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「パテントメディア」

知財マンの心理学14 交流分析TAまとめ

2018年1月
会長 弁理士 恩田博宣

1) TAの振り返り

これまで、このパテントメディアで、多くの人生脚本を紹介してきました。この人生脚本や基本的ポジションはそれがマイナスのものである場合、自分がそれに気付いて、常に意識し改善しようとしない限り、一生続きます。「俺の人生は、なぜこうもうまくいかないのか」ということになりかねません。
筆者には「重要であってはいけない」という人生脚本があります。専門家の指導で、この脚本があることが分かりました。筆者はその後、この脚本による行動が起きたときには、それに気付くことができます。ただし、気付くことができるのは、過去に同様の経験があった場合に限ります。事務所の慰安旅行で集合写真を撮るような場合、筆者は会長ですので、前列真ん中に並んでいいわけです。しかし、以前は部下に「前に出なさい」といって、自分は後ろの隅に並んだものです。この行動が脚本に基づいていると分かると、その後は同じような集合写真を撮る際、前列真ん中に並ぶことができるようになります。
過去に同様の経験がない新しい場面では、脚本に基づく行動に気付きにくいのです。
まず、人は人生脚本や基本的ポジションによって、決断や行動が規制されていることを知り、自分のそれを理解して、行動を修正することによって、より良い人生を歩むことができます。
さて、本号ではTAの話を終了するに際して、全体を振り返りたいと思います。TAは自己分析により、自分を知り、問題のある行動を修正し、よりよき人生を送ろうとするものです。この目的を実現するために、以下の7つの分析方法があります。それらは@自我状態分析、Aやりとり分析、Bストローク、Cディスカウント、D対人関係における基本的な構え、E心理的ゲーム、F人生脚本でした。

2−1)自我状態分析 (パテントメディア99号参照)

人が24時間を過ごすとき、その心の状態は、両親P(Parents)、大人A(Adult)、子供C(Child)のいずれかの状態に分類できるといいます。
特許事務所の所長がQCサークル活動6か月間の終盤に当たり、QCサークル活動を監督する改善推進室のスタッフとともに、あるグループの報告を聴いています。所長の心の状態は穏やかではありません。「H社の技術が難しいために勉強会をQCサークル活動のプロセスに乗せてやろうという活動方針はOKだ。しかし、6か月の時間をかけて、参考書を一冊選択しただけの結論じゃないか。いいか、現在、事務所の出願手数料の値上げは不可能だ。QCサークル活動で成果を挙げること以外に給与アップの源泉はないのだ。参考書を一冊選んだだけで給料は上がるのか。改善推進室は何をやっていたのか、指導監督ができていないではないか」と批判しています。QCサークル活動がうまくいっていないことに対するいらだちと、部下であるQCリーダとQCサークル活動の指導に当たる改善推進室メンバーに対する批判が出たのです。心の状態は批判のPです。Pにはほかに保護のPがあって、人を愛し、思いやりを持ち、世話をするという面もあります。
所長のところへ大手企業の知財部長から電話がかかりました。「知財部に十分な人材を配置してもらえず、人手不足で困っています。さらに、中堅スタッフの知財部員が父親の後を継ぐということで、突然退職することになり、ピンチになってしまいました。3か月だけでいいので、貴事務所から一人明細書担当の所員を派遣してもらえないでしょうか。急を要することで申し訳ありませんが、ご検討をお願いします。」「そうですか。それはお困りでしょう。当所も人員不足は同じですが、何とかする方向で検討します。一両日中に誰を派遣するかご返事申し上げます」
このやりとりは人間関係に問題を生ずるようなことはない安全なやりとりです。前記P、A、Cの心の状態でいうならば、大人Aの状態でやりとりしているといえます。冷静に客観的に論理的に、どうすれば合理的かを判断し対応しています。
所長のところへ国内管理部のYさんが報告にやってきました。「所長、昨日、市民会館で行われましたQCサークル発表会で県知事賞を獲得しました。優勝でした」「本当か、それはすごい。当所のQCサークルの実力は相当なもんだねえ。ところで活動の内容は、確か当所が独自の納品システムを提案し、それをお客様にご利用いただくという内容だったと思うが」「そうです。明細書や請求書のオンライン納品が増えてきましたが、各企業のシステムがバラバラなので、対応が大変です。そこで、まだ納品をシステム化していないお客様へ、当所独自のシステムをご提案したところ、それを15社もご利用いただけることになりました。1種類のシステムで多数のお客様対応を可能にし、事務能率を向上させた活動でした」「そうだそうだ。そうだった。知事賞か。よくやった。賞状も立派だし、盾もあるじゃないか」
このやりとりはYさんの報告を聴いて、日頃の希望がかなえられ、所長は無邪気に喜んでいます。所長の心の状態は、子供のCということができます。
PやCの状態をコントロールするのが、Aということもできます。
自我状態をP、A、Cに分けました。そして、「自分はどの自我状態が強く現れるのか」、「それはどこから来ているか」「今自分がどのような状態で、人と接しているのか」を意識し、Aを働かせる。このようにして、人との関係を良化向上してほしいものです。

