわれるもので、生命・身体・自由・名誉など精神的損害に対する賠償です。よく聞く言葉ですね。
特許権侵害事件で問題になる「損害」は、逸失利益です。
この「逸失利益」は、タイムマシンで歴史を逆のぼる以外に、実際に確認することはできません。ですので民法第709条の「これ(侵害行為)によって生じた損害」の立証は、きわめて困難なことがわかります。

民法709条における「逸失利益」と解されている

  • 「逸失利益」とは

    特許侵害がなかりせば、得べかりし利益

    ⇒いわゆる「差額説」
  • しかしながら、観念することはできるが、実際に時間を戻して侵害がなかった状態と比較するようなことは不可能ですので、「立証」することは極めて困難であることが普通です。
<逸失利益の発生>

さて、特許権侵害があると、必ず逸失利益が生じるのでしょうか?例えば、以下の例を考えてみてください。

特許権侵害による逸失利益の発生

★仮に他人AがBの特許権を侵害した場合、何が「逸失利益」でしょうか?
例えば、スマートフォンを製造販売している特許権者Bの利益が急に減少したとしても…、
業界大手A社の新型のスマートフォンが発売され、画質が高品質で、画面の操作性も良く、デザインも斬新で、価格も安いため、そのためにシェアが奪われたかもしれません。
さらに、Aが侵害をしているその特許は通信回路の一部で、従来より感度が多少向上するものですが、代替技術も沢山あり、実は侵害者もユーザも、その特許を使っていることすら気がついていないとしたら…
Aの特許侵害により特許権者Bはホントに利益を逸失したのでしょうか?侵害者Aが特許権侵害さえしていなければ、Bの売上はホントに伸びていたのでしょうか?
さらに、まったく実施をしていなければ、もともと失う利益もありません。

市場が極めて閉鎖的、例えば競業者がA社とB社しかいないような市場であって、例えば唯一の特効薬αを特許権者であるA社が製造販売しており、B社が侵害品を売ったような場合であれば、B社が1つ売れば、A社の売上が1つ落ちるというトレードオフの関係となり、B社の特許侵害に起因してA社に損害が生じた蓋然性が極めて高いため、民法第709条の「これによって生じた損害」の立証が可能と言えます。
しかしながら、大小さまざまな多数の競業者が参入している市場で、製品にはたくさんの特許が用いられており、実際の販売のシェアは、価格設定だったり、キャンペーンだったり、デザインの流行など、技術的な理由以外で競争が行われているような場合には、特許権侵害による損害額はおろか、実際に損害が生じていることを立証することさえ、ほとんど不可能なものとなります。

<推定規定>

ここで、「推定規定」について、ご説明いたします。

前述のとおり、「逸失利益」は、概念的なものであり、通常は確からしい金額を立証することは極めて困難であるといえます。
そこで、例えば特許法第102条第2項では、立証が難しい民法709条の「逸失利益」に代えて、経験的に「逸失利益」と関係が密接であると思われる「侵害者利益」を立証すれば、この金額を「逸失利益」であると推定しましょうというルールを決めました。
この場合、「逸失利益」が「推定事実」、「侵害者利益」が「前提事実」と呼ばれます。原告が立証しやすい「前提事実(侵害者利益)」を立証することで、本当に立証したい「推定事実(逸失利益)」が「事実」として推定されたことになります。

<反証・覆滅事由>

なお、「推定」ですから、みなし規定とは異なり、その成立を覆すことができます。被告は、原告の主張する侵害者利益について、侵害者利益がもっと少ないことを主張して、その額を減額します。被告は、推定を覆す「反証」に成功すれば、推定は覆ります。
「損害額」についてその一部又は全部の推定が覆ることを「覆滅(ふくめつ)」という言い方をします。
その理由には、生産能力の限界や、競合品の存在等があり、「覆滅事由」と呼ばれていますが、のちに説明します。

<推定の限界>

特許法第102条第1~3項の規定は、あくまで「推定規定」で、民法709条の「逸失利益」の額を「推定」する規定であるため、たとえ規定の文言に沿って推定された金額でも、明らかに実際の「逸失利益」を超えた金額とすることは、その趣旨から逸脱して本末転倒のものとなります。

102条で推定された金額≦逸失利益

ですので、日本で3倍賠償が認められるためには、民法の改正か、特別法の立法が必要になります。一方、裁判所は金額を適切なものとするように調整をします。ここで、登場するのが、先ほどの「覆滅」や「寄与率」などの言葉です。

 

特許法102条による特許権侵害における損害賠償額の算定について

<規定の性質>

特許法第102条第1項~第3項は、いずれも民法第709条の損害(逸失利益)の額を推定する規定です。特に第1項及び第2項は、「特許権侵害によって損害が生じたこと」自体を推定するものではないとするのが裁判実務です。

