平成23年 特許法改正|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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平成23年 特許法改正

2011年9月
弁理士 中嶋恭久

1.「特許法等の一部を改正する法律案」は、東日本大震災の影響もあり、漸く可決・成立し、6月8日に法律第63号として公布されました。およそ3年ぶりの特許法等の改正になります。法律の施行日は平成24年4月1日と予想されます。

 

2.今回の改正点

最初に今回の主な改正点を列挙します。

(1) 発明の新規性喪失の例外規定の見直し

特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公となった発明については、広く新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるようになります。

(2) 冒認出願や共同出願等に係る救済措置の整備

いわゆる「冒認出願」や「共同出願違反」に対して特許されたときは、本来の特許を受ける権利を有する者は、その特許を無効にしないで、生かしたまま特許権の移転を特許庁に請求することができるようになります。
実務上の指針としては、発明の開発の過程で、誰が真の特許を受ける権利を有するかを立証できる書面、例えばラボノートや議事録等を意識して確保しておくことが重要になってきます。これらは、職務発明の対価請求や、先使用権の立証にも役に立ちます。

(3) 通常実施権等の転得者対抗要件の当然付与

今回の改正では、通常実施権者は、特許庁に通常実施権を登録しないでも、特許権を取得した者に対してもその効力を有する、いわゆる「転得者対抗要件」が自動的に認められるようになります。
平成20年の改正でも仮通常実施権の制度創設や匿名の登録が可能となり、ユーザーフレンドリーとなりましたが、今回の改正はそれをさらに推し進めるものです。
なお、平成20年に包括ライセンスが一括登録できる「特定通常実施権登録制度」が産業活力再生特別措置法(以下「産活法」という。)において創設されましたが、活用されていないということで廃止になります。
さらに専用実施権も廃止の方向で引き続き検討されている模様です。
なお、この改正に伴って、これまでの登録通常実施権者に関する訂正審判の承諾や無効審判の通知等に関してはトラブルが予想されます。
実務上の指針としては、今後特許権等の譲渡を受ける場合は、M&Aと同様に、デューデリジェンスや、潜在的な通常実施権者を意識した譲渡契約が必須となります。

(4) 審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求の禁止

無効審判手続において、審判官合議対が無効理由があると判断した場合には「審決の予告」を行い、審決前に指定期間中に「訂正請求」ができる手続を導入する代りに、審決取消訴訟提起後には一切の訂正審判の請求が禁止されます。つまり、審決予告に対応する訂正に失敗すると訂正のチャンスを失い、そのままで裁判を闘わなければなません。
実務上の指針としては、審決予告があった場合は、その後短期間(30日といわれています。)に、確実に無効理由なしの審決となるように訂正請求する準備を整えておくことが必須です。

(5) 再審の訴え等における主張の制限

特許権の侵害訴訟の終局判決が確定した後に特許の無効審決が確定したときでも、実質的に再審が認められなくなります。いわゆる「蒸し返し」が禁止されます。数十億円という巨額な賠償請求がひっくり返ったアルゼ事件や、数回の無効審判事請求で最後には無効となった生海苔異物除去装置事件のようなケースは今後なくなります。
実務上の指針としては、侵害訴訟の判決確定までが勝負になるので侵害訴訟が予想される場合(たとえば警告を受けたり、障害特許を発見した場合)は、直ちに徹底的な無効調査に着手、無効資料を確保しておく必要が生じます。

(6) 複数の請求項について審決の確定の範囲等に係る規定の整備

二以上の請求項に係る特許の訂正審判について、一定の条件で請求項ごとに、審判請求や、その審決の確定が認められます。また、訂正請求においては、無効審判が請求項ごとに請求されている場合には請求項ごとに訂正請求をしなければなりません。

(7) 無効審判の確定審決の第三者効の廃止

当事者及び参加人以外の者については、無効審判の審決の確定後に同一の事実及び同一の証拠に基づいて審判を請求することができないとする、いわゆる「一事不再理」が廃止されます。

(8) 料金の見直し
  1. 特許料の減免等について、その要件が緩和され、併せてその期間も第一年から第十年までに延長されます。
  2. 意匠登録料について第十一年から第二十年までが引き下げられます。
  3. 国際出願手数料のうち調査手数料等について上限額が設けられ、その範囲で政令で決めることができます。
  4. 特許法改正ではありませんが、平成23年8月1日出願審査請求料が25%程度引き下げられました。
(9) 出願人・特許権者の救済手続の見直し
  1. 外国語書面出願及び外国語特許出願の翻訳文の提出について、提出期間の徒過に正当な理由があるときは、一定の期間は翻訳文を提出することができるようになります。
  2. 特許料等の追納について、追納期間の徒過に正当な理由があるときは、一定の期間は特許料等の追納をすることができるようになります。
(10) 商標権消滅後一年間の登録排除規定の廃止