2−2)やりとり分析 (パテントメディア100号参照)

所長「国内特許部A弁理士のこの特許権の属否の鑑定書、読ませてもらったよ。素晴らしいなあ。技術理解もしっかりしているし、従来技術と解決課題を踏まえて構成要件をよく分析している。文言侵害はないが実質同一の理論構成も分かりやすい。訴訟では有力な武器になるだろうな、彼も一人前になったなあ」
B弁理士「そうなんです。彼は最近の進境著しいといえます。お説の通り技術理解もしっかりしているし、鑑定の勘所を実によくとらえています。素晴らしいと思います」
このようなやりとりは何のわだかまりもなく、その後も続くやりとりです。
もし、B弁理士が次のように答えたならば、どうでしょうか。
B弁理士「確かに一見よく書けているように思えます。しかし、従来技術については、調査部門が完璧に調査を行ってA弁理士に提供しています。しかも、鑑定の理由の重要部分については、先輩弁理士の指導の下に案出したものですし、仕上げるまでに3週間以上かかっています。あまり買い被るのもよくないと思います」
このように応じたとすると、そこには感情の行き違いが生じて、嫌な雰囲気になります。途切れてしまうやりとりだといえます。
前者を相補的やりとり、後者を交叉的やりとりといいます。表面は相補的であっても、隠れた裏面のやりとりでは交叉的になっていることがあります。「H特許事務所は納期遅れが多いなあ」と知財部長が部下に対して発言したとき、「お前の納期管理がしっかりしていないからだ」という暗黙の隠れたやりとりがあるといえる場合です。
やりとり分析では、知財マンの人間関係をスムーズにするために、まず、自分のやりとりにどのような傾向があるかに気付くことが必要です。そして、知財部で通常は相補的やりとりが行われていても、突然自動的に交叉的やりとりが生ずるようなことは、時としてあります。やりとり分析の理論を知っていますと、それに気づくことができます。交叉的やりとりを冷静にAの自我状態から相補的やりとりに戻すことができるのです。人間関係は正常に維持できるのです。
交叉的やりとりが必要なときもあります。本題と関係のない議論が続いているときに、「お話し中ですが、議論を本題に戻したいと思います」のように交叉的に介入し議論を正常な方向に戻すような場合です。

2−3)ストローク (パテントメディア101号参照)

人が健康に生きていくために、心の面で必要とするもの、それは自分以外の人から関心を持たれることです。人との接触から得られる刺激ともいえます。この精神的な刺激のことをストロークといいます。
ストロークがなくなったり不足したりしますと、幼児期においては成長が止まってしまうということが起こります。脊椎の委縮という肉体的な疾患さえ発生するのです。成人の場合は心のバランスを失い、ふさぎ込み等の精神疾患に陥ることが起こります。他人から関心を持たれることの重要性をものがたっています。
ストロークには肯定的なものと否定的なもの、そして、それぞれに肉体的に接触するタッチストロークと精神的な心理的ストロークがあります。

@肯定的タッチストローク 
S知財部長が弁理士試験に出かけるH知財部員に対して、「落ち着いて頑張るんだぞ」と肩をたたいて励ます場面
A否定的タッチストローク 
「何だこの意見書は。全然反論になっていないじゃないか」とその書類で、部下の手の甲をたたくような場面
B肯定的な心理ストローク 
「先日お客さんが来所されたときのお茶は美味しかった。その後コーヒーを出すタイミングもどんぴしゃりだ。よくやったな」とお褒めのケース
C否定的な心理的ストローク 
特許事務所所長から部下の弁理士に対して「この鑑定は何だ。技術的範囲に属しないとの根拠があいまいじゃないか。むしろ実質同一を理由として、抵触の判断をしなければならないんじゃないか」と叱責したケース

