知財マンの心理学 番外編 ゴルフの心理学(交流分析TA)|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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知財マンの心理学 番外編 ゴルフの心理学(交流分析TA)

(パテントメディア 2018年5月発行第112号より)
会長 弁理士 恩田博宣

今回は筆者の唯一の趣味でもあるゴルフと、交流分析(TA)を関連付けた話をしたいと思います。名付けてゴルフの心理学です。肩の凝らない話にします。

1) 超高速老人ゴルフとTA

岐阜関カントリー倶楽部(以下、岐阜関CC)は2017年10月に日本オープンを開催し、最終ラウンドで、池田雄太プロがアマチュアの金谷拓実との大接戦を制し、1打差で優勝しました。
筆者は同倶楽部のメンバーですが、日曜日のトップ3組くらいは、プレーの速いメンバーが毎週予約をしています。筆者はそのことを過去の経験から、よく知っていますので、一緒にプレーする人がいない日曜日には、その3組のところを狙って、予約できないか打診します。たいてい2人か3人の組があって、入れてもらえるのです。今年の1月は2人だけ予約が入っているところへ入れてもらえました。
トップのスタートです。7時30分からの予約ですが、7時20分にはスタートしました。筆者は79歳。他の2人は酒井さん85歳と長瀬さん84歳、合計248歳です。通常、老人組のゴルフはスロープレーです。しかし、この3人組は違います。超高速プレーヤーなのです。
ティーショットは年齢順ということにしました。従って、オナーは全ホール酒井さんです。実に段取りよく次々とティーショットを終わります。3人がショットを終わるのに、1分とかからないのです。第2打目を打つにもキャディーさんが的確にボールの位置を教えてくれますので、クラブを2、3本持っていって、ポン、ポン、ポンと打ちます。あっという間です。キャディーさんはついてくるのが大変です。パーオンは無理なホールばかりですが、ボールがグリーンに乗ってからも、一番遠い人はもうしゃがんでラインを読んでいます。2番目、3番目にパッティングする人も前もって同じようにラインを読んでいます。キャディーさんに「スライスかな?狙いはボール1個左でいいか」等と結構余裕をもってプレーします。1番目の人がパットを終わると、2番目の人はもう自分のラインは読んであるので、すぐ、パッティングできます。3番目の人も直ちに打てるのです。1m以内のパットは「お先に失礼」と言って、先に打ちます。グリーン上のプレーもあっという間に終わりです。
ハーフラウンド終了するのに、1時間10分くらいでした。岐阜関CCではインスタートはありません。従って、休憩なしでインのプレーができます。
OBも出ました。3パットもありました。ダフリもテンプラもありました。18番ホールを終了したとき、時計は9時45分。2時間25分のラウンドでした。
その時間でもちゃんと風呂は沸いています。クラブも早い組は10時前に上がってくることを分かっているのです。2組目、3組目の人たちも高速プレーヤーなのですが、さすが、振り返っても、姿が見えなくなっていました。
超高速プレーだったのですが、じゃあ、スコアも気にせず、ただ時間にチャレンジしただけかというと、そんなことはありません。コースマネジメントのことを考え、グリーン上ではラインもきちんと読んでプレーしました。ちなみに筆者のスコアはアウト44、イン47でした。後の二人も100を切っていました。
この話を読まれた皆さんが、もし、ゴルフプレーヤーならば、そのプレーのスピードに、「本当かよ」とかなり驚かれると思います。実は筆者はこの2時間25分のプレーは2回目の新記録タイなのです。1回目は、なんと家内ともう一人は岐阜関CCメンバー78歳の藤田さんとのラウンドでした。
ただただ、段取りよくラウンドしただけのことでした。家内も同年の79歳ですが、筆者からの教育よろしく段取りの良さは抜群です。
さて、ここに5人のゴルフプレーヤーが登場しました。TA(交流分析)的に見た場合、5人はどんな「自我状態」(パテントメディア99号、111号参照)でプレーし、どんな「ストローク」(同じく101号、111号参照)の交換が行われたのでしょうか。自分に対する「ディスカウント」(同じく102号、111号参照)の場面もありました。はたして5人の「対人関係の基本的なポジション」(同じく103号、111号参照)はどんなものでしょうか。このプレーは一体「時間の構造化」(同じく105号、111号参照)でいうならば、引きこもり、儀礼、活動、親交のどれに当たるのでしょうか。このプレーに「人生脚本」(同じく106~110号、111号参照)は表れていたのでしょうか。

