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【判例研究】不正競争防止法のトピック

2019年5月
弁理士 二間瀬 覚

1.平成30年改正で導入されたビックデータの保護
2.コメダ珈琲事件(紹介すること:トレードドレスの保護事例)
3.マリカー事件(紹介すること:不競法か?著作権か?)

1.平成30年改正で導入されたビックデータの保護

これまでもデータは、「データベース著作物」、「特許を受けた発明」、「営業秘密」に該当すれば、民事的救済措置(差止め、損害賠償)、刑事的措置が受けられた。また、故意・過失による権利侵害には、不法行為(民法第709条)として損害賠償請求が可能であり、契約違反であれば、契約当事者に債務不履行として差止め、損害賠償請求が可能であった。
しかし、近年自動的に集積されるビックデータは、「データベース著作物」、「特許を受けた発明」、「営業秘密」のいずれかに該当するとは限らず、また、不法行為では差止ができない、契約違反では流出先等の当事者以外には適用されないなどの課題があった。
そこで平成30年改正で、ビックデータの保護に資する「限定提供データ」の保護が規定され、これが2019年7月より施行される。これにより、所定の要件(不競法第2条第7項)を満たす「限定提供データ」は、不正な取得・使用・開示の行為(不競法第2条第1項第11号〜16号)に対して民事的救済措置(差止め、損害賠償)が可能になる。
ビックデータの保護規定によって、国は、「付加価値の源泉となるデータの利活用の活発化」や「データ提供への動機づけ、契約の高度化支援、安心してデータを取引できる環境整備、関連技術の研究開発、人材育成」の推進を目指している。
ところで、「限定提供データ」とは、簡単に説明すると、第三者提供禁止などの一定の条件の下で、データ保有者が、できるだけ多くの者に提供するために電磁的管理(ID・パスワード)を施して、提供するデータのことである。例えば、「機械稼働データ(船舶のエンジン稼働データ等)」、「車両の走行データ」、「消費動向データ(小売販売等のPOS加工データ等)」、「人流データ(外国人観光客、イベント等)」、「裁判の判例データベース」が挙げられる。ただし、無償で公衆に利用可能なデータは含まれない点に注意が必要である。
新たに規定された「限定提供データ」について、その詳細は、「限定提供データに関する指針」(平成31年1月23日 経済産業省)等を参照されたい。

2.コメダ珈琲事件
(東京地裁 平成28年12月19日決定  平成27年(ヨ)第22042号 仮処分命令申立事件)

債権者(いわゆる原告):株式会社コメダ(以下、コメダ)
債務者(いわゆる被告):株式会社ミノスケ(以下、マサキ)

(筆者的ポイント)
裁判所が、法目的に鑑みて保護すべき事案としての心証を形成した。

(事件の概要)
「コメダ珈琲店」として喫茶店事業を展開するコメダが、「マサキ珈琲」として喫茶店を営業するマサキに対して、不正競争防止法第2条1項1号に基づいて、店舗外観(店舗の外装,店内構造及び内装)、及び、商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示の使用の差し止めの仮処分命令を求めた事案である。
裁判所は、店舗外観に対する差止請求を認めてマサキに店舗用建物の使用の禁止を命じる仮処分命令を下した。

(店舗の外観類似)
裁判所が「コメダの特徴」と認めた点について日本経済新聞HPにわかりやすく説明したものがあったので以下に引用する。なお、本稿では、外観の類比判断については、インターネット等における他者の解説に譲る。

図 コメダの特徴(引用:日本経済新聞HP「コメダそっくり店」外観使用差し止め
東京地裁が仮処分決定  2016/12/27 11:23 配信)

(事実関係)
ところで権利付与法である特許権における権利侵害判断と異なり、行為規制法である不正競争防止法は、どこで争うかという、争点をゼロベースから決めなければならず、権利が正当に存続する特許訴訟に比べて、訴訟の進行が難しく、予見性も高くない。
不正競争防止法事件の場合、もちろん、法第2条第1項第各号に列挙された各不正競争行為があったのか否かの判断は大切であるが、そもそも権利の有無が曖昧であるため、事件の事実関係が、不正競争防止法の法目的、すなわち「事業者間の公正な競争等を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与する」(法第1条抜粋)ことを阻害していないかどうかという観点が、裁判所の総合判断に与える影響が小さくないと筆者は考えている。
法目的を阻害していないかという点に着目して、本件について考えてみたい。そこで、判決から事実関係をピックアップする。

