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判例研究/レポート

訂正請求時の訂正内容は一体的に判断されるべきか?
平成19(行ヒ)318 特許取消決定取消請求事件 最高裁判決より

平成21年9月28日
弁理士 嶋田太郎

本件は、特許第3441182号(以下「本件特許」という。)の特許権者である上告人が、特許異議申立事件につき特許庁がした本件特許(請求項1〜4に係る特許)の取消決定の取消しを求める事案である。

今回は表題に挙げた内容に焦点を当てて取り上げてみた。

経緯

平成15年6月20日に設定登録
   ↓
平成15年12月26日 特許庁に異議2003−73487号事件として係属
   ↓
平成17年12月7日 特許請求の範囲の訂正を請求「特許法旧120条の4」
   ↓
平成18年2月22日 本件訂正は認められないとした上、請求項1〜4に係る本件特許を取り消す旨の決定
   ↓
出訴 知的財産高等裁判所
   ↓
平成19年6月29日  請求棄却 知的財産高等裁判所
   ↓
上告
   ↓
平成20年7月10日  原判決一部破棄 最高裁

知財高裁の要旨

特許庁の主張

「本件決定は、「訂正前には凹部と凹部の噛み合わせ嵌めであったものを、リベット等やタブによる接続を含む機械的噛み合わせ接続に訂正しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでなく、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものである。したがって、上記訂正事項bを含む訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き又は第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない」

原告の主張

「本件決定は、訂正事項bが不適法であることを理由に、他の訂正事項a、c、dについて何ら判断することなく訂正を認めなかったものであり、訂正事項a、c、dに関する訂正要件の判断を遺漏した違法がある」

知財高裁判決

「ところで、願書に添付した明細書又は図面の記載を複数箇所にわたって訂正することを求める訂正審判の請求又は訂正請求において、その訂正が特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものである場合(すなわち訂正が単なる誤記の訂正であるような形式的なものでない場合)には、請求人において訂正(審判)請求書の訂正事項を補正する等して複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り、複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず、たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係になく、かつ、一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のあるときであっても、その箇所についてのみ訂正を許す審決又は決定をすることはできないと解するのが相当である(前記最高裁昭和55年判決参照*1)。そしてこの理は、原告のいう改善多項制の下でも同様に妥当するというべきである。」

「複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しておらず、かつその後も請求人たる原告から同様の趣旨の補正が行われたこともない(弁論の全趣旨によりこれを認める)のであるから、本件訂正請求は不可分一体のものであったと解さざるを得ない(ちなみに、原告が本訴提起後の平成18年10月3日になした訂正審判請求である訂正2006−39163号事件及び訂正2006−39164号事件においては、一部訂正である趣旨を明示している。甲20〜23)。」

「したがって、上記のとおり訂正事項bが訂正の要件に適合しない以上、訂正事項a、c、dについて判断することなく、本件訂正を認めなかった本件審決に、訂正事項a、c、dに関する訂正要件の判断を遺漏した違法があるということはできない。」

*1 参考
最高裁昭和55年判決の射程
最高裁昭和55年判決は、原審である東京高裁昭和48年(行ケ)第147号・昭和52年10月19日判決の「単に訂正を求める一部の事項についてこれを不適法とする事由があるというだけで、直ちに審判請求全体を成立しないものとして排斥すべき法律上の根拠はない」という判断を否定することはなく、「実用新案登録を受けることができる考案は、一個のまとまつた技術的思想である」ことを根拠に挙げて、訂正審判請求人の合理的意思解釈として、「訂正明細書等の記載がたまたま原明細書等の記載を複数箇所にわたつて訂正するものであるとしても、これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべく、これを形式的にみて請求人において右複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものであると解するのは相当でない」と判示したものである。これは要するに、単項制を前提として、一個の実用新案登録請求の範囲に記載された発明は「一個のまとまつた技術的思想」であるところ、一個の実用新案登録請求の範囲中で複数の訂正が請求された場合の請求人の合理的意思は、一部の訂正のみであっても認められることを求めるか否か不明であることから、請求人の意思は、一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判を請求しているものと理解すべきことを判示したものである。上記最高裁判決は、一部訂正審決が例外的に認められる余地を残しているところ、改善多項制下において複数の独立項を対象とする訂正審判が請求された場合は、正にこれに該当する。すなわち、前記最高裁判決には「右訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるときは事の性質上別として」、あるいは、「請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別」というような、例外的に一部の訂正のみを認める場合があることを説示をしている。したがって、(1)複数の訂正事項の各々が独立一個の訂正事項をなし、請求人において各訂正事項ごとに訂正の請求をするものであることを看取しうること、(2)一通の訂正審判請求書をもって複数訂正事項の各々を他のそれとは別個独立の一個の訂正事項とするような訂正審判の請求をすることができること、との要件を備えたような場合には、例外的に、一部訂正許可の審決をなし得ると認める余地を残したものである。

最高裁の要旨

特許庁の主張

「訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものでなく、また、特許請求の範囲を実質上拡張するものであるから、特許法旧120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書又は2項の規定に適合しない。よって、その余の訂正事項について判断するまでもなく、訂正事項bを含む本件訂正は認められない。

