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「パテントメディア」

再び事務部門QCの勧め

2009年9月
会長 弁理士 恩田博宣

1)始めに

2002年の1月号の本誌で「QCの勧め」を書きました。その後、当所のQCもさらに進化し、すでに報告いたしておりますように、昨年、第1回 事務・販売・サービス部門全日本選抜QCサークル大会において、「金賞」を受賞しました。また、筆者はQCサークル経営者賞を受賞する等、当所のQCサークル活動は一気に花開いた状況となりました。 そこで筆者が感じますのは、次のようなことです。

日本の事務関連の効率はアメリカに比較しますとIT化が遅れていて、格差が大きいといわれています。また、日本のQC活動は最近事務、販売、サービス関連もやっと動き出したとはいえ、主流はモノづくり企業における現場の活動です。
もし、日本の過半数の事業所における事務、販売、サービス(以下JHSという)のQC活動が盛んになれば、日本全体の生産性向上に大きな貢献をすると思うのです。なお、当所の経験によれば、通常JHS部門のQC活動を有効に機能させるには、ソフト開発の協力が不可欠といえます。

そこで今回は当所のQC活動の中から、前述の全国大会で金賞を獲得した図面グループの活動を詳細に紹介し、事務部門QCの勧めとしたいと思います。

2)当所における最近のQC活動

当所の現在のQC活動は全員参加、原則半年単位で1ラウンドをこなします。全部で32〜36サークルが活動をします。QCリーダーは当番制で順番に担当します。各グループの人数は2人〜10人とさまざまです。課題は原則自主的に決定しますが、全て所長又は筆者(会長)がチェックして、簡単に結論が出そうな活動だったり、もっと重要な課題が他にあったりするときは、入れ替えてもらいます。就業時間中の活動であるがゆえに、どうしても事務の効率化または品質の向上に貢献してもらい、実利を得る必要があるからです。

どのグループも毎週一回1時間のミーティングのための時間を取ります。課題の決定、現状の分析、要因解析、どのような対策を打つかの相談、効果の確認、歯止めをどうするかの相談等です。週1時間では足りないことがあります。例えば、現状把握をするとき、継続して調査活動をしなければならないことがあります。そんなときは就業時間中にそのための時間を取ります。時にはミーティングなしで現状把握等の活動が続くこともあります。

活動が終局に近づくと、それを発表するためにプレゼンテーションの資料としてまとめます。それが改善推進室へ提出され審査が行われます。改善推進室は専任者2名、外部専門コンサルタント1名です。審査の結果、事務部門5つ、明細書部門5つの上位グループが選出されます。そして、所内発表会です。所内のホールでは所員全員を収容できないので、実務担当者は実務グループの発表を、事務担当者は事務グループの発表を聞きます。東京・大阪のオフィスにはテレビ会議で同時中継されます。東京や大阪のグループが上位5位以内に入ると、テレビ会議で発表を行います。

講評者は予め発表資料をしっかりと読み込み、分からないところはQCリーダー又は改善推進室の人に聞き、活動の問題点を先に、素晴らしい点を後に講評します。講評を聞いていると、その人のQCに対する造詣の深さや情熱がよくわかります。所長、会長も発表が終わり、集計時間中に全てのグループの発表に対する講評をしますが、大方はそのグループがいかに素晴らしいかを述べることに終始します。

3)図面部の活動1

図面部は10名で構成されていて、サークル名は「さくさくサークル」です。仕事は特許明細書部門や意匠部門からの指示に基づいて、3次元CAD(ソリッドMX)で、図面を作成する部門です。企業が直接出願するときの図面依頼を受けることもあります。6名が既婚者で、その内1名は在宅勤務、3名は出産後復職し、フレックス勤務をしています。このように、生活環境の変化にもかかわらず、多くのメンバーが永年勤続しています。

97〜98年当時の状況は教育体制が整っていないばかりか、作図のスキルはバラバラ。残業も多く、閉鎖的な体質でした。そんなところに、QCサークル活動が開始されたのです。知識が乏しく、手法もあいまい。製造部門でない図面部にQCサークル活動が必要なの?といった疑問も出てくる等、しぶしぶの活動だったのです。

