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「パテントメディア」

【社内活性化の原点】特許事務所の現状と近未来

2011年5月
会長 弁理士 恩田博宣

1.はじめに

当所では、毎年1月に前年に公開された公開公報、公表公報を調査して、特許事務所の上位100位の出願件数を出しています。各特許事務所に所属する弁理士の名寄せを弁理士会の発行する弁理士名簿のデータから行います。そして、その弁理士が代理する件数をデータから抽出することにより、事務所ごとの出願件数が出てきます。
「特許事務所はしっかりした調査能力がなければならない」という筆者の考えから、行っているものです。なお、当所は調査部門に8名の人材を配置して出願前調査や無効理由調査、各種マップ作成、等の調査活動を行っています。特許事務所の出願件数調査のメリットとしては、今までは当所の位置付けを知る以外に多くはなかったのですが、今年の1月に行った調査では、我々の特許業界がリーマンショックで受けた影響が、色濃く現れたデータが得られました。大変深刻なものでした。

2.調査結果概観と調査結果分析

今回の調査は平成22年(2010年)公開公表分ですので、2008年7月から翌2009年6月までの1年間に出願された分の統計ということになります。
筆者の事務所が深刻な影響を受け始めたのが09年1月でしたので、リーマンショックの影響はこの統計の期間の後半の約半分ということになります。
その1年間の全出願件数(公開、公表)は329,988件(約33万件)、対前年比19,444件減、5.56%減でした。なお、
公開件数288,451件 対前年比15,035件減、4.95%減
公表件数 41,537件 対前年比 4,409件減、 9.6%減
でした。公表件数はPCT出願の国内段階として日本に入ってきたものですので、外国からの出願(外内出願)の減少幅が大きかったことを示しています。
ちなみに、8年前の2002年には公開公表件数は419,131件(約42万件)でしたので、8年間で89,143件(約9万件)の出願減があったことになります。
現在、全国にある特許事務所数は3,700事務所です。そのうち第100位の事務所は年間約550件の出願を代理しています。8年間で100位に相当する事務所が、162事務所消えてなくなったことになります。
年間100件の扱いをする事務所は、約第180位になりますが、その規模の事務所が900もなくなったことになるのです。この8年間の出願件数減は、特許事務所に対する非常に深刻な影響があったといえます。
さて、日本全国の特許事務所の中から、上位100事務所を取ってみました。1番目の事務所の出願件数は7,068件、100番目の事務所の出願件数の546件でした。
上位100位までの事務所のトータル出願件数約142,500件で、減少件数は5,775件でした。減少率は約4.1%です。比較的その減少幅は少なかったといえます。
全出願件数の減少率が、5.56%だったのですから、上位の事務所の経営体質にある種の強さがあったと推定できます。

上位から順に10事務所ずつ取って分析してみました。

ランキング
グループ
現象状況
概況

Aグループ

1位 8,582件

10位 3,371件

【トータル】
−975件
−2.1%
【最大】
−738件
−15.6%
【最小】
−24件
−0.6%

  • 上位10事務所のトータル出願件数は45,868件(全出願件数の14%)
  • 上位3位までは不況にもかかわらず出願件数増加(1位:+175件+2.1%、2位:+176件+2.6%、3位:+617件+17.6%)させており、すばらしい経営を行っておられることが想像される
  • 4位〜10位までの事務所(筆者の事務所はここに入ります)は軒並み減少させている(【最大】−738件−15.6%、【最小】−24件−0.6%)
  • 10%以上減少した2事務所
      (−738件−15.6%、−477件−10.9%)があったが、経常利益率10%以上を確保している事務所はそれほど多くないことを考えると、10%の売上げ減は経営的に非常に苦しい状態であると推測できる

Bグループ

11位 3,224件

20位 1,850件

【トータル】
−1,922件
−7.6%
【最大】
−495件
−18.0%
【最小】
−59件
−1.8%

  • 出願件数を増やしたのは1事務所のみで、9事務所が減少させている
  • Bグループのトータル減少数はAグループの2倍以上あり、影響が大きかったと推測される
  • 出願件数を増やした事務所は+56件+3.0%
  • −10%以上の事務所は2事務所
    (−344件−11.3%、−314件−12.7%)
  • Aグループに比較すると深刻な状況である

Cグループ

21位 1,797件

30位 1,369件

【トータル】
−718件
−4.3%
【最大】
−301件
−15.9%
【最小】
−49件
−2.8%

  • 出願件数を増やした事務所は3事務所(+194件+13.3%、+64件+4.5%、+26件+1.5%)
  • 上位100事務所の平均的減少率である−4.1%と変わらないことから平均的な影響を受けたクラスである