  • 第1項
    特許権者等が、その侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益に基づいて逸失利益を推定する規定。
  • 第2項
    侵害者がその侵害の行為により受けている利益の額に基づいて逸失利益を推定する規定。
  • 第3項
    特許権者等が、特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額に基づいて逸失利益を推定する規定。
<民法第709条と特許法第102条の関係>

<損害賠償額の算定規定>

上述のとおり、特許法第102条第1項~第3項は、民法第709条の「逸失利益」を推定する規定であるとするのが通説です。
ここで、上掲の「損害賠償額の算定規定」について、説明します。この図は、政府の知的財産戦略本部(本部長安倍内閣総理大臣)の方針である「知的財産推進計画2016」から転載し、「逸失利益」を付記したものです。
まず、一番上の考え方が、推定規定に依らず、民法第709条の逸失利益を直接立証する場合の概念です。実際には、特許製品と侵害品が明らかなトレードオフの関係であるような場合にしか立証は難しいかもしれませんが、特許権者の立証努力により、逸失利益が立証されます。当然ながら実際の逸失利益を超えることはあり得ません。
次に、2番目は、特許法第102条第1項による損害額の推定です。この場合は、権利者製品の単位数量当たりの利益額に、侵害者の販売数量を乗じた額から、権利者が販売できない事情分を控除して損害額とします。このように算定した損害額が、民法第709条の逸失利益と推定されます。
3番目は、特許法第102条第2項による損害額の推定です。この場合は、侵害者が侵害により得た利益から、侵害者の営業努力などの事情分を覆滅して損害額とします。このように算定した損害額が、民法第709条の逸失利益と推定されます。
最後は、特許法第102条第3項による損害額の推定です。いわゆる実施料相当額を逸失利益と推定するものです。

<逸失利益と3倍賠償>

日本の特許権侵害に基づく損害賠償は、前述のとおり民法第709条に規定する逸失利益に対する填補賠償であり、損害賠償額が逸失利益を超えることは理論的に困難です。そのため、日本では3倍賠償が採用されることはなさそうです。
ですので、まだ日本では侵害の「やり得」という状況は変わりません。

<海外との比較>

よく米国では高額の損害賠償が請求されるようなイメージがあります。その理由の一つは、やはり3倍賠償が目立つからです。しかしながら米国においても近年故意侵害による3倍賠償が認められるケースはまれです。特にパテントトロールに対する警戒が強くなっています。また、米国の特許訴訟はマーケット自体が大きいため、金額が嵩むことにも損害賠償額の高額化の原因があります。
一方、中国では専利法の第4次改正が検討されており、損害賠償額の上限の引き上げとともに、3倍賠償が検討されています。中国の場合は、故意侵害を繰り返すケースが多々あるため、これらを有効に抑制する目的からのようです。
一方、ドイツなどでは、3倍賠償もなく、日本の第1項に対応する規定はなく、侵害者利益も基本的に純益ですので、むしろ日本よりも一般的に低額であると言えます。ドイツではドイツ特許商標庁内に設置されたドイツ職務発明委員会が毎年数多<の仲裁案を開示しており、その中で、職務発明の価値が、実施料相当額に基づき、特許侵害訴訟の場合と非常に似た方法で決定されているため、これを利用して「実施許諾の類推」が行われています。原則として、ドイツ裁判所が適用するランニング・ロイヤリティ料率は、最低実施料、頭金等の条件付のライセンス契約に見られる実施料率の2倍にまで増加すると考えられています。つまり、機械工業の分野で「通常の」実施料率が2パーセントであれば、侵害訴訟手続で適用される実施料率は純売上高の4パーセントになる可能性があるということです。その結果、相場が明示されているため、裁判によらず円滑に和解するケースが多いようです。

<どの推定規定が有利か>

いずれも、その目的は民法第709条の「逸失利益」を算定することにあります。理論的には、すべて同じ額になるはずですが、経験的に、第1項>第2項>第3項となることが多いようです。
なお、第1項は、一番高額の請求が可能ですが、特許権者自らの利益を開示することに支障がある場合は使いにくいということになります。秘密保持命令(第105条の4)の発令により訴訟書類を開示しない方法もありますが、判決主文までは秘密保持ができませんので、他社から推定されることまでは防ぎ得ません。
第2項は、やはり立証が難しいところがあります。文書提出命令(第105条)も可能ですが、必要性がないとなかなか簡単には発令してもらえません。
第3項については、一般に低額ですが、第1項や第2項とは異なり、損害の発生まで推定されるとするのが裁判実務ですので、不実施の場合はこれに依らざるを得ません。ただ、日本では実施料のデータベースがないので、結局金額を争うことになります。それでも、一番簡単なので一番利用されているようです。