1-1)超高速ゴルフプレーの自我状態

TAでは人の心の状態を両親(Parents)と大人(Adult)と子供(Child)に分類しています。
筆者の場合、2週間ぶりのゴルフでした。仲間が集まらず、1人で2人のところへ入れてもらいました。でもこれから好きなゴルフプレーです。無邪気にゴルフを楽しむ雰囲気ですから、心はC(Child)の状態だといえましょう。酒井さんも長瀬さんもおそらく今日のゴルフを楽しもうという心の状態だといえます。家内も藤田さんも同じでしょう。
しかし、家内の場合、初めてご一緒する藤田さんが「どんな人かな」といささか心配な状況です。そんな心の状態は同じCの状態だったとしても、少し否定要素の入った不安のCということになります。
また、筆者のことを知らない長瀬さんは(酒井さん藤田さんは知り合いです)家内と同じように、不安のCの要素があったかも知れません。それにしても84歳のベテランですから、きっと無邪気なCの方が強かったことでしょう。

1-2)ゴルフプレーのストローク

人が健康に生きていくために、心の面で必要とするもの、それは自分以外の人から関心を持たれることです。人との接触から得られる刺激ともいえます。この精神的な刺激のことをストロークといいます。
酒井さんも長瀬さんも年齢の割には、よく飛ぶのです。筆者が何回も何回も「ナイスショット!」と繰り返すほどでした。筆者も歳の割には飛ぶ方ですが、時にはオーバードライブされることもありました。「とても84歳、85歳のショットとは思えませんねえ」等と褒め讃えること、数回でした。このお褒めは肯定的なストロークに当たります。同伴競技者に対して関心を持ち、ショットを見ていて素晴らしい技に反応するのです。キャディーさんからも同じような声がかかります。
1人でプレーしたことがありますが、誰からの反応もありません。プレーは実につまらないものとなります。ミスショットのときには、つい、やり直しとばかりに、もう1つ打ちます。2つのボールを打っていきますと、どれが本来のボールなのかわからなくなってしまい、プレーはくしゃくしゃになってしまいます。ここからも他人から持たれる関心の重要性、即ちストロークの重要性がよくわかります。「ナイスショット」「惜しい」「素晴らしい」「残念」「ラッキー」等の声が同伴者から聞こえてくるのが、関心を持ってもらえている証拠です。反対にこのような反応を全く示さない同伴者がいたとするならば、そのパーティの雰囲気はよくないでしょう。時々起こるのは、OBを何発も出して、機嫌を悪くし、黙りこくってしまう人がいることです。本人だけではなしに、他の同伴者まで楽しいはずのゴルフの雰囲気を壊してしまいます。気を付けたいものです。TAの理論ではストローク(他人に対する関心)なしでは人間は生きていけないと結論づけています。ゴルフプレーでもその理論の正しさを示しているように思います。

1-3)ゴルフプレーのディスカウント

TAではディスカウントとは「自分自身や他人に今起こっている人間関係の状況を軽視したり無視したりすること」だといっています。
当日のプレーではまっすぐに飛んだティーショットに対して、「ナイスショット!素晴らしいですね」と声をかけたとき、「いや、このショットはスイートスポットには当たっていません。いいショットじゃありませんよ」と言われたことがありました。第三者にはナイスショットに見えた。しかし、打った本人は満足ではなかった。TA的には軽いディスカウントではないかと思います。同伴者が「素晴らしい」と褒めているのに、自らはそれを軽視ないしは無視してしまっているからです。このケースはよくあります。せっかく褒めてもらっているのですから、「お褒め頂きありがとう」とありがたくお褒めはもらってしまう方がいいのです。もし、自分では満足できないときは、お礼を言った後で「もうちょっとスイートスポットに当たってほしかったなあ」等と、言っていれば、ディスカウントにはならないのです。

