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知財マンの心理学3 やりとり分析

2014年5月
会長 弁理士 恩田博宣

1) はじめに

我々の人生はすべて、人との関係において成り立っています。良好な人間関係を維持継続しているような人は、いい人生を歩んでいるといえます。反対に周囲の人たちから、避けられるような人間関係しか築けない人は、悩みも多く、決していい人生を歩んでいるとはいえないでしょう。

今の人間関係を振り返って、自分の人生の問題だと感じられる部分を、他人のせいにするのではなく、自分の方から改善をしていくにはどうするか。自分の心の状況を知ることから始める必要があります。自分が思い込んでいる今の自分は、実際には思いもよらない面を持っていたりするものです。

他人とのやりとりに自分の問題点を見つけることができるかもしれません。今回はやりとり分析について説明します。

2) やりとり分析とは

人は他人との間で多くのやりとりをしながら、生活をしています。それを、前回説明しましたP・A・Cのいずれかの自我状態から発信をし、相手もまた同様にいずれかの自我状態から反応をしてきます。それを分析してみますと、スムーズにでき長続きするやりとりと、そうではなく、気まずく途切れてしまうやりとりがあることに気付きます。

この理論を知っていますと、気まずいやりとりになったときに、それをいい人間関係を構築できるようなやりとりに、修正していくことができます。知財管理をより生産的にし、知財部の人間関係をよりよくし、一致団結して、会社の発展に貢献できようというものです。

なお、やりとりは、単に会話だけではありません。態度や行動によるやりとりも含んでいます。

3)人の心の状態P・A・Cの振り返り

次の表をご覧になりながら、読み進んでください。

  1. 圧力をかける、圧迫する、偏見を持つ、脅す、押し付ける
  2. 規律を守る、しつけをする、けじめをつける、几帳面、文化・伝統・習慣を守り伝える、道徳的、評価する、(言動として・・・すべき、・・・すべきではない、よい悪いを判断する、正しい間違いを判断する)
  3. 過保護、甘やかす、干渉過多
  4. 愛する、優しい、思いやりを持つ、配慮する、心遣いをする、世話をする、目をかける、慰める、勇気づける
  5. 打算的、冷たい、そっけない
  6. 冷静、事実に基づいて判断する、事実をよく調べる、意思決定する、計画を立てる、見通しを持つ、自分によく気づいている
  7. わがまま、自己中心、本能的、衝動的
  8. 人間らしい、天心爛漫、のびのびしている、明るい、無邪気、自由、創造的、好奇心を持つ、(言動として・・・したい、・・・がほしい)
  9. 我慢する、黙る、閉じこもる、反抗する、ひねくれる、すねる、媚びる、依存する、自責の念を持つ
  10. 素直に対応する、いうことをよくきく、信頼する、従順


前回の自我状態分析では、人の心の状態というのは、親の自我状態P、大人の自我状態A、そして、子供の自我状態Cに分類できることを説明しました。そして、それらP、A、CはそれぞれOKではないという面(否定的な面)と、OKだという面(肯定的な面)に分かれます。

さらに、Pは批判的なCP(Critical Parent)と保護的なNP(Nurturing Parent)に分けられます。

前記CPのOKではないという面(1)は、人間関係において、「圧力をかける」、「圧迫する」、「偏見を持つ」、「脅す」、「押し付ける」というように現れます。

同じくCPのOKだという面(2)は、「規律を守る」、「しつけをする」、「けじめをつける」、「几帳面」、「文化伝統習慣を守り伝える」、「道徳的」、「評価する」、「よい悪いを判断する」、「正しいか間違いかを判断する」、言動としては「・・・すべき」、「・・・すべきではない」のように現れます。

NPのOKではない面(3)は、「過保護」、「甘やかす」、「干渉過多」のように現れます。

NPのOKだという面(4)は、「愛する」、「優しい」、「思いやりを持つ」、「配慮する」、「心遣いをする」、「世話をする」、「目をかける」、「慰める」、「勇気づける」のように現れます。

AのOKではないという面(5)は、「打算的」、「冷たい」、「そっけない」というように現れます。OKだという面(6)は、「冷静」、「事実に基づいて判断する」、「事実をよく調べる」、「意思決定する」、「計画を立てる」、「見通しを持つ」、「自分によく気づいている」のように現れます。

