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「パテントメディア」

知財マンの心理学13 人生脚本5

2017年9月
会長 弁理士 恩田 博宣

1) 始めに

引き続き「人生脚本」を取り上げます。人の行動のパターンや思考パターンを支配する基本的ポジション(パテントメディア103号参照、当所HPでご覧いただけます)のほかに、同じように人の行動やものの考え方を規制する人生脚本があります。
基本的ポジションは生まれてから3歳くらいまでの間に主として、育ての親である母親との関係で形成されます。一方、「人生脚本」は3歳から14歳くらいまでの間に経験する心理的に強い印象を残す出来事によって形成されるといわれています。
前回、マイナスの人生脚本「成功してはいけない」を持つ美人ゴルファーローラ・ボー、目標を持たないY君、再就職希望の才女Sさんの話でした。潜在意識に刷り込まれたマイナスの脚本の怖さが印象的でした。

2)人生脚本にはどんなものが

前回までにいくつか例示した人生脚本を復習のため、いくつか以下に掲載します。

禁止令といわれるもの
1.存在してはいけない
2.所属してはいけない
3.成長してはいけない
4.独り立ちしてはいけない
5.成功してはいけない
6.重要であってはいけない
7.健康であってはいけない
8.楽しんではいけない
9.幸福になってはいけない

ドライバーといわれるもの
1.急げ
2.完璧であれ

人生にプラスの影響を与える脚本
1.九死に一生
2.人間信頼
3.豪放磊落
4.世のため人のため
5.滅私奉公
6.素直に

3)独り立ちしてはいけない

今回は前回の再就職希望Sさんのケースとよく似た事例ですが、A子さんのケースを取り上げるとともに、潜在意識の存在の証明について述べたいと思います。
A子さんのケースも米国特許弁護士の秘書を募集したときの話です。残念ながら当所に就職することなく、辞退されてしまったケースです。
何人かの応募があったのですが、最有力候補のA子さんは東京の一流大学の英文科を卒業していました。そして、英語の能力を活かすべく、東京の商社や外資系の会社に入るため就職活動をしたのですが、彼女の母親は、出身地である人口30万人ほどの地方都市へ帰るように主張して譲りませんでした。
どこへ就職するか決定しなければならない土壇場になって、A子さんは自らの意思を通すか、お母さんの希望に従うか、ずいぶん悩んだそうです。
お母さんは最後には泣いて地元へ帰るように懇願しました。A子さんはやむなくお母さんの言うとおり、東京での就職をあきらめ、その出身地の地方銀行へ就職したのでした。
大学へ入るときには、「自宅から通える大学へ」という母親の希望をふりきって東京の大学へ進学したのですが、そのとき母親から「就職だけは地元でね」という説得があったそうです。地元の銀行への就職の伏線になっていたのです。
彼女が就職した地方の銀行では英語力を活かす道がなく、もんもんとする日々でした。
そして、A子さんは母親の説得にかかり、何か月かかけてとうとうアメリカ行きの同意を取り付けました。
1年余りで銀行を退職した彼女はアメリカに渡り、持ち前の英語力を活かし日本語学校の先生として、活躍する道が開けました。
アメリカでの活躍を話す彼女の目は輝き、実に明るく楽しげであった様子からも、その生活は最良の日々であったに違いありません。
彼女は履歴書と一緒に語学専門学校の校長の推薦書まで添付してきていました。惜しまれつつその学校を去ったことが推察できます。
アメリカでの生活がまだ1年もたたない頃から、手紙や電話による母親からの帰国説得工作が始まりました。かなり執拗だったようです。最後には就職のときにそうであったように、お母さんは泣いて帰国するようにA子さんに頼んだようです。その説得に負けたA子さんは後ろ髪引かれる思いで帰国したのでした。しかし、就職する当てはなく、お母さんは「そろそろお嫁にいく準備でもしたら」と、お茶やお華や家事をやるように勧めたそうです。
A子さんはなかなかその気になれず、どこか自分の力を活かせるいい職場はないかと、時々新聞や求人誌を見ていて、当所の求人広告を見つけ、応募してきたのでした。
A子さんの住むところはちょっと遠かったのですが、通えない距離ではありませんし、当所の米国特許弁護士もちょうどその隣の町に住んでいましたから好都合だと思いました。
面接の結果もよく、相当高度な話をスムーズにやり取りできるほど英会話の力量も十分でした。米国特許弁護士も「ぴったりだ。ぜひA子さんに」と希望し、「ひょっとしたら英語の実力は私よりも上かも」と冗談を飛ばすほどでした。また、英語の筆記テストからも、A子さんの英語の実力は相当なものであることが分かりました。人柄も誰一人文句をつける者はいませんでした。
ところが、心理テストの結果を待ち、いよいよ採用通知を出す段階になって、セラピストでカウンセリングを専門とする筆者の家内が懸念を表明したのでした。「すぐ辞めるような気がする。今度はお母さんが泣いてお嫁にいけと言うよ」と言うわけです。
面接をした国際部の担当者も筆者も、彼女の英語の力量のみに目を奪われ、気付きませんでした。そこで、彼女の意向を訊いてみようということになり、「当所へ就職してもらえますか」と問い合わせの電話を入れました。答えは意外にも(家内から言わせると当然なのですが)、「あいにく私には荷が重すぎますので、辞退します」というものでした。
電話をした国際部の部長はあれやこれやと説得を試みたのですが、A子さんはその意思を翻すことはありませんでした。
当所としてはかなりの高給を払うことになっていたので、何をしてもらうかについては、かなり厳しい要求はしていました。しかし、それはこちらから見れば、彼女に対する大きな期待のあらわれであり、数か月もすれば彼女の力量をもってすれば十分にこなせる仕事でした。
当所にとっては、まことに残念な結果となったのです。

