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判例研究/レポート

使用権者の不正使用により商標登録を取り消す旨の審決が維持された事案

平成22年1月20日
弁理士 木村達矢

知財高裁平成19年(行ケ)第10352号,同第10363号各審決取消請求事件
知財高裁平成19年(行ケ)第10353号,同第10364号各審決取消請求事件
原告 X1
原告 X2
上記両事件被告 Y

本件は,被告Yが,原告X2の下記の商標(以下「本件商標」といい,本件商標に係る権利を「本件商標権」といいます。)について,同原告から通常使用権ないし専用使用権の設定を得てこれを使用する原告X1の本件商標使用行為は,被告の商品と誤認混同を生じさせるとして商標法53条1項に基づき本件商標登録の取消審判を請求したのに対し,原告X2が本件商標の専用使用権者として上記取消審判請求手続に参加したところ,特許庁が,本件商標の登録を取り消す旨の審決をしたため,原告らがその取消しを求める事案です。
判決は,専用使用権者X1の使用する商標は,その使用の態様を踏まえて実質的に見ると,登録商標と社会通念上同一とはいえず,他人の業務に係る商品と混同を生ずるとして登録を取り消した審決を維持しました。
商標法53条1項は,条文上,登録商標と同一の商標を使用して混同を生じさせても取り消され得ますが,判決はあえて社会通念上の同一性について判断しています。本判決は商標法53条1項が登録商標と社会通念上同一と認められる商標を使用した場合に適用が制限されるか否か,制限されるとした場合に社会通念上の同一性の判断基準を定立するものではありませんが,その使用の態様から登録商標と異なる称呼が生ずることを捉えて,登録商標と社会通念上同一とはいえないとしたもので,注目に値する判断です。
なお,原告らは,本件と同一の登録商標及び同一の使用商標について,商標法50条に基づく取消審判事件(いわゆる不使用に基づく取消審判事件)においては,両商標は社会通念上同一と判断されているとの主張をしていますが,判決は前提となる事実を異にするとして当該主張をしりぞけています。

第1 事案の概要

1 本件商標

登録番号第2423435号
出願日 昭和63年7月7日
登録日 平成4年6月30日
更新登録日 平成14年7月9日
指定商品 第12類「輸送用機械器具,その部品及び附属品(平成15年10月1日書換登録)」
※知財高裁平成19年(行ケ)第10353号,同第10364号各審決取消請求事件は,本件と同一構成からなる登録第4017731号に対する事件であり,内容的にはほぼ同一です。

2 専用使用権

権利者 X2
登録年月日 平成18年1月25日
範囲地域 日本国内全域
期間契約 締結後5年間(平成22年11月30日迄)
内容 自動車用座席及び座席部品

なお,X1は,X2に対し,本件商標権につき,平成15年7月1日から3年間の期間付きで「自動車用座席及び座席部品」について通常使用権を許諾していました。

3 X2及びYの使用商標

なお,判決の事実認定によれば,原告X1の使用態様は,本件商標の称呼を規定する片仮名表記分を欠くとともに,その称呼は,通常の読み方である「ブライド」ではなく,専ら被告Yの使用態様と同じ「ブリッド」の称呼のみを生ずるものとして使用されていたようです。

4 Yによる商標法53条1項による取消審判請求

請求日 平成17年11月14日(取消2005−31371号事件)
X2に対する参加許可 平成18年10月17日
審決(成立−取消) 平成19年9月19日

第3 争点(抜粋)

(1)本件商標と本件使用商標の社会通念上同一性
(2)本件使用商標の三社合意に基づく使用としての正当性

第4 裁判所の判断

1 争点(1)について

本件使用商標は,その使用の態様を踏まえてこれを実質的に見ると「BRIDE/ブリッド」が一体の構成からなるものと理解されるところ,これを本件商標と対比すると,外観において「BRIDE」部分を共通するに止まり,称呼において異なり,観念において比較することができないものといわざるを得ない…本件使用商標が本件商標と社会通念上同一であると見ることは到底困難であるといわざるを得ない。
なお,平成17年(行ケ)第10470号事件(不使用取消審決取消事件)は,原告X2の商品カタログ等に掲載されたデザイン化された「BRIDE」の表記やその製造販売に係る自動車用シートに付された同様の「BRIDE」の英文字の記載の存在を認定し,…「両者は,書体のみに変更を加えた同一の『BRIDE』の欧文字を構成要素とするものであり,『ブライド』という同一の称呼を生ずるものである」として社会通念上の同一性を肯定したものである。上記判決が前提とした事実関係においては,本件使用商標において称呼が専ら「ブリッド」とのみ規定されている事実は全く考慮されていないのであるから,上記事件は本件とは前提となる事実を異にする。

2 争点(2)について

原告らが主張するところの三社合意なるものは,…共同事業化を実現する上で必要不可欠な重要事項の定めが必須となるところ,これらの重要事項の内容を明記した契約書,協定書等の合意内容を証する何らの書面もない。
以上のような諸事情に加え,被告は原告らが上記合意の成立を主張する前年である平成3年には7693台の自動車用スポーツシートを製造販売し,順調に経営を拡大していたものと認められる状況下にあったことなどを勘案すると,平成4年当時,被告に上記のような合意の締結を必要とする合理的な事情を見い出すことは到底困難である。


