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「パテントメディア」

知財マンの心理学4 ストローク

2014年9月
会長 弁理士 恩田博宣

1) はじめに

我々の人生はすべて、人との関係において成り立っています。良好な人間関係を維持継続しているような人は、いい人生を歩んでいるといえます。反対に周囲の人たちから、避けられるような人間関係しか築けない人は、悩みも多く、決していい人生をやっているとはいえないでしょう。
今の人間関係を振り返って、自分の人生の問題だと感じられる部分を、他人のせいにするのではなく、自分の方から改善をしていくにはどうするか。自分の心の状況を知ることから始める必要があります。自分が思い込んでいる「今の自分」は、実際には思いもよらない面を持っていたりするものです。
人は生きていくためには、栄養の摂取や休養のため睡眠が必要です。健康を維持するためには、適度な運動もしなければなりません。また、病気を避けるためには、清潔さや危険を避ける心遣いも重要です。以上は肉体面で人が必要とするものです。
人が健康に生きていくためには、心の面で必要とするものがあります。それは、自分以外の人から関心をもたれること、すなわち、人との接触から得られる刺激なのです。この関心、精神的刺激のことを、TA(交流分析)では「ストローク」といいます。
ストロークがなくなったり、不足したりしますと、幼児期においては成長が止まってしまうということが起こります。脊椎の委縮という肉体的な疾患さえ発生するのです。成人では心のバランスを失ってしまい、ふさぎ込み等の精神疾患に陥ることが起こります。今回はストロークについて説明します。

2) ストロークの種類

ストロークは、人から示される関心ないし人から与えられる刺激が肉体的なものであるか、心理的なものであるかによって、肉体的ストローク(タッチストローク)と心理的ストロークに分けられます。
さらに、そのストロークの中身が受ける側にとって肯定的なものか、否定的なものかによって、肯定的ストローク(プラスのストローク)と否定的ストローク(マイナスのストローク)に分けられます。
すなわち、ストロークは次の4種類に分けられます。

(1) 肯定的なタッチストローク
(2) 否定的なタッチストローク
(3) 肯定的な心理的ストローク
(4) 否定的な心理的ストローク

2−1)肯定的なタッチストローク

撫でる、さする、愛撫する、抱擁する、おんぶする、キスをする、握手をする、ハイタッチをする、肩をたたく等の肌の触れ合いによる刺激が、肯定的なタッチストロークです。
部長が部下に対して「今回の特許侵害事件、よくやってくれたなあ。君の優秀さがよくわかったよ。」と、握手を求めるような場面における握手は、典型的な肯定的タッチストロークです。
「今度のハーグ協定の研修会は、意匠の外国出願に極めて重要だから、しっかり勉強してこいよ。」と上司が部下の肩をたたいて、送り出したとします。このときの肩たたきも肯定的タッチストロークだといえます。

2−2)否定的なタッチストローク

たたいたり、つねったり、小突いたりすることが、この否定的なタッチストロークに該当します。しかし、殴ったり、蹴飛ばしたり、暴力をふるったり、突き飛ばしたりするのは、ストロークには分類せず、ディスカウント(次回説明します)に分類されます。
課長が部下に対して「なんだ、このライセンス交渉、全然進んでないじゃないか。これは当社にとって最優先の課題なんだぞ。いい加減にしてくれ!」と、ボールペンの軸で部下の指先をこつんとたたくような場面が想定されます。

