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判例研究/レポート

ぬいぐるみ形態模倣事件 東京地裁 平成19年(ワ)19275号 平成20年7月4日判決

平成22年1月20日執筆/平成22年2月1日掲載
弁理士 正木美穂子

事案の概要

本件は、被告の販売した被告商品が、原告B社が製造し、原告BJ社が販売する原告商品の形態を模倣したものであり、不正競争防止法2条1項3号に該当すると主張して、原告らが、被告に対し、不正競争行為に基づく損害賠償及び謝罪広告を請求するとともに、被告が、原告B社が著作権を有する原告商品の形態を模倣した被告商品を原告らに無断で販売、譲渡する行為は、原告B社の著作権及び原告商品の日本国内における販売等につき独占的な権利を有している原告BJ社の利用許諾権を侵害する不法行為に当たると主張して、原告らが、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である。

当事者

原告 B社  (原告商品を企画・製造する韓国法人)
BJ社 (原告商品の日本国内における独占的販売業者)
被告 S社  (百貨店及びチェーンストア経営)

結論

請求棄却

争点

1) 被告商品は原告商品の形態を模倣したものか
2) 原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態であるか
3) 被告は被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意かつ無重過失であったか
4) 原告商品は著作権法により保護される著作物に当たるか
5) 被告による著作権侵害の成否
6) 原告らの損害
7) 謝罪広告の必要性

関連条文

[不正競争防止法] 2条1項3号、2条5項、19条1項5号イ、ロ
[著作権法] 2条1項1号
[法の適用に関する通則法] 17条

経緯

(1)平成14年2月  被告のバイヤーXが原告担当者と名刺を交換して、カタログ等を交付。
(2)平成15年〜 原告から被告へ、原告商品が掲載されたカタログを送付。
(3)平成15年9月 東京ギフトショー秋2003に原告商品を出展。原告商品は審査員特別賞を受賞。
(4)平成15年10月 業界紙に上記展示会が紹介され、原告商品や原告会社の広告が掲載された。
(5)平成16年8月 原告が日本国内で販売を開始。
(6)平成18年1月 原告が原告商品を自社ホームページに掲載。
(7)平成18年4月 被告が、製造会社と卸会社を経由して、被告商品の販売を開始。
(8)平成19年1月 原告が被告商品を発見し、被告に問い合わせ。
(9)平成19年8月 訴訟提起。

図「経緯」

裁判所の判断(要旨)

1 準拠法について

本件は、原告B社が大韓民国において設立された法人であるという点で、渉外的要素を含むため、原告B社との関係で準拠法を決定する必要がある。不正競争行為と著作権侵害に基づく損害賠償請求の準拠法については、法の適用に関する通則法に直接の規定がないため、条理により決するのが相当である。上記法律関係の性質は不法行為であるから、同法17条(同法施行期日前の行為については法例11条1項)に基づき、本件の損害賠償請求については我が国の民法709条が適用される。

2 被告商品は原告商品の形態を模倣したものか(争点1)

原告商品と被告商品は、(1)個々の特徴的形状の多くが共通しており(下記A〜E参照)、全体の形態もほぼ同一であること、(2)原告商品、被告商品ともに動物のぬいぐるみに小物入れを組み合わせた商品である点で共通していること、及び(3)被告商品の販売開始時期が原告がウェブページに原告商品の写真を掲載した時期に近接しているとの事情を考慮すれば、被告商品は原告商品を模倣して製造されたものと推認することができる。
なお、被告が主張した差異点(下記ア〜エ参照)については、差異点アは原告商品にも共通している形態であり、差異点イ〜エはいずれも些細なものであって、両者の形態が実質的に同一であると判断することの妨げとなるものではない。

図「原告商品と被告商品」

共通点
A 頭顔部が縦に長い楕円形、胴体部が円筒状をしており、胴体部の背面側の上端で頭顔部が連結されていること
B 胴体部の上端に円を囲む形で腕があり、上端の正面で腕の先端を合わせていること
C 頭部や耳を覆う毛の材質と顔面部を覆う毛の材質が異なっていること
D 黒い糸で手足の指を形成していること
E 目、鼻、耳、足及び尾の形状や取付位置

差異点(被告の主張)
ア 手足の指を表現するものとして黒い糸が縫い付けられている点
イ 耳元にリボンが付けられているのに対し、原告商品ではこれらが存在しない点
ウ 頭と顔全体のバランスが異なる点
エ 原告商品の底面のマジックテープが被告商品には付けられていない点

3 原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態であるか(争点2)

プードルのぬいぐるみに小物入れを組み合わせた商品の形態としては、その組み合わせの方法や個々の部分の形状等により様々なものが考えられるから、原告商品の形態は、プードルのぬいぐるみと小物入れの組み合わせであることから必然的に導かれる形態であるということはできないし、特定の効果を奏するための必須の技術的形態であるということもできない。

そして、本件において、原告商品と同様の組み合わせを採用した他の同種商品が存在することを認めるに足る証拠がないこと、胴体部が円筒状をしており、胴体部の背面側の上端で頭顔部が連結されている点(共通点A)、胴体部の上端に円を囲む形で腕があり、上端の正面で腕の先端を合わせている点(共通点B)等は、原告商品の特徴的な形状であるということができること等に照らせば、原告商品の形態が個性を有しないものということはできない。したがって、原告商品の形態は、不正競争防止法2条1項3号の「商品の機能を確保するために不可欠な形態」であるとは認められない。

4 被告は被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意かつ無重過失であったか(争点3)

