中国特許出願優先審査制度について(日本知的財産協会発行「知財管理」誌2013年3月号寄稿)|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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中国特許出願優先審査制度について(日本知的財産協会発行「知財管理」誌2013年3月号寄稿)

2013年5月
中国弁理士 関 英澤(カン・エイタク)

抄 録 2012年8月1日より、「発明専利申請優先審査管理方法」が中国において施行され、発明専利申請(特許出願)の優先審査制度が明確化されました。本稿では、特許出願優先審査制度の概要及び留意点についてご紹介します。

Q1 特許出願優先審査制度(以下、本制度)が導入された経緯を教えてください。

A1 近年、環境保全技術や、新エネルギー技術などの新興産業は、中国において経済的及び社会的な影響力がますます大きくなっています。これらの産業の技術発展を促進することは、中国の産業体系を最適化するための有効な手段です。本制度導入の最も重要な目的は、環境保全技術、新エネルギー技術などの新興産業に係る特許出願に対して迅速な審査チャネルを設けることにより、これらの技術分野における発明を早期に権利化させ、中国の産業体系を最適化するとともに、中国の知的財産権戦略の実施を推進することにあります。

また、中国は特許審査ハイウェイ(PPH)協定に加盟しており、中国企業が国内出願の審査結果を利用して外国においてPPH申請を行う場合、国内出願の審査速度を早くすれば、対応の外国出願を早期に権利化することもできます。そのため、所定の条件を満たす特許出願を早期に審査することにより、中国企業の国内における権益を保護するのみならず、外国において中国企業の競争力を向上させることもできます。

なお、中国特許審査の現状では、出願から審査終了までの平均期間は、およそ3年間になっており、他国に比較して長いとはいえません。しかし、中国において模倣品などによる侵害が多く発生していますので、侵害行為を有効に抑制するために、権利化までの時間を更に短縮させたい、という出願人の要望が強くなっています。

 

ちなみに、本制度が導入される前にも、出願人の申請により特許出願の優先審査が行われることがありました。しかし、優先審査の条件や、審査終了の期限などについては明確な規定がありませんでした。中国国家知識産権局は、上記事情を鑑みて、特許出願の優先審査に対して重要な根拠を提供するとともに、優先審査における具体的な手続を明確化するために、発明専利申請優先審査管理方法(以下、本法)を定め、本制度を導入しました。

Q2 実用新案出願及び意匠出願は本制度の適用対象となりますか?

A2 本制度の適用を受けられるのは、特許出願のみであり、実用新案出願及び意匠出願は対象外です。その理由としては、以下の2点が考えられます。

1)上述したように、本制度の主な目的は、経済的及び社会的な影響力の大きな環境保全技術、新エネルギー技術などの分野における出願に対して迅速な審査チャネルを設けることにあります。これらの技術分野における出願は、主に特許出願に集中しており、実用新案又は意匠出願の数は圧倒的に少ないです。

2)中国の実用新案出願及び意匠出願は、実体審査が行われず、出願から完結までの期間は十分に短いといえます(半年~1年)。そのため、実用新案出願及び意匠出願に対し、更に早期に審査するための制度を設ける必要性はあまりないと思われます。

Q3 本制度の適用を受けられる実体的要件について教えてください。

A3 本法第4条によれば、本法に基づいて優先審査を受けられる特許出願は、以下のいずれかの要件を充たす出願です。

1)省エネルギー及び環境保全、新世代情報技術、バイオ、高性能設備の製造、新エネルギー、新材料、新エネルギー自動車などに関する技術分野における重要な特許出願

2)低炭素技術、資源の節約など、グリーン開発を促進できる重要な特許出願

3)同じテーマについて中国で初めて特許出願をした後に他の国又は地域に更に出願をした場合の当該中国先出願

4)国家利益、或いは公共利益に対して重大な意義を有し、優先審査の必要のある特許出願。  

まず、1)及び2)に記載の技術分野に係る重要な特許出願であれば、本制度の適用を受けることができます。「重要」であるか否かは知識産権局が判断することになりますが、申請人は優先審査を申請する際に、発明の背景や、解決する問題点などを簡単に説明することにより、本出願の重要性を主張したほうがよいでしょう。