2−3)肯定的な心理的ストローク

「心温まる接触」とでもいいましょうか。よい心のふれあいともいえます。褒める、励ます、微笑む、うなずく、あいさつをする、名前を呼ぶ、相手の話をよく聞く、信頼する、仕事を任せる等々がこのストロークになります。
人はこのような温かい触れ合いを欲しています。そして、そのようなストロークが与えられるとき、生きがいを感じますし、やる気も起こります。
筆者の事務所では、「お褒めメール」という制度があります。部門長から報告を受け、筆者がコメントを付けて、お褒めメールを本人に送るというものです。以下にその例、お褒めと励ましの場合を紹介します。
総務部長から筆者への報告メールです。
「田中○○子さんは今年の4月7日に入所いたしました。入所して1か月半経ちますが、彼女は入所以降、朝8時15分から20分に必ず出勤していて、事前準備宜しく、当日の仕事にすぐ向かう態勢ができています。また、朝出会った瞬間に、大きな声で「おはようございます」と声をかけてくれます。清々しい気持ちになれます。この二つが当たり前のように自然とできる人は初めてです。大きな戦力になるのは、すぐ先のことだと思います。今後、大きな期待を持てる人材です。」
これを受けて、筆者から田中さんへのメールです。
上記内容をそのまま記載した後、「元気がよく、頼もしいですね。勤務態度も素晴らしいですね。大きな戦力になる日を楽しみにしています。どうですか。仕事はやりがいがありますか。難しいですか。覚えることはたくさんあります。仕事を覚えたら、お客様が感激されるような気働きが求められます。そうするとお客様は何が何でもオンダ特許にということになります。大きく成長しオンダ特許の星になってもらいたいと思います。頑張れ田中○○子さん!」
そうすると、なんと田中さんからお礼メールが来るのです。それは
「お忙しい中、本当にありがとうございます。そんなふうに見守っていただけていること、そして、熱い応援メッセージをいただけること本当にうれしいですし、幸せいっぱいです。先輩方がとても温かく支えてくださって、今の私がいます。いただいたお言葉を胸に、誰に対しても感謝の気持ちを大切にして、希望の星になれるよう今日も、明日からも全力で頑張ります!」
この例は「褒め、励ます」ことが、いい気分にして、やる気を起こさせるうえで、非常に有効であることを示しています。肯定的な心理的ストロークの典型的な事例です。

2−4)否定的な心理的ストローク 

叱る、怒る、制止する、悪口をいう、嘲笑する、非難する、仕事を与えない等々がこのストロークに当たります。
「君の出願前調査ではミスがしばしば発生している。PCT出願のサーチレポートが来て判明したミスが、調査事件だけでも複数件あるぞ。しばらく、調査からはずれてもらうこととしよう。ほかに適切な仕事があるだろう。」
否定的な心理的ストロークの例で、制止に該当します。

3)より良い人間関係を構築するためのストローク

TAの開発者エリック・バーン博士は「人はストロークを得るために生きる」とまで言っています。そのくらい人間にとってストローク、他人から関心を持たれることは重要なのです。
特に肯定的ストロークを受けたときは、いい気分になり、やる気も出てきます。能力も最大限に発揮できようというものです。
従って、他人が欲しがっているストロークをどんどん与えることで、自分へのストロークも多くなっていけば、人間関係は理想に近づき、ハイレベルの人生を送れるようになるのです。
しかしながら、人は育つ過程でストロークの与え方、受け方について、身についてしまった癖、習い性ともいえるものがあります。潜在意識の中に定着してしまっているために、無意識のうちに出てしまいます。頭では褒めなければならないと思っていても、なかなか褒めることができないばかりか、与えるストロークも、ついついマイナスのものになってしまうというようなことが起こるのです。
それは、生育過程で両親のしつけがあまりにも厳しすぎたり、受けたストロークがどちらかといえば、マイナスのストロークが多かったりしたようなときに起こります。すなわち、生育過程で、その人がどのようなストロークを受けたかによって、その人の与えるストロークも自動的に決まってくるのです。
是は是、非は非で必要なときには厳しく、しかし、叱った後には必ず、お褒めのストロークを与える等プラスのストロークを多く与えられた人は、人格も円満になり、プラスのストロークを与えることができるようになります。人にも好かれ、カリスマ的になるのです。
ではこれからより良い人間関係を構築するために、ストロークに関して、どのようなことに注意をしたらよいでしょうか。以下の4項目に注意をするとよいでしょう。

3−1)自身のストロークの与え方、受け方の傾向

まず、ご自分が他人に与えるストロークはプラスが多いですか。マイナスが多いですか。多くの人はマイナスのストロークの方が多いのが普通です。それを意識するだけで、プラスのストロークを多くすることができます。

