【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

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【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について

(パテントメディア2013年9月発行第98号掲載)
中国弁護士 胡紅春

工業製品のデザインは、形状、図案、色彩あるいはこれらの結合からなりますが、それが工業の応用に適した新規かつ優れた外観を備えるものであれば、特許法(専利法)のもと、意匠として保護されます。
また、これらのデザインが例えば美術作品のように著作物と認められ得るものであれば、著作権法によっても保護されます。さらに、デザインが製品やサービスを識別する機能があれば、商標法の保護対象にもなり得ます。
つまり、識別性、新規性、および進歩性を有するデザインであれば、商標法、特許法、及び著作権法により三重の保護を受けることができるのです。しかしその反面、上記3つの権利がそれぞれ異なる権利者に帰属している場合には、各権利が抵触するおそれがあります。
本稿では、中国における、商標権、意匠権および著作権の抵触について説明します。

一、商標権、著作権および意匠権の抵触が発生する理由

まず、中国の商標権、著作権および意匠権について簡単に説明します。

商標権の保護対象は、自然人、法人またはその他の組織の商品を他人の商品と識別することができるあらゆる視覚的標章であり、文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状および色彩の組合せ、およびこれらの要素の組合せを含みます(中華人民共和国商標法第8条)。登録出願にかかる商標は、顕著な特徴を有し、容易に識別でき、かつ他人の先に取得した合法的な権利と抵触してはなりません(商標法第9条)。登録商標の有効期間は10年であり、更新登録が可能です。

著作権法の保護対象は著作物であり、文学、美術、および自然科学、社会科学、産業技術等の分野において独創性を有し、かつ有形の形式で複製できる知的成果をいいます。著作権法は、「公表権」・「氏名表示権」のような著作者の人格的利益を保護する権利と、「複製権」・「頒布権」などのように著作者の財産的側面を保護する権利を認めています(17項目の権利)。
なお、著作権に関連する権利として、実演家や出版社・放送事業者などに対する権利も認められています(いわゆる著作隣接権)。
著作権は、権利の発生に一切の手続きを要しない、いわゆる無方式主義です。したがって、著作物を完成すれば原始的に著作権を有することになります。
著作権は、著作物の創作の時が始期となり、終期は一般的な著作物の場合、著作者の死後50年です(例外 共同著作、無名・変名著作、法人著作、映画の著作など)。(中華人民共和国著作権法第20, 21条)。

中国特許法によって保護される意匠とは、新規性を有する工業デザイン的創作であり、製品の形状、図案またはその結合および色彩と形状、図案の結合に対して行われ、優れた外観を備え、かつ工業への応用に適した新たなデザインを指します(中華人民共和国専利法第2条第4項)。 特許権(専利権)を付与する意匠は、既存のデザインに属さず、いかなる組織または個人によっても同様の意匠が出願日前に国務院専利行政部門に出願され、かつ出願日以降に公告された特許書類に記載されていないものでなければなりません。また、特許権を付与する意匠は、出願日前に他人が既に取得した合法的権利に抵触してはなりません(専利法第23条)。専利法による意匠の保護期限は出願日から10年間です。

以上の説明から分かるように、商標権、著作権および意匠権は、保護対象、保護要件、保護期間および効力等の点が大きく異なります。

商標法において登録商標に対する保護は、同一または類似の商品もしくはサービスを前提としており、全く同一の商標標識であっても、異なる商標権者が当該商標を異なるまたは類似しない商品もしくはサービスに対して登録することは、禁止されていません。また、登録商標は何度でも更新できるため、その保護期限は無限に延長できます。
製品のデザイン、装飾又は包装は、それが著作物の条件を満たせば、その完成日から自動的に著作権の保護を受けることができます。著作権は、排他的な権利ですが、独自に創作された同一または類似の作品において、それぞれに著作権が発生することを禁止していません。一方、意匠権は、絶対的な排他性を有し、他人が同一または類似の意匠を使用することを排除できます。

意匠および商標は、いずれも先願主義ですが、中国では商標と意匠とでは管轄する行政機関が異なっており、審査はそれぞれ独立して行われます。商標と意匠とが、他人の先に取得した合法的な権利と抵触してはならないことは法律において明確に規定されていますが、商標登録の審査と意匠の審査とは時間差がある上に、個別に創作された等の理由により、同一デザインの商標権と意匠権とが異なる権利者に属する可能性が生じます。また、意匠の基礎デザインおよび商標の図形の多くは、著作権により保護を受けることも可能です。このように、著作権、商標権、意匠権の競合および重複保護の問題が発生しています。