原判決の要旨

「本件決定は、訂正事項bが訂正の要件に適合しないことを理由に、他の訂正事項について判断することなく、本件訂正の全部を認めなかったものであるが、その判断に違法があるということはできない。すなわち、願書に添付した明細書又は図面の記載を複数箇所にわたって訂正することを求める訂正審判の請求又は訂正の請求において、その訂正が特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものである場合には、請求人において訂正(審判)請求書の訂正事項を補正する等して複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り、複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず、たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係になく、かつ、一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のあるときであっても、その箇所についてのみ訂正を許す審決又は決定をすることはできないと解するのが相当である(最高裁昭和53年(行ツ)第27号、第28号同55年5月1日第一小法廷判決・民集34巻3号431頁参照)。そして、この理は、いわゆる改善多項制(昭和62年法律第27号による改正後の特許法36条5項が定める請求項の記載方法)の下でも同様に妥当するというべきである。本件訂正に係る訂正請求書をみても、複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しておらず、その訂正請求は一体不可分のものであったと解さざるを得ない。」

最高裁判決

(1)訂正審判について

「特許法は、複数の請求項に係る特許ないし特許権の一体不可分の取扱いを貫徹することが不適当と考えられる一定の場合には、特に明文の規定をもって、請求項ごとに可分的な取扱いを認める旨の例外規定を置いており、特許法185条のみなし規定のほか、特許法旧113条柱書き後段が「二以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」と規定するのは、そのような例外規定の一つにほかならない(特許無効審判の請求について規定した特許法123条1項柱書き後段も同趣旨)。」

「このような特許法の基本構造を前提として、訂正についての関係規定をみると、訂正審判に関しては、特許法旧113条柱書き後段、特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上、訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項、128条参照)にも照らすと、複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は、複数の請求項に係る特許出願の手続と同様、その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。」

(2)訂正請求について

「これに対し、特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正の請求(以下「訂正請求」という。)は、特許異議申立事件における付随的手続であり、独立した審判手続である訂正審判の請求とは、特許法上の位置付けを異にするものである。」

理由

  1. 特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては、いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項、旧126条4項)など、訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており、訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するということはできない。
  2. 訂正請求は、請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから、このような訂正請求をする特許権者は、各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当。
  3. 各請求項ごとの個別の訂正が認められないと、特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる。

    →特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても、各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され、その許否も各請求項ごとに個別に判断されるものと考えるのが合理的である。

    被上告人の「発明を表現する明細書は常にその全体が一体不可分のものとして把握されるべき」との主張について。

  4. 昭和62年法律第27号による特許法の改正により、いわゆる一発明一出願の原則を定めていた規定が削除され、しかも一発明に複数の請求項の記載をすることが認められるようになったことを考えると、同改正後の特許法の下で、上記のように解すべき根拠を見いだすことはできない。

  5. 最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決は、いわゆる一部訂正を原則として否定したものであるが、複数の請求項を観念することができない実用新案登録請求の範囲中に複数の訂正事項が含まれていた訂正審判の請求に関する判断であり、その趣旨は、特許請求の範囲の特定の請求項につき複数の訂正事項を含む訂正請求がされている場合には妥当するものと解されるが、本件のように、複数の請求項のそれぞれにつき訂正事項が存在する訂正請求において、請求項ごとに訂正の許否を個別に判断すべきかどうかという場面にまでその趣旨が及ぶものではない。

→特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合、特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については、訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり、一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として、他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。

(3)判決

訂正事項aは、特許異議の申立てがされている請求項1に係る訂正であるから、他の請求項に係る訂正事項とは可分のものとして、個別にその許否を判断すべきものである。ところが、本件決定は、請求項2に係る訂正事項bが訂正の要件に適合しないことのみを理由として、請求項1に係る訂正事項aについて何ら検討することなく、訂正事項aを含む本件訂正の全部を認めないと判断したものである。これを前提として本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の認定をし、請求項1に係る部分を含む本件特許を取り消した本件決定には、取り消されるべき瑕疵があり、この瑕疵を看過した原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

本件決定のうち本件特許の請求項1に係る特許を取り消した部分を取り消すこととする。
なお、本件特許のその余の請求項に係る特許の取消決定に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。

まとめと議論

この判決は異議申し立て中の訂正請求における訂正内容については、請求項ごとに判断すべきであるとの判断を明示したものといえます。
一方において訂正審判については、
「その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。」
との立場を変えていません。つまり、訂正審判と異議申し立て中の訂正請求とでは、その意味合いが違うことを明示した判例といえます。とすれば、異議申し立て中の訂正請求をする場合には、直接問題となっていない請求項についても、便乗して、どんどん訂正する方が得だ、といえるかと思います。便乗部分が問題となっても、請求項ごとに判断してもらえるのですから。

ところで、無効審判中の訂正請求についても、異議申し立て中の訂正請求と同様に考えてよいといえるでしょうか?

ここで、上述した「最高裁判決」 「(2)訂正請求について」に挙げられている「理由」1〜5のうち、1以外については同様の論理が成り立つと思われます。また、1についても、単に、異議申し立て制度が廃止されたため、同様の規定ぶりとなるように法改正されなかっただけで、「訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されて」いることに違いはないということができます。
であるならば、無効審判中の訂正請求についても、異議申し立て中の訂正請求と同様に考えていいと思われます。「便乗訂正」すべし、です。

なお、上記判決に先行する、平成19年6月20日付の、知財高裁平成19年行ケ10081においても、「2以上の請求項に係る無効審判請求においては、無効理由の存否は請求項ごとに独立して判断されるのであり、個々の請求項ごとの審判が同時に進行しているものとして考えるのが、無効審判制度の趣旨に沿うものである。そうすると、無効審判の審決において認められた訂正の効力についても、個々の請求項ごとに生ずると解するのが相当である。」として同様の判断が示されています。

以上

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