裁判所の認定事実によれば、被告は、仕入れ時に被告商品が原告商品形態を模倣したものであることを知らず、かつ、知らなかったことにつき重大な過失はなかったものと認められる。

1)被告における商品の仕入れは、仕入れ担当部門のバイヤーが、仕入先からの多数の企画提案の中から、特定の商品の企画提案を採用し、その販売数量や価格等を決定して行うというものである。被告商品の仕入れを担当する部門が1年間に取り扱う商品数だけでも約12万点に及び、仕入先が被告に対して行う企画提案の数も極めて多数に及ぶと推測されることからすると、被告は、商品の企画や生産の過程に関与することはなく、商品の選定やその販売数量及び価格の決定のみを行っていたと認められる。 また、被告が、膨大な数量の商品すべてについて、その開発過程を確認するとともに、形態が実質的に同一である同種商品がないかどうかを調査することは、著しく困難であるということができる。

2)原告商品は、これまでの販売金額が合計19万0487円、販売数量も合計330個にとどまり、その宣伝、広告も、原告BJ社のウェブページや商品カタログに写真が掲載されている程度である。 被告商品は、一般に広く認知された商品とまでは認められないので、被告が,被告商品を卸売業者から購入するに当たり、取引上要求される通常の注意を払ったとしても、原告商品の存在を知り、被告商品が原告商品の形態を模倣した事実を認識することはできなかったものというべきである。

なお、原告らは、以下の事情をもって、被告は被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であることを知り、少なくとも、知らなかったことにつき重大な過失があると主張するが、いずれも採用することができない。

*被告のバイヤーであるXとの名刺交換を行い、同人へのカタログ等を交付した。

→Xは被告商品の仕入れ担当者ではなかったこと、及び名刺交換時から被告商品の販売開始までの間に、被告において原告商品の購入が検討された形跡は認められないことから、一従業員であるXとの間における事情のみでは、被告が原告商品の存在を認識し、又は認識することができたということはできない。

*原告商品が東京ギフトショーにおいて審査員特別賞を受賞し、そのことが業界誌に掲載された。

→同賞を受賞した際、原告商品は一般に販売されていなかったこと、及びその後の原告商品の販売金額・数量等によれば、一般に広く認知された商品とは認められないことから、被告の悪意、重過失を基礎付けることはできない。

5 原告商品は著作権法により保護される著作物に当たるか(争点4)

著作権法2条1項1号は、同法により保護される著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定し、同条2項は、「この法律にいう美術の著作物には、美術工芸品を含むものとする。」と規定している。これらの規定は、意匠法等の産業財産権制度との関係から、著作権法により著作物として保護されるのは、純粋美術の領域に属するものや美術工芸品であり、実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されているものは、それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り、著作権法による保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。

原告が主張する、ペットとしてのかわいらしさや癒し等の点は、プードルのぬいぐるみ自体から当然に生じる感情というべきであり、原告商品において表現されているプードルの顔の表情や手足の格好等の点に、純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を認めることは困難である。また、東京ギフトショーにおいて審査員特別賞を受賞した事実が、原告商品の美術性を基礎付けるに足るものでないことは明らかである。したがって、原告商品は、著作権法によって保護される著作物に当たらない。

実務への指針

本判決の中で特に注目すべきは、被告商品の形態が原告商品と実質的に同一の模倣品であり、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当すると認定されたにも拘わらず、被告が善意かつ無重過失であると判断されたことから、結果として原告らに損害賠償請求等が認められなかった点です。

裁判所は、(1)被告が取り扱う膨大な数量の商品すべてについて、その開発過程を確認して、市場に実質的に同一の商品が既に存在していないか調査することは著しく困難だったこと、及び(2)原告商品の販売数・販売金額が少なく、宣伝広告も余り行われていなかったため、一般的な認知度が低かったこと、を指摘した上で、被告が仕入れ時に模倣の事実を認識することができなかったとしても、取引上要求される注意義務を怠ったことにはならないと判断しました。

不正競争防止法2条1項3号は、原告側(被侵害者)の商品形態の周知性・著名性を要件とするものではありませんが、少なくとも、被告(侵害者)である販売業者が善意無重過失であるか否かの判断においては、本件のように原告商品の一般社会での認知度が考慮される可能性があるといえます。
そうすると、非製造系の販売業者に権利行使を行う際は、形態の同一性が極めて高い場合であっても、不正競争防止法19条1項5号ロに該当して権利行使が実質的に不可能となるおそれがないか、十分に事実関係を確認する必要があります。

また、不正競争防止法及び著作権法には、意匠法40条のような過失の推定規定が存在しないため、損害賠償請求訴訟において、原告が負う立証負担が非常に重いこと、さらに、著作権法に関しては大量生産される商品における著作物性のハードルがきわめて高いことから、商品形態を意匠権行使以外の方法で保護することには、多くの困難を伴うことが予想されます。
一方、原告商品が、展示会に出展する前、又は出展後6ヶ月以内に新規性喪失の例外の適用を受けて、小物入れ付きの「ぬいぐるみ」の意匠として意匠登録出願され、登録を受けていたならば、被告が模倣の事実について認識していなかったとしても、意匠法40条により過失が推定されることになります。
本判決文に示されたとおり、被告商品の形態と原告商品の形態は、実質的同一と認められる程度に類似性が高く、意匠法上の類似関係も成立すると考えられますので、意匠権を取得していれば、正当かつ有効な権利行使ができていた可能性が高いと推測されます。

本判決から、不正競争防止法に基づく権利行使に関しては、適用除外の有無について慎重に検討する必要があることと共に、意匠登録の重要性をも再認識すべきと考えられます。

以上

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