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判例研究/レポート

平成23年(行ケ)第10264号 審決取消訴訟事件【穀類乾燥機用集塵器事件】

平成24年2月21日
弁理士 田上英二

1.本件の概要

「穀類乾燥機用集塵器」という物品の意匠登録出願について、引用意匠(意匠登録第1096954号)に類似するとして拒絶審決がなされた。原告は当該拒絶審決を不服として、審決取消訴訟を提起した。

●本事件のポイント:意匠の類否判断

【意匠に係る物品】穀類乾燥機用集塵器

意匠 判例研究

関連条文
(意匠登録の要件)
第三条  工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一  意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二  意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠

三  前二号に掲げる意匠に類似する意匠

2.手続の経緯

(1)平成20年11月1日 意匠登録出願
(2)拒絶査定
(3)拒絶査定不服審判を提起(不服2010-28464号)
(4)平成23年7月1日 拒絶審決
(5)審決取消訴訟を提起(平成23年(行ケ)第10264号)
(6)平成24年1月16日 請求棄却

3.争いのない事項

以下の共通点、相違点の認定については、原告・被告間で概ね争いはない。

共通点

【共通点A】 全体は,円筒の下方を略逆円錐台状に狭めた器体1と,この器体を
垂直に支える細長い支持脚2で構成され,器体1上面に大きな空気出口筒3,器体1円筒部周側面に含塵空気導入口筒4,そして器体1最下方に塵出口筒5をそれぞれ配設した態様である点
【共通点B】 器体1は,全長の上部略3分の1程度を円筒部とするものである点
【共通点C】 支持脚2は,器体1円筒部の下方周囲を三分する位置に,器体上の縦
長長方形小突片を介して設け,それぞれを下方やや外方向へ伸ばした形状である点,詳細には細い円筒の内部に伸縮自在の細棒を挿通し,細棒の下方端をそれぞれ外方向水平に屈曲させた態様である点
【共通点D】 空気出口筒3は,器体1上面中央から立設され,器体1斜め上方向において大きな略倒コ字形状に屈曲し,筒端を器体1の中心軸と平行な鉛直方向に向けた点
【共通点E】 含塵空気導入口筒4は,器体1円筒部の上方周側面に,水平方向に立設した点
【共通点F】 塵出口筒5は,器体1略逆円錐台状部の最小口径とほぼ同径の小円筒形状で,筒端を器体1の中心軸上の鉛直方向に向けた点

相違点

【相違点ア−1】 空気出口筒3の態様について,本願意匠は,筒端に別部材を嵌めておらず,筒端の位置は器体1上面と同じ位置であるが,引用意匠は,筒端に薄肉合成樹脂製の長い可撓性筒材を嵌めて筒を延伸させており,筒端の位置が器体1より下方である点
【相違点ア−2】 空気出口筒3の態様のうち,空気出口筒3の表面について,本願
意匠は,略倒コ字形状の屈曲部に蛇腹状の凹凸面を含むのに対して,引用意匠は,略倒コ字形状の屈曲部も含め全体が平滑面である点
【相違点イ−1】 含塵空気導入口筒4の態様について,器体1円筒部の上方周側面
において,本願意匠は,2本の筒を,器体1中心軸に点対称の位置に配置しているのに対して,引用意匠は,1本の筒を設けたものである点
【相違点イ−2】 含塵空気導入口筒4の態様について,器体1円筒部の上方周側面
において,筒体が,本願意匠は,その端部まで水平方向を向いたものであるのに対して,引用意匠は,水平方向に延伸したのち斜め上方向に屈曲している点
【相違点ウ】 集塵袋取付け部について,本願意匠には,取付け部材が無い(参
考斜視図によれば,集塵袋開口部を塵出口筒5にC字状止め具により袋の上から止めるものと認められる。)のに対して,引用意匠には,取付け部材が有り,塵出口筒5上方に止め金具を介して袋吊り下げ用の細桿が水平方向に付設されている点,詳細には,この吊り下げ桿の左右両端にごく短い斜めの突設部を設けており,吊り下げ桿の両端部は,それぞれ全体として略倒イ状を形成する点

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4.原告(出願人)の主張

4−1 取消事由1(相違点の位置付けに関する誤り)