3−2)肯定的なストロークを与える

肯定的なストロークを与えれば、返ってくるストロークも肯定的なストロークが多くなります。与えるストロークをプラスのものにするためには、その人の行動をよく注意していれば、いくらでも気付くことができます。気付いたときには、ただちにストロークを発信すべきです。
筆者の事務所では、部門長は一ヵ月に1回以上、前記のお褒めメールのネタを筆者に報告することになっていますが、大方の部門長はなかなか月1回が守れなくて困っています。すなわち、肯定的なストロークを与えることの難しさを証明しているともいえます。多くの人がいかに否定的ストロークを多く受けて育ったかをも示しています。
肯定的なストロークを発信し続けるには、常にそれを強く意識している必要があります。そうしますと、筆者の事務所のお褒めメールのような制度は、部門長に対して、部下の言動に常に注意を払って、良い行動や考え方、あるいは提案を見つけるように仕向けますので、肯定的なストロークを多くするという成果を挙げやすくなるでしょう。

3−3)人の存在を無視したり、軽視したりしない

無視、軽視は人をして、ストローク不足、すなわち、ストローク飢餓の状態に追い込みます。そうすると人は精神的な安定を失い、怒りをあらわにしたり、やけを起こしたりします。
子供がストローク飢餓の状態になると、親のいうことを聞かなくなったり、非行に走ったりします。さらに、否定的ストロークを与えなければならなくなってしまいます。
同じことは職場でも起こります。ストローク飢餓の状態におかれた部下は、わざとミスを起こしたり、ごまかしたりします。
肯定的ストロークの重要性と、無視や軽視の問題点を示しています。

3−4)条件付きストロークの回避

「先月の目標を大幅に達成したから、君はなかなか優秀だ。」のようなストロークは、肯定的なものであることに違いありませんが、上司の期待に沿った行動を取ったときにのみ与えられるものです。このようなストロークを条件付きストロークといいます。
すなわち、「目標を達成できなかったならば、優秀ではない」というメッセージも含んだストロークになってしまっているのです。
しかし、目標達成者に対して、「先月はよくやった」というお褒めは必要です。筆者も毎月やっています。お褒めの文章としては「先月の目標達成おめでとう。よく当所の業績に貢献してくれました。感謝します。」くらいにすれば、条件付きのイメージは、極力薄められると思います。
ストロークは無条件のストロークにすべきなのです。
一方、条件付きにしなければならないこともあります。否定的ストロークを与える場合です。例えば、「君が審判請求の日限徒過をしてしまったのは、いかん。大変なことだ。日頃優秀なのになあ。」のように条件付きにすべきなのです。すなわち、ミスの行動のみを非難すべきなのです。
否定的ストロークを与えるのに、「日限徒過、お前まぬけだなあ。」「馬鹿じゃないか。」等とその人の性質、本質に踏み込んではならないのです。誤った行動は直せても、その人の性格や本質は、直しようがないからです。すなわち、誤った行動のみを非難するという条件付きの否定的ストロークを送るべきなのです。

3−5)深いストロークの交換

部下の知財部員がやってきます。「当社にとって、例の重要な出願についての審判請求事件ですが、何とか特許審決にすることができました。手数がかかっただけに、よかったと思います。」「そうか。よかったな。」
このように簡単に終わってしまっては、部下としては物足りない感じを持ちます。
「よく頑張ったな。一番苦労したところはどの点かな。ちょっと説明してくれないか。」「なるほど、そうか、よくやった。君ももう一人前になったな。これからもよろしく頼むぞ。」のような、深いストロークが必要な場面です。あまりにも軽いストロークでは、むしろ軽視の方に入ってしまい、否定的ストロークになりかねないからです。常に真摯に相手の状況をよく理解したやりとりが重要です。