子供の自我状態Cは、自然の子供FC(Free Child)と順応の子供AC(Adapted Child)に分けられます。

FCのOKでないという面(7)は、「わがまま」、「自己中心」、「本能的」、「衝動的」のように現れます。FCのOKだという面(8)は、「人間らしい」、「天心爛漫」、「のびのびしている」、「明るい」、「無邪気」、「自由」、「創造的」、「好奇心を持つ」、言動としては「・・・したい」、「…がほしい」のように現れます。

ACのOKでないという面(9)は、「我慢する」、「黙る」、「閉じこもる」、「反抗する」、「ひねくれる」、「すねる」、「媚びる」、「依存する」、「自責の念を持つ」のように現れます。ACのOKだという面(10)は、「素直に対応する」、「いうことをよくきく」、「信頼する」、「従順」のように現れます。

やりとりは常に、上記のいずれかの自我状態から発信され、同様にいずれかの自我状態から反応が行われるのです。それを分析していくのが、やりとり分析です。

4)やりとりの態様

前号で紹介した知財部の野口君と吉田部長のケースを、再現してみましょう。
部下の野口君が吉田知財部長のところにやってきました。

事例1

野口知財部員「部長、甲特許事務所には、緊急出願の件で大変協力をしてもらいました。徹夜してやってもらっただけではなしに、その品質も最高でした。感謝の意味でお褒めの言葉をかけられてはどうかと思いますが、いかがでしょうか。」

吉田部長「そうだ、そうだ。本当によくやってもらった。実に立派だ。近いうちに甲事務所訪問の予定があるので、しっかり感謝の意向を伝えるよ。」  

このやりとりは、人間関係に全く問題の生ずることのないやりとりです。前記のP、A、Cの心の状態でいうならば、野口君も吉田部長もAの状態でやりとりをしているといえます。

野口君は大人の自我状態Aで、吉田部長に特許事務所へのお褒めを依頼します。それに対して、吉田部長は同じく大人の自我状態Aで答えています。これを図にしてみますと、右図のように平行線になります。問題のない長続きするやりとりです。線図にしますと、矢印が平行に現れますので、「相補的やりとり」とか「平行的やりとり」といいます。
相補的やりとりが多い職場は、お互いの関係が「期待された通りの関係」となっているのですから、コミュニケーションはスムーズで、健全な人間関係だといえますし、その組織全体としての空気もよく、活性化していることが多いでしょう。
しかし、次のようなやりとりはどうでしょうか。

事例2

前記のように、野口君が吉田部長に対して、甲事務所のお褒めを進言したのに対して、吉田部長が「甲事務所の今回の明細書は、そんなに立派かな。普通じゃないかな。お得意さんが困っているときに、協力するのは当たり前じゃないかね。当社も年間を通じて大量の出願依頼をしているのだから、たまには協力してもらわねばねえ。」と、反応したとします。このやりとりでは、野口君の心の状態はAであったのですが、吉田部長は批判のCPの自我状態で反応したといえます。このやりとりは野口君のAから吉田部長のAへと発信されているのですが、吉田部長の反応はCP(OKでない)から、野口君のAC(OKでない)に向けて返事がなされています。

前者のようなやりとりは、順調に続くのですが、後者のやりとりは気まずく途切れてしまうものです。線図では、矢印が交叉するので、「交叉的やりとり」とか「食い違いやりとり」といわれます。

なお、通常、人と人とのやりとりは、会話で行われますが、手紙やメール、さらには、態度や行動でも行われます。

例えば、「今回の意匠侵害訴訟は、和解できてよかったと思います。」と、知財部員が部長に同意を求めたのに対して、部長が返事をすることなく、無視するようなケースです。もちろん、部長には「こんな和解条件では、とても納得できない。」との思いがあるからです。

この交叉的やりとりは、職場においても家庭においても、気まずい雰囲気となります。従って交叉的やりとりは、対人関係の障害の原因となることが多いのです。やりとりを発信する側は、一定の反応を期待しているにもかかわらず、その期待を裏切って、違った自我状態からの反応があるのです。だから、期待が裏切られ、自分が軽視されたかのように感じてしまうのです。そうすると気まずい空気となり、その職場なり家庭は沈滞し活気が失われてくることになってしまうのです。

従って、やりとりには相補的なものと交叉的なものがあると分かっていると、できる限り相補的なやりとりを選択することで、職場の雰囲気を活性化し、より生産的な方向へ導くこともできるのです。