<特許法第102条(損害の額の推定等)の規定の内容>

<特許法第102条第1項>
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、
その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、
特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

 本項は、以下の計算式で計算されます。

「(a-d)×b」(≦c)

ただし
(a)譲渡した物の数量
(b)単位数量当たりの利益の額
(c)実施の能力
(d)特許権者等が販売することができないとする事情に 相当する数量

(*髙部眞規子「実務詳説 特許関係訴訟〔第3版〕」)

・(b)の利益額は、「限界利益」をいいます。限界利益とは、侵害品を1つ多く売った場合に増える利益を言います。この場合、工場用地の不動産の減価償却などは経費とはされません。1つ余分に売ってもこの費用が増えるわけではありませんから。純益と粗利の中間になります。これは第2項も共通です。

・(d)のただし書きは、推定の覆滅理由とされており、侵害者に立証責任があります。表現的には、法規制や事故で販売が阻害されたような印象を受けますが、どちらかといえば「侵害者が特許に関係なく販売できた数量(=特許権者では販売できない数量)」という意味合いです。
具体的には、裁判例では「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とします。例えば、以下のようなものがありますが、これらに制限されるものではありません。

①市場における競合品の存在
  東高判H11・6・15判時1697号96頁〔スミターマル事件〕
  東地判H2・6・23(H8年(ワ)第17460号)〔血液採取器事件〕
  知財高判H18・9・25(H17年(ネ)第10047号) 〔椅子式マッサージ機事件〕)
②侵害者の営業努力やブランド力、宣伝広告
  知財高判H27・11・19(H25年(ネ)第10051号) 〔オフセット輪転機版胴事件〕
③侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)
④市場の非同一性すなわち価格や販売形態の相違
  知財高判H27・11・19(H25年(ネ)第10051号) 〔オフセット輪転機版胴事件〕)

<特許法第102条第2項>
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

原告が「侵害者利益」を立証すれば損害額が推定され、被告はこれに対して、第1項と同様に覆滅理由で反証することができるとされています。

<特許法第102条第3項>
特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

通常原告及び被告は、寄与率や覆滅事由を含めた形で、実施料の額を争うケースが多いので、その内容はわかりにくいことが多いようです。

<寄与率>

「推定の覆滅」と類似した概念として「寄与率」というものがあります。その違いは、「推定の覆滅」は、推定がされた額を100%として、そこから減額していくものです。立証責任は、侵害者にあります。一方、「寄与率」といった場合は、一般的には前提条件をゼロから始まりプラスしていく利益に対する貢献度のような概念で、通常は原告に立証責任があります。原告の主張としては、「寄与率」ではなく「推定の覆滅」としなければ立証責任を自らに課すことになります。
例えば以下に挙げたような使用例がありますが、法的な定義はなく、その使い方もまちまちです。推定の覆滅と表裏の関係である場合もあります。

□類型1:第三者による供給の代替性がある場合
□類型2:需要者が特許発明に着目して商品選択をするのではない場合
□類型3:需要者が特許発明を実施するために侵害品を購入するのではい場合
□類型4:需要者が侵害品固有の特徴に着目して商品購入をしていない場合
□類型5:需要者が特許権者の製品を選択しない事情がある場合
□類型6:特許権者が受けるべき利益と侵害者が得た利益の対応関係にずれが生じる場合

(出典:知財管理2016 山口・鮫島)

<損害額の攻防>

さて、実際の損害額の攻防を見てみましょう。実際の損害賠償額の攻防のポイントは、推定の覆滅理由と、寄与率です。

■椅子式エアマッサージ機事件

原審:東京地裁 平成15年3月26日判決(H13(ワ)3485)
寄与率95%、覆滅5%
控訴審:知財高裁 平成18年9月25日判決(H17(ネ)10047)
覆滅99%

⇒ 本事件は、原審では、請求額を36億5669万7000円として、第102条第1項ただし書きの扱いでも争いました。原審では、譲渡数量の95%が損害額として認められ15億4744万3172円余りの支払いを命じました。

一方、控訴審では、「そうすると,被控訴人製品の販売額減少の主たる原因が本件特許権5の侵害にあるということはできないのであって,むしろ本件被控訴人の市場競争力や製品販売力が限定的であったことを,特許法102条1項ただし書にいう「販売することができない事情」として考慮すべきである。