Dグループ

31位 1,364件

40位 1,119件

【トータル】
−454件
−3.6%
【最大】
−270件
−18.5%
【最小】
−2件
−0.2%

  • 出願件数を増やした事務所は2事務所(+271件+32.0%、+181件+18.4%)
  • グループ全体的には出願件数を増やした事務所の増加件数、増加率が非常に高かったため、Dグループのマイナス影響を軽微にしている
  • 個々にみると出願件数を10%以上減らした事務所が3事務所あり影響はかなり大きいと思われる(最大減少以外の2事務所−209件−15.7%、−165件−12.3%)

Eグループ

41位 1,111件

50位 954件

【トータル】
−632件
−5.8%
【最大】
−270件
−19.6%
【最小】
−25件
−2.6%

  • トータルの減少率は上位100事務所平均よりは大きく出ている
  • 出願件数を増やした事務所は2事務所(+117件+13.4%、+64件+6.4%)
  • グループ全体的には出願件数を増やした事務所の増加件数、増加率が非常に高かったため、Dグループのマイナス影響を軽微にしている
  • 個々にみると出願件数を10%以上減らした事務所が3事務所あり影響はかなり大きいと思われる(最大減少以外の2事務所−172件−15.3%、−153件−13.1%)
  • Eグループの傾向はDグループと似ており、増加した事務所の増加数が少ない分だけ全体の減少率が上がっている

Fグループ

51位 928件

60位 849件

【トータル】
+259件
+4.7%
【最大】
−102件
−10.5%
【最小】
−17件
−1.9%

  • 出願件数を増やした事務所が半数の5事務所(「不景気何するものぞ」といったところか?)
  • 出願件数を増やした5事務所(+231件+37.4%、+103件+12.5%、+85件+10.6%、+58件+7.0%、+43件+5.3%)
  • たまたまこのレンジに出願件数を伸ばした事務所が集中したのだろうと思いますが、このレンジの事務所の年間出願件数が850件〜930件の範囲であり、従業員数の推計は60人〜70人(外内出願の多寡によりかなりの差が出ると思われる)であり、比較的経営がしやすい規模であると思われる(それにしても、この厳しい不況下で経営を伸ばす才覚は素晴らしいといえる)

Gグループ

61位 718件

70位 649件

【トータル】
−235件
−3.87%
【最大】
−135件
−16.9%
【最小】
−3件
−0.4%

  • 出願件数を増やした3事務所(+99件+6.3%、+69件+10.7%、+39件+6.3%)
  • このグループでもFグループと同じことがいえる

3.コメント

いかに景気が悪かろうが、業績を好転させている事務所があるということです。どの10事務所のグループを取ってみても、必ず業績を伸ばしている事務所がありました。そして、その事務所は出願件数の多いグループには限られず、どのレベルのグループにもほぼ平均的に存在しているのです。やはり、経営の良し悪しが結果として出ているものと思います。
一方、非常に深刻な事務所の例もいくつかありました。例えば、調査の中で判明した最も深刻な例は579件(09年公開公表分)から151件(10年公開公表分)になったケース、減少率73.9%でした。その他、559件→214件、減少率61.7%、368件→185件、減少率49.7%のケースがあったのですが、いずれも150位〜160位の事務所でした。
50位以内で最も減少率の大きかった事務所は、1,381件→1,111件、減少率19.6%、減少件数の最も大きかったのは738件減少の事務所でした。
51位〜90位で最も減少率の大きかった事務所は、801件→666件、減少率16.9%でした。影響が比較的少なかったことを示しています。
91位〜130位の事務所では、減少率の高い事務所として、34.9%減、34.4%減、32.9%減、26.3%減、23.0%減のところがありました。
131位〜150位には減少率の多い事務所が多くありました。
46.8%減、36.5%減、30.3%減、26.9%減、21.9%減の事務所があったのです。

4.国内出願減少の理由

今年の年始に、当所のお客様企業の今後の見通しについて伺う機会がありました。その中で各社共通の考え方として、明らかになったのは、日本出願を減らし、外国出願を増やすという方向性でした。

(理由その1)その日本出願減少の理由を推測してみますと、第一にいえることは、リーマンショックによる会社売上の減少、それに続くあらゆる予算の削減、そして、かつては聖域であった知財予算の大幅カット、そこから生ずる出願件数の減少です。