人が他人から関心を持ってもらえなくなると、否定的なストロークでもいいから、関心を持ってもらおうとするようなことが起こります。わざと遅刻をして上司の叱責を買うようなケースです。
人間関係をよりよいものにしようとする場合、注意すべきは、自分がどのようなストロークを発信することが多いかに気付くことです。通常、人はプラスのストロークを与えるよりも、マイナスのストロークを与えることの方が多くなります。よりよい人間関係を構築するためには、プラスのストロークを多く発信した方がいいのです。そのためには部下や家族の行動を注意深く観察するようにすれば、ストロークの種はいくらでも気付くことができます。
筆者の事務所では、部門長に対して、最低週1回は部下のお褒め事項を所長に報告することを義務付けています。部下一人の部門長でも毎週報告があることもありますが、10人以上の部下を持つ部門長でもなかなか週一のお褒め事項報告ができないことがあります。いかに人に関心を持つかの違いだと思います。所長から本人に対してお褒めメールが届きます。明らかにその人は、うれしく、勇気づけられ、元気になります。そして、多くの場合、所長に対してお礼のメールが届くのです。
子供がストローク不足の状態になると、親の言うことを聞かなくなったり、非行に走ったりします。ストロークの重要性をご理解いただきたいと思います。

2−4)ディスカウント (パテントメディア102号参照)

知財部長「この意匠権に関する属否の鑑定よくできているな。従来意匠を踏まえた要部の認定は秀逸だ。普通、この意匠を見たら上部形状が要部だと思うんだが、従来意匠を踏まえると、下部形状が要部になっているな。実に面白い。意匠の鑑定のお手本だな。いつの間にか君は意匠のエキスパートになったな」
知財部員Y「部長お褒めいただきありがとうございます。しかし、この鑑定は意匠鑑定の常識をもって行ったにすぎません。この程度の鑑定は誰でもできますよ」
ディスカウントとは、自分自身や他人に今起こっている人間関係の状況を軽視したり無視したりすることをいいます。
前記の部長と知財部員Yの会話では、Y君は自分の意匠鑑定能力を過小評価しただけではなく、部長の鑑定評価能力をも軽視ないし無視しています。ディスカウントが行われたのです。
このケースではY君は謙遜のつもりで、発言しているのですが、部長の気分はどうでしょうか。「私が素晴らしいと褒めているのに、それを否定しているじゃないか。いやな奴だ。どうして素直にお褒めを受け取れないのか」と嫌な気分になります。
ディスカウントが横行する職場は人間関係をむしばんでいき、とげとげしくなっていきます。
この場合注意すべきはY君が「部長の能力を軽視しちゃった。まずいな」と気付く場合はいいのですが、へりくだるのは人格者の美徳とばかりに、自分のディスカウント発言をよしとしてしまっている場合です。このように気付かない人の方が多いのです。
褒められて、「いえいえ、私の能力はたいしたことありません」というケースは何と多いことか。職場の雰囲気を壊す所業です。
「お褒めいただきありがとうございます。とてもうれしく思います。励みになります。益々勉強して、意匠の権威になります」のように応答すれば、お褒めは丸々自分のもとなります。その場の雰囲気も上々です。人間関係が向上すること請け合いです。
ディスカウントには次の4種類があります。
@問題の存在そのものを否定する
「当社の製品が他社特許を侵害しています」「構成要件をひとつ外しているから大丈夫」
A問題の存在は認めてもその意味合いをディスカウントする
「当社の製品が他社意匠権を侵害しています」「そうか。侵害だとしても解決は意匠権だからそう手間取ることはないよ」
B問題に解決の可能性のあることをディスカウントする
「他社の侵害に対して、強い特許を取らなければならないことはよく承知しています。しかし、日程が厳しく、費用の節約もあって、十分な検討時間がとれません。実現は非常に難しい状況です」
C問題を解決するための自分自身や相手の人の能力をディスカウントする
前記の意匠鑑定に関する部長と知財部員Y君のやりとりが、まさにこのケースです。Y君は自分の能力だけではなく部長の評価能力をもディスカウントしています。
知財部における人間関係の向上のために、ディスカウントとは何かを学ぶことは必須です。