しかし、初歩的な活動の中に、現状把握で種々の問題や課題をはっきりと意識することができるようになったのです。そして、その問題点や課題を皆で知恵を出し合い、力を合わせて解決していく過程で、楽しさや、自分たちの可能性を見出していったのです。また、皆がQCリーダーを順番に経験すると、自分のことで精一杯だったメンバー達が、助け合いながら改善することに、喜びすら感ずるようになったのです。

活動の多くは、図面作成の効率アップに関するものでした。あるとき違った分野の課題に取り組んだらどうかということになり、ユニークなQC活動となりました。それは、CAD操作のために、パソコンを見続けていると、目が疲れる、頭が痛い、腰が痛い、手首が痛い、足がむくむ、肩が凝るといった身体的な問題点を何とか軽減しようとするものでした。しかし、QC活動としては非常に難しいテーマとなりました。「どのように進めていったらよいか」が分からなかったのです。

現状把握では、数値化ということが工夫されました。例えば、「肩が凝る」という症状に対して、医者に行かなければならない「5点」、慢性的に凝る「4点」、凝ることが多い「3点」、たまに凝る「2点」、苦痛を感じない「1点」というようにして、程度を数値化したのです。そして、仕事に与える影響を考慮して、「頭が痛い」は影響度が大きいから前記の点数に3点をかける。「足がむくむ」は影響度が小さいから1点をかけるというように、各項目を3段階に分けて、重み付けをしました。そして、この合計点数を出しました。201点でした。目標はこの合計点数を156点にするというようにしました。これは全ての項目を2点以下にすることと同じです。

対策も楽ではありませんでした。要因解析はできても、具体的な対策を立てるための資料が全くなかったのです。そこで上司の示唆を得て、大手企業の安全衛生課を訪ね、教えを請うたのです。

そして、次のような対策を打ちました。「休憩時間に体操をする」、「正しい姿勢を考えてその写真を貼りだす」、「キーボードの配置を変える」、「机いすの高さを変えて、ディスプレイを見下ろすようにする」、「週1回ディスプレイの拭き掃除をする」、「1時間に1回休憩を取る」、「時間がきたら、自動的にパソコンの画面に休憩を取る指示を出すようにする」等の対策を打ったのです。休憩のパソコン表示はシステム開発部の協力を得て実行できたのでした。

その結果、対策を打った後の合計点数は151点となり、目標を達成したのです。重要なことは、1時間に1回の休憩を取るようにしたにもかかわらず、図面を描く能率は、わずかながら上がったのでした。作業環境は大きく改善されたのでした。

このQC活動にはさらに余禄があったのです。愛知県QC大会に特別参加したのですが、中部地区の著名企業が並み居る発表会において、なんと地区長賞を獲得したのでした。当所の活動を外部発表した最初の出来事でした。
このころになりますと所内発表会では、発表会のたびに図面部が連続して金賞を取るようになりました。「向かうところ敵なし」といった状況でした。

4)図面部の活動2

その後、所内からは「図面部は、活動がしやすいので、金賞で当然」という声が出てきたこともあって、いささかやる気を低下させたばかりでなく、図面能率に関する改善はいくつも経験したこともあって、停滞期に入ったのでした。

そんな図面部に新人が加わりました。そして、斬新な発想が生まれたのです。すなわち、図面の発注元である特許明細書担当者や意匠担当者が図面部のお客様なのですが、「お客様の負担を減らそう」というQCサークル活動です。

ところが、突然「それまで使っていたCADソフトが使えなくなる」という事態に陥ったのです。ソフトメーカが「これ以上バージョンアップしない」と発表したのです。さあ、大変です。新しいソフトを導入しなければなりません。その間、明細書や意匠の担当者にも迷惑がかかるばかりでなく、最終的にはお客様にも迷惑がかかってしまいます。主たる業務自体が滞ってしまう可能性があったのです。

そこでQC活動として、「いかに上流の人たちに迷惑をかけないで、新しいCADソフトを導入するか」という課題に取り組んだのでした。新しいCADの選択にあたっては、前のソフトと環境が似ていることを重視したのですが、いざ操作を始めると、たくさんの相違点があったのです。そこで品質維持のために、印刷や線種などの環境設定を行い、データの互換性を高めるために、インターフェースを調整したのでした。また処理能力を落とさないための、移行計画表を作成したのです。