3−6)人の話をよく聴く

肯定的なストロークの中に、「人の話をよく聴く」ということがあります。話をよく聴いてあげることが、その人に対してストロークを与えることになります。 
「コミュニケーションの基本は話を聴くことだ」とも言われます。しかし、人は関心のほとんどすべてを自分に向けているのです。他人のことに関心を寄せるには、意識をしてその人から話を引き出すことが必要なのです。
例えば、ゴルフ友達に「昨日のラウンドでバーディが3つも出てねえ」と話したとします。まだその続きの話したいことが山ほどあるのです。しかし、続きの話を聴くどころか、「バーディが3つも出てねえ」といった瞬間、「そうか、実は私は先月、九州の遠征ゴルフでバーディが4つも出てねえ。いやー、そのラウンドはすごかったんだよ。上がったらスコアはグロス76でねえ。わが人生ベストスコアが出ちゃったんだよ。」と、人の話を取ってしまい、自分の話にすり替えてしまうということが、しばしば起こります。
話し始めた人はあっけにとられてしまい、その次の話をするのをあきらめるか、相手の話が終わってから、もう1回初めからやり直すかしかありません。実に気分の悪いことです。人はその関心のほとんどを自分に向けていて、人の話を横取りして、自分の話を聴かせようとします。横取りされた人は相手の話など聴きたくありません。話し終わったらどのようにその話を蒸し返そうかと、発信準備の方へ関心がいってしまいます。結局、コミュニケーションはうまくいかないことになるのです。
ではどうするか。しっかり意識をして、相手の話をどんどん引き出すのです。「バーディが3つも出た」という話に対して、「それはどこのゴルフ場?」「出たのはショートホール、それともロングホール?」「誰と回ったの?」「それまでのベストスコアはいくつだった?」「特別の練習でもしたの?」と話を続けさせるのです。話す本人は自分のことをどんどん聴いてもらえるのですから、実にいい気分です。調子に乗って話に花が咲きます。そうすると話を聴き出している貴方のことを、聴いてもらっている当人は大好きになります。これがコミュニケーションの基本です。
筆者が新幹線で東京から名古屋まで乗ったときの話です。隣にスポーツマンタイプの若者が座りました。ちょっとしたきっかけから話が始まりました。彼は学生時代、ラグビーの選手でした。そこで、筆者はラグビーのことはよくわからないながらにも、次から次へといろいろ質問をしました。彼は調子に乗ってラグビーの話を気分よくしてくれました。お互いにビールを飲んでいましたが、途中でなくなりました。私がお代わりを2人分買って、飲みながら話の続きを聞きました。また、ビールがなくなったのですが、今度はその若者が日本酒を買ってくれました。名古屋へ着くころには、酔っ払いはしましたが、名刺を交換し、ぜひまた会いましょうという約束をしたほどでした。まるで10年来の友人同士のようになったのです。相手の話を聴くこと、どんどん話を引き出すことの重要性を表しています。

4)ストロークの貯蓄

肯定的なストロークを多く与えられている人は、心に肯定的なストロークが貯蓄されます。そうすると、その人の気分は上々で、能力を発揮しやすく、仕事の面でもプラスの効果が出ます。またそういう人からは、肯定的なストロークが発信されやすくなるので、その人の周囲は明るくなります。職場においては、活性化して、業績の向上につながるということが起こります。
逆に、否定的なストロークを多く与えられている人は、マイナスのストロークの貯蓄ができてしまいます。そうすると気分は優れず、機嫌が悪くなります。怒ったり、騒いだり、八つ当たりしたりということが起こるのです。
そうしますと、職場のストローク環境を改善していくためには、上司としては、部下に対してできる限り肯定的なストロークを多く与えなければなりません。しかし、上司自身も肯定的なストロークを多く与えられていないと、肯定的なストロークの貯蓄が減ってしまい、なかなか肯定的ストロークを与えられなくなってしまいます。
そこで上司としても、その職場内で自分に対する肯定的ストロークをもらえるような工夫が必要になってきます。第1に部下に対してプラスストロークを与え続けていれば、自然に部下から上司に対するストロークも多くなっていくものです。まずは部下に与えることです。
第2にプラスのストロークをもらう工夫をします。例えば、「今回、侵害事件の交渉では、大変うまく行って、無事解決することができたが、この事件について、上司としての私の指揮に問題はなかったかな。気付いたことがあったら、遠慮なく言ってくれないか。」と、反省会を開いたりします。多くの反省の弁は上司の指揮がいかに良かったかに集中するでしょう。このようにしてプラスのストロークを得ることもできるのです。
そのほか、自部門の月次決算で好成績を挙げたようなときには、誰も褒めてくれる人がいなくても、決算表を見ながら自分で自分を褒めることも可能です。また、社内外の表彰があって、自部門が表彰されれば、それは上司が褒められたも同然ですから、プラスのストロークが得られることになります。
筆者も事務所内のことで、所内から褒められることはほとんどありませんが、好決算を実現したとき、ボーナス額を大幅にアップできたとき、臨時ボーナスを支給できたようなとき、お客様からお褒めがあったようなときには、嬉しく感じます。自作自演のストロークです。これでもストロークの貯蓄はできます。こんなストロークの獲得も数多く経験しています。
肯定的なストロークを与え続けて、職場内のストローク環境を良化向上することは、上司の務めです。常に意識して、行うことが重要です。