(理由その2)次に、日本が少子高齢化で、消費市場としての価値ないしは魅力が低減していること、そして経済がどんどんグローバル化しているため、世界に目を向けた知財管理が必要になったということだと考えます。
大方の企業が「日本には重要発明に限って出願し、日本に出願した以上は、世界各国にも出願する」というポリシーが確立されていました。日本出願の減少する大きな理由だといえます。

(理由その3)さらに、日本の人件費の高さ、そして、高率の法人税等日本の政策のまずさから、非常に多くの企業で工場を海外に立地するということが起こっています。この工場の海外移転は、日本における企業間競争を減少させ特許出願の必要性を極小化しているともいえましょう。

(理由その4)また、日本人のモラルの高さも出願減に繋がっているように思えます。すなわち、モラルが非常に高くなった日本においては、他人の発明したものを横取りしようとする企業がコンプライアンス厳守の思想の普及から少なくなってきています。そうすると企業としても、それほど出願しなくてもいいのではないかという考え方になってきます。

(理由その5)出願すると、1年半で公開されます。そうするとその発明の閲覧者の50%が中国、韓国、台湾だといわれています。だから、これらの国へ出願する予定のない発明を下手に日本にだけ出願すると、ただ真似されるだけで、かえって損害の方が大きくなるという考えから出願件数が減っているという側面もあるのではないかと思います。

(理由その6)特許庁の「よく調査をして、通るもののみを出願せよ」という出願抑制策は、大手各社の知財管理能力の大幅な向上をもたらしました。これが原因で、出願件数の減少に繋がっていると思われます。すなわち、企業の調査能力が向上しますと、特許されるかどうか、されるとしたらどの大きさの権利獲得ができるのかが、明らかになるので、それほど多くの出願件数を確保する必要がなくなるわけです。重要出願に絞って出願する企業が増えていますが、知財管理能力が向上すれば、どの発明を出願するかという選択力も的確になって、出願件数減に繋がります。

(理由その7)特許庁の審査の厳しさが出願件数減に繋がっている可能性が否定できません。外国の代理人から聞いたことですが、「日本に出願してもその価値に見合った大きな権利を取れない。だから、費用対効果を考えると日本に出願するのは損になる」というのです。典型的なのは特許法36条6項1号違反での拒絶です。「実施例にサポートされていないから、そこまで一般化ないし拡大できない」という拒絶理由で請求項の限定要求がだされるケースが非常に多いことです。「欧米では通ったのに、何で日本だけ通らないのだ」という苦情が結構あるのです。

(理由その8)更にはシフト補正禁止です。これほどユーザーフレンドリーでない法律はないでしょう。液晶テレビの出願の中にリモコンが書いてあって、請求項がはじめ液晶テレビだったのを、途中からリモコンに変えるのを禁止するのなら分かります。
同じ液晶テレビでも、請求項が1.A+B、2.A+B+C、3.A+B+Dであったとき、1.A+Bの新規性がなかったとき、3.A+B+Dについては審査しない。分割して高価な審査請求料をもう1回支払わなければ、審査してもらえないのです。これは単に特許庁の収入を増やすだけの制度で、全くユーザーフレンドリーとはいえません。日本出願の減少の原因の一つでしょう。

5.特許事務所の現状と近未来の状況

日本の特許事務所業界は、上記のように非常に厳しい状況にあるといえます。
この現状からすると、いい方向に向かう可能性は非常に低いといわざるを得ません。それは第一に政治があまりにも悪過ぎます。いみじくも経団連の会長が「税金泥棒」と言い放ったのはまさに至言です。財政が逼迫しているのに、消費税の議論すら進まない。企業がどんどん海外に流出するのに、法人税5%ダウンもいつ実現するか分からない。TPPも直ちに参加を表明し、実現に向けて努力しなければならないのに、6月までに決めるときわめて悠長なことを言っている。政治は国民のことなど一切考えることなく、政権維持又は奪取の政争に明け暮れています。日本は当分の間、落ちぶれて行くしかないでしょう。沈没状態にならなければよいのですが。
そうしますと、今後特許出願件数の漸減傾向は止まることはないといえます。特許事務所間の競争は、まさにサバイバルゲームということになります。現在の顧客をしっかり維持するだけでは、やはり事務所の出願件数は漸減傾向となって、衰退の方向となります。現在の業容を維持し、さらに、業容を拡大しようとすれば、新たな顧客を開拓する必要があります。もっと過激にいえば、他の事務所の仕事を奪い取らなければならないのです。常に顧客開拓をしなければ、事務所は衰退するということになります。
その陰では、競争に敗れた事務所は廃業の憂き目を見ることになります。
しかし、企業側においては、出願件数の減少から、付き合う特許事務所の数はできることならば減らしたい、という状況にあるのです。新規開拓は非常に難しいということができます。まさに、特許事務所受難の時代です。
筆者の事務所におけるお客様のヒアリングの中でも、いくつかの企業で「特許事務所を整理しました」との報告がありました。すなわち、付き合う事務所数を減らされたのです。
また、「今後は弁理士数5人以上で、組織的に仕事をする事務所とお付き合いします」との発言もありました。
企業側から見たとき、ある程度の規模を有し、組織的な運営をしている事務所が頼りにされるということがいえそうです。
さらに、各企業が厳しいグローバル競争にさらされていますので、特許事務所もコスト競争力をつけて行く必要があることも確実です。
もちろん、事務効率のアップ、明細書その他の実務の品質維持向上について、不断の努力が必要なことはいうまでもありません。