4)潜在意識の証明

さて、A子さんの背景について分析する前に、現実に存在する潜在意識を非常にうまく表す例がありますので、それについてみてみましょう。左側に9つの点があります。この9つの点全部を一筆書きの4本の直線で通るようにするにはどうすればよいでしょうか。十分時間をかけて考えてください。最後に答えがあります。答えを見てどのように感じましたか。感想をどうぞ。
過去にこの問題を経験されていない方で、数分以内に正解を出せた人は、よほど頭の柔らかい人です。そういう方はどうぞさらに踏み込んで1本減らし3本でトライしてください。回答はあります。
この問題は意外と難しいのです。種明かしをすると、「えっ!そんなのあり。外へ飛び出すなんて、そりゃ気が付かなかったよ」という感想が多く聞かれます。「外へ飛び出すなんて、ずるーい」と言う人さえいます。
普通この問題をやろうとすると、中心の1つの点を除く8つの点で囲まれる四角形を見て、その枠内でこの答えを出そうとします。
そのとき決して私たちは「四角の枠内で答えを出そう」とは意識をしていません。ところが回答を出そうとする行動や思考過程は無意識に、かつ、ほぼ自動的にこの四角形の枠に支配されるのです。
この問題は私たちが意識はしなくても、考え方や行動をコントロールする何かがあることを明確に示しています。その何かがまさに潜在意識です。
成功哲学の多くが、成功するための考え方や行動のパターンを繰り返しの力によって、潜在意識に刷り込んでしまい、あらゆる思考や決断、その結果として生ずる行動を、無意識のうちに自動的に成功の方向に向けさせようというやり方をします。(註1参照)
ところが、私たちが潜在意識に持っている思考や行動のパターンは過去の体験に基づいています。何回か積極的に物事に対応してうまくいった人はそれが潜在意識にパターン化されていますし、親の言いつけに背いて何回も失敗し、辛酸をなめた人は「もう親の言いつけに背くのは止めよう」をパターン化します。
人生脚本は全てこのようにして、潜在意識に刷り込まれた思考や決断、行動パターンが、その人をあらゆる場面で、無意識かつ自動的に支配するのです。自動的に表れてしまうだけに、意思の力でコントロールできません。マイナスのパターンの場合は「どうして俺の人生はこんななんだろう。他の人はうまくやっているのに」ということになるのです。

