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判例研究/レポート

平成21年(ネ)第10028号 特許権侵害差止等請求控訴事件

平成23年8月3日
弁理士 金森晃宏

1.概要

原審(東京地裁 平成20年(ワ)第19469号(平成21年3月5日判決))では、本件特許発明に進歩性がなく、特許無効審判により無効とされるものであるとして特許法第104条の3の規定により訴えが却下さました。これに対し、控訴審では、原審と同一の引例に基づいて進歩性があると判断し、被告製品の製造等の差止及び損害賠償請求を認めた事例です。

 以下、引用中の斜字と下線は筆者記載。

2.特許明細書(特許3499754号公報)

「【請求項1】
基礎コンクリート(12)に固定されたテツダンゴ(20)上に載置され,かつ,複数のアンカーボルト(22)およびこれらに螺合された複数のナット(24)を介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレート(14)を有する鉄骨柱(10)の建入れ直し装置(34)であって,
上部(42)および下部(44)を有するフレーム(36)と,
該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて伸びるボルト(38)と,
前記フレームの上部およびその下部間に配置されかつ前記ボルト(38)に螺合され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能であるナット(40)とを含み,
前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部(26,28)を配置可能である,
鉄骨柱の建入れ直し装置。」

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、ワイヤロープの引張作業にはこれを行うためのスペースが不可欠である、ワイヤロープの引張作業では鉄骨柱の建入れ直しのための微調整が困難である等の欠点があった。
【0005】本発明の目的は、鉄骨柱の建入れ直しについて、従来のワイヤロープの引張によるときの欠点を解消することにある。
【0030】まず、図2に示すように、下方レベルにある縁部26が(縁部26に沿って配置された装置34の)ナット40の突出部52に接し、また、上方レベルにあって縁部26と相対する縁部28が(縁部28に沿って配置された装置34の)ナット40よりも上方に位置するように、両装置34のボルト38をその軸線の周りに回転させる…(操作1)。
【0031】次に、縁部26の側の装置のボルト38を回転させてナット40を上昇させる。これにより、ナット40の突出部52を介して縁部26が持ち上げられる。このとき、縁部26はナット40およびフレームの頂板42の両突出部50,52間に拘束されるため、鉄骨柱10の転倒が防止される…(操作2)。
【0032】また、このとき、例えば、垂直器を用いて鉄骨柱10のおおよその垂直度を計る。ナット40の上昇距離は、ボルト38の回転操作による精密な制御が可能であるため、鉄骨柱10の垂直精度を高いものとすることができる。また、このとき、縁部26が両ナット241 に当接せず、かつ、縁部28が該縁部側の装置のナット40の突出部52に当接しないように、アンカーボ
ルト22に対するナット241 の螺合位置よびボルト38に対するナット40の螺合位置を確認しておく…(操作3)。」

参考(被告製品写真)

3.争点となった無効理由

下記の2つの引例(乙1公報、甲12公報)に基づく本件特許発明の進歩性判断が、地裁と高裁とで判断が分かれた。

(1)特開昭60−112597号公報(乙1公報)

特許請求の範囲
「2 モータレジューサアセンブリ(2)がフランジ(3)上でフレーム(1)に一体に取付けられ,モータグループシャフトが対応する歯車(6)を有する歯車(4,5)と係合し,ホイール,ピン運動が垂直ねじ(7)を回転させ,これによりチャリオット(8)が方形断面を有する縦方向シート(9)内で移動し,係合部分(10)を上方にまたは下方に持って来ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の地面からの車両ホイスト。」

発明の詳細な説明
「本発明は,手動介入を必要とすることなく,困窮した車両ドライバが最初に車輪をその交換のために持上げ,次いで再び地面に降ろすことを実質的に可能にするところの自動操作による地面からの車両用ホイストに関するものである。」

(2)特開平9−189132号公報(甲12公報)

「【請求項3】
基礎コンクリート(1)上に鉄骨柱(5)を建て込んで,該基礎コンクリートに植設したアンカーボルト(2)を上記鉄骨柱のベースプレート(5a)に挿設すると共に該ベースプレートに調整ボルト(9)を取り付け,上記基礎コンクリートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキ(8)を取り付けて,該鉄骨柱を鉛直に姿勢制御した状態で,上記アンカーボルトに螺合した締付ナット(2a)及び上記調整ボルトにより上記鉄骨柱を固定することを特徴とする鉄骨柱の柱脚部固定工法。」