また、3)の条件を満たす特許出願であれば、技術分野を問わず本制度の適用を受けることができます。なお、3)の条件を満たす出願は、以下の場合が考えられます。

(1) 中国を第1出願国とした出願を基礎として、パリ条約に基づき他の国又は地域に優先権主張出願をした場合の当該中国基礎出願。

(2) 中国を第1出願国とした出願を基礎としてPCT出願をし、当該PCT出願の中国以外の国又は地域への国内移行が行われた場合の当該中国基礎出願。ちなみに、直接PCT出願の国内移行が中国を含む複数の国で行われた場合の本制度の適用に関しては、明確な規定などがまだ存在せず、今後の実際の事例においてどう扱われるかが注目されます。  

4)は、中国専利審査基準における「審査の特殊処理」に対応しています(中国専利審査基準2010、第2部分第八章3.4.2)。ところが、「国家利益或いは公共利益に対して重大な意義」を有するか否かを判断する明確な基準がなく、中国国家知識産権局が酌量して裁定することとなります。実際、通常の出願において、4)の要件により優先審査を受ける可能性はほとんどないと思われます。

Q4 本制度の適用を受けるための形式的要件はありますか?

A4 本制度に基づいて特許出願の優先審査を申請する場合は、「オンライン出願」、「実体審査請求済み」、「公開済み」という3つの形式的条件を満たさなければなりません。以下に詳細に説明します。

まず、本法第6条第1項によれば、優先審査を申請する特許出願はオンライン出願でなければなりません。なお、オンライン出願ではなく、郵送などにより出願したものは、出願後にオンライン出願に変更することが可能です。そのため、郵送などにより出願した場合であっても、優先審査を申請する前に、オンライン出願に変更すれば、本制度の適用を受けることができます。

また、本法第6条第2項によれば、まだ実体審査が開始されていない特許出願に対して優先審査を申請する場合、先に実体審査を開始させなければなりません。つまり、優先審査を申請する前に、対象出願の審査請求を行わなければなりません。

なお、特許出願の公開が実体審査の前提ですので、未公開の特許出願に対して優先審査を申請する場合、早期公開請求を行わなければなりません。

Q5 優先審査申請時にはどのような書類が必要ですか?

A5 本法第7条によれば、優先審査を申請する際に以下の2つの書類を提出しなければなりません。1)知識産権局が審査して意見を記載した「特許出願優先審査請求書」。2)特許調査能力を有する機構が作成した調査報告、又は他の国或いは地域の特許審査機構が作成した調査報告、審査結果及びその中文翻訳。

1)に係る請求書のフォームは、中国知識産権局のホームページでダウンロードできます(http://www.sipo.gov.cn/bgxz/ URL参照日2012年12月26日)。同請求書において「優先審査申請理由」欄がありますが、本法第4条に対応する内容や、模倣品による被害の状況などをこの欄に記載することができます。なお、本法第4条第3項に対応する内容、即ち「同じテーマについて中国で初めて特許出願をした後に他の国又は地域に出願をした」ことを優先審査申請の理由とする場合、外国に出願したことを証明できる書類(例えば、出願受理通知書など)を提出する必要があります。

2)に係る「特許調査能力を有する機構」については、本法第8条において詳細に解釈しています。しかし、現時点では、必ず認められる調査機関は、国家知識産権局に属する「国家知識産権局専利検索諮詢中心(特許調査センター)」のみであり、これ以外の調査機関の利用に関する実際の事例などはまだありません。

また、外国ファミリー出願を有する特許出願については、当該外国ファミリー出願の調査報告及び/又は審査結果を利用することができます。PCT出願の中国国内移行出願の場合は、PCT出願の国際調査報告を利用することもできます。なお、外国の調査報告及び/又は審査結果を利用する場合は、その中文翻訳を提出する必要があります。

Q6 Q5に係る申請書類をどこに提出すればよいのでしょうか?また、その後の手続きの流れについて教えてください

A6 申請書類は、出願人が所在する省、自治区、直轄市の地方知識産権局に提出する必要があります。  申請書類が提出されると、地方知識産権局は審査を行います。そして、地方知識産権局による審査が合格の場合、申請書類が中国国家知識産権局に移送され、中国国家知識産権局は、優先審査申請を許可するか否かについて最終的に決定します。優先審査申請を許可する場合、中国国家知識産権局は、出願人に許可通知を送付し、優先審査を開始します。

Q7 日本企業など外国出願人も本制度を利用できますか?