  • マサキは、平成25年2月頃、店舗用土地を取得した上で、フランチャイジーとしての出店希望をコメダ珈琲店に申し入れたが、コメダは、同地域にはA社がフランチャイジーとして営業していたので要調整であることを告げた。同年3月、マサキは、加盟申請書を提出したが、同年4月、コメダは、受け入れることができない旨を通知し、執行役による説明を行った。同年7月、マサキは、再検討を依頼したが、コメダは、経緯を再度説明して断り、その他のエリアであれば検討可能である旨伝えた。その後、マサキからコメダに対して連絡はなかった。
  • マサキは、平成26年8月、A社の営業地域にある前述の店舗用土地に店舗を建設し、営業を開始した。
  • マサキの店舗の営業開始直後から,コメダには,マサキの店舗との関係に関する問合せや報告が多数寄せられた。コメダは、ウェブサイトにおいて,「マサキ珈琲店は,コメダ珈琲店とは一切関係ございません。」との告知をした。
  • インターネット上では,平成26年8月から平成27年4月にかけて,マサキの店舗が外観その他の点でコメダ珈琲店に酷似していることが話題となった。
  • コメダは、平成26年8月、不正競争防止法に基づいて、マサキに対して、「現在の外装内装等を維持したうえでの営業行為を中止するよう請求する」通知書を送付した。
  • その後、コメダとマサキとの間で書面のやりとりがあったが、マサキは、店舗の営業を従前どおり継続した。
  • コメダは,平成27年5月本件仮処分の申立て、及び本案訴訟を提起した。
  • マサキは,本件申立及びその本案訴訟の係属中に,コメダ珈琲店とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲」2号店の店舗建物を建築し,平成27年9月からその営業を開始した。

(裁判所の判断)
このような事実関係に基づいて、裁判所は本事案について強い口調で保全の必要性を認めた。「マサキは,コメダの主宰するフランチャイズチェーンへの加入希望がかなわないとなるや,コメダ表示1と酷似した外観を有するマサキ店舗を建設し,現在に至るまでマサキ表示1の使用を継続しているのであって,これによりコメダ表示1との間に混同が生じ,その結果,コメダは,需要者の誤認混同やブランドイメージの稀釈化による有形無形の不利益を被っているものとみられる。さらに,マサキは,本件申立てを受けた後も,特にこれを改める気配はなく,かえってマサキ店舗とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲」2号店を設けるに至っている。
以上のような本件の事情を総合考慮すると,本件申立てについては保全の必要性があるというべきである。」(注:「債務者」は「マサキ」に、「債権者」は「コメダ」に変更)

(まとめ)
本件は、事実関係をみると「事業者間の公正な競争」とは言い難い。こうした事実関係は、裁判所に、法目的に鑑みて保護すべき事案としての心証形成に強く作用したとしても不思議ではない。こうした心証形成が、裁判所に、店舗の外観類似に基づいて不正競争行為に該当すると判断させた要因の1つに違いないと筆者は考えている。

3.マリカー事件
(東京地裁 平成30年9月27日判決 平成29年(ワ)第6293号 不正競争行為差止等請求事件)

原告:任天堂株式会社(以下、任天堂)
被告:株式会社MARIモビリティ開発(以下、マリモ)

(筆者的ポイント)
本件は、不正競争防止法に基づいて事案の解決が図られた一方、著作権法に基づく判断は回避された。なお、この裁判は、控訴されているようであるため、いずれ控訴審がでるであろうが、控訴審を理解するうえでも、この第1審を理解しておくことは、有意義であると考える。

(事件の概要)
「マリオカート」等のゲームを販売する任天堂が、「マリカー」の標章やゲームキャラクターのコスチュームを使用等し、公道カートレンタルサービスを行うマリモに対して、不正競争防止法及び著作権法に基づいて「マリカー」の標章の使用差止め、ゲームのキャラクターであるマリオ等のコスチュームの使用差止め等を求めた裁判である。
任天堂は、平成4年8月からスーパーファミコン用のゲームソフトとして「スーパーマリオカート」を発売し,平成26年5月までの間に、合計8本の「マリオカート」シリーズのゲームソフトを販売している。また、「マリオカート」は、「マリオ」、「ルイージ」、「ヨッシー」、「クッパ」等のキャラクターが、カートに乗車して様々なコースを走行し,レースを繰り広げることを特徴とするゲームシリーズである。
裁判所は、不正競争防止法に基づいて「マリカー」の標章の使用差止め、ゲームのキャラクターであるマリオ等のコスチュームの使用差止め等を認めた。


上写真 引用
毎日新聞2017年2月24日 18時57分 (最終更新 2月25日 12時30分))
記事:任天堂 カートレンタル会社を提訴…マリオ衣装無断使用で

・差止められた標章
1 マリカー  2 MariCar  3 MARICAR  4 maricar

・差止められたコスチューム
(※「下記写真」は、本判決をご参照下さい。)
 1 [下記写真中の人物が着用する「マリオ」のコスチューム]
 2 [「マリオ」のコスチューム1]
 3 [「マリオ」のコスチューム2]
 4 [下記写真中の人物が着用する「ルイージ」のコスチューム]
 5 [「ルイージ」のコスチューム1]
 6 [「ルイージ」のコスチューム2]
 7 [下記写真中の人物が着用する「ヨッシー」のコスチューム]
 8 [「ヨッシー」のコスチューム]
 9 [下記写真中の人物が着用する「クッパ」のコスチューム]
10 [「クッパ」のコスチューム]
11 [被告マリカーの店舗入口に設置された「マリオ」の人形]