1-4)ゴルフプレーにおける基本的ポジション

人は生まれてからおよそ3歳まで育つ間に、成育過程の中でかかわった両親を中心とする人との関係から、どのように生きるかという対人関係の基本的構え、即ち基本的ポジションを決断するといわれています。そして、その構えは生涯変更されることなく、一生を過ごすというのです。特にその基本的ポジションが積極的肯定的なものである場合は問題がないのですが、消極的、否定的なものである場合、そのポジションが一生続くのですから困ったことになります。基本的ポジションは次の4種類に分類されています。すなわち、
(1)I’m OK. You are OK.(自他肯定)
(2)I’m not OK. You are OK.(自己否定、他者肯定)
(3)I’m OK. You are not OK.(自己肯定、他者否定)
(4)I’m not OK. You are not OK.(自他否定)
これら4つのポジションのいずれかに、貴方のポジションも分類されます。そして、人とのコミュニケーションは、この基本的ポジションに基づいて行われるのです。
筆者はミスショットをして、「ああ、いやになっちゃうなあ。どうして俺はこんなに下手なんだろう。ゴルフのない国へでも行くか」等と嘆くことがあります。この言動には(2)I’m not OK. You are OK.(自己否定、他者肯定)のポジションが表れているといえます。その陰には「同伴者の皆さんはうまく打てているのに、俺だけがOBか」という他者肯定のポジションが隠れています。
もし、(1)I’m OK. You are OK.(自他肯定)の人がOBを出してしまったとするならば、「どうして、OBになったのかな。そうかバックスイングで十分体が回っていなかったから、フックボールになったのか。よしよし、次から気を付けよう。皆さんバックスイングでは、十分体を回転させてくださいね」等と積極的に受け止めることができるでしょう。
では、(3)I’m OK. You are not OK.(自己肯定、他者否定)の人だったらどうでしょうか。「このコースは左サイドがすぐOBだもんな。これじゃあOBもでるよ。ひょっとするとクラブもシャフトが固すぎたかな」等と自分は正しい、「悪いのはコースだ。クラブだ」ということになりそうです。
(4)I’m not OK. You are not OK.(自他否定)のポジションの人ならこんなことになるでしょう。「えっ!また、OB。ゴルフになんか来るんじゃなかったなあ。おれ、何やってもうまくいかないもんな。人生おしまいだよ」
ちょっとオーバーかもしれません。

1-5)ゴルフと時間の構造化

時間の構造化とは、自分の時間をできる限り有効に使いたいという欲求を実現することをいいます。人は誰もが意識すると否とにかかわらず、時間を有意義に使いたいという欲求を持っています。
時間の使い方を交流分析(TA)では、次のような分類を含みます。
①引きこもり(自閉)
②儀礼
③社交
④活動(仕事)
⑤親密(親交)
ゴルフプレーをする場合、上記のいずれに該当する場合もあり得ます。

1-5-①②)引きこもりと儀礼から見ていきましょう。
筆者の場合、経営上の大きな悩みが生じたようなとき、例えば、売り上げが落ちていく、受注が伸びない、人材の採用ができない、大きなミスが発生した、優秀な人材が辞めると言い出した等、ふさぎ込んでしまいたいようなとき、ゴルフに出かけますと、時々悩みが脳裏をよぎるものの、すぐボールを追いかけることに集中してしまいます。しばし、悩みを頭から消すことができるのです。この状態は一種の引きこもりだといえます。
気の置けない友人とのゴルフです。オリンピックの金メダルの選手を褒めるようなお天気会話をしながら、また、宝くじを買ったら1番違いで1000万円外したというような冗談話をしながら、気軽にラウンドしている状態は儀礼に当たるでしょう。