5)肯定的ストロークの素直な受け入れ 

褒められたり、認められたりしても、「いえ、いえ、そんなことはありません。」とストロークを素直に受け入れない人が、意外なほど多くいます。本人は謙遜しているつもりでしょうが、それは肯定的なストロークの貯蓄を拒否しているのと同じです。貯まらなければ、与えることができません。「そうですか。ありがとうございます。」といって、素直に受け取るべきです。
もっと悪いのは「何か裏があるな」と、悪く勘ぐる人もいることです。さらに、肯定的なストロークを、否定的なストロークに置き換えてしまう人まで存在します。これではストロークの貯蓄はできていきません。素直に受け取ることが肝要です。
知財課長「君の鑑定は素晴らしい。クレーム解釈と非抵触の理論構成が、明快だ。よく成長したな。」
知財部員「いえ、いえ、それは先輩の教えに従ってまとめただけで、私の知恵の部分はほとんどありません。」
このようにお褒めの肯定的ストロークを拒否してしまっては、ストロークを送った課長も意気消沈しますし、否定した部員も後味が悪いものです。
知財部員「ありがとうございます。そのように評価していただきますと、大変嬉しいですし、やる気が出ます。幸せです。」のように、しっかりお褒めを受け取ってしまうべきなのです。
知財部員「えっ、気持ち悪いな。課長があんなに褒めるのは、何か厄介な仕事でも押し付けようとしているのじゃないかな。困ったなあ。」 
こんなふうに勘ぐってしまっては、せっかく肯定的ストロークも台無しです。もちろん、ストロークの貯蓄はできません。
上司として、このようにストロークを受け取らないケースに出くわしたときは、「ただひたすらありがとうと言って受け取りなさい。否定してはいかんな。」と注意し、ストローク環境をよくしていく配慮が大切です。

6)肯定的ストロークをくれる人との接触

前述のように、人はその生育過程から、そのストロークの与え方に習い性、癖があります。従って、できることなら、肯定的ストロークを多くもらえる人への接触を多くするとよいのです。そうすると、ストロークの貯蓄も十分できるので、自分からの肯定的ストロークの発信も多くなって、職場や家庭のストローク環境を改善できるようになるのです。自分の人生も楽しく明るいものになって行くのです。
しかし、職場において、上司を自由に選ぶことはできません。否定的ストロークの多い上司に当たったときには、自分の方から発信する肯定的ストロークを多くする方法がいいでしょう。また、同僚や部下の中に肯定的ストロークを多く発信する人がいれば、その人との接触を多くするということも考えられます。
さらに、職場外、例えば、同好会活動や同業者の会、友人等の中にそのような人を求めることもできるでしょう。

7)まずい対人関係の打破

「ストローク経済の法則」という概念があります。一般経済分野で起こることなのですが、「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる。」という法則です。この法則は肯定的ストロークについてもいえます。すなわち、肯定的ストロークをもらえる人は、さらに、さらにとたくさんもらえるようになるのです。もらえば与えますから、さらに増えるという好循環に入るからです。
一方、もらえない人は与えることも減りますから、ますます、もらえないという悪循環に陥ることとなります。これがストローク経済の法則です。
ストローク経済の法則でプラス循環に入り込んだ人は問題ありません。きっと職場でも、家庭でもうまくいくことが約束されます。
逆に、マイナスの悪循環に陥ってしまった人は、どうすればよいのでしょうか。放っておいたのでは、悪循環が続くだけです。生育過程で条件づけられてしまって、否定的ストロークが習い性になってしまっているのですから、そこからの脱出は困難です。
しかし、自分が否定的ストロークの多いことを強く意識し、下記の諸点に留意すれば、徐々に脱出することができます。