6.筆者の事務所の状況と対応

筆者の事務所も2010年公開公表分の結果は、3.2%減少でした。特に公表件数、すなわち、外内出願の減少が顕著でした。全出願件数の平均減少率からいえば多少よかったといえますが、この不況下でも出願件数を増やす立派な経営をされている事務所と比較すれば、経営上の問題があったといえましょう。
事務効率や実務の品質のアップについて、筆者の事務所では四半世紀にわたって、QCサークル活動を継続しています。効率アップ品質向上に多大な貢献があります。
また、ISOの考え方を入れた業務監査や不適合対策も効果をあげています。
例えば、監査ではミスが発生したとき、是正措置を講じますが、それが尻抜けになっていないか、目標をしっかり意識して仕事をしているか等をチェックします。監査時に「今月の売上目標いくら」「現在いくらまで来ているか」「達成の可能性はどうか」等がチェックされるのです。
当所のシステム開発は、事務効率化に大きな影響をもたらしています。現在8人のシステムエンジニア(SE)が所内ソフトの開発、メンテナンスに当たっています。日々改良されるソフトによる効率化は非常に大きなものがあります。さらに、このソフト開発はQCサークル活動とタイアップして行われるとき、予想外の威力を発揮するのです。全所250人体制ですが、SE8人では全てのソフト改善要求にはとても応じられない状況なのです。
最近大きな改善効果をもたらした一例を挙げますと、特許庁から送付される拒絶理由通知等の数は毎月2,000通を超えるのですが、これらが所内コンピュータ内に取り込まれ、経過の書き換えが行われるのです。そして、お客様への書類発送の案内も自動作成されるのです。人件費削減に大きく貢献しました。
QC活動とは別に、改善提案制度も行っています。必ず採用不採用を決定し、採用したものには、等級を決めて、報償金を出しています。例えば便利なURLを所内全体で共有したり、のり付封筒の採用等の事例がありました。
さらに、非常に困難を極めるのですが、出願以外の新規事業展開も模索しています。知財、技術の専門知識を生かす調査、コンサルティング、技術翻訳、知財評価、内外特許出願、植物新品種登録等です。
筆者の事務所では、2006年以降、特許ポートフォリオ開発コンサルティング(パテントメディア83号、オンダ特許のHP参照)を行っています。企業の要望に応じて短期間で集中的にたくさんのアイディアを出し、出願まで持っていくという事業です。10件ほどの実績ができましたが、出願の手数料をカバーするほどのところまでは育っていません。我慢強く育てていく予定です。
その他、調査については、8名のスタッフを擁し、まずまずの成果を上げています。内外出願については一般的な傾向の通り現在増加傾向が見られます。植物新品種の登録業務については、参入を果たしていますが需要はきわめて少ない状況です。
さらに、企業がグローバル化対応として、工場を海外に立地する対応をしています。我々も何らかの形でグローバル化に対応する道として、海外展開を考える必要があろうかと思います。弁理士制度が国ごとに異なるのですから、海外での特許事務所展開は非常に難しいのですが、多くの日本企業が海外に立地している以上、現地の特許事務所とタイアップする等何らかの対策を打つ必要があろうかと思います。当所では2002年に中国に進出して以降、多くの困難に遭遇しながらも、上海において、現地の特許事務所に出願を依頼する方式で、15人ほどの事務所展開を継続しています。
今後可能性のあるものについては、何でもチャレンジしていきたいと思います。

7.結び

以上2010年公開、公表の出願件数の分析結果から、特許事務所の現状と近未来についてコメントしました。この厳しさは単に特許事務所のみならず、日本におけるあらゆる事業体にいえることではないかと思います。
そんな中、何とか力強く生き残るために、有効な対策を次から次へと実行していく所存です。

2011年5月発行 第91号

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