(キ)以上のとおり,本件発明5の本質的な特徴は,座部用袋体及び脚用袋体の膨脹のタイミングを工夫することによるストレッチ又はマッサージ効果にあるところ,本件では,①本件発明5の機能は,控訴人各製品の一部の動作モードを選択した場合に初めて発現するものであること,②本件発明5に係る作用効果は,椅子式マッサージの作用としては付随的であり,その効果も限られたものであること,③控訴人製品のパンフレットや被控訴人製品のパンフレットにおいても,本件発明5に係る作用は,ほとんど紹介されていないこと,④本件特許5の設定登録当時,被控訴人の市場占有率は数%にすぎず,椅子式マッサージ機の市場には有力な競業者が存在したこと,⑤控訴人製品は,もみ玉によるマッサージとエアバッグによるマッサージを併用する機能や,光センサーによりツボを自動検索する機能など,本件発明5とは異なる特徴的な機能を備えており,これらの機能を重視して消費者は控訴人製品を選択したと考えられること,⑥被控訴人製品はエアーバッグによるマッサージ方式であり,その市場競争力は必ずしも強いものではなく,被控訴人の製品販売力も限定的であったなどの事情が認められる。

これらの事情を総合考慮すれば,控訴人各製品の譲渡数量のうち,被控訴人が販売することができなかったと認められる数量を控除した数量は,いずれの控訴人製品についても,上記譲渡数量の1%と認めるのが相当である。」と判示して、損害額は1148万8500円とされました。
つまり、このような主張をすることで、なんと99%も損害額を免れることができたのです。

■ソリッドゴルフボール事件

原審:東京地裁 平成22年2月26日判決(H17(ワ)26473)
寄与率判断せず、覆滅60%
控訴審:知財高裁 平成24年1月24日(平成22(ネ)10032、10041)
寄与率50%、覆滅80%

⇒ 原審では、請求額を56億7786万2000円とし、第1項ただし書きの「販売することができないとする事情」として、被告の営業努力、ブランド力、他社の競合品の存在を理由として、60%がその事情に該当すると認定して覆滅し、17億8620万4028円余りの損害賠償額を認めました。

一方、控訴審では、「ゴルフボールは特許の塊ともいわれ、一審原告のゴルフボールにおいても、本件特許以外に多くの特許が用いられており、本件特許は、ゴルフボールの芯球部分を特定の化学物質を含有するゴム組成物で形成したことを特徴とし、飛び性能の更なる向上を目的とするものである。

そして、ゴルフボールにおいては、コア(芯球)のみでなく、カバー、ディンプルも重要であって、その性能としても、飛び性能のみならずスピン、打ち出し角、ディンプル等に関するものも重要である。

以上の諸事情を総合的に考慮して、本件特許の寄与率を50%と認定することとし、本件において、一審原告が「販売することができないとする事情」に相当する数量に応じた控除後の割合としては,原判決における40%を前提としつつ,本件特許の寄与率50%をも考慮して,上記控除後の割合を20%と認めるのが相当である。」と判示しました。

なお、ここでは「寄与率」といっていますが、原審の覆滅と区別するために用いた語で、内容は第1項ただし書きの推定の覆滅の要素です。

■オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法事件

原審:東京地裁 平成25年1月31日判決(H21(ワ)23445)
覆滅0%
控訴審:知財高裁 平成26年3月26日判決(H25(ネ)10017
覆滅80%

⇒ 原審では、特許法102条第1項ただし書の類推による損害減額については認めてはいませんでした。
一方、控訴審では、「もっとも,本件訂正発明2は,本件発明1の改良発明であって,発明を基礎付ける特徴的部分は,V字型掬い上げ部材であり,それ以外のオープン式発酵装置の構成については,前記のとおり,本件発明1が進歩性を欠き無効とされる以上,進歩性を有するものでないことからすれば,かかる事情は,特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」として考慮すべきものである。

そこで,検討するに,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材に係る構成以外の構成については,進歩性を有するものではなく,発明を基礎づける特徴的部分は,当該掬い上げ部材に限局されており,しかも,…需要者に対する購入動機として,掬い上げ部材の形状が大きく寄与したということはできない。
本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材の採用は,オープン式の発酵槽を採用したことに伴う,必須の改良事項であったものと推測できる。

以上の事情を総合考慮すれば,ロ号装置の販売数量の80%については,原告が販売することができないとする事情があったと認めるのが相当である。」と判示して譲渡数量の80%を覆滅しています。

<最後に>

以上のように、損害賠償額は、推定の覆滅や寄与率によって大きく変動するため、その主張の巧拙によって大きく変わっていきます。そのため、 損害賠償額の予想はなかなか困難なものといえます。取らぬ狸の何とやらとなることもあります。
また、やはり他社の特許権を侵害しないように常に監視することが、ゆっくり寝ることができる秘訣のようです。

以上