「【0003】
従来の工法は,鉄骨柱の建て入れ精度が悪いために梁建方が困難であるだけでなく,歪み直し用のワーヤーを必要とする等の問題点があった。」

4.東京地方裁判所の判断

原審では、本件発明と乙1発明とは、構成要件B,C,Dで一致し、下記の2点で相違すると認定した。そして、各相違点について以下のように判断し、本件発明は,乙1発明及び甲12公報記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができるとした。
「ア 相違点1
本件発明は,「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し装置」(構成要件A及びF)であるのに対し,乙1発明は「地面からの車両ホイスト」である点。
イ 相違点2
本件発明は,「前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部を配置可
能である」(構成要件E)のに対し,乙1発明がナットに相当する「係合
部分10」の上部に配置を予定しているのは車両である点。」
「(1)相違点1について
本件発明は,「鉄骨柱の建入れ直し装置」の発明であって,本件発明と乙1発明とは,…対象物(本件発明においては鉄骨柱であり,乙1発明においては車両である。)を支持しつつ,その位置を上方又は下方に移動させる装置,すなわちジャッキ装置であるという点において一致する。そうすると,相違点1は,・・・同じ構成を有するジャッキ装置をどのような用途で用いるのかという相違にすぎないことになる。
そして,本件発明は「鉄骨柱の建入れ直し装置」の発明(物の発明)であるから,構成要件A及びFは,ジャッキ装置が,鉄骨柱の建入れ直し作業に耐えうる強度を有し,これに適した大きさ及び形状であることを規定するに止まるものと解される。
・・・甲12公報には,鉄骨柱の建入れ直しにおいて,鉄骨柱を鉛直に姿勢制御すること,鉄骨柱を鉛直に姿勢制御するに当たって,歪直し用のワイヤを不要とすること,という技術課題が開示されており,この課題の解決手段として,鉄骨柱の建入れ直しにおいて,鉄骨柱の歪みを直すためにジャッキ装置を用いる発明が開示されているといえる。・・・そうすると,乙1発明の車両ホイスト(ジャッキ装置)を,甲12公報が開示するところにしたがって,鉄骨柱の建入れ直し作業において,鉄骨柱の歪みを直すため(鉛直姿勢制御のため)に用いることは,当業者が容易に想到し得たことであるというべきである。・・・
(2)相違点2について
ア 本件発明は「鉄骨柱の建入れ直し装置」の発明(物の発明)であるから,構成要件Eは,本件発明のナットの上方が,鉄骨柱のベースプレートを支持するのに耐える強度,これに適した大きさ及び形状であることを規定するに止まるものと解される。」

<知財高裁>
5.控訴人(原告)の主張

「本件発明は,物体をそのまま一体的に上げ降ろしするためのものではなく,テツダンゴ上でベースプレートの縁部を持ち上げて鉄骨柱の傾きを微量調整することにより,鉄骨柱の垂直度調整をするものであって,重量物の昇降装置でないから,通常の意味での「ジャッキ装置」ではなく,乙1発明のホイストと本件発明とが,ジャッキ装置であるという点において一致するものではない。・・・甲12公報の工法では,・・・垂直度調整のためには鉄骨柱全体を持ち上げたり下げたりしなければならず,重量を支える昇降装置であるジャッキを使用しなければならないが,本件発明においては,・・・重量のほぼ全部がテツダンゴにかかるので,鉄骨柱の重量を支えながら鉄骨柱の垂直度を調整するためのジャッキを全く必要としない。垂直度調整は,てこの原理によって,ベースプレートの低い側の縁部をほんのわずかな力を加え,わずかに持ち上げることにより行われ,微量調整も可能となる。そして,この微量調整が可能であることが,本件発明の構成によってのみ得られる本件発明に特有の効果であって,乙1発明及び甲12公報における工法の組合せによっても得られないものである。」

6.知財高裁の判断

一致点及び相違点については、原審と同一の認定をしたが、容易想到性については以下のように判断した。

「相違点1についてみるに,本件発明は鉄骨柱の立て直し装置であるのに対し,引用発明は車両ホイスト(ジャッキ装置)であって,必ずしも技術分野が共通するものということはできない。・・・本件発明は,対象となるベースプレートの縁部を上昇させるという機能を有しているが,それはベースプレートを水平になるように微調整を含めて調整をするためであって,そのためにも,鉄骨柱の重量を積極的に引き受けてこれを上昇させようとするものではなく,てこの原理によって,ベースプレートの低い側の縁部に,鉄骨柱の重量に対して比較的小さな力を加えることによって,その縁部を持ち上げて微調整をすることを可能としているということができるのに対し,乙1発明は,省力化のため,電動モータの力によって,対象物である車両の重量を積極的に引き受けて車両を上下させようとするホイスト(ジャッキ装置)を提供するものであって,発明の課題が異なるものである。
・・・そうであるから,上(ア)記 のとおり,本件発明とは技術分野や課題が異なり,本件発明とは異なって対象物の重量を積極的に引き受けるホイスト(ジャッキ装置)についての乙1発明に,・・・鉄骨柱の鉛直への姿勢制御において,ボルトの軸線方向に移動可能なナットの機能について鉄骨柱の重量を積極的に引き受けるものではない本件発明とは異なって,鉄骨柱の重量を積極的に引き受けるジャッキによる甲12技術を適用して,相違点1を克服することが容易想到であるということはできないというべきである。」

7.実務上の指針

審査基準では、進歩性の判断材料の1つである「動機付け」として、(1)技術分野の関連性、(2)課題の共通性、(3)作用、機能の共通性、(4)引用発明の内容中の示唆を挙げています。本判決は、上記4つのうち、特にAの課題の共通性を重視しており、実務でも課題の相違から進歩性を主張することが有効であると思われます。

参考(審査基準)
2.4 進歩性判断の基本的な考え方
(1) 進歩性の判断は、本願発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握した上で、当業者であればどのようにするかを常に考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行う。
(2) 具体的には、請求項に係る発明及び引用発明(一又は複数)を認定した後、論理づけに最も適した一の引用発明を選び、請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明を特定するための事項との一致点・相違点を明らかにした上で、この引用発明や他の引用発明(周知・慣用技術も含む)の内容及び技術常識から、請求項に係る発明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みる。論理づけは、種々の観点、広範な観点から行うことが可能である。例えば、請求項に係る発明が、引用発明からの最適材料の選択あるいは設計変更や単なる寄せ集めに該当するかどうか検討したり、あるいは、引用発明の内容に動機づけとなり得るものがあるかどうかを検討する。また、引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。
その結果、論理づけができた場合は請求項に係る発明の進歩性は否定され、論理づけができない場合は進歩性は否定されない。

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