(1)特許庁の審査基準では……「意匠が類似するためには、原則として、意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)が共通することが必要である。」などとしており、共通点及び相違点を基本的構成態様と具体的構成態様のいずれと認定するかは,意匠の類否判断に大きな影響を与える。
(2)審決は,相違点イ−1を基本的構成態様上の相違点ではなく,具体的構成態様上の相違点であると認定したが,相違点イ−1は,意匠の骨格をなす基本的構成態様上の相違点である。そうすると,本願意匠と引用意匠とはその基本的構成態様が顕著に異なっており,非類似である。

4−2 取消事由2(類否判断の誤り)

(1)審決は,相違点イ−1について,この種物品が含まれる物品分野ではごく一般的に行われる,単なる口数の変更であり,本願意匠の2本の筒の配置態様,すなわち器体中心軸に点対称の位置に配置した態様も,この種物品が含まれる分野で本件出願前に公然知られていたと判断……。
(2)含塵空気導入口筒が1本の場合,1台の穀類乾燥機にのみ接続され,他の穀類乾燥機からの含塵空気を集塵する際には1本の含塵ホースを差し替えることになる。これに対し,含塵空気導入口筒が2本の場合,2台の穀類乾燥機にそれぞれ接続することが可能となり,集塵作業の融通性が飛躍的に向上する。このことは,穀類乾燥機用集塵器の物品特性等からみて,需要者又は取引者にとって意匠全体の中での重大な関心事であって,最も注意を惹く部分であるといえる。
(3)なお,審決が,含塵空気導入口筒に係る共通点Eについて,空気出口筒ほどボリュームはないものの,目につきやすい位置にあるため,類否判断において一定の影響を与えると判断していることからしても,含塵空気導入口筒が2本か1本かは,類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
したがって,含塵空気導入口筒が2本か1本かは,両意匠の形態上の特徴を顕著に表し,形態全体の基調を決定付け,看者の注意を強く惹く部位であるから,類否判断における要部であり,これによって,本件意匠と引用意匠とでは明らかに別異の審美感を想起感得させるものであり,本願意匠と引用意匠との共通点を凌駕しているから,両意匠は非類似の意匠である。

5.被告(特許庁)の反論

5−1 取消事由1に対して

原告が引用する意匠審査基準は,類否判断の手法に関する一般的な考え方を示したものにすぎず,意匠の類否判断では,基本的構成態様と具体的構成態様における共通点及び相違点について,個別の評価に基づき,意匠全体として総合的に判断を行うのであるから,原告の主張するような,本願意匠と引用意匠の認定においてした基本的構成態様と具体的構成態様の仕分けが審決の結論に直結するものではない。

5−2 取消事由2に対して

(1)…導入管を1本ではなく複数本設けることも,本件出願前より本願物品の属する分野において普通に行われており,導入管の本数を2本とした態様の意匠も,本件出願前に公然知られていた。
(2)なお,審決が例示した先行公知意匠…が,選別対象物そのものをサイクロン器体内に導入する部位ではないとしても,この部位は,サイクロン器体において選別を行うために何らかの気体を導入する機能を担う部位であるという点では共通しており,この態様について,機能の共通性を前提として先行公知意匠を参酌したことは妥当なものであり,原告の主張は失当である。
(3)含塵空気導入口筒を2本にした構成態様は,取引者・需要者の注意を惹く部位ではあるものの,意匠を全体として見た場合に,最も注意を惹く部分であるとすることはできない。……なぜなら……含塵空気導入口筒は,目に付きやすい位置にあるが,集塵器体本体に付設された空気出口筒,塵出口筒もそれぞれ目に付きやすい位置にある。そして,取引者・需要者は,これらの付設管体各部をまんべんなく見るのであり,含塵空気導入口筒のみに注目し,他を全く認識しないということはない。さらにいえば,これらの付設管体よりも,集塵室器体本体及び支持脚こそが,最も目に付きやすいところにあり,かつ意匠全体に占めるボリュームが大きいところであるから,取引者・需要者は,視覚を通じて意匠を全体として観察するとき,この集塵室器体本体及びこれを支持する支持脚にまず注目する。そして,両意匠の比較に当たっては,集塵室器体本体及び支持脚に注目した後,器体各部に付設された管体のそれぞれの形態を視認し把握した上で,意匠全体として総合して,それぞれの形態を比較するのである。
(4)したがって,含塵空気導入口筒のみを取り出し,これが両意匠の形態上の特徴を最も顕著に表した部位であるとすることはできないし,含塵空気導入口筒が形態全体の基調を決定付け,看者の注意を強く惹く部位であるとすることもできない。まして,導入口を2本にした構成態様の創作的価値を新規な創作として高く評価することはできないのであって,審決の類否判断に誤りはない。