二、著作権、商標権、意匠権の抵触に関する基本原則

著作権、商標権および意匠権は、いずれも知的財産権に属しますが、著作権法、商標法、専利法はそれぞれ個別に制定されているため、これらの権利の競合および重複保護に関する体系的な法律規定はまだ存在しません。法律業界では通常、以下の原則に従って著作権、商標権、意匠権の抵触を処理しています。

1.先行権利保護の原則

先行権利保護の原則では、いかなる知的財産権の取得も、他人の合法的な先行権利を侵害しないことを前提とし、そうでなければ当該知的財産権は無効であると判定されます。この原則は、権利が発生した時期を判断基準としており、各権利にとって相互に効果的であるといえます。
なお、先行権利が何であるかによって、侵害が発生しているか否かの判断基準が異なります。例えば著作権、意匠権の場合には主に不正な複製であるか否かが侵害発生の判断基準となり、商標権の場合には主に混同の有無が侵害発生の判断基準となります。

ところで、法的権利体系の構築は、公平、正義を基礎とし、全ての国民を等しく尊重し、公平に扱わなければなりません。先行権利が実質的な損害を受けていないにもかかわらず、後の権利が制限される場合、第三者に対し不公平となってしまいます。例えば商標の登録対象を一般的な著作物として広く解釈すれば、商標が著作権によって保護されることとなり、商標法第9条の規定(他人の先に取得した合法的な権利と抵触してはならない)によりいかなる第三者も全ての商品およびサービスにおいて同様の商標を登録できなくなり、更に、その商標が「三年不使用」により取り消された後においても、著作権の存続により、他人が同じ商標を登録することが制限されてしまいます。その結果、著作権制度は商標法に対して大きな打撃を与えることとなります。しかし、これは立法者の望むところではありません。
従って、理論的には、作品の表現が簡単で、変化が少なく、異なる作者が同一またはほぼ同一の表現を独自に創作できる可能性が高い場合、登録された商標に対応する作品は、著作権により保護されません。この点は、日本たばこ産業株式会社と中国国家工商行政管理総局評審委員会との商標異議再審紛争事件((2012)一中知行初字1286号)により確認できます(この案件の詳細は後述します)。

2.区別保護の原則

区別保護の原則は、異なる権利に対して異なる水準の保護を与えることにより、実質的な権利平等保護を実現しようという考え方です。例えば、著名なデザインに対しては通常のデザインと比較して高い水準で法律的な保護を与えます。上述したように、権利が実質的な侵害を被ることは、先行権利を保護する重要な根拠ですが、知名度の高い知的財産権が侵害される可能性は普通の知的財産権よりも高いといえます。そこで、例えば著名商標に対する権利侵害では、「混同」に限らず、「希釈化(ダイリューション)」、「汚染(ポリューション)」、「ただ乗り(フリーライド)」等も判断基準に含めるようにします。
司法慣例においては、裁判所が侵害者の主観的悪意、先行権利への損害、侵害賠償等を裁定する際に、先行権利の知名度に基づいて判定を行うことが多くあります。

3.社会利益尊重の原則

私権としての商標権、著作権および意匠権は、特定の状況において「不特定多数」の利益、すなわち社会公衆の利益が優先する場合があります。例えば、これらの権利間に抵触が発生し、そのうちの所定の権利にかかる製品が公衆の必要とする代替性の弱い製品である場合、権利の有効性、権利侵害あるいは実施や使用の可能性を判断する際に、その他の原則を酌量して判定する必要があります。
なお、この原則は、以下の2点を前提としています。

(1) 社会の権利と利益が実質的に侵害されるおそれがあること
(2) 個人の権利と利益に対する損害を最低限に抑えること

すなわち、社会利益を確保するとともに、私的利益に対する損害が最小となる法律措置を採用しなければなりません。

三、参考判例
(一)商標権と著作権との抵触事案

日本たばこ産業株式会社と中国国家工商行政管理総局評審委員会との商標異議再審紛争事件((2012)一中知行初字1286号)

日本たばこ産業株式会社は、登録商標第75629号、第167435号、第176259号、第214770号の権利者です。上述の商標は、それぞれ文字「【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について | 中国」、図形「【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について | 中国」、およびこれらの結合「【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について | 中国」によって構成されています。その指定商品類は主にたばこ及びたばこ関連製品(第34類)、および傘(第18類)です。広州駱駝服飾有限公司は、上記3つの商標出願日の後である2003年7月7日に、第25類(履物)を指定して「【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について | 中国」を出願しました(出願番号 第3619863号)。本願が初審公告された後、日本たばこ産業株式会社は法定期間内に商標局に対し異議申立を行いました。商標異議再審手続を経て、商標局は、「被異議申立商標の登録を維持する」と審決しました。日本たばこ産業株式会社は、この審決を不服として取消訴訟を提起し、その請求原因の1つとして、被異議申立商標「CAMEL」の使用は原告の先行著作権を侵害するものであるとの主張をしました。これに対し、裁判所は以下の判定を下しました。