まず、2人が外部の研修会に出席する等して、新ソフトを習得し、日常の仕事が差し障りなくできるようになったところで、次の2人にその成果を移植するというようにして、10人のメンバーは1年以上をかけて新ソフトを習得したのでした。従って、新旧ソフト入り混じった状況で実務をこなし、図面を依頼してくれる他部門に迷惑をかけることはなかったのです。

5)図面部の活動3

5−1)3次元CADへの挑戦

QCサークル活動によって、幾度も転機を乗り越えてきた図面部でしたが、自分達で多くの課題を解決してきたので、皆で協力することでコミュニケーションもよくなり、職場の雰囲気も快適になって行きました。

女性の職場特有の問題もあります。結婚を機にやむなく退職する、育児休暇を取得するなど、突然の人員減少も起こり得るのです。そこで、「新人の育成にも力を入れる」という活動方針が出されました。「新人の早期スキルアップ」を目標として、人員減少による生産性の低下や、ノウハウが伝承されない事態を防ごうとしたのです。

具体的には「マニュアルの改善」でした。初めに、増え続ける部内のマニュアルの整理を行いました。全てのマニュアルを最新の状態に更新し、ないものは新規に作成したのです。それらのマニュアルには、分かりやすいファイル名を付けて所内サーバに保存するとともに、各マニュアルは新人教育用、あるいは図面の種類ごとのソフト教育用、各係の仕事説明用、作業手順解説用等に区分されていて、キーワードで検索可能になっています。特に新人教育用のマニュアルについては力を尽くし、分かりやすく、簡便で、無駄や漏れのないマニュアルにするようにしたのです。また、ソフトがバージョンアップされたときのマニュアルの更新についても、きちんとルール化しました。

CADソフトは日々進化します。当所では出産のために1年間の育児休暇を取ることが常態化しています。図面部の担当者が1年の育児休暇を終えて復職したとき、ソフトはかなり先へ進んでしまっているのですが、その復職者の再教育にもこのマニュアルは威力を発揮したのです。

さらに、日進月歩するCADの世界では、2次元ソフトから3次元ソフトへ移行する流れがありました。当所でもこの流れに乗る必要がありました。発明を分かりやすく表現するには、斜視図が大変有効ですし、意匠出願ではメインの図面として斜視図を使用することが主流になりました。このような特許事務所の業務の中でも、斜視図を簡単に作図できる担当者の需要は、非常に強くなってきたのです。しかし、図面部においては、3次元CADの重要性についての認識はあっても、誰も全貌をつかめておらず、ハードルが高そうなテーマでした。しかし、プロ意識の高い図面グループは敢然とチャレンジしたのでした。グループ名は「3D戦隊CADレンジャー」、テーマは「3次元操作技術のレベルアップ」でした。

5−2)現状把握と要因解析

現状把握として、サンプル3例について、3次元CADで斜視図を作成してみたところ、2次元ソフトで作図した場合に比較して、実に平均87%の時間短縮が図られたのです。具体的には、円盤に切り抜き加工を施したもの94%、円筒に穴が開いたもの97%、直方体に種々の加工を施したもの71%もの時間短縮だったのです。

次に、コマンド理解テストを行いました。全てのコマンドを洗い出し、どの程度理解しているか、「知らない、使えない」を1点、・・・・、「だいたいできる」を4点、「問題なく使える」を5点として、集計しました。400点未満2人、400〜500点1人、500〜700点4人、700〜1000点1人、1000〜1300点0人、1300点以上0人でした。また、担当者ごとの点数のばらつきが大きいばかりでなく、1点しか取れないコマンドの割合が非常に大きく、73.5%という問題点が判明しました。

さらに、モデル作成技能調査を行ったのです。それはやさしい事例から難しい事例まで難易度を5段階に分けて、各担当者がどのレベルまで作図できるかを調べたのです。判明したのは、8人中、ほとんど3次元CADの操作が分からないレベル1の者2人、レベル2までできる者1人、レベル3までできる者4人、レベル4までできる者1人、レベル5までできる者0人でした。