6.高裁の判断

(1)…各部位のうち,形態として看者の目を惹く顕著な部分は見当たらず,両意匠において取引者・需要者の注意をひく特徴的な部分(要部)は,意匠全体の形態,すなわち,両意匠を構成する主要な部位の構成,形状,それらの各部位の組合せや配置等を総合したものであるというべきである。そうすると,両意匠は,要部である意匠全体の形態について,共通点A〜Fのとおり,意匠を構成する主要な部位の種類,形状,それらの各部位の組合せや配置など,その大部分が共通しているのであるから,取引者・需要者に対して,共通の美感を与えるものといえる。これに対し,相違点ア−1は,空気出口筒の端部に,本願意匠には可撓性筒材が接続されていないが,引用意匠には接続されているというものであるところ,本願意匠の参考図によれば,本願意匠においても引用意匠と同様の可撓性筒材を用いることが予定されていると認められるのであって,この点は実質的な相違点とはいえない。相違点ア−2は,空気出口筒の屈曲部において,本願意匠には蛇腹があり,引用意匠は平滑であるという差異であるが,上記の蛇腹は,金属の筒体を成形する場合に表れるありふれた凹凸にすぎない。相違点イ−1の含塵空気導入口筒の本数の違いは,単なる口数の変更であり,意匠全体に占める含塵空気導入口筒の大きさや機能を考慮すると,両意匠の共通性を否定するほどの相違であるとはいえない。相違点イ−2も,両意匠の参考図に記載されるように,含塵空気を導入するためのホースは上方から下方に向けられているのであるから,筒を上方に屈曲させることは一般的な処理にすぎない。相違点ウも,意匠全体に占める大きさや機能を考慮すると,両意匠の共通性を否定するほどの相違であるとはいえない。以上を総合すると,本願意匠は,相違点を考慮したとしても,全体として取引者・需要者に引用意匠と共通の美感を生じさせるものと認めるのが相当であって,引用意匠と類似する。
(5)2本の管が含塵空気導入口か否かは,相違点イ−1が両意匠の共通性を否定するほどの相違ではないという上記判断に影響を及ぼすものではない。

7.実務上の留意点

●出願戦略を考える際には、全体意匠と部分意匠の性質を理解し、両者を上手に使おう

(以下、本事例の争点とは少し離れますが…)
本事例が侵害訴訟だったらと仮定(本事例の引用意匠が登録意匠、本願意匠が第三者の実施品)し、さらに、登録意匠が相違点イの部分(ピンク部。原告が特に強く主張した相違点)を対象範囲とする部分意匠だったら、どういう結論になるかを考えてみます。

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この場合は、イ号意匠は登録意匠の範囲に属さない(=非類似。つまり本事例とは逆の結論)という判断がなされることもありうると、個人的には考えます。登録意匠が部分意匠で、登録を受けようとする部分の対象範囲が狭くなった分、少しの相違でも類否判断に及ぼす影響が大きくなると考えられるためです。
よく、部分意匠の方が全体意匠よりも強い権利である、と言われることがありますが、上記の例に鑑みても、必ずしもそうとは限らない点に留意しておくのがよいと思われます。
以下、全体意匠と部分意匠の一般的な性質をまとめました。意匠の出願戦略を検討する際には、両者の性質をよく理解しておくことが重要と考えます。

全体意匠⇒一般的に類似の範囲が広い。全体的イメージの模倣に対する牽制力が強い。
部分意匠⇒一般的に類似の範囲が狭い。部分的な模倣に対する牽制力が強い。

以上

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