A7 本法において特許出願人の国籍について明確に制限していませんが、本法第7第1項によれば、事実上、外国出願人による単独出願は本制度を利用することができません。
即ち、第7条第1項によれば、特許出願優先審査請求書は、省、自治区、直轄市の知識産権局の審査を受けなければなりません。ここで、特許出願優先審査請求書の審査を行う地方知識産権局は、自由に選択できるものではなく、出願人が所在する省、自治区、直轄市の知識産権局でなければなりません。しかし、中国において住所(営業所)を有しない外国出願人の場合は、いずれの地方知識産権局も請求書審査を受理しないこととなります。よって、事実上、外国出願人は、本制度を利用することができません。

Q8 中国企業と外国企業の共願の場合、本制度を利用できますか?

A8 はい、利用できます。中国企業と外国企業の共願の場合は、中国企業が所在する省、自治区、直轄市の知識産権局が特許出願優先審査請求書を審査することとなります。具体的な申請手続については、基本的には中国企業による単独出願の場合と同じです。

Q9 中国における外資現地法人は本制度を利用できますか?

A9 中国における現地法人の国籍は中国ですので、本制度を利用することができます。また、具体的な手続についても、基本的には出願人が中国企業の場合と同じです。
しかし、本法第5条に「優先審査の件数は中国国家知識産権局が各分野の審査能力、本年度の審査街の出願件数などの状況に基づいて決定する」とあるように、毎年度の優先審査の件数に対して制限があります。本法は中国企業の出願を優先させる傾向があるため、外資の現地法人による出願の場合、適用要件に対する審査は中国出願人の場合に比較して厳しくなることが予想されます。

Q10 本制度を利用するとどれくらい審査が早く行われますか?

A10 上述のように、優先審査を申請する前に、特許調査能力を有する機構が作成した調査報告を用意し、この調査報告及び特許出願優先審査請求書を地方の知識産権局に提出しなければなりません。

調査報告の作成を国家知識産権局専利検索諮詢中心に依頼する場合、依頼からおよそ10日営業日後に調査結果をもらえます。また、明確な規定がありませんが、優先審申請を提出してから審査結果(許可/却下)が下されるまで、およそ1~2週間がかかります。

そして、本法第10条によれば、国家知識産権局は、優先審査申請が許可されてから30営業日以内に第1回拒絶理由通知書を発行しなければなりません。また、本法第2条によれば、優先審査申請が許可されてから1年以内に特許出願の審査を終了させなければなりません。

従って、審査意見通知書に対して迅速に対応すれば、早ければ優先審査申請を開始してから半年、遅くとも1年前後で審査が完了します。

Q11 PPHの請求を行った出願は、本制度の適用を受けられますか?

A11 いいえ、受けられません。本法第3条によれば、中国国家知識産権局と他の国又は地域の特許審査機構との協定に基づいて優先審査が開始された特許出願の場合、本制度の適用を受けることができません。   従って、例えば先に発行された日本国特許庁の審査結果に基づき中国ファミリー出願に対してPPHの請求を行った場合、更に本法に基づいて優先審査を請求することができません。

Q12 優先審査の拒絶理由応答時に、留意すべき点はありますか?

A12 本法第11条によれば、優先審査中の拒絶理由の応答期限は、2ヶ月であり、通常出願の第1回拒絶理由の応答期限(4ヶ月)に比較して、大幅に短縮されています。そのため、優先審査における拒絶理由に対して、迅速に対応しなければなりません。なお、応答期限の延長申請ができますが、応答期限の延長を行った場合、優先審査が終了し、当該出願は一般出願として処理されます。