この2つの現状把握の結果を数値化するということを行いました。コマンド理解度と、モデル作成技能調査の結果はレベルと人数が全く一致したので、各レベルに点数をつけて(レベル1…1点、レベル2…2点、レベル3…3点、レベル4…4点、レベル5…5点)、それと各レベルの人数を掛け合わせて、合計点数を出しました。すなわち、レベル1(2人×1点)+レベル2(1人×2点)+レベル3(4人×3点)+レベル4(1人×4点)+レベル5(0人×5点)=20点でした。

5−3)目標設定と対策実施

目標はこの点数を30点にするということにしたのです。そして、攻めどころシートにより、「マニュアルを見直す」「レベルアップする機会を設ける」という2点を攻めどころと決定したのです。
レベルアップについては「勉強会の実施」「質問会の実施」など4項目を対策案としました。勉強会については、(1)全員が予習をすること、(2)コマンドの理解進捗度を明らかにするために、定期的にテストをすること、(3)初心者は既成のマニュアルでも自習すること、(4)講師は複数人の上級者が務めること、(5)講師の説明時には受講者はパソコンの前に座り、操作実習しながら行うこと等が実行されました。勉強会は14回行われたのです。コマンドについては全項目が制覇されたのです。

また、マニュアルつくりについては、(1)新規に使いやすいものを作り直すこと、(2)勉強会の実施のとき講師を務めたものがその分を執筆すること、(3)練習問題を入れること、(4)オンラインで見られる既成のマニュアルは非常に難しく分かりにくいので、これを噛み砕いた理解しやすい内容とすること等が実行されました。
外部セミナーへの参加も行われたのですが、新人のみが参加しました。
勉強会の途中では、ついてこられない者が出たのですが、担当者が全て上級者と初心者とがペアを組んで教えるということで解決しました。

図「具体的な実施方法の検討」

5−4)効果の確認と追加対策

対策を実行した結果、コマンド理解度テストの合計点が大幅にアップするとともに、「モデル作成技能調査」でも作成できるモデルが増え、レベルも大幅にアップしたのです。しかし、前述の点数の合計は目標に1点不足の29点でした。目標未達です。
そこで追加対策が打たれました。レベルが上がらなかった人の作図方法を検証したところ、エラーメッセージを回避する方法が分からないことが判明。エラーの回避方法をまとめて周知したのです。1週間の期限延長をして猛特訓の結果、さらに4人の等級が上がって、点数は33点となり、見事目標達成となったのです。すなわち、400点未満0(2)人、400〜500点1(1)人、500〜700点2(4)人、700〜1000点4(1)人、1000〜1300点1(0)人、1300点以上0人となったのです。(括弧内は現状把握時の人数。)

図「目標と実績」

5−5)歯止め、反省と今後の課題

歯止めは次のとおりです。(1)勉強会や質問会でできた資料は共有化のため、所内サーバの共有ホルダに保存し、誰もがいつでも見られるようにした。(2)セミナーで得た情報も同様にした。(3)マニュアルを常に最新のものとするために、講師を務めた者がマニュアルを更新するようにした。(4)その後、勉強会も質問会も継続するようにした。
反省と今後の課題としては、(1)6ヶ月という短期間で技術が身についたこと。(2)CADソフトの進化に対応できる体制が整ったこと。

6)結び

上記のQC活動を見ると、種々の活動の具体的な成果も素晴らしいのですが、コミュニケーションがよくなり、メンバー全員で助け合いながら向上するというムードが出来上がって行く様子がよく見えます。その結果グループの結束が強くなったばかりでなく、職場が明るく快適になっていったのです。そうすると出産した者も復職するし、結婚した者も退職しなくなるのです。出産復職してもその間に遅れたスキルが問題なのですが、他の部員の援助もあって、すぐに追いつくことができるようになったのです。だからグループの厄介者にならなくても済むのです。日々進化するCADスキルに追いついていけなくても、他の部員の援助や教え合いで十分ついていけます。
技術的、身体的な具体的効果もさることながら、このようにグループを活性化する効果は、職場全体をまとまりのある集団にします。目標に向かって全員一丸となって進むという一体化効果を生じさせます。これらの職場全体を活性化するQC効果は実に素晴らしいと思うのです。JHSのQCの勧めでした。

2009年9月発行 第86号

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