コメント

1 争点(1)について

商標法53条1項は,条文上,使用権者が「登録商標を指定商品」について使用して,品質等の誤認又は他人の業務に係る商品等と混同を生ずるものをしたときにも適用されます。一方,学説では,使用権者が「登録商標を指定商品」について使用していた場合には,53条1項は適用すべきではないとする見解があります(53条限定解釈)。本件原告は,この立場から本件使用商標と本件商標が社会通念上同一であるとの主張をしたものと考えられます。
判決では,53条限定解釈の肯否に言及することなく,登録商標と使用商標は社会通念上同一と見ることはできないと判断しています。本件では,X2はYと全く同一の商標を英語の通常の発音とは対応せず,しかもYの商標の読み方として周知と認められる「ブリッド」の称呼のみが生ずるものとして使用していたようであり,「不正」使用と評価されても致し方ない事案ではないかと思われます(なお,X2がかかる使用をするに至った経緯についてはかつて共同事業等を行っていた等の事情があったようです)。
なお,不使用取消し審判において両商標が社会通念上同一の商標であると判断されているとの原告の主張については,「上記判決(不使用取消し審判の取消審決に対する取消訴訟,注筆者)が前提とした事実関係においては,本件使用商標において称呼が専ら「ブリッド」とのみ規定されている事実は全く考慮されていないのであるから,上記事件は本件とは前提となる事実を異にする」としてしりぞけています。
しかし,不使用取消審判は信用が蓄積していない商標を取り消す趣旨であり,一方,不正な使用に対する制裁規定である53条1項の取消し審判とでは,そもそも趣旨が異なりますから,社会通念上の同一性もそれぞれの趣旨から判断されるものと思われます。したがって,仮に両審判事件において同一の使用証拠が提出されたとしても両審判の結論は同じであったのではないかと思われます。
ちなみに,53条限定解釈については,51条との対比で明示的に「登録商標を指定商品又は役務」について使用する場合も含まれるとしていること,「登録商標を指定商品又は役務」そのものの使用であっても周囲の状況や後発的な事情の変化により,品質の誤認や他人の業務に係る商品等と混同を生じるおそれは考えられること,監督義務を果たしている商標権者については但し書きによる保護も可能であることからは,あえて限定する必要はないように思われます。

2 争点(2)について

原告X2らは,被告Yと訴外A及びBとの間で,自動車用シートの製造販売事業を,製造はBが,開発はAが,販売は被告Yがそれぞれ分担して三社で行う旨の共同事業化の合意(すなわち三社合意)が成立し,この合意に基づき,Bに被告標章の使用が認められていたところ,Bの事業を承継した原告X2は上記三社合意に基づき被告標章の使用が認められた旨主張しています。
判決の事実認定によれば,本件において,X2とYと訴外Aは平成4頃から14年頃にかけて,三者が共同として「BRIDE/ブリッド」ブランドのスポーツシートの製造販売を行っていたようです。しかし,その後売上げが低迷するにつれてX2とYとの間で意見の相違があり,最終的に共同事業は解消されました。袂を分かったX2とYは,その後,個別にスポーツシートの製造販売を行うようになり,ともに「BRIDE/ブリッド」ブランドを使用したことから今回の紛争に至ったようです。このような経緯で,X2とYは全く同一の「BRIDE/ブリッド」商標をスポーツシートについて使用していました。したがって,本件ではX2の使用は必然的に「出所の混同を生ずるもの」になってしまい,これを否定することは困難と思われます。
そこで,原告はその商標使用が「不正な使用」にあたらないことを主張したものと思われます。本件では,結論として三者間の合意が認められませんでしたが,仮にそのような合意が認められX2の商標使用が「不正な使用」といえない場合には,どのように考えるべきでしょうか。
前述のように,商標法53条1項は,使用権者による登録商標の「不正な使用」に対する制裁規定ですから,仮に混同を生ずるとしても当該使用が「不正な使用」と評価できない特段の事情があれば,登録を取り消すことはできないのではないかと思われます(なお,当該商標を継続して使用できるかについては別論です。両商標の類似の程度や使用に至った経緯,周知度等の事情に応じて,商標法(先使用権ないし中用権及び混同防止表示請求),不正競争防止法2条1項や権利の濫用といった規定により事案に応じて妥当な解決が図られるべきものと思われます)。

実務上の指針

商標ライセンスは,商標の財産的価値の経済的利用の一つとして,一般的に利用されていますが,商標権者には使用権者の使用に対して管理する義務があります(商標法53条1項但し書き)。本件でも,ライセンス契約には使用商標見本の提出義務等の条項があったようですが,あまりチェック及びコントロールはされていなかったように思われます(「ブリッド」の称呼のみが生ずるとして使用されていた)。したがって,商標ライセンスに際しては,相手方やその使用態様について十分に留意してコントロールする必要があるでしょう。

参照条文

商標法
第五十三条  専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし,当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において,相当の注意をしていたときは,この限りでない。

以上

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