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判例研究/レポート

平成21年(ワ)第35411号 特許権侵害差止等請求事件
(東京地裁 平成23年8月30日判決言渡)

平成24年5月7日
弁理士 杉本 弘樹

1 今回の事例

禁反言の法理により均等論の第5要件を満たさないとして均等論の適用が否定された事件

(参考)均等論
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、
(@)異なる部分が特許発明の本質的部分ではないこと
(A)異なる部分を対象製品等におけるものに置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するものであること
(B)異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造時の時点において容易に相当することできたものであること
(C)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから容易に推考できたものではないこと
(D)対象製品等が特許発明の特許出願手続きにおいて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないこと
以上5要件を満たす場合には、当該対象製品等は、均等物として特許発明の技術的範囲に属することになる。

2 事件の概要

原告 株式会社 ジンテック
被告 株式会社 クローバー・ネットワーク・コム

(経緯)
・原告の株式会社ジンテックは、「電話番号リストのクリーニング方法」の特許発明(第3462196号)の特許権者である。
当該特許発明は、電話回線網で実際に使われている電話番号をコンピュータを用いて調査し、その調査結果に基づいて既存の電話番号リストをクリーニングする方法に関するものである。
・被告の株式会社クローバー・ネットワーク・コムは、「DocBell」又は「ドックベル」との名称で、電話番号使用状況履歴データを被告の顧客に対して提供するサービス(以下、被告サービスという)を行っていた。
・原告は、被告が被告サービスを提供する行為が本件特許権を侵害するものとして、東京地裁にその差止め等を求めて訴えを提起した。

3 本件特許発明と被告サービス

(本件発明)
本件発明は、以下の通りである(下線部は、訂正審判により追加された事項)。

A ISDNに接続した番号調査用コンピュータにより、使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる調査対象電話番号について回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し、網から得られる情報に基づいて有効な電話番号をリストアップして有効番号リストを作成する網発呼プロセスと、
B 前記網発呼プロセスにより作成された前記有効番号リストを複数のクリーニング用コンピュータに配布して読み取り可能にするリスト配布プロセスと、
C 前記各クリーニング用コンピュータにおいて、クリーニング処理しようとする顧客などの電話番号リストを読み取り可能に準備し、このクリーニング対象電話番号リストと前記有効番号リストとを対照することで、前記クリーニング対象電話番号リスト中の有効な電話番号を区別するクリーニング処理プロセスと、
D を含んだことを特徴とする電話番号リストのクリーニング方法

 (被告サービス)
*下記の被告サービスは、原告が上記構成要件A〜Dに対応させる形で被告の行っているサービスを認定したものである。

a 被告が、ISDN回線に接続した電話番号の使用状況を調査するためのコンピュータにより、ISDN回線を通じて、調査対象である電話番号(使用されているすべての市外局番及び市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせにより構成される電話番号)に対して発信し、当該発信に対して回線網から得られる情報に基づき、実在する電話番号とそうでない電話番号とを区別した電話番号使用状況履歴リストを作成するプロセスと、
b 被告が被告データ提供先に対し、上記aの方法で作成された電話番号使用状況履歴リストを、記録媒体に記録して送付し又は通信回線を通じて送信して提供することにより、複数の被告データ提供先が使用するコンピュータ又は被告データ提供先が有する複数のコンピュータに上記リストを配布して、読み取ることができるようにするプロセスと、
c 被告データ提供先が使用する上記bの各コンピュータにおいて、被告データ提供先が有する顧客等の電話番号リストを読み取ることができるように準備させ、上記電話番号使用状況履歴リストと上記電話番号リストとを対照させることにより、電話番号リスト中の実在する電話番号とそれ以外の電話番号とを区別させるプロセスと、
d を含んだことを特徴とする、被告データ提供先の保有する電話番号リスト中の有効な電話番号を区別する方法。

被告サービスの詳細について(被告の主張)

→上記原告が主張する被告サービスに対し、被告は、自己の行っている被告サービスを以下のように主張した。
被告サービスは、構成要件Aの「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせ」により構成される電話番号を調査対象とするものではない。
→総務省は、日本全国の電話番号の局番について、*「未使用」、「使用予定」、「使用不可」、「未使用復帰」および「使用中」の5種の区分を用いて管理しており、「使用中」とは、「電話通信事業者に割り当てがされ使用されている局番」を指すものである。
従って、構成要件Aの「使用されているすべての市外局番および市内局番」とは、少なくとも、「上記「使用中」とされている局番のすべて」を意味するものと解される。
しかし、被告サービスは、上記「使用中」とされた局番のうち、*一部の電話通信事業者に割り当てられた局番については、ユーザーからの調査ニーズが想定されていないことを理由に調査対象とはしていない。

*「未使用」…電話通信事業者からの使用申し入れおよび使用の事実がない局番
* 「使用予定」…電話通信事業者からの使用申し入れに対して割り当て済みであるが、使用開始時期が到来していない局番
*「未使用復帰」…過去に電話通信事業者に割り当てられ使用されていたが、当該電話通信事業者が、総務省に返却した局番
* 「使用不可」…例えば、天気予報用等の特殊な利用等のために割り当てられたものであり、一般には使用されていない局番
* 「使用中」…電話通信事業者に割り当てがされ、使用されている局番
* 一部の電話通信事業者
ソフトバンクモバイル株式会社、株式会社NTTドコモ等の566件
→これらの局番の電話番号は、専ら基地局での交換のために使用されていたり、転送に用いられたり、新しいサービスの実験等の用途で使用されたりしているものと推定され、使用状況を調査してほしいとの顧客のニーズがない。

