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「パテントメディア」

インド訪問記

2019年5月
所長 弁理士 恩田 誠

2018年11月、アジア弁理士協会(APAA)の総会に参加するため、インドのニューデリーを訪問しました。APAAは毎年秋に年次大会が開催され、世界中の弁理士が参加しますが、今回はインドだったからか、参加者は例年より少なめの1300人でした。オンダ国際特許事務所からは4人で参加しました。多くの海外の代理人と個別のミーティングを行うなど、活発な意見交換を行いました。またAPAA日本部会アジア委員会の一員として、特許庁、高等裁判所、現地事務所を訪問しました。

インド概況

APAAの会議は、デリー空港のすぐ隣りにあるエアロシティという、大きな国際的なホテルが立ち並び、セキュリティも厳しい安全な場所で開催されました。
インド出張はこれで3回目になりますが、前回訪問の11年前より自動車の普及率が高くなっていたことに驚きました。日本車、特にスズキの割合が高く、トヨタ、ホンダと続き、更にインドのTATA、韓国の現代などが目立ちました。道路もきれいに舗装されており、片側10車線もあるような広大なハイウェイもありました。ただし、朝や夜の道路の渋滞はひどく、どこに行くにも予定以上に時間がかかりました。車の運転はまさにカオス状態。お互いぶつからないように走っているのが不思議なくらいで、常にクラクションが鳴らされていました。インドの運転には3つのグッドが必要、すなわち、グッドホーン(クラクション)、グッドブレーキ、グッドラック、というジョークを現地で聞きました。

また、ニューデリーは、大気汚染がひどく、天気予報には毎日「重度の汚染」と表示されていました。中国よりも深刻かもしれません。1日中外にいるとタバコを一箱吸ったぐらいの肺へのダメージがあるとのことでした。外へ出るときはマスクが欠かせない感じです。インドは食べ物や水も危ないとのことで、かなり用心して下痢止めや除菌シートを日本から持参していましたが、エアロシティにいる限りは大丈夫でした。

エクスカーションで、タージマハールのツアーに参加しました。タージマハール、そして近くにあるアーグラ城塞は、どちらも大きさと豪華さに感動し、圧倒されました。移動はAPAAで貸し切った電車に580人が乗ったのですが、予定が大幅に遅れ、行きは4時間、帰りは5時間の長い旅でした。道中線路沿いの一般市民の生活が見えましたが、ゴミの山のようなところに住んでいる人たちもたくさんいました。全体的に経済発展は著しいようですが、貧富の差は相当大きいようです。

特許事務所訪問

当所と取引のあるC特許事務所を訪問しました。ニューデリー郊外のGURGAONという高層のオフィスビルやマンションが立ち並ぶ街の中にある、イメージ的には六本木ヒルズといったビルの大変きれいなオフィスでした。創業50年、インド国内に10のオフィスがあります。日米欧の著名企業をいくつもクライアントに有するだけあって、事務管理がしっかりした印象を日頃から受けていましたが、実際に事務所見学をすると、ペーパレスオフィスが実現されており、すっきりしたオフィス内の光景が大変印象的でした。

L事務所も訪問しました。1985年設立の総合法律事務所で、インド国内に11のオフィスがあります。所員数600人のうち知財関連の人材は120人で、理系のバックグラウンドのある弁護士が14人、特許技術者が14人いるとのことでした。訴訟部門もあります。事務所のサーバーのバックアップは2箇所で行われており、書類管理システムも導入しているとのことでした。事務所内にカフェテリアや宿泊施設があるのには驚かされました。

デリー特許庁訪問

デリー特許庁を訪問しました。古いビルでしたが、その後ろに新しいビルも建設中でした。ご存知の方も多いと思いますが、インドは5箇所(ムンバイ、デリー、コルカタ、チェンナイ、アーメダバード)に特許庁があります。商標はこれら5箇所にて、特許は4箇所(アーメダバード以外)、そして、意匠は1箇所(コルカタ)にて、それぞれ審査されます。

2016年から特許の審査期間を短縮するため、審査官の大幅増員(2018年だけで220人増加)や、審査官面接をビデオ会議で行うなど数々の施策が取られているそうです。日本国特許庁やジェトロもいろいろと協力をしています。その結果、審査期間が短縮され、審査請求後18ヶ月未満となったとのことです。これまで審査結果(First Office Action)が出されるのが年間2万件だったのが、3倍の6万件になったとのことです。特許出願の滞貨は2017年には20万件あったものが、10万件に減ったそうです。なお、インドの特許出願件数は年間5万件程度、日本からインドへの出願は4千件から6千件程度で、米国・欧州がそれぞれ1万件程度出しているのと比較すると半分程度です。

すべてのオフィスですべての技術分野の審査ができるわけではないので、分野と件数のバランスを取るための「自動振り分けシステム」なるものが導入されているそうです。したがって、オフィスごとに審査期間が異なることはないとのことでした。その一方で、代理人からの情報では、「特許を出願するならばムンバイ・オフィスが一番審査が早い。審査の遅いデリー・オフィスに出願することはない」とのことでした。政府と民間の見解の相違でしょうか。今後は各オフィスでの差がなくなることが期待される、とでも理解しておきたいと思います。

デリー高等裁判所訪問

デリー高等裁判所は、最近できたビルを含む3つのビルの中に法廷が51室もあります。1つの法廷に毎日60から70件の事件が割り当てられており、1日に50件程度が処理されるそうです。つまり毎日2500件を超える件数が、デリー高裁で処理されていることになります。驚きの数字です。ただし、割当案件に対して処理される件数が少ないですから、残ったものは翌日以降に持ち越して処理されるそうです。裁判官も多くの案件を把握しなければならないので、翌日の案件の予習のため、毎日遅くまで残業しているそうです。

デリー高裁では、民事・刑事事件が扱われていますが、その中には知財事件も含まれています。残念ながら、知財事件の比率などは把握できませんでした。法定での審理は通常10分から15分平均で終了、複雑な案件であれば2日以上かかるものもあるとのこと。開廷時1分以内に担当弁護士が現れないと、翌日以降に期日が延期されてしまうそうです。次々と法廷が開かれるため、傍聴席はどこも満席です。そのほとんどが、次の順番を待つ弁護士たち。どのタイミングで自分の事件の番が来るかわからないので、早めに傍聴席に入っているようです。待合室には電光掲示板があり、どの法廷で何番目の事件が審理中か表示されていました。裁判所に出廷する弁護士は黒いガウンを着ています。私達もインドの弁護士たちの中に混ざって傍聴をしました。裁判所内の言語はすべて英語でした。刑事事件の傍聴もしましたが、立ち見の人も含めて、身動きできないほどの人でした。法廷の外の待合室には、更に多くの黒いガウンを着た弁護士たちが控えていて、その騒がしさは裁判所内とは思えないほどでした。裁判所内は写真撮影が禁止されているので、その雰囲気をお伝えできないのが残念です。インドがいかに裁判が多いかということを実感しました。これだけの数があるということは、ちょっとしたもめごとでも裁判所で争うというのが、インドでの感覚なのかもしれません。

今回は、インドの成長の勢いを肌で感じる出張となりました。2001年に上海を初めて訪問した際に感じた勢いと同じようなものを感じました。ただし、インドオフィスを開設したいかと聞かれたら、ちょっと待った、というのが私の直感です。今のところ、中国ほどの急激な特許出願件数の伸びは見られません。今後インドがどうなっていくか、興味深く観察していきたいと思います。

 

2019年5月発行 第115号

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