1-5-③)社交はもう少し同伴者に対する気遣いがある場合です。例えば、お客様を招待したようなときは、「このホールは左へティーショットした方が、第2打が楽です」「右サイドはすぐOBになっていますから気を付けてください」等と気を遣います。ビギナーを連れていったようなときも、いろいろ世話を焼かなければなりません。グリップの仕方から、スイング、パターの打ち方、さらには、スロープレーにならないように、注意する等大変です。そして、全体として皆さんがうまくプレーできるようにするようなケースが社交です。

1-5-④)活動はゴルフそのものに熱中し、集中している状況がそれに当たります。前述の超高速プレーでは、3人のプレーヤーは高速プレーを楽しんでいます。段取りよく次から次へプレーが進行します。そこには3人が同じ心構えをもって、速いプレー進行を図ろうとしています。その1点に集中しているのです。素振りも1回だけです。誰も2回はしません。特に進行が速まるのは、グリーン上です。最初にパッティングをする人は、しゃがみこんで打つ方向を読みます。2番目、3番目に打つ人も同時に読んでいます。最初の人が打つと、2番目3番目の人は自分の番が回って来てからグリーンを読むことはありません。もう読んであるから次々とプレーできるのです。3番目の人は2番目の人がプレー中に読むことはあります。グリーン上のプレーは圧倒的に速くなります。これも集中のおかげです。これぞ時間の構造化における活動の典型例でしょう。

1-5-⑤)親密はもう少しレベルが上がります。本音のやり取りが行われるのです。
親友同士がラウンドしています。A君はシングルハンディキャッププレーヤーです。B君はまだビギナーで、ワンラウンドのスコアが100を切れていません。1番ティーでB君はA君に向かって言います。「今日はしっかりご指導をお願いします。厳しく頼むよ」「わかった。遠慮なしにいくからな」とA君。
「おいおいB君、グリップが少しおかしいぞ。極端にフックグリップになっているじゃないか。もう少しこのようにした方がいいな」とA君。3番ホールでまた、B君のグリップを直します。5番ホールでもまた正常でなくなっているので、「おいおい、グリップがおかしいぞ。何度も言わせるなよ。グリップは基本中の基本だ。これがうまくいかないと上達できないぞ」と、少しイラついて本音が出ます。しかし、親友だから早く上達させてやろうとの好意から言えることです。本音がでますので、人間関係を損ないかねない危険性があります。しかし、それでこそ真の友情が育まれるのです。

1-6)ゴルフと人生脚本

人生脚本は前述の基本的ポジションと同じように、3歳から14歳までの間に、経験する心理的に強い印象を残すような出来事によって形成されるといわれています。例えば、禁止令として「所属してはいけない」「成長してはいけない」、ドライバーとして「急げ」「完璧であれ」、プラスの脚本として「人間信頼」「九死に一生」等があります。
通常無意識のうちに形成されて、潜在意識に刷り込まれます。その人生脚本が本人の気付かないまま、一生その人のものの考え方や行動基準を規制するのです。
前述の超高速プレーに話を戻しましょう。3人の脚本には確実に「急げ」があります。筆者も「急げ」の脚本を持っています。
特許事務所のトップとして、何かいい事案が見つかると、「すぐやれ」と命令します。しかし、最近では息子が所長として、抵抗することが多く、ストレスとなっています。筆者の「急げ」の脚本がいつ決断されたかは、定かではありませんが、筆者が6歳であった、太平洋戦争終戦直前の昭和20年7月9日夕刻、岐阜市に対する米軍のB29爆撃機の大空襲がありました。逃げ遅れ、退避した柿の木畑が降り注ぐ焼夷弾で火の海となる中、からくも生き延びたのが、「死ぬ前に多くのことを済まそう」という決断になっているような気がします。
経営者には「急げ」の脚本を持っている人が多いのです。筆者が所属する岐阜カンツリー倶楽部(以下、岐阜CC)に21会というゴルフ仲間の会があります。月2回のクラブコンペのときには、2、3組が一緒にプレーをしますが、常に1番スタートです。全員がせっかちで高速プレーヤーです。メンバーは岐阜CCの理事長はじめ役員がほとんどですが、ハーフ大体1時間半でラウンドします。皆70歳超えですので、最近では少しプレーが遅くなったかなとは思いますが、それでもハーフ2時間は必ず切ってラウンドします。
アウトを終わり、インに入りますと、インスタートの組に追い付いてしまうので、1時間半で回るということはできません。それでも合計4時間はかからないで終了です。風呂と食事をして帰っても、まだ午後1時、時にはNHKののど自慢が聞けることがあるくらいです。
たまたま、スロープレーヤーの新人が入会してきたとします。無言のうちに「急げ」のプレッシャーがかかります。大先輩が「おそい!」と直言することもあります。ときならずして、高速プレーヤーに早変わりです。
他人に迷惑をかけないという観点からも、高速プレーヤーは非常にいいといえるのです。