2−5)対人関係における基本的構え (パテントメディア103号参照)

人は生まれてからおよそ3歳まで育つ間に、生育過程の中でかかわった両親を中心とする人との関係から、どのように生きるかという対人関係の基本的構え、即ち基本的ポジションを決断するといわれています。そして、その構えは生涯変更されることなく、一生を過ごすというのです。特にその基本的ポジションが積極的、肯定的なものである場合は問題がないのですが、消極的、否定的なものである場合、そのポジションが一生続くのですから困ったことになります。
知財部員の貴方は、部長からAIに関する最近の動向について、調査し、当社として開発部署に対してどのように働きかけるべきか第1次案を作成するように命令を受けました。
貴方は1か月をかけて調査分析をし、しっかりやったと自負できる第1次案を作成し、部長に届けました。報告書を見た部長からは「何だ、この報告書は、調査はまあまあとしても、当社が進むべき方向については、案が抽象的で具体性がないじゃないか。お粗末だ」と評価されてしまいました。
この評価に対して、貴方は
@私は能力が低いのだなあ。いつも調査では部長の評価はよくない。
A初めからだめなことは分かっていたさ。引き受けなきゃよかったな。
Bこの報告書の一体どこが悪いというのかなあ。部長の評価能力の問題じゃないかな。
Cもう少しあれこれ考えてやるべきだったな。不備な点を指摘してもらい、修正して、まっとうな報告書にしよう
の4つの反応のうち、どの反応をする可能性が高いでしょうか。
人は生まれてから3歳くらいまでの間に、両親、特に育ての親である母親との人間関係で人生をどのように生きるかについて、決める基本的ポジションは次の4つに分類できるとされています。
(1)I’m OK. You are OK.(自他肯定)
(2)I’m not OK. You are OK.(自己否定、他者肯定)
(3)I’m OK. You are not OK.(自己肯定、他者否定)
(4)I’m not OK. You are not OK.(自他否定)
これら4つのポジションのいずれかに、貴方のポジションも分類されるといえるのです。そして、人とのコミュニケーションは、この基本的ポジションに基づいて行われるというのです。ただ、基本的には人はどれか1つのポジションに分類できるとしても、筆者の経験からいいますと、一人の人であっても、現在の場面が、どのような人との関係で生じているかによって、必ずしも同じ1つだけの基本的ポジションが現れるのではなく、違ったポジションも現れることがあります。
さて、前述の@〜Cの考え方はそれぞれ次のように対応しています。
@→(2)、A→(4)、B→(3)、C→(1)
(1)のポジションは理想的なポジションですから、問題はありません。(2)〜(4)のポジションの人は専門的な臨床心理士のケアを受けるか、自分のポジションがどれかということを知って、(1)へと変化させる努力をしないと、全く無意識のうちに一生このポジションをやり続けることになります。
各基本的ポジションの形成は、1〜3歳の頃の育ての親、特に母親との関係で形成されます。
望まれて生まれてきた子供に対して、母親が深い愛情を注ぎ、多くの肯定的なストロークを与えながら育て、適度な躾(マイナスのストロークに当たる)が行われますと、子供は(1)のポジションを得ます。
この躾の部分がたくさんになって、「ああしなさい」「こうしなさい」「そうしてはいけません」「これはだめです」のように、マイナスのストロークが多くなりますと、子供は自信をなくし(2)のポジションを形成します。さらに、マイナスのストロークが多くなりますと、子供は一種のパニック状態に陥り、自分がうまくいかないのは人のせいだというように感じるようにして、つらい状態から救われようとします。私は正しいのだけれれども、相手の人が悪いのだというポジションを形成するのです。
また、望まれることなく、父親が誰かもわからず、親が遊びに夢中で育児放棄されてしまい、泣き止まないからと虐待を受けたような子供は(4)のポジションになります。知財部には通常(4)のポジションの人はいないと思われます。(2)(3)のポジションの人は自分のポジションを知った後、自助努力で(1)のポジションの方向へと進むことは可能です。しかし、(4)のポジションの人が(1)へと向かうには、通常その根が非常に深いため、専門的な臨床心理士のケアを受け、その上にハードな自助努力が必要となるでしょう。

2−6)心理的ゲーム (パテントメディア104号参照)