「著作物が表す知的創造力はごく僅かなものであってはならない。…知的創造力レベルの低すぎる知的成果を著作権法により保護すれば、『著作物の創作と伝達を奨励し、更に社会主義文化及び科学事業の発展と繁栄を促す』という著作権法の立法目的を達成できないのみならず、公的資源を非合理的に使用して公共の利益を損害するおそれもある。…通常、著作物の保護は媒体を考慮しないため、商標が著作権法によって保護される著作物と判定されれば、その商標は商品またはサービス類別に関する制限がなく、全分類において保護を得ることとなる。…著作権法によって保護される著作物の知的創造力レベルが低すぎるものであれば、『創作を奨励し、文化および科学事業の発展と繁栄を促す』という著作権法の立法目的を達成できないのみならず、相当な割合の商標が著作権法による保護が適用されることにより、商標法の上記規定を回避することができることになり、商標法の基本的な制度設計が無意味なものになってしまう。」

このような理由により、裁判所は、文字「CAMEL」に対して著作権を有する、という日本たばこ産業株式会社の主張を支持しませんでした。
この判決文を通じて、「先行権利保護を原則としながらも、一定の制限を受ける場合がある」ということを確認することができます。

(二)商標権と意匠権との抵触

孫孟林とジッポー製造公司(ZIPPO MANUFACTURING COMPANY)との商標専用権侵害上告事件((2010)高民終字第1758号)

ジッポー製造公司は、登録商標第347274号、第3091639号、第235541号の権利者であり、これらの商標は、文字「ZIPPO」及び「【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について | 中国」によって構成されており、指定商品はライターおよびライター用ガス等です。
一方、孫孟林氏は、上記商標の出願日の後である2006年11月27日に、名称を「包装箱」とする意匠出願(専利No.ZL200630159047.9)をしました。当該意匠出願は、正面図、底面図、平面図、背面図においてマーク「【中国知財入門】中国での商標権、著作権および意匠権の抵触について | 中国」を使用し、当該マークの下方にライターの図案があります。
ジッポー製造公司は、上記意匠の出願日の前に「ZIPPO」の登録商標の専用権を取得しており、孫孟林氏が文字「ZIPPO」およびライターに近似する図案を「包装箱」の意匠とすれば、ジッポー製造公司の登録商標「ZIPPO」の専用権に抵触することになると主張し、権利の抵触による不適切な結果を回避するために、孫孟林氏が上記意匠権を実施することを禁止するよう、裁判所に求めました。
裁判所は、登録商標「ZIPPO」の知名度を考慮し、「孫孟林氏が上記意匠権を実施すれば、当該包装箱がライターまたは関連商品に適用されるものであり、当該商品がジッポー製造公司の製品、あるいはジッポー製造公司と何らかの関連性を有する製品だと公衆に誤認させる可能性がある」と判断しました。そして、「孫孟林氏はその意匠権を実施してはならない」との判決を下しました。
ちなみに、この判決では、後の意匠権の実施が禁止されると判断していますが、当該意匠権の無効性については言及していません。先行権利の権利者は、意匠権の登録無効審判を請求することができます。

この案件と同じような意匠権と先行商標権の抵触に関する事件としては、例えば王軍とルイヴィトンマレティエ株式有限公司(Louis Vuitton Malletier)との登録商標専用権侵害紛争事件があります。

四、新しいデザインの保護に関する提案

上述したように、意匠権、商標権および著作権による保護は、要件が異なり、いずれもメリットとデメリットを有しています。意匠権は排他性を有し、独自創作の結果同一若しくは類似したものについても他人の使用を禁止する効力があります。商標権は、顕著性および識別性が求められ、その構成要素は通常、商品の原料、機能、品質等の商品の特徴を表すものであってはなりません。また、一般に商標は、他人が同様の商標を他の商品またはサービスに対して登録することを制限できません。著作権は、著作物性やその創造レベルの高さが求められるので、意匠権または商標権を完全に代替するものとはなり得ませんが、それらを補完する役割を果たすことができます。
上記に鑑みますと、権利者は、大きな商業的価値が潜在する新しい工業デザインを創作した場合には、意匠権による排他的な保護、商標権による安定的かつ長期に亘る保護、および著作権による補完的な保護、という三重の保護を利用することが望ましいといえます。