2)ゴルフと体調

筆者は「ゴルフクレージー」と自称するほどゴルフ熱心です。ゴルフを始めてから46年になります。
筆者は血圧が低めで朝起きるのがつらいのですが、今日はゴルフという日には、いそいそと何の苦もなく早起きができます。好きということはこのように人の体調までも変化させてしまうのです。不思議というほかありません。
小学校の頃、明日は遠足というと、母親から「早く寝なさい」「早く寝なさい」と、言われてもなかなか寝られず、夜遅くまで起きていました。それでも翌朝は6時に起きれば十分なのに、もう4時頃から「早く朝にならないかなあ」と目はらんらん、寝ていられず、ごそごそするものですから、母親から「いい加減にしなさい」と叱られたものです。しかしながら、歳をとるに従って、このようにわくわくすることは、本当に少なくなります。
明日の行事で、今夜わくわく興奮状態でなかなか寝られない等ということは、ほとんどなくなっています。しかし、筆者は少なくともゴルフについては、今でもわくわく状態でいることができます。体調を健康に維持するうえで、このわくわく感はおおいに役立つことだと思います。
しかし、一昔前を思い起こしてみると、そのわくわく状態は歳とともに減殺しているように思います。いずれにしても、80歳近い年齢になって、このようにわくわく感が残っていることは、いいことに違いありません。
歳をとるに従って、感性が鈍っていき、スロープレー等で周りに迷惑をかける老人が増える中、このようにわくわく感を持っているのは、感性を維持するうえで非常に有効ではないかと思うのです。この感性が特許事務所の経営にも好影響を与えるといいのですが。

3)ゴルフと営業

ゴルフは特許事務所の営業にも好影響があります。
筆者はゴルフ接待をして「仕事をいただこう」という考え方はしません。知財部の方をゴルフに招待したとき、気軽に受けていただける場合は、とりもなおさず、事務所とその企業との関係が上手くいっているという目安になると思っています。
そのゴルフでは、自分も十分楽しみ、仕事も楽しみも両立を図るといった感じです。大きな会社の知財部長ともなれば、お会いして話したいことがあっても、お忙しいことから、長時間、時間をとっていただくのは無理です。なかなかコミュニケーションの機会が持てません。そんな中、スケジュールの調整は大変なのですが、一旦ゴルフが決まりますと、その日は6時間くらいご一緒できるのですから、数々の情報交換をすることができます。ときには、こちらからの質問にお答えいただけるだけではなしに、「国内出願を減らし、外国出願を増やす」等の会社の方針や長期的な見通しをお聞きできたりします。それは事務所の目標を立てるのにもおおいに役立ちます。
また、1日ゴルフを一緒にラウンドし、風呂に入り食事をし、ビールを飲み、「1番ホールでOBを出して、やる気をなくした」「5番ホールのバーディーはラッキーだった」「12番ホールのチップインはよく入ったものだ」等とたわいもない話に花を咲かせます。初めて、一緒にラウンドした部長であるにもかかわらず、まるで10年の知己であったかのように親しくなります。お客様がまるで友人のようになってしまうのです。素晴らしいゴルフの効用です。