知財部員Uさんは部下のD君の遅刻やギリギリ出勤がどうしても解決できないので、困り果て何とかならないものかとS知財部長のところへやってきました。
知財部員U「部長、うちの課のD君はしょっちゅう遅刻をしたり、始業時間ぎりぎりの出勤が多かったりで困っています。何かいい方策はないでしょうか」
知財部長S「注意はしているのかね。立派な大人なのだから、厳重注意で直るんじゃないかね」
U部員「ところがしぶといというか、のれんに腕押しというか、そのたびに注意するんですが、効き目がないのです」
S部長「そうか、課長名の書面で注意したらどうかね」
U部員「口頭ではかなり強い調子で警告していますので、書面で効き目があるかどうか」
S部長「じゃあ、誰か知財部員をD君の面倒見ということで、タッグを組ませて、朝電話をかけせるとか、迎えに行って一緒に出勤するとかはどうかね」
U部員「面倒みてくれる知財部員を誰にするかです。選任が難しいですね」
S部長「じゃあ、単に注意するだけではなしに、1時間くらい時間をとって、どうして時間厳守ができないのかじっくり話し合ってみてはどうかね」
U部員「1時間なんて忙しいので、取れません。部長あんまり無理を言わないでください」
S部長「おいおい、君は何しに私のところへ来たのかね。私が何を言っても、全部拒否じゃないか。もう何も言うことはないよ」
U部員「すみません」
U部員はいい提案をもらおうと、まじめな気持ちで部長を訪ねているのですが、結末は「こんなはずじゃなかったのに」ということになってしまいました。S部長も結末を迎え、「U部員は嫌な奴だなあ。それにしてももう少しいい対応の仕方があったのじゃないかな」と気分は晴れません。このように会話が後味の悪い状態で終わったとします。その多くの場合が心理的ゲーム(または単に「ゲーム」といいます)なのです。上記のゲームは「うんでもゲーム」といいます。職場ではよく起こるゲームです。
どうして、ゲームが起こるのでしょうか。
U部員は困ってしまい、何とかしたいという顕在意識ではまじめな気持ちから知財部長を訪ねています。しかし、U部員の潜在意識(無意識)では「私に役立つ提案などさせるものか」という隠れた狙いがあります。無意識の部分では「日頃部内人事の融和について無関心の部長にいい提案なんかできるはずがない。俺の方が常に部内のコミュニケーションの向上に関心を持っているし、努力もしている」という気持ちがあります。
すなわち、U部員にはI’m OK. You are not OK.(自己肯定、他者否定)の基本的ポジションがあるのです。従って、この会話ではどこまでいっても、U部員は「それはいい提案です。さっそくやってみます」とは言わないのです。
S知財部長にも部下の相談に乗るのは上司の務め、部内人事融和を保つのは重要というある種の弱みを持っています。
このように心理的ゲームというのは、ゲームを仕掛けるU知財部員と仕掛けられるS知財部長がいます。そして、冷静なやりとりから始まります。「忙しいので、1時間もの時間を話し合いのために、取れない」とU部員が言ったところではぐらかしの段階に入ります。そして、S部長が「もう何も言うことはないよ」といった段階で、混乱の段階に入ったといえるのです。このように心理的ゲームは冷静→はぐらかし→混乱のように進みます。そして、後味の悪さが残るのです。
ゲームを仕掛ける人は受けるストロークが少ない人なのです。すなわち他人から関心を持ってもらえない人が、関心を持ってもらおうと起こすのが、ゲームだというのです。ストロークの項で述べたように、人はストロークなしでは生きていけません。ストローク不足になると、否定的なマイナスのストロークでも欲しくなります。ゲームはストロークを得るために仕掛けられるともいえるのです。

2−7)時間の構造化 (パテントメディア105号参照)

時間の構造化とは、自分の時間をできる限り有効に使いたいという欲求を実現することをいいます。人は誰もが意識すると否とにかかわらず、時間を有意義に使いたいという欲求を持っています。
時間の使い方を交流分析(TA)では、次の6種類に分類しています。
@引きこもり(自閉)
A儀礼
B社交
C活動(仕事)
Dゲーム(心理的ゲーム)
E親密(親交)
いずれの場合も人の意識としては、自分の時間を有効に使おうというものです。ただし無意識の意識もあります。

@引きこもり(自閉)