4−1)相補的やりとりの事例

さらに、いくつかの事例を挙げてみます。まず、平穏無事に長続きする相補的やりとり(平行的やりとり)です。図にしてみますと、どのやりとりも平行線であらわすことができます。

事例3

吉田知財部長「例のA社とのライセンス契約の件、今どうなっているかね。」
米田知財部員「はい。進行中ですが、ほとんど最終段階に入っておりまして、今月中にはまとまり、来月初旬には調印できると思います。」

発信側の部長の自我状態はA、反応した部員の自我状態もAでごく平凡な問題のないやりとりです。


事例4

米田知財部員「この特許の第1クレーム、たった2行だぞ。すごいなあ。こんな広い特許もあるんだ。部長、見て下さい。」
吉田知財部長「どれどれ。どんな発明かな。うん。これはすごい。」

米田部員はたまたま見ていた特許公報のクレームの範囲が広かったので、部長に同意を求めます。それに応じた部長が共感したやりとりです。米田部員の発信は肯定的で、自由な子供FCの自我状態から出ています。それに反応した部長も同じく肯定的な自由な子供FCの自我状態です。明るい職場の雰囲気が出ています。


事例5

山田知財課長「B特許事務所は明細書の納期が遅れることが多いじゃないか。」
鈴木知財部員「そうなんです。最近遅くなることが多くて困っているんです。」

発信側の課長の自我状態は、否定的な批判の親CPで、部員の否定的なACに向かっています。それに同調した部員の自我状態も同じく否定的なACから、部長の批判の親CPに向かっています。
この場合、相補的やりとりに見えるのですが、後述する隠れたやりとり、すなわち、裏面的なやりとりの場合があるのです。

山田課長が一見納期が遅いB特許事務所を非難しているかのようですが、B特許事務所の納期管理をおろそかにしている鈴木部員を非難している場合があります。発言の裏にある心理レベルにおいて、課長は「鈴木君、もっとしっかりB事務所の納期管理をしなきゃいかんだろう。」の意味を込めている場合があるのです。さらに、それを受けた鈴木部員もそのことを瞬時に分かって、裏にある心理レベルでは、「私の責任を追及しているのですね。」のように考えて上記のように反応するのです。

後述しますが、このような隠された裏のやりとりが横行する職場や家庭は、沈滞し気まずい雰囲気となっていきます。

事例6

滝沢知財部員「課長、私がこの発明のクレームを作ると、どうしても15行を超えて、狭い権利になってしまいます。もっと、大きくすることはできないものでしょうか。」
水崎知財課長「どれどれ、じゃあ、この発明の技術内容と従来技術を説明してくれたまえ。そうすればクレームを作ってやろう。5,6行で書けるように思うけど。」

日頃、課長の発明把握能力と、それをクレームに起こす優れた発想に尊敬の念を抱いている滝沢部員は、重要出願ということで課長にクレームを作ってほしいと願い出たのです。尊敬されている課長としては、忙しいながらもこの際しっかり指導してやろうと、クレーム作りを引き受けたというわけです。子供が親に何かをねだったのに対して、「おお、よしよし。」とそれに応じたのと同じケースです。部員の願いは肯定的な自由な子供の自我状態FCから発信されています。それを受けた課長の自我状態は肯定的な保護の自我状態NPです。

この場合も裏面的なやりとりが隠されていることがあります。発明の把握とクレーム作成に自信のある滝沢部員が、日頃管理業務に忙しく明細書実務等に縁のない課長に対して、心理レベルで「課長はいつも請求項については厳しい指導をしているが、日常ほとんど実務をやっていない課長がいい請求項を作成できるのかな。一丁試してやるか。」と思って、上記のような発言になったようなケースです。これに対して、課長もそのことを察知して「試そうというのか。いやな奴だ。いい請求項を作ってぎゃふんといわせるか。」と思い、上記のような反応をしたとすると、隠されたやりとりが裏にあることになります。この点について後述します。

4−2)交叉的やりとり

事例2でみたように、気まずくやりとりが途切れてしまう事例です。以下に述べるような交叉的やりとりが、多い職場では全体のムードが停滞し、とげとげしく、暗くなっていく傾向があります。しかし、叱責をしなければならないようなケースでは、交叉的やりとりで、対応しなければなりません。それには活性化のための工夫が必要です。