7−1)与えるべきストロークは必ず与える

プラスのストロークについて、「そんなに与えてはつけあがるからいけない。」とか、「きまりが悪くて言えない。」とかいう人がいます。
しかし、肯定的ストロークは他の人に関心を示すことですから、例えば、部下に対しても、こちらから「おはよう。」とか、「ご苦労様。」と声をかけるだけでも、いいのです。上司の方から先に声をかけているのですから、これで十分関心を示していることになるのです。
さらに、「元気そうだね。」「その服よく似合うなあ。」「奥さん元気にしている?」「子供さんはもう歩くようになった?」「この間の旅行はよかった?」「今、忙しいか?」等ともう一声かければ、それはもっと関心を示していることになるので、もっといいストロークになるのです。
部下にお褒めに値する行動があったとき、ただちにストロークを与えないで、ため込む管理者がいます。業績評価やボーナス査定のとき、あるいは昇給査定のときによい評価をすればよいと考えるためです。
このため込みはやってはならないことです。いいことが行われても、そのときに肯定的ストロークが返ってきません。その職場のストローク環境は、向上しないばかりか悪化します。
もっと悪いのは、その行動の主が今度は叱責すべき状況を起こしたとします。すると、前回の肯定的ストローク分は、今回のマイナスの行動で帳消しになってしまいます。業績評価の時までもたないのです。
マイナスのストロークも同じです。ため込んでおいて堪忍袋の緒が切れたときに、あれやこれやすべてをぶちまけるようなことが起こるのです。ぶちまけられる部下はたまったものではありません。一気にあれもこれも言われたのでは、直しようがありませんし、ただ混乱するばかりになってしまいます。
プラスのストローク(称賛)にしても、マイナスのストローク(叱責)にしても、そのことが起こったそのときに、ただちにその場で与えなければなりません。

7−2)ほしいストロークは要求する

「1分間マネジャー」の中に出てくる概念ですが、「お褒めのおねだり」ということがあります。部下は上司に対して、自分が上手くやったとき、そして成功したとき、実にいい気分でいられます。上司にその成功談を報告していうのです。「この成功はお褒めに値すると思いますが、いかがでしょうか。」と。
上司はもちろん「そうか、そうか、よくやった。君の交渉術がすごいんだなあ。このライセンス交渉の成功は会社の業績に大きく貢献するぞ。素晴らしいな。」等と称賛が返ってくるでしょう。
しかし、おねだりにもかかわらず、何ももらえないこともあるでしょう。しかし、よく考えてもみましょう。お褒め、肯定的ストロークのおねだりをして、何ももらえなかったとしても、それは勝つか引き分けかの勝負をしているようなものです。囲碁でいうなら花見講です。
そう考えますと、肯定的ストロークのおねだり、要求はどんどんすべきです。しかし、上司に対しても、同僚に対しても、家族に対しても、ストロークの要求は、誰しもちょっとやりにくいものです。
筆者の事務所ではお褒めメールの制度があることはすでに述べましたが、トップに対するお褒めのおねだりという考え方から、その制度ができました。トップはなかなか全体を見て、お褒め、すなわちプラスのストロークをしょっちゅう出すことはできないので、部門長がストロークに値することを見つけてトップに報告して、それを種にしてトップが、お褒めメールをその本人に送るというものです。ストローク環境を少しでも良くしようという発想ですが、先の例でもわかるように、メールをもらった本人からはほとんどお礼のメールが返ってきます。それを見てもプラスのストロークが、職場の活性化にとって、いかに重要かわかります。
このようにお褒めのおねだり、すなわち、ストロークの要求は、本人からではなく、関係のある第三者からだと非常にやりやすいといえます。
ほしいストロークはしっかり要求しましょう。