失恋したとか、両親が亡くなったとか、仕事上の大失敗があったとか、で精神的に大きなダメージを受けたとします。食事も満足にできない、仕事もやる気がしない、人との会話もしたくないという状態に陥ってしまいます。このようにふさぎ込んでしまい人との接触を断つような消極的引きこもりがあります。
一方、重要出願の明細書作成のために、十分な資料を整えた後に、外部から邪魔が入らないように、自宅に引きこもり、在宅勤務で仕事をするというような積極的引きこもりもあります。

A儀礼

朝出勤時に「おはようございます」退勤時に「お疲れさまでした」というのが、儀礼に当たります。取引先の社長が講演をするというので、義理立てをして、演題は興味のないものであるにもかかわらず、聴きにいくというのも儀礼でしょう。
また、こんな儀礼もあります。会議に出たが自分の課には関係のない議題が協議されるような場合です。ライセンス課の所員が「出願増加策」について協議される会議に出席しているような場合です。興味もないので、形式的に出席だけしていて、心ここにあらざるの状態。こんな状況も儀礼といえるでしょう。

B社交

知財部で重要な会議を始める場合に、部長が天気の話、景気の話、趣味の話、服装の話、旅行の話等を軽く話して、その場の雰囲気を和らげてから、会議の話題に移る、というようなことはよく行われます。一種のウォーミングアップですが、その場の雰囲気を和ませ、その後の進行をスムーズに進ませるためにはいいことです。
例えば、厳しい侵害事件の和解交渉が始まる前に、
A社知財部長「遠いところお越しいただきありがとうございます。昨日の台風はかなり荒れたようですが、御社ではなんの被害もありませんでしたか」
B社知財部長「ありがとうございます。幸いこれといった被害はありませんでした。昨日は知財部のゴルフコンペを計画していたのですが、お流れになってしまいました。最近調子がいいものですから、優勝をねらっていたので、残念でした」
A社部長「それはそれは残念でした。仕切り直しですね」
とこんな会話がもたれたとするならば、その場の雰囲気は和らぎ、その後の厳しい交渉によい影響があることは、容易に想像できます。
また、例えば「お元気ですか」とか「しばらく顔見なかったけど元気か」というように声をかけたとします。先に見た儀礼と比較すると、相手に対する気遣いがあって、ストロークの交換という意味では少し深いものになっています。しかし、このやりとりも「ハイ元気です」「ありがとうございます。何とか元気です」のような答えで終われば、形式的な面が強く、社交といえるでしょう。

C活動(仕事)

知財マンの多くは、最も多くの時間を仕事に費やしています。多分その仕事は、明細書をチェックしたり、特許クリアランス調査をしたり、ライセンス契約書を作成したり、発明届出書により発明を把握し発明者に質問したり、侵害訴訟の報告書を書いたり等々、色々です。
活動の中には仕事以外のこともあります。ゴルフ仲間とゴルフに出かけたり、家庭において大掃除をしたり、買い物に行ったり、趣味の音楽を聴いたり、映画を見たりです。
このように活動をしている人の心理状態は、冷静に客観的にデータを集め、それを基に理論的に考えて物事を処理します。決断します。判断します。
音楽を聴いたり映画を見たりして、感激し、評価し、納得し、ということもあります。
通常、知財マンは活動によって最も多く時間を構造化しています。
ある知財部長の1日です。
5時起床、テレビのニュースに耳を傾けながら、15分間のストレッチをする。体が十分柔らかくなったところで、録画を再生してテレビ体操。6時半前に奥さんの作った朝食を済ませる。出勤前に本日の予定をチェック。
前日出来なかった書類に目を通す。国内出願削減、外国出願増の企画提案書だ。早朝というのに実戦さながらの真剣なまなざし。7時には出勤のため家を出る。知財部着8時20分過ぎ。まだ知財部員は数人しか出社していない。作日、精密検査のために午後休んだC部員に声をかける。「おーいC君、検査の結果はどうだった、大丈夫か」「肝臓が脂肪肝になっていることが分かりました。要注意ですが、当面の勤務に影響することはありません」「そうか、よかったな。気をつけろ」
9時、定刻。全知財部員が揃う。部課長が集まり、本日の重要な予定について確認が行われる。午前中は2時間かけて、役員会に対して知財部方針の説明会である。外国出願増加方針を主に説明する。厳しい質問にも的確に応答。
午後1番にはD特許事務所の新所長が就任の挨拶に来るので、その応対にでる。前所長は会長になり、息子が新所長になったとのこと。
その後、午後2時からは、意匠権で発生した問題の相談だ。当社は機能的な製品なので、意匠権には無関心だった。しかし、他社がその機能部品の極めて細かい部分の改良について意匠権を取ったので、その部品を納品させてくれという要請があった。もう、子会社に発注済みなので、簡単にはOKできない。確かに見ようによっては、当社製品の部分とよく似ており、困った案件だ。意匠の専門家は当社の知財部にはいない。意匠権に詳しいE社の知財部長の紹介で意匠専門の弁理士にも来てもらい、相談したところ、何と「権利とイ号との僅かな違いに着目し、早期審査で当社も意匠権を取ってしまおう」という、よい案を提案してもらった。これならうまくいきそうだ。その案を理解するのに手間取り、長時間を要した会議は終了した。
午後6時半からは、新人知財部員の歓迎会だ。部長としては出席必須に思えるので出る。意匠紛争のことは忘れて、新人を励まし自身も結構楽しんだ。しかし、明日もあるので、早めに退席する。充実の1日が終わった。