事例7

吉田知財部長「この鑑定書は、結論はともかく、理由付けがよくないねえ。」
野口知財部員「大手事務所の所長に対して、ちょっと失礼に当たりませんか。」

部長にしてみれば、野口部員からの反応は「そうですね、理由付けが不明確ですね。」のような反応を期待していたのですが、意外にも「失礼だ」という反応。部長は戸惑ってしまうでしょうし、二の句が付けず、滞ってしまいます。


事例8

水崎知財課長「この明細書はすごいなあ。発明の把握も発明のポイントをきちんととらえているし、クレームも分かりやすい。」
田中知財部員「でも、いつも届く明細書はそうでもないんですよ。結構、こちらで修正することがあるんですよ。今回はベテランがチェックしているんじゃないですか。」

課長が明細書の立派さについて、同意を求めているのに、そうではないという批判です。課長としては予期せぬ反応です。この場合、課長のAから部員のAに向けて発信されたのに対して、部員はCPから課長のACに向けて反応しています。水崎課長の感動は、田中部員の関係のない問題点の取り上げでつぶされてしまいました。このやりとりで水崎課長は言葉をなくし、2人の間には気まずい空気が流れます。


事例9

滝沢知財部員「課長、私がこの発明のクレームを作ると、どうしても15行を超えて、狭い権利になってしまいます。もっと、範囲を大きくすることはできないものでしょうか。」
水崎知財課長「何言っているんだ。今、侵害事件でそれどころじゃないよ。ポイントを捉えて、そこをズバッとクレームすればいいんだよ。自分でやりたまえ。」

前記の事例6のような反応を期待していた知財部員は、課長の剣幕にたじたじです。ただ黙る以外にありません。しかし、このやりとりは、線図で見てみますと、矢印はC→P、P→Cのように、平行になっています。しかし、同じCでも発信は自由なFC(OK)から、保護の親NP(OK)に向かっています。これに対して、反応は批判のCP(OKでない)から、順応のAC(OKでない)に向かっています。やはり交叉的やりとりの一種であるといえます。気まずく、途切れてしまうやりとりです。

4−3)裏面的やりとり

会話だけではなく、態度や行動もやりとりのうちに含まれることはすでに述べましたが、同じ会話でも隠された意図が言葉の裏で発信されている場合があります。お世辞や、皮肉によく現れるやりとりです。

事例10

吉田知財部長「今年の新人は皆、発明のポイント把握が弱いなあ。困ったもんだ。」
水崎知財課長「その通りです。困っています。」

上記のやりとりは、ごく普通にCP(OKでない)からCP(OKでない)に発信されるとともに、反応した相補的交流になっています。
しかし、言葉の裏に隠された心理的レベル、すなわち裏面では、

吉田知財部長「課長の指導が不十分ではないのか。」
水崎知財課長「私に対する責任追及ですか。」

のようになっていて、部長のCP(OKでない)の自我状態から、課長のAC(OKでない)に向けて発信され、課長は同じくAC(OKでない)の自我状態から、部長のCP(OKでない)に対して反応しています。

事例11

水崎知財課長「野口君、この属否の鑑定、実質同一や均等論の配慮が必要で、かなりレベルの高いものだが、できるかなあ。」
野口知財部員「はい、やらせていただきます。」

ごく普通の大人Aと大人A間のやりとりですが、心理レベル(裏面)では、

水崎知財課長「君の実力で、この鑑定大丈夫かなあ。」
野口知財部員「このくらいの鑑定、できますよ。課長は私を甘く見てるな。やってやろうじゃないか。」

課長としては「レベルの高い鑑定を野口君にやらせるには、いささか不安だが、忙しくてほかに人材もいない。しょうがない、野口君にやらせるか。」との思いから、ある種のけしかけを行ったのです。野口君はそれにまんまと乗って鑑定を引き受けたのです。

しかし、もし、野口君が「そうですか、私には無理のようですので、その鑑定は遠慮します。」というように反応したならば、課長の意図はひっくり返されてしまいます。

課内の安定した人間関係の構築のためには、水崎課長としては、「この鑑定は、大変だけど頑張ってくれないか。」とAの自我状態で野口君に頼むべきだったと思われます。

上記2つの例では、発言に現れた、表面上の自我状態とは別に、隠された自我状態があるのです。このようなやりとりが頻発する職場や家庭は決して良好な状態とはいえません。

4−4)交叉的やりとりの必要なとき その1

事例12

海産物商店営業部員「電話で失礼いたします。北海道の北海屋と申します。去年当店へお越しいただいた際に、鮭やいくらをお買い上げいただきました。その節はありがとうございました。ただいま当店ではキャンペーン中でございまして、全品20%引きで販売いたしております。特にいくらは特別お安く・・・・・」とただ聞いているだけでは、延々と続きそうです。そんなときには交叉的やりとりで中断させた方がいいということになります。「せっかくですが、今海産物を買う気はありません。申し訳ありませんが、お断りします。」のように、交叉的やりとりで、中断させてしまうことで、解決するわけです。もちろん気まずさは残ります。