・差止められたドメイン名
1 maricar.以下省略          2 maricar.co. 以下省略
3 fuji-maricar. 以下省略        4 maricar. 以下省略

(裁判所の判断)
任天堂の請求に対する裁判所の判断を列記した。本件は多数の請求と各判断との関係が複雑であるが、下記資料が大変よくまとまっていたので利用させていただく。
(出典:弁護士ドットコム 2018年11月01日 10時11分配信 「マリカー判決、コスプレ著作権「パンドラの箱」はなぜ開かなかったのか? 福井弁護士が判決文を読み解く」)

  1. 「マリカー」商号などの使用差止・抹消
    →〇(外国語のみのサイト等除く):不競法2条1項1号 (周知標章混同惹起行為)
  2. 「マリカー」商号の登記抹消
    →×:商号は「MARIモビリティ開発」に変更済み
  3. 「マリカー」関連ドメインの使用差止
    →〇(外国語のみのサイトは除く):不競法2条1項13号 (ドメイン不正使用)
  4. 「マリカー」関連ドメインの登録抹消
    →×:ドメインはすでに抹消済み
  5. 「マリオ」など4キャラクターのコスチューム・人形の、 営業使用の差止
    →〇:不競法2条1項1号(周知標章混同惹起行為)
  6. 「マリオ」コスプレ等の映った写真・動画の、 サイトからの削除・破棄
    →×写真の破棄、 ○動画の破棄:不競法2条1項1号 (周知標章混同惹起行為)
  7. 「マリオ」など4キャラクターの複製・翻案・公衆送信等の差止
    →×:著作権法「具体的特定を欠く広範・無限定な差止」 として認めず
  8. 「マリオ」など4キャラクターのコスチューム貸与の差止
    →○不競法による差止の一環として認める。
    ×著作権について「判断するには及ばす」
  9. 1000万円の損害賠償
    →〇:不競法2条1項1号・13号

(不正競争防止法による解決)
本事案では、任天堂の商標や標章(営業表示)が問題となったのではなく、ゲームのキャラクターの使用等が問題となっていることから、著作権に関する裁判であると思われがちであるが、実質的には不正競争防止法に基づいて判断がなされた事案である。

これまでも任天堂は、ゲーム業界のリーダとして、積極的な権利主張を行っている。例えば、不正コピーされたゲームソフトを実行可能にする機器、いわゆるマジコンに対する差止等の権利行使(不競法2条1項11号)を主導している。ゲームのキャラクターに関する本件も、任天堂のゲーム業界のリーダとしての積極的な権利主張の一環であると考えられる。

今回、裁判所は、不正競争防止法による事件解決を選択することで、任天堂とマリモとの間の実情等を総合考慮したうえで不正競争行為の有無を判断することとした。すなわち、任天堂とマリモとの2者関係だけにおいて、不正競争行為の有無を判断した。こうした判断により、当然に本事件が適正に解決された。加えて、本件判断が、任天堂とマリモとの間に生じる未来の事件や、任天堂と第三者(マリモ以外)との間の事件に影響を及ぼすおそれが小さくて済むと考えられる。

これが著作権による事件解決が図られたらどうなるであろうか?もし、裁判所が、任天堂のゲームキャラクターに、任天堂を権利者とする著作権の権利行使を認めたとするならば、その影響は、任天堂とマリモとの間の本事件だけにとどまらない。任天堂が権利行使できたという影響が、愛好者、二次作成者、ネット等における記事や論評、談話等に対して、有形無形に及んでしまい、望まれない抑制や萎縮を生じさせるおそれがある。

裁判は、対象事件について、原告と被告との間で公正に行われる攻撃防御に基づいて適切な解決を図るものである。攻撃防御が行われていない別事件に対しては、それが、類似する事件と思われたとしても、本件判断が与える影響は小さい方が好ましい。この点、当事者間の不正競争行為の有無判断に基づく不正競争防止法による解決は、適切であったと筆者は考える。ここで敢えて著作権による解決を図り、当事者間の枠を超えて、社会に無用な混乱や萎縮を与える必要はないのである。

なお、本件は今後、控訴審での解決が図られていくが、多少の修正はあるだろうが、不正競争防止法での解決を図るという方向性の維持が好ましいと筆者は考え、今後も注意深くみていきたい。
また、任天堂には、知的財産権の活用について、様々な可能性を探りつつ、ときには制度の課題を指摘しつつ、ゲーム業界の発展に邁進して頂きたいと考えている。
一方、レンタルカートを初めて見たときに驚きを感じたことを覚えている。人気のある事業なので、権利侵害の無い運用を期待したい。

 

2019年5月発行 第115号

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