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判例研究/レポート

均等論についての最高裁判決
(平成28年(受)第1242号 特許権侵害行為差止請求事件平成29年3月24日 第二小法廷判決)

2018年7月3日掲載
弁理士 濱名 哲也

日本国において、均等論についての最高裁判決が出されましたので、検討してみたいと思います。
本件では、下級審から一貫して、対象製品が均等か否かについて争われました。最高裁においては、均等の第5要件の規範について争われました。以下に、事件の概要を説明します。

(1)事件の概要

上告人Xが、角化症治療薬であるマキサカルシトール原薬を輸入販売しており、上告人Y等が、上記原薬を含有するマキサカルシトール製剤を販売していたことから、特許権者であるA(被上告人)がXおよびYら(以下、X等)を地裁に提訴しました。X等の製造方法が特許請求の範囲の請求項13に係る発明(以下「本件発明」という。)と均等であるという理由で、提訴しています。なお、A(被上告人)は,本件訴え提起後に,本件特許についての特許無効審判において,平成25年9月25日付け訂正請求書により,特許請求の範囲の請求項13の訂正をしています。
地裁は、均等が成立することを理由に、全部容認しました。これに対して、X等は、知財高裁に控訴しました。知財高裁は、X等の訴えを棄却しました。これを不服として、X等は、上告しました。

(2)知財高裁の内容

<本件発明の概要>
A:A−1に記載の化合物の製造方法であって、
B:B−1を、塩基の存在下でB−2と反応させてB−3エポキシドを製造すること、
C:B−3エポキシドを還元剤で処理して化合物を製造すること
D:化合物を回収すること
E:を含む方法。

<控訴人方法>
A:A−1に記載の化合物の製造方法であって、
B:B−1´を、塩基の存在下でB−2と反応させて、B−3エポキシド´(中間体)を製造すること、
C:B−3エポキシド´を還元剤で処理してD物質を製造し、D物質をシス体に転換し、保護基を外して化合物を得ること
D:化合物を回収すること
E:を含む方法。
下線は、いずれも筆者の追加。以下の下線についても同様です。
裁判所において、以下のように認定されました。(a)共通点:控訴人方法は,訂正発明の構成要件A,B−2,D及びEを充足する。(b)相違点:b1:出発物質の相違。ZのビタミンD構造がシス体であるか、トランス体であるかの相違。控訴人の方法は、トランス体である。b2:中間体の炭素骨格が,同様に,シス体のビタミンD構造ではなく,トランス体のビタミンD構造である点で,訂正発明の構成要件B−3及びCを充足しない。
このような認定の上で、知財高裁は、均等の5要件を充たすと判断しました。以下に、第1要件と第5要件の判断についてのみ、その認定内容をご紹介します。
@本質的部分の認定
特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。」と提示しています。
「特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で,本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。」なとど言っています。そして、裁判官は、従来技術と本件発明とを詳細に比較したうえで、「訂正明細書には,訂正発明の効果について特に記載されていないが(特許法36条4項,特許法施行規則24条の2参照),前記のとおり,訂正発明の課題は,従来技術に開示されていなかったマキサカルシトールの側鎖を有するビタミンD誘導体又はステロイド誘導体の新規な製造方法を提供すること自体にあることからすれば,訂正発明の効果とは,従来技術に開示されていなかった新規な方法により,マキサカルシトールの側鎖を有するマキサカルシトール等のビタミンD誘導体又はステロイド誘導体を製造できることと認められる。」と認定しました。裁判官は、本件発明について「訂正発明は,従来技術にはない新規な製造ルートによりその対象とする目的物質を製造することを可能とするものであり,従来技術に対する貢献の程度は大きい。」と高く評価しています。
発明の本質的部分について、「訂正発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,訂正発明の本質的部分(特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物を,末端に脱離基を有する構成要件B−2のエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖を導入することができるということを見出し,このような一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造又はステロイド環構造という中間体を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環するという新たな経路により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能とした点にあると認められる。」と認定しました。
一方、出発物質または中間体がシス体であるという点については、裁判官は、「出発物質又は中間体の炭素骨格(Z)のビタミンD構造がシス体であることは,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とはいえず,その本質的部分には含まれない。」と認定しました。

A意識的除外のその1について
控訴人らは、「化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきである」等と主張したが、裁判所は、これについて理由がないと結論付けました。

B意識的除外のその2について
被上告人(特許権者)は、本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲及び明細書において,目的化合物を製造するための出発物質等としてシス体のビタミンD構造のものを記載していたが,その幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造のものを記載していませんでした。
このような状況において、上告人は、「被上告人において,本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる上記の部分につき,上告人らの製造方法に係る構成を容易に想到することができた」と主張し、これについて、意識的除外にあたると主張しました。
この主張に対して、知財高裁は、次のように判示しました。出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,特段の事情が存するとはいえない、一方、出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるときは,特段の事情が存するといえると、判示しました。

(3)最高裁の判断

上告人は、特段の事情に対する知財高裁の判示内容を不服として、上告しました。これに対して裁判所は、概ね知財高裁と同様の内容にて判示しています。
・出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというだけでは,特許出願に係る明細書の開示を受ける第三者に対し,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものであることの信頼を生じさせるものとはいえず,当該出願人において,対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものとはいい難い。
出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。
出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。

(4)考察

@特許請求の範囲の技術的範囲について
判決から特許請求の範囲は以下のように模式化できます。特許請求の範囲は、a:文言で確定できる範囲と、b:対象製品の製造時において、相違部分の置換等について容易想到となった範囲と、c:出願時において、相違部分の置換等について容易想到である範囲とを含みます。ただし、本質部分とは、相違部分とは、何かといった議論があります。

[模式図]模式図

A属否判決の予見性について
控訴人の主張、「化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきである」と主張したが、これは認められませんでした。
文言上または化学式上において含まないことが明らかであるものですが、本事件では、意識的除外にあたらないと判断されています。本事件から、特許請求の範囲の技術的範囲の画定が難しくなりました。非侵害であるか否か、特許を回避しているか否かについては、公知文献に基づいて特許における発明の本質部分を把握することが重要となっています。もっといえば、従来技術に対する発明の本質部分と、非本質部分との切り分けの判断がより重要になっています。対象製品の属否を考えるにあたっては、切り分け方法を様々に考えて、それぞれについて考察する必要があります。その際に、出願時の技術常識や置換容易性の把握も重要となっています。

B実務上の指針
・出願時に、発明の本質を捉えることがより重要となっています。
・対象製品が本質的部分を含む場合、均等論の適用を考えるのが好ましいです。
・製造方法の特許も有効です。本件は、物質特許の後に出されたものです。製造方法の開示にはリスクもありますが、物質特許期間満了後において技術を保護する上で大きな効果があります。

以上

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