4)ゴルフプレーと性格

初めての人3人とラウンドしたとします。ティーショットで、ティーマークぎりぎりにボールをセットアップする人がいます。1ヤードでも遠くに飛ばしたいという願望は理解できますが、いかにもせこいというか余裕のなさが露呈しているような気がします。そいう人はしばしばティーマークよりも前へ出てしまうことが起こります。
同伴の競技者が打とうとしているのに、お構いなしにぶんぶん素振りの音をさせる人、また、打つ人の後方を横切ったりする人、おしゃべりに余念のない人がいます。
また、体の故障を訴え、練習不足を嘆き、「今日の成績は悪くなるだろう」という言い訳を1番ホールのティーグランドでやってしまう人がいます。スタート前の1番ティーで早くも非常識な性格が露呈してしまいます。
ある時、友人とのゴルフで家内がいうのです。「あの人スコアをごまかした」と。スコアの誤申告は時々あります。筆者は「どうしてその場で言ってあげなかったのだ」と言ったのですが、その場で間違いを指摘することは難しいようです。本人はごまかす気はなく、誤申告しているのでしょうが、真実のスコアを知っている他の競技者からすると、実に不愉快な所業です。往々にしてこういう人は1回にとどまらず何回も誤申告が起こります。筆者は1打目がどこから打ち、2打目がどこというように、その人の打球経過が指摘できるときは、必ず、経過を説明して、スコアが間違っていることを告げるようにしています。「あれ!おかしいな」と思っても、正確には覚えていないときは、その後のその人のスコアに注意するようにしています。
当地において大変有名な方とラウンドをしたことがありました。スコアの申告が失礼ながらでたらめなのです。2打、時には3打も違っているのです。7打、8打、時には10打もたたかれるものですから、筆者も正確には覚えていられません。2番ホール、3番ホールと進むに従って、何とかしなくてはいけないと思い、考え付いたのが、まず筆者が正確に打数を数えることです。そして、めでたくグリーンの上にオンしたとき、「○○さん、6オンですね」と先手を打つやり方でした。「えっ!そんなに打ったか」「そうですよ」このようにして、全ホール正確なスコアの申告に協力したのでした。
おかしいおかしいと思いながらワンラウンド付き合うのは、とても不愉快なことです。それにしても立派な人格者が誤申告を繰り返すというのは、摩訶不思議なことですが、自分を大切にすることはしても、他人を尊重するという心構えが不足しているといえそうです。TA的にみるならば、I’m OK. You are not OK.(自己肯定、他者否定)の基本的ポジションの持ち主ということになります。