5)再びA子さんについて

先に述べたA子さんが「私にはオンダ特許の仕事は荷が重すぎます」と言った背景は、全くの想像の域を出ませんが、次のようなものではないかと想像します。
すなわち、心の中では「仕事はすばらしいし、私のやりたいことだ」と思いながらも、潜在意識が自動的に「辞退します」と言わせます。
彼女はその潜在意識で、自分がまた1年もすると母親の懇願によって辞めなければならないことを知っています。そこで、無意識かつ自動的に「私は1年経つと辞めて、ご迷惑をかけることになるから、辞退します」と言う代わりに、「荷が重い」と言ったのではないかと思うのです。
面接の中で、聡明な彼女はそのポストが当所ではかなり重要な位置にあって、給与も高く、1年や2年で辞めてはいけないことを感じていたはずです。では、彼女のどんな潜在意識がそれをさせたのでしょうか。
母親との関係で、もう幼少の頃には「母親から独り立ちしてはいけない」「母親とは離れてはいけない」あるいは、「大人になってはいけない」という脚本が形成されていたのではないかと思われます。
A子さんがもう少し違った、例えば、「やりたいことはとことんやる」という脚本を持っていたとするならば、出身地の銀行に就職することはなかったでしょうし、もっと長くアメリカで日本語の先生をしていたことでしょう。母親とA子さんとの関係はおそらくマザコン的であって、A子さんは母親の言いつけに背き、何回も失敗を繰り返し、そしてそのたびに母親から「それご覧なさい。お母さんのいう通りにしていれば、こんなことにならなかったのに」としっぺ返しを受けたのでしょう。
A子さんは決断します。「もう、二度とお母さんの言いつけに背くまい。言いつけを守らないとお母さんに愛してもらえないから」と。
それからのA子さんの人生も容易に想像できます。
母親から泣きながら「この人と結婚してちょうだい」といわれて結婚します。その結婚についてA子さんが少しでも愚痴をこぼそうものなら、あるいは母親がお婿さんの生活ぶりについて少しでも気に入らないところがあれば、母親に「頼むから別れてちょうだい」と泣きつかれて別れることになります。
このようなパターンは母親が亡くなるまで続くものと思われます。
しかしA子さんが、もし自分の持っているこの脚本に気付けば、それを意識することによって、この状態から抜け出すことができます。それはあたかも、もし、6ページの問題をやるのに、「四角の枠の中でやろうとしているな」ということに気付けば「じゃあ、外に出てみたらどういうことになるのかな」と、外へ出る考え方を導入できるのと同じです。
仮に、9つの点を全部通るという6ぺージの問題ができたときが、「幸せ」だと仮定してみると、大変恐ろしくなります。無意識のうちに四角の枠を作った人はもう永久に問題が解けず、幸せにはなれないからです。
「幸せになろう」と四角の中でもがき苦しむという徒労を繰り返すばかりです。そういう人はしばしばいいます。「努力してできなかったのだから仕方がない。俺の人生はこれでよかったのだ。満足だ」と。
しかし、幸せへのヒントは実に簡単、自分に四角の枠があるということに気付きさえすればいいのです。
では、どうすればいいのか。その種の気付きのセミナーに出たり、専門家の指導を受けたりすることですが、日常心がけることは、自分が尊敬できる人の言うことならば、たとえ気に入らないことであっても、「そういうこともあるかもしれない。よし、やってみよう」という心構えをもって、これをパターン化して、実際にやってみることです。
しかし多くの人は、尊敬する上司や先輩からアドバイスを受けても、それを実行しないで、もっと幸せになりたい、もっと健康になりたい、恋人がほしい、もっと仕事で成果を挙げたい等と思っているのです。実行したとしても、おざなりに自己流の解釈でやってうまくいかず、すぐ辞めてしまうことが多いのです。
事業経営でも、指導者のいうとおり実行できる人は少なく、だから成功者も失敗者も適当にいるということになります。
上司や先輩の言うとおりやってみると、「なんだこんなことでうまくいくのか」と気付くことがいくつもあるはずです。うまくいかなければ、何回でも訊いてうまくいかない原因をさがし、それを取り除くことにより、また気付きがあるのです。
実際のところは、自分の潜在意識に幼い頃刷り込まれた脚本に気付くことは、専門家の指導なしでは非常に難しいことです。