Dゲーム(心理的ゲーム)

ストロークは本稿2-6で説明しました。また、パテントメディア104号でも説明しました。
すなわち、人は他人から関心を持たれることが必要なのです。関心を持たれる人への働きかけのことをストロークといいます。人はストロークなしでは生きていけません。子供がストロークなし、あるいはきわめてストロークが少ない状態で放置されますと、成長が止まってしまい身体的疾患に陥ることさえあるのです。
人がストロークを満足にもらえない状態を、ストローク飢餓の状態といいます。
ストローク飢餓の状態に陥ると人は、マイナスのストロークでもいいから関心を持ってほしいと感じます。そのストロークを求めて行われるのが心理的ゲームです。2-6)では、「うんでも」ゲームを見ました。
そのほかに「あなたは酷い人」「あらさがし」「キックミー」「あなたのせいでこうなった」「私は馬鹿者」等々のゲームがあります。
自分の時間を有効に使おうとして、また、関心を買おうとしてゲームを仕掛けられる方はたまったものではありません。いかに早くゲームになっているかに気付き、そこから脱出するかがポイントです。

E親密(親交)

時間の構造化で親密とは、本音のやりとりが非常にうまくいって、お互いが共感でき親密さが増す状態をいいます。
自分の方からも、真実をさらけ出し、相手に対しても率直に言いたいことをいうやりとりなので、異なった意味に受け取られて、誤解されたり、傷つけてしまったりということもあります。ある種の危険があるのです。
その危険を恐れて親密なやりとりを避け、儀礼や社交のやりとりになる傾向があります。そうすると先に述べたストローク飢餓の状態を招きやすいのです。
相手に対して信頼を寄せ、信じてやりとりをすることによって、自分もさらけ出し、相手も同じように信じて、自分をありのまま真実さらけ出すところに親密のやりとりがあります。互いに尊敬しあう信頼感が醸成されるのです。
知財部長「昨日、午後精密検査に行ったそうだが検査の結果はどうだった」「胃カメラをやったのですが、ポリープを2か所切除しただけではなしに、癌の疑いもあるので、切除した組織を病理検査に出すといわれました」「1週間後に癌かどうかが分かる予定です」「そうか、それは心配だなあ。専門家じゃないのでわからんが、もし、癌の組織が見つかったならば、どういうことになるのかな」「その点についても訊いてみました。もし、癌だとしても、大きな癌ではないので、手術してがん組織を切除することで完治するだろうとのことでした」「そうかそうか。命に別状はないのだな。それは良かった。手術で入院することになっても、知財部のことは心配しなくても大丈夫だからな。仕事は何とかして、君の復帰を待っているよ」
検査の結果を包み隠さず報告して、さらけ出しているのは部長を信頼しての言動だといえます。部長も「復帰を待つ」と厚い信頼で応えています。

2−8)人生脚本 (パテントメディア106〜110号)