7−3)ほしいストロークが来たら受け取る

肯定的なストロークを素直に受け取れない人がいます。受け取れない原因は、多くの場合謙遜から来ています。生育過程で多くの否定的ストロークを受けたために、否定的ストロークのみを受け取ることに条件づけられてしまっているからなのです。悲しいことですが、「君は上位概念で技術を捉えることがうまいねえ。このクレームなんか、何十年もやっている私でも、なかなかここまではできないよ。いや、素晴らしい。」と褒められたのに対して、「とんでもない。私は課長と比較するとまだまだ未熟です。」「そんなことないんだよ。君は素晴らしいんだよ。」等と、繰り返し褒めようものなら、怒りだしてしまう人すらいます。
その影響はよくありません。褒めた人をして、「褒めるんじゃなかったなあ。あんなに怒るなんて、いけなかったのかなあ。」と、上司から肯定的なストロークが出なくなってしまいます。
プラスのストロークは、素直に受け取るものです。それは教育によって何とかなっていくものです。上記のように受け取らない人がいたときは間髪を入れずに、「素直に受け取らなければいけない」と諭すのです。何回も繰り返すうちに、受け取れるようになるのが普通です。そして、単に受け取るだけではなしに、その喜びを表現すべきなのです。「ありがとうございます。そのように評価していただきますと大変うれしく感じますし、やる気が出てきます。」のように表現するのです。

7−4)ほしくないストロークは拒否する

否定的なストロークは、ミスを犯したようなときには、必ずやってくるといってもいいでしょう。ミスがあなたの責任であるようなときには、謙虚に聞き、反省すべきです。しかし、ストロークがあなたの性格に関するものだとか、そのほか理不尽なものであるときは、敢然と否定してもいいでしょう。しかし、なかなかそうはいかないこともあります。そんなときは聞き流して、心の中で拒否すればいいのです。
筆者が地下鉄で電車から降りようとしているときに、ちょっともたついたことがあったのですが、乗り込もうとしている若者がそれ見て、イライラしたのでしょう。「あんた、頭悪いんじゃないの。馬鹿じゃないの。」と言ったのです。
そのとき筆者の感情は「私は頭は悪くないし、何を言ってるのかな。」と非常に冷静で、言葉だけが頭の上を通り過ぎていったように思いました。事実と全くちがう否定的ストロークがやってきても、このように拒否の返答すらする必要がないこともあるのです。
「先日のアイディアの発掘会議のとき、君は初めから終わりまで、独壇場だったなあ。もう少し皆に発言させるとよかったと思うなあ。」とやんわりとした否定的ストロークが来ました。「そうですか。私としてはあまりにも皆さんから発掘のアイディアが出てこないものだから、つい焦ってしまったところがありました。どうもすみませんでした。」「最終的には結構アイディアも出ましたので、よかったと思います。課長、その点はいかがでしょうか。」と、受け取りをうまく拒否するだけではなしに、逆にお褒めのおねだりに持っていってしまうという巧妙な手もあるのです。

7−5)自分自身にストロークを与えよ

他人からのストローク、特に肯定的なものは、ほしいストロークを要求するにしても、そう簡単には入手できません。自分の意思では何ともならないことの方が多いのです。
それならば、自分で自分に対して、肯定的ストロークを与えるということができます。成功体験を思い返し、自分で自分を褒めるのです。
筆者はすでに後期高齢者の仲間入りをしましたが、今年の5月に岐阜関カントリークラブにおいて、グロス75でラウンドするというエイジシュート(すなわち、自分の年齢と同じスコアでラウンドすること)を達成しました。もちろん、ゴルフ仲間からはたくさんのストロークがありました。いい気分でした。遠慮なく全部受け取りました。
その後、寝つきが悪いようなときには、当日の18ホールを順番に思い返すのです。そして、「目玉になったあのバンカーショット、よく脱出できたもんだ。」「グリーンエッジからの寄せが直接カップインしたのは、運がよかったなあ。」「12メートルもあるあのバンカーショットは、よくピンに寄ったなあ。」「18番ホールの最後のパターはビビったなあ。」等と当日のゴルフを再現するのです。ひとホールひとホールが自分に対するプラスのストロークになります。知らぬうちに眠りについてしまうという具合です。
特許事務所経営の中の成功体験を思い起こすこともあります。いい気分です。やる気も出てきます。
時には有能な人材の退職等、悪い思い出がよみがえることもあります。このような否定的ストロークは自分自身では、できる限り避けるべきです。よくないことがあって、気が滅入ってしまっているときに限って、マイナスの場面が表われて、自分に対するマイナスのストロークになってしまうのです。