海産物店の営業部員はAからお客のAへと発信しています。これをお客は交叉的にCPから営業部員のACに向けて反応しています。

次の予定があって、出かけなければならないのに、仕事とは関係のないよもやま話がお客様との間で、盛り上がっているようなときにも、このように交叉的やりとりで締めくくることができます。「もっと、楽しいお話を伺いたいんですが、申し訳ありません。次のスケジュールがありますので、失礼いたします。」

4−5)交叉的やりとりの必要なとき その2

相補的やりとりを重要として、それのみを実践してばかりはいられないことがあります。部下がミスを犯し、それを反省することなく、ミス発生の原因を他者に転嫁したようなときには、OKでないCPの自我状態で部下を叱責せねばなりません。しかし、心理レベルでは部下に対して、成長を願い、彼を守る立場(心理的レベルの自我状態はNP)で、対応する必要があります。

事例13

知財部員「審査請求の日限を徒過したのは、私の責任ではありません。特許事務所の日限管理が悪かったのです。」
知財課長「当社においても、期限管理は行われているではないか。特許事務所に日限管理を正式依頼して、管理料を払っているわけではないだろう。それを特許事務所に責任を転嫁するのはいかんだろう。」

このやりとり、すなわち、叱責の交叉的やりとりで、組織のムードを暗くし、停滞を招いてしまってはよくありません。部下に対する姿勢は責任追及だけではいけないのです。叱責は間違った行動を取り除き、その人を守るという立場で行う必要があります。

もちろん、できる限りの修復の具体的手段を取らねばなりません。例えば、関連出願からの分割出願で、近似の出願を復活させたり、他の出願の図面から分割した上で意匠出願に変更したり、その特許喪失によって惹起される影響を総合的に調査したりする等です。

さらに、再発防止に最大限の措置を講ずることです。最後に、ミスを犯した知財部員が意気消沈しないためにするお褒めです。例えば、「大事な特許の喪失か、困ったな。審査請求日限徒過なんていうのは、日頃優秀な君らしくないぞ。さあ、どうするか考えよう。」(NP→AC)等です。もし、上司からこんな風に言われたら、部下は少し安堵し、意気消沈から少しは救われるでしょう。

5)如何に叱責すべきか

叱責は次のように行います。その方法は「1分間マネジャー」という本に明確に示されています。

(1)ミスが起こったときには、ただちに叱責をすること

叱責をしなければならないときに、すぐにやらないで、ため込んでしまう管理職の人が多くいます。問題の行動が起こったときに、1銭なり、2銭なりとため込み、業績考課のときや、堪忍袋の緒が切れ頭に来たときに、カーッとなって、一切合切を当人にぶちまけるのです。起こるのは互いに非をあげつらい喚きたてるか、黙りこくってしまうことです。このようなやり方を「放っときバッサリ」といいます。

(2)ミスの事実を正確に確かめ認識すること

ミスの内容を正確に認識していないと、見当違いのことを叱責の対象にしてしまうことがあります。本人に事情を訊くだけではなく、客観的な資料等を見聞きしたり、仲間や上司あるいは部下の話も訊いてみたりする必要があります。

(3)何が間違いかを正確に具体的に教えること

叱責する際にやってはいけないことがあります。人格に触れることです。すなわち、「お前、審査請求期限徒過なんていうのは、馬鹿か、うすのろか、頭悪いんじゃないの。」等と、人格に攻撃を加えるのは、厳禁なのです。それは直しようがないからです。間違いの行動だけを責めるべきなのです。行動は直しようがあるからです。

(4)それを上司として、どう感じているかを伝える(怒っているのか、困っているのか、落胆しているのか等)

上司から「困ったなあ。どうしたらいいんだろう。」等と言われたらミスを犯した当人としては、いたたまれたものではありません。心からしまった、悪かったと思うことになるのです。叱責効果が上がろうというものです。