商標権が消滅した日から一年を経過していない他人の商標又はこれに類似する商標の登録が認められるようになります。

3.このような改正点のうち、新規性喪失の例外規定について重点的に説明します。
(1) 改正前

これまでは、例外規定であることから、新規性喪失の例外規定の適用が受けられる行為に関して以下のように限定的な列挙をしていました。
第1項では、「試験」、「刊行物に発表」、「電気通信回線を通じて発表」、「特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表」、第2項「意に反する公知」、第3項では「日本政府等が開設する博覧会等」「同盟国・WTO加盟国領域内での政府等の開設する国際博覧会」「指定博覧会」の何れかに限り適用されていました。
そうとすると、学会発表や見本市、展示会への出品でも、30条の指定如何で適用が受けられたり受けられなかったりすることがありました。また、テレビのニュースで実施品の動画が流れたときには、本条の適用がありませんが、You tubeなどインターネット上で自ら流した動画は、電気通信回線を通じた発表ですので、本条の適用があるということになります。

(2) 改正後の規定

改正特許法第30条第2項では、公報での開示を除き、「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第二十九条第一項各号のいずれかに該当するに至つた発明」は、その態様によらずすべて適用されることになりました。

(3) 主要外国の立法例

ここで、比較のため諸外国の例を見てみます。

【1】米国の規定(いわゆる「グレースピリオッド」)

特許法に相当するアメリカ合衆国法典第35巻(35 U.S.C.)の第102条(b) 特許要件;新規性及び特許を受ける権利の喪失では、「次に該当する場合を除き,何人も特許を受ける権原を有する。」として、「 (b) その発明が,合衆国における特許出願日前1年より前に,…刊行物に記載されたか,又は合衆国において公然実施され若しくは販売された場合」と規定されています。
つまり、「特許出願日前1年より前」でなければ、「刊行物に記載されたか,又は合衆国において公然実施され若しくは販売された場合」でも、新規性は喪失しないと規定されています。
ところで、ここでは紙面の都合から詳しく触れられませんが、本稿の執筆中に先願主義を軸とする米国の特許法の改正が進んでいます。この論議のなかで先願主義に移行することもあり、これまでのように「グレースピリオッド」をそのまま維持するか、あるいは逆により厳しいものとするか、検討されています。ひょっとすると、やっと日本が米国のグレースピリオッドに近づいたと思ったら、米国の方が新規性の喪失の例外規定を厳しくするという、逆転現象が生じるかもしれません。
以下、欧州・中国・韓国についてまとめます。

【2】 欧州(EPC及びドイツ等)の規定では、パリ条約で義務付けられる、本人の国際博覧会への出品による開示のみ認められています。

【3】中国の規定では、国際博覧会での展示に加え、規定の学術会議での発表も認められています。

【4】韓国の規定では、米韓FTAの合意もあり、米国のグレースピリオッドに近い規定振りとなっています。

(4) 実務上の指針

ⅰ) 以上のように、たとえ、わが国では新規性喪失の例外規定の適用対象が広くなったとしても、外国出願、特にEPCや中国で優先権を主張して外国出願をする場合、新規性喪失の例外規定の適用がないことに留意すべきです。さらに、米国の特許法の改正動向によれば日本で認められても、米国でも認められないという事態も生じるかもしれません。

ⅱ) また、当然ながら、特許を受ける権利を有する者のみに適用され、第三者が公知とした場合には適用がありません。もし、その行為が「特許を受ける権利を有する者の行為に起因した」ものか否か、必ずしも明らかでなく、その反証も極めて困難であることにも留意しなければなりません。

ⅲ) もちろん、先願主義の例外でもありません。結論としては、本改正で仮に新規性喪失の例外の規定が広く認められることになったとしても、あくまで緊急避難的なものに過ぎず、これに頼ってはならないと認識することが重要です。

ⅳ) なお、逆に、国内限定と割り切るならば、意匠法の新規性喪失の例外規定のように、発明の実施品である製品のテスト販売で、投資価値があると判断したら、初めて本規定を使って特許出願することで、知財予算の合理的な運用ができるともいえます。

平成23年7月8日