人生脚本については、パテントメディア106〜110号で見てきました。人の行動のパターンや思考パターンを支配する基本的ポジション(パテントメディア103号参照、当所HPでご覧いただけます)のほかに、同じように人の行動やものの考え方を規制する人生脚本があります。
基本的ポジションは生まれてから3歳くらいまでの間に主として、育ての親である母親との関係で形成されます。一方、「人生脚本」は3歳から14歳くらいまでの間に経験する心理的に強い印象を残す出来事によって形成されるといわれています。
私たちは意識しなくても、即ち無意識によって考え方や行動がコントロールされます。それがまさに潜在意識です。
成功哲学の多くが、成功するための考え方や行動のパターンを繰り返しの力によって、潜在意識に刷り込んでしまい、あらゆる思考や決断、その結果として生ずる行動を、無意識のうちに自動的に成功の方向に向けさせようというやり方をします。
ところが、私たちが潜在意識に持っている思考や行動のパターンは過去の体験に基づいています。何回か積極的に物事に対応してうまくいった人は、それが潜在意識にパターン化されていますし、親の言いつけに背いて何回も失敗し、辛酸をなめた人は「もう親の言いつけに背くのは止めよう」をパターン化します。
人生脚本は全てこのようにして、潜在意識に刷り込まれた思考や決断、行動パターンが、その人をあらゆる場面で、無意識かつ自動的に支配するのです。自動的に表れてしまうだけに、意思の力でコントロールできません。マイナスのパターンの場合は「どうして俺の人生はこんな風なんだろう。他の人はうまくやっているのに」ということになるのです。

@人生脚本にはどんなものが

禁止令といわれるものの例が次の通りです。
1.存在してはいけない
2.所属してはいけない
3.成長してはいけない

ドライバーといわれるものの例が次の通りです。
1.急げ
2.完璧であれ

以上は人生にマイナスの影響を与える「人生脚本」ですが、プラスの影響を与える脚本もあるのです。
1. 九死に一生
2.人間信頼
3.豪放磊落
4.一生健康

Aどのように形成されるのか(禁止令「存在してはいけない」)

幼児決断といわれる状況で形成されます。E子さんは幼児期に両親の夫婦喧嘩を偶然耳にし、陰からそれを聞きました。
母「あなたはいつもいつも女のことで問題を起こし、その解決を私に押し付けるんだから。今回はもう知らないわよ」
父「すまん、すまん。もう2度とこんなことはしない。今度だけ金を都合してくれよ」
母「何言ってんのよ。私はE子が父親なしになるのがかわいそうだから、離婚しなかっただけよ。あの子がいなかったらとっくに別れていたわよ。あなたなんか、もう、顔も見たくないわ」
幼児期にこんな会話を聞かされたE子さんには、「私がいるからお母さんは離婚できない。私がいなければお母さんは幸福になれる。私はいらない子だ」が強くインプットされます。そして、「私は存在してはいけないのだ」という人生脚本が形成されます。印象が強いだけに、潜在意識に刷り込まれてしまうのです。
これが人生脚本です。
この人生脚本はそれほど普段の生活で表れることはありません。しかし、大恋愛の末、人生を共にしたいと切望した男性から、別れ話を持ち出されるというような心理的に大きなショックを伴うような事件が起きたときに、突然のように表れます。いとも簡単に自殺をしてしまったりするのです。無意識に自動的に起こるのです。

Bプラスの人生脚本

勝海舟やJさんの脚本の話をしました。2人とも九死に一生、豪放磊落、世のため人のためというプラスの脚本の持主でした。Jさんは第2次世界大戦において、日本海軍の軍人として、巡洋艦に乗船中、敵機の攻撃により撃沈され、それでも海中に漂うこと30時間、生還するという経験がありました。また、戦艦大和最後の出撃の前夜、艦長から歴戦の勇士として海軍機関学校の教員に赴任するよう命ぜられました。九死に一生のエピソードとして印象的でした。

2−9)まとめ

以上、交流分析(TA)の知財マンの心理学を終了するに際して、まとめとして、もう1度全体を概観してみました。もし、興味を感じられたならば当所ホームページ(パテントメディア第98号〜第110号)において、全体を詳しく読んでいただくことができます。
筆者が部下とのコミュニケーションがうまくいかず、悩んで解決策の一つの手段として学んだ交流分析(TA)を、知財マンに応用して書き進めたものです。知財部の管理運営に少しでも役に立つことを願っています。
また、筆者は心理学者ではありません。従って、学問的に見ると、誤りがあるかもしれませんが、ご容赦いただきたいと思います。
なお、知財マンの心理学はこの先も数回は続けたいと思っています。それらは交流分析とは離れますが、コミュニケーション向上のために、役立つ心理面の話です。どうぞご期待ください。

2018年1月発行 第111号

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