5)スロープレーについて

前述の老人高速プレーまではいかないにしても、筆者は朝早いスタートで高速プレーを楽しんでいます。もう一つ筆者が所属する、やまがたゴルフ倶楽部美山コースは、筆者が運営会社の社長をしていることもあって、スタートは常に1番です。1時間半でアウトコースを回ってきます。GPSで社長が9番ホール半ばまで来たことはキャディーマスター室で分かります。そこで、待ち時間なしでインスタートの方へ入れてもらう厚意を受けています。11時頃にはプレー終了です。
筆者はこんなゴルフを理想とし、結構その理想を楽しんでいます。
ゴルフ場の経営上、最も困るのはスロープレーです。早朝、一組のスロープレーがあると、その日一日の大渋滞の原因になるからです。
最も起こりやすいのは、グリーン上のパッティングのときです。人のプレー中に自分のラインを読んでおけば、時間はそれほどかからないのですが、自分の番が回って来てから、あっちへ行ったり、こっちから覗いたり、これでは時間がかかります。そして構えてから打つまで、とても長くかかる人がいます。構えてから何回も素振りをして、構えを外してまたラインを覗き、そしてまた素振りといった具合です。
こういう人に限って、後続の組が待っているとか、前の組がいなくなってしまって、1ホールも2ホールも空いてしまっているようなことを、全く気にかける様子もありません。キャディーが「少し急いでください」と言おうものなら、「4時間で回りゃいいのだろう」と怒り出す始末。しかし、4時間で回れるはずもありません。
このような人は周囲の状況が全く分かっておらず、人に迷惑をかけていても、それを感じられないのですから、問題は深刻です。
その組の中に一人だけ「少し急ぎましょう」と声をかけてくれる人がいれば、遅れは最小限にとどまるのですが、なぜかそれを実行する人は少ないのです。人に嫌われるようなことは言いたくないという身勝手からでしょうか。
ゴルフの基本は「他人に迷惑をかけない」ということにあります。周囲の状況に気を配り、それに応じた行動をとることによって、迷惑行為は防止できるのですが、実行は結構難しいのです。
特に老人にスロープレーヤーが多いようですが、老人でも前述の酒井さん長瀬さんのような高速プレーヤーもいるのです。心構え一つだと思います。
スロープレーヤーをTA的に見るならば、I’m OK. You are not OK.(自己肯定、他者否定)のポジションだと思われます。というのは、自分のプレーはスローでよいとしても、それが他人に対して迷惑となっていることを意識できていないからです。自分は良くて他人はどうでもよいということだからです。
筆者がいつも思うことは「周囲の状況が把握できていないスロープレーヤーが会社の社長であったならば、その会社はうまくいくのだろうか」「きっと儲かっていないだろうな」ということです。
反対に前述の酒井さん、長瀬さん、藤田さんの会社は繁栄していることでしょう。
ゴルフについての最も古い記録は1428年で、1600年代になるとゴルフはスコットランド陸軍のクロスカントリー競技として、正式に採用されました。そしていかなる状況に遭遇しようとも、あるがままでプレーしなければなりませんでした。それだけではありません。スピードが要求され、実にさわやかなゲームであったというのです。
この歴史の事実もしっかりと認識して、スロープレーを戒めたいものです。
現在の日本では10時、11時の遅い時間のスタートだと、5時間、6時間プレーは当たり前になっています。筆者はスロープレーヤーの人にゴルフ場でお目かかるのは遠慮したいものです。
一般的に見て、経営者は高速プレーヤーであることがほとんどです。理由は必ずしも人生脚本によるばかりとは、いえないように思います。経営者は経営するうえで会社に関する情報を幅広く認識し、発展する方向へいち早く舵を取らねばなりません。並はずれた気働きが必要です。それができなければ、会社は衰退し、やがては倒産です。
経営者がゴルフをしていて、前の組がはるか前に行ってしまったようなときは、その状況を把握して「急ごう」と指示を出さねばなりません。前の組は見えなくなってしまった。後ろの組はすぐそこで手持無沙汰そうに待っている。
それでも平気でしゃがみこんでラインを読み、さらに反対側へまわって、またラインを読むというような経営者がいたとするならば、早晩その会社はおかしくなるでしょう。周囲の状況が把握できていないのですから、会社を取り巻く状況の把握もできているはずがないからです。
筆者は特許事務所を経営していますので、著名企業の知財部長やその経験者とプレーする機会があるのですが、その人たちの中にスロープレーヤーは皆無です。気働きのない人には、知財部長は無理ということでしょう。

6)終わりに

ゴルフとTAの話でした。筆者のゴルフへの思いを書かせていただきました。
最近はゴルフ人口が減りつつあるばかりでなく、若者の参入が少なくなってきています。時間のかかる遊びを若者が敬遠する傾向が顕著です。さらにゴルフ場の数が多すぎるために、ダンピングが起こっていて、プレーフィーの単価も下がり気味です。会員権相場は下がるばかりで、ゴルフ場の経営は大変です。この状況はゴルフを愛する人にとっては、ゴルフを安く楽しむことができるのですから、ありがたいことです。ゴルフ場はアイディアを凝らし、生き残りを図ってほしいものです。