8)幼児期のストローク

最後に幼児期のストロークの大切さについて、一つの例を引用してその重要性を強調したいと思います。子育ての中で、わが子に充分なストロークを与えることが、いかに大切かお分かりいただけると思います。
引用は、岡野嘉宏、多田徹佑共著「新しい自己への出発」(社会産業教育研究所出版部発行)からです。
幼児がストローク飢餓の状態になると、どうなるかという話です。

「スーザン」という幼児の話

スーザンが父親に連れられて病院に来たのは、1歳10か月のときでした。普通の発育の状態ならば、もう、上手に歩き回ったり、言葉もかなり話せるようになっているはずです。しかし、入院当時のスーザンの体重は6.75キロ、身長は71センチで、これを米国の乳児の平均と比較してみると体重は5か月児、身長は10か月児に相当するものでしかありませんでした。
もちろんスーザンは歩けません。それどころか、ハイハイすることも片言もしゃべることもできなかったのです。おまけに誰かが近づくと、泣いてしり込みをして、抱かれたり、触られたりするのを嫌がっている状態でした。いろいろな医学的な検査の結果、スーザンの身体には何も異常はないということがわかりました。つまり、骨の異常とか内分泌の異常とか、医者が考えられるような『発育不全』の原因は何も見つからなかったのです。医師たちは当惑しました。けれどひょんなことから、その原因がわかったのです。それはスーザンが入院してから3週間もたつのに、一度も両親が面会に来ない、という事実からでした。そこでソーシャルワーカーが両親を訪ねました。
そこでわかったことは、スーザンは教育のある若い両親の最初の子供として生まれたのですが、期待されて生まれてきたのではなかったために、何かにつけて邪魔者扱いされ、母親からも父親からもほとんど面倒らしい面倒を見てもらえなかったという状態でした。そのときスーザンの母親は、「あの子は反抗的で、抱かれるのが嫌いなんです。むしろ、放っておかれる方が好きなんですよ。」と言い、さらに、「私はあの子が嫌いです。もうこれ以上あの子の面倒は見たくありません。」と言うのです。そこで病院ではスーザンの病名を「母性的愛情欠乏症候群」と名付け、発育不全の原因は、母親のストロークが欠乏したからだと判断しました。
病院の医師たちはボランティアの看護師を募って、その人にスーザンの母親代わりをさせることにしました。代理の母親は、1日6時間、つきっきりで抱いてやったりあやしたり、肉体的、心理的ストロークを与え続けました。また、代理の母だけではなく、医師をはじめとする病院のスタッフも、スーザンにはなるべくストロークを与えるようにしたのです。
数週間のうちに、スーザンは抱かれることをさほどいやがらなくなり、泣き叫ぶことがなくなって、むしろ少しずつ反応さえ示すようになってきました。そうして2か月後には、体重は2.7キロ、身長は5センチも伸びたのです。
運動機能も情緒も驚くばかりに発達し、ハイハイができるようになり、知らない人にも怖がらずに接することができ、自分が遊ぶためのおもちゃやいろいろなものに対しても、興味を示すようになりました。それから、さらに数週間後、スーザンは一人で歩けるほどになったのです。

9)まとめ

以上、ストロークの話をさせていただきました。人がいかに他人からの関心を必要としているかを、わかっていただけたと思います。人からの関心を惹くためには、自らが貴方の周囲の人々に強い関心を持ち、常にこちらからストロークをどんどん発信することです。しかし、それは筆者の事務所の部門長が1ヵ月1回のお褒めのネタを探すことに苦労していることからわかるように、結構大変なことです。でも、ストロークの大切さを常に強く意識し、その発信をあなた自身に条件づけてしまうように心がけてみてはいかがでしょうか。

10)参考文献

(1) 新しい自己への出発 岡野嘉宏・多田徹佑 共著
  (社会産業教育研究所)
(2) 交流分析の基礎 中江延江、田副真美、片岡ちなつ 共著
  (金子書房)
(3) 1分間マネジャー ケネス・ブランチャー、スペンサー・ジョンソン 共著(ダイヤモンド社)

2014年9月発行 第101号

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