(5)沈黙の時間を置き、話をよく浸透させる

1分もの長い時間は叱責する上司としても大変です。せいぜい30秒くらいでしょうか。

(6)一連の叱責が終わったならば、それを引きずってはならない

もちろん、修復手段をどうするか、再発防止対策をどうするかという点は残りますが、何回も穿り返してはならないということです。

6)修復しながら進むやりとり

お互いにやりとり分析の分かる特許事務所の所長と新人弁理士の会話です。

新人弁理士「所長、この特許の属否の鑑定書のチェックをお願いできますか。」A→A
所長弁理士「そんなに難しいケースじゃないだろ。そのくらい自分でできなくてどうするんだ。」CP→AC
(忙しい所長はつい交叉的やりとりで応じてしまいました。)
新人「すみません。」AC→CP
(新人弁理士はいきなり言い訳をしないで、謝ります。ここで「鑑定書は見せろと、言ったじゃないですか。」と、さらなる交叉的やりとりで応じますと、ますますこじれ、混乱します。)
所長「今、緊急の仮処分事件を依頼されていて、目が回るほど忙しいんだよ。」CP→AC
(ちょっと言い過ぎたと感じた所長は、その言い訳をして言い過ぎの正当化を図ります。)
新人「それは知りませんでした。」AC→CP
(このように応じて、所長の忙しさを理解します。雰囲気は和んできました。)
所長「その鑑定はそんなに難しいものじゃないんだから、あまり頼りにされても困るんだ。」CP→AC
(再び言い訳です。しかし、先ほどより雰囲気は良くなっています。)
新人「でも、以前、所長からは鑑定は企業の盛衰にかかわるから、必ず見せるようにと指示を受けていますが。」CP→AC
(そこで、新人弁理士はすかさず以前の所長からの指示を持ち出して、自分のお願いが正当であることを申し出ます。これを最初の「自分でできなくて、どうするんだ。」と言われた段階で発言してしまっていては、混乱するばかりだったでしょう。)
所長「それはそうだったな。」A→A
(所長もある程度冷静になっていますので、大人の自我状態Aで応ずることができました。)
新人「では、いつなら見ていただけそうですか。1週間くらいは余裕がありますが。」A→A
(「今見てください」というのではなく、気遣いながら時間的な余裕を以てお願いしています。)
所長「そうだなあ。仮処分事件は今週中には目途がつくので、週明け早々には見られるよ。」A→A
(そう言われれば、断る理由はなくなってきます。見せろと指示したのは自分であることもあって、引き受けることになりました。)
新人「では、来週月曜日に改めてお願いします。」A→A
(さすが、やりとり分析について、よくわかっている人同士のやりとりです。実にうまくけりがつきました。交叉的やりとりが多くなっているのに、それらを大人の自我状態Aで応答することによって、和やかな雰囲気で締めくくっています。やりとりはこうありたいものです。)

7)結び

以上、やりとり分析について、概観しました。知財マンの人間関係をよくするために、お役立ていただきたいと思います。人間関係をスムーズなものにしようとするときは、相補的やりとりが適切なのですが、全部そうすることはできません。また、表面的には相補的やりとりであっても、裏面的には交叉的やりとりになっていることもあります。その場合は知らず知らずのうちに人間関係を傷つけることになってしまうのです。

まず、自分のやりとりがどのような傾向を持っているかに気付くことが大切です。多くの人はAの自我状態で相補的やりとりを自然に多用しているのですが、ちょっと平静さをなくしたようなときに、突然自動的に現れるのが、自分本来の発信または反応の傾向だと思われます。6)で述べた所長弁理士がそうでした。

自分のやりとり分析の傾向を知っていますと、気まずいやりとりをしたときに、それに気づきやすくなります。気づけば、より良い人間関係の構築ができるような、やりとりに修復できるようになります。また、わざと交叉的やりとりを使って、組織をより生産的なものにすることも可能になります。やりとり分析を組織の活性化にお役立ていただきたいと思います。

8)参考文献

(1)新しい自己への出発 岡野嘉宏・多田徹佑 共著
  (社会産業教育研究所)
(2)交流分析の基礎 中江延江、田副真美、片岡ちなつ 共著(金子書房)
(3)1分間マネジャー ケネス・ブランチャー、スペンサー・ジョンソン共著(ダイヤモンド社)

2014年5月発行 第100号

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