註1;例えば、特許事務所の経営者である弁理士が、年間1,000件出願という目標を立てたとします。もちろん、同期合格の友人弁理士事務所がいち早く1,000件を突破したので、自分も何としてもその友人の事務所に追い付き追い越したいという強い動機があってのことです。
そんなとき、まず、いつまでにその目標を達成するかを紙に書いて、よく見えるところに貼り出します。「2020年12月31日、特許出願件数1,000件」というように大書して貼るのです。
そして、目標を達成したときをイメージできる写真なり図面なり脳裏に具体的に描けるイメージを同じように貼り出します。そうですね。特許出願件数年間1,000件の特許事務所完成のイメージとしては、約70人規模の事務所となりますので、完成時の広告宣伝のカラー看板を作ります。その中に所員数70名、年間出願件数1,000件という事項を大書します。例えば、

Y国際特許事務所
山岡市大宮町2丁目12番地1
所長 山田 誠
扱い業務 特許、実用新案、意匠、商標、鑑定、訴訟
従業員数 70名  年間特許出願件数1,000件、
意匠出願件数100件、商標出願件数120件

のようにします。そして、これをきれいに作って、いつも見られるように机のわきの書棚に貼ります。
また、次のようなイメージ作りもあるでしょう。すなわち、どこからか、150坪くらいの事務空間の写真を探して、それを貼るのもいいでしょう。そして、1,000件達成した自分をその写真に重ね合わせ、しばしば繰り返し繰り返し、楽しく思い描くのです。いわゆるビジュアリゼーションです。
そして、もう一つ、アファーメーションという方法を実行します。1,000件事務所を達成したときの状況を、積極的肯定的に宣言するのです。例えば、「念願の1,000件事務所を達成できた。大企業の有力顧客の来訪も引きも切らず、忙しい毎日だ。人材育成にも注力し、今ではあらゆる分野の技術に対応できる人材を確保できた。従業員間のコミュニケーションも順調で、社内は活性化している。さあ、2,000件事務所を目指してがんばろう。」
もちろん、これらは実現したい目標であって、実現はしていません。このような積極的肯定的宣言を作って、毎日毎日大声で繰り返し、繰り返し唱えるのです。そうするとビジュアリゼーションの効果に相乗りする形で、目標は潜在意識に刷り込まれます。定着するのです。その結果、自分が行う決断も行動も、無意識のうちに全て1,000件事務所に向かう方向になります。反対方向の決断や行動は自動的に排除されるのです。1,000件事務所の実現は非常に達成確率が高くなります。このような手法が成功哲学の典型的な手法です。
なお、繰り返し宣言することの効果について付言します。
筆者は35歳で当地岐阜青年会議所に入会しました。青年会議所では毎月例会があって、その冒頭綱領を唱和します。「われわれJCは社会的、国家的、国際的責任を自覚し、志を同じうする者相集い力を合わせ、青年としての英知と勇気と情熱をもって明るい豊かな社会を築きあげよう」というものです。
入会当時、筆者は「できもしないことを恥ずかしげもなしによく唱和なんかするなあ」と感じ、とても大声で唱和できませんでした。しかし、だんだん唱和することに対する抵抗はなくなっていきました。結構、声を出して唱和できるのです。そうこうするうちに、その意味を考えるようになっていきました。「なかなかいいことを言っているではないか」そして、「そうか青年会議所の事業はこの綱領を外さないようにやっていけば、間違いないな」と思うようになっていったのです。卒業するころには「いや、この綱領は素晴らしいことを言っている。俺の信念にも相当するものだ」という雰囲気になっていました。
これはいわゆる洗脳の過程です。繰り返し宣言することによる効果ともいえます。だからビジュアリゼーションとともにアファーメーションを使用して、自分の目標を潜在意識に刷り込むことの効果は絶大なのです。

以上

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2017年9月発行 第110号

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