(争点)
(1)被告サービスは、本件発明の技術的範囲に属するか
(2)被告サービスは、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか
(3)本件特許は、特許無効審判において無効とされるべきものか
(但し、争点(3)については判断されていない)。

4 裁判所の判断

4−1 被告サービスは、本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)

争点(1)においては、主に構成要件Aの充足性が争われた。特に、「使用されているすべての市外局番および市内局番」の文言の意味が問題となった。
・使用されているすべての市外局番および市内局番の意味について
(原告の主張)
原告は、「構成要件Aとは、事業者が一定の調査対象を設定することを前提に、「その調査対象に含まれる電話番号に使用される市外局番と市内局番のすべて」を意味するものと解すべきである。すなわち、被告サービスは、被告が有効性判定のニーズがないと判断した局番を調査対象から除外したものであるから、「その調査対象に含まれる電話番号に使用される市外局番と市内局番のすべて」を調査しているといえ、構成要件Aを充足する」旨を主張した。

(被告の主張)
被告サービスは、上記「使用中」とされた局番のうち、一部の電話通信事業者に割り当てられた局番については、ユーザーからの調査ニーズが想定されていないことを理由に調査対象とはしていない。すなわち、被告は、被告サービスが構成要件Aを充足しない旨主張した。

(裁判所の判断)
(1)構成要件Aは、特許請求の範囲の文言上、単に「使用されているすべての市内局番および市外局番」と記載されているだけであり、局番について原告の主張するような限定、すなわち、事業者が一定の調査対象を設定するような限定は付されていない。

(2)本件明細書の記載を参酌すると、「本件発明において「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とすることの技術的意義は、(調査対象となる地域において)実際に使用されている可能性のあるすべての電話番号について、その利用状況を調査することにより、電話番号の網羅的な有効番号リストを作成し、このリストとクリーニング処理しようとする顧客などの電話番号リストを対照することで、上記電話番号リストのクリーニング処理をほぼ漏れなく行うことができるようにすることにある」とした上で、「使用されているすべての市外局番および市内局番」の意味については、「市外局番及び市内局番として使用されているすべての番号」を意味するものと解するのが相当であると判示した。
すなわち、被告サービスは、本件発明の技術的範囲に属さないと判示した。

4−2 被告サービスは、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか(争点2)

・被告サービスと本件発明との違いは、被告サービスが、一部の電気通信事業者に割り当てられている合計566個の局番に係る電話番号を調査対象としていないから、少なくとも、「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象としない点であった。
そのため、本件においては、被告サービスが本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であるか否かも争われた。
(訂正までの背景)
ここで、本件発明においては、当初、「ISDNに接続したコンピュータにより回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し」とされ、いかなる電話番号を調査対象とするのかについて特段制限は付されていなかった。
→訂正審判において、「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とするものに限定する訂正を行っていた。また、この訂正は、先行技術に対する無効事由を回避しようとするものであった。
(裁判所の判断)
このような本件発明の経緯を踏まえ、裁判所は、原告が訂正審判で被告サービスのように一部の局番の電話番号を調査対象としない構成のもの、すなわち、調査対象電話番号が「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」ものでない方法を、本件発明の技術的範囲から除くものであると認定した。
一方、原告は、上記の訂正が、すべての電話番号という母数から出発してニーズのない局番を除外するという被告サービスのような技術まで意識的に除外したものではないとも主張した。
しかし、裁判所は、「仮に、原告が、主観的には本件訂正により被告サービスの技術を除外する意図を有していなかったとしても、本件訂正は、少なくとも、第三者からみて、外形的には、「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とせず、一部の局番の電話番号を調査対象から除外しているものについては、本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したものと解されるべきものである」とした。
その結果、均等論の第5要件の根拠とされる禁反言の法理に照らし、被告サービスは本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等であると認めることはできないと裁判所は判示した。

5 考察

・上述のとおり、当初、特許請求の範囲の記載は、「ISDNに接続したコンピュータにより回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し」とされ、いかなる電話番号を調査対象とするのかについて特段制限は付されていなかった。
しかし、先行技術として、「電話帳に記載された4000万件を対象として作成した電話番号データベース」を用いる同様の技術が開示されていたため、「使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる」電話番号を調査対象とする限定を付すことにより特許性が認められた。
原告は、当初から被告サービスのような内容を権利範囲に含むことを考えていたのかは不明である。明細書の段落【0035】には、
「なお、いままでの説明では、「加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべて」は0000番から9999番までの1万個だとした。ここで、電話通信網の都合などで絶対に加入者に割り当てない番号があり、しかもその番号が公開情報として入手できるのであれば、その番号を「加入者番号となる可能性のない番号」として取り扱い、これを調査対象から外すようにしてもよい」
との記載はあるが、これは「使用不可」等の番号については調査対象から除外する意味であると考えられる。

6 実務上の指針

原告は、訂正審判において、先行技術の回避のために特許請求の範囲の記載に「すべての」という文言を使用した。これにより、原告の特許権の権利範囲が非常に狭く解釈されたことは原告にとって酷であると感じる。
全ての事案についてこのように権利範囲が厳格に解釈されるとは限らないが、特許請求の範囲の記載に「すべての」等、いわゆる0か100かの文言を使用することは極力避けるべきであると考える。
なお、本件は、知財高裁において棄却判決がなされている。

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