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「パテントメディア」

所内判例研究会から

2009年5月
弁理士 中嶋恭久

はじめに

各企業は日夜技術を研究し、しのぎを削って技術開発競争をしています。特に現在のような百年に一度といわれる不況下では生き残りをかけた競争で、まさに真剣勝負です。このような環境の中、A社が、自社で開発し特許になった技術をB社が使っているのを発見したら…。当然黙っていられないと思います。特に、顧客を奪い取られたときには怒り心頭ともいえます。 

このような場合、特許権に基づいた差止請求権や損害賠償請求を考えますが、普通はいきなり訴訟を起こすようなことはせずに、まず相手に「警告」をするのが一般的です。このとき、侵害していると思われる製品を購入している取引先にも、「侵害品を買わないで!」と一言いいたいところです。しかしながら、特許権者ならこのような警告をなんでも自由にできるわけではありません。ここで留意しなければならない点として不正競争防止法第2条第1項第14号の規定があります。実務家が、いわゆる「信用毀損行為」と呼んでいる規定です。気をつけないと、カウンターパンチが飛んでくることになります。

(不正競争防止法第2条第1項第14号) 
競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

信用毀損行為の要件事実

  1. 「競争関係」…市場における競合が生じるおそれがある関係です。
  2. 「他人」…自分以外の自然人・法人等であって、競争関係が前提となります。
  3. 「営業上の信用」…営業活動の実績に基づいて得られた経済的な外部的・客観的な評価をいい、名誉や感情のような内部的・主観的な価値は対象となりません。
  4. 「虚偽の事実」…客観的な真実に反する事実です。虚構が自己によるもの他人によるものを問いません。一般的に、主観的見解、批評、抽象的推論のような価値判断を示すことは該当しないとされます。
  5. 「告知」…特定の者に対して個別的に伝達すること。 
    「流布」…不特定人または多数人に知られるような態様で広めること。

「虚偽の事実」

このうち特に解釈上問題となるのは「虚偽の事実」です。特に問題が起きるのは、新たに発見された従来技術文献などで特許権が無効となった場合です。特許が無効とされれば、特許権は遡及してなかったものとみなされます。つまり、特許権に基づいて侵害者と思われる者に対して警告した時も、特許権が無かったことになります。このような場合、一般社会の言葉の常識では、特許権は特許庁が審査してお墨付きをつけた(場合によっては裁判所も認めた)有効なもので、A社はこれを信用して警告したのだから「虚偽」じゃないということになります。ところが、この法律で言う「虚偽」というのは事実問題で、「真実」か「虚偽」かのいずれか二者択一で、真実でない限り「虚偽」とされます。もともと警告した者の意思は関係がありません。そうすると地球の果ての誰も読めない文献にたまたま発明が記載されていた事実が判明しこれによりA社の特許が無効とされた場合も、その「警告」は、「虚偽の事実を告知した行為」となり、もしB社の顧客がその警告によりB社からの購入を控えた場合は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する」ことになります。この前提となる解釈自体は判例でも定説で争いはありません。

判断が分かれるケース

近年、「信用毀損行為」についての判決が、大きく割れています。つまり、本条の「信用毀損行為に、不正の目的が必要か否か?」という点です。判決が割れている元を辿っていくと、ある判決に端を発していることが分かります。それが、今回取り上げた判決です。

当所判例研究会で取り上げた事件:平成12年(ワ)第11657号損害賠償等請求事件 

裁判所:東京地方裁判所民事第46部、裁判長裁判官 三村量一 
当事者:
原告 同和鑽業株式会社     
被告 バイエル・アクチエンゲゼルシヤフト

本事件の争点:

本件における争点は、被告がソニーに対して本件書簡を送付した行為が、改正前の「虚偽事実の告知行為又は流布行為(2条1項13号)」に該当するかどうかという点です(改正で項番号が変わったため、混乱を防ぐため、以下条文を現在の「14号」に読み替えます。)。

主文:

  1. 原告の請求を棄却する。 
  2. 訴訟費用は原告の負担とする。

原告の請求:

1.被告は、原告に対し、金650万円及びこれに対する平成12年7月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。       
(2.略)

事案の概要

本件は、被告が、書簡(*資料1)をもって、原告の顧客である訴外ソニー株式会社に、原告の製造・販売する原告製品は被告の有する特許を侵害すると考える旨告知したことは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為に当たると主張して、損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めている事案です。

事件の経過

*資料2に示すように、最初に被告と原告が「時系列(1)」に示すようなやり取りをしました。その後被告とソニーとが「時系列(2)」に示すようなやり取りをしました。その流れの中でこの「本件書簡」が送付されました。

資料1
「ソニー宛て書簡(本件書簡)」の概要
「標記の当社の日本の特許とその外国対応特許を御確認下さい。問題となっている特許権の特許番号及び存続期間満了日のリストと,日本第1733787号特許,欧州第15485号特許及び米国第4290799号特許の写しを添付しますので,御覧下さい。当社は,上記の特許の権利範囲に属する顔料を含有するテープが貴社により製造・販売されていることを承知しております。そのようなテープの例として,米国で入手可能なソニー・メタルMPビデオ8P6があります。当社は,当該テープの販売が,問題となっている当社の特許権を侵害するとの見解を有しております。当該テープに含まれる顔料を貴社が同和鉱業株式会社から購入したことを示す確定的な証拠を,当社が保有していることに,御留意下さい。また,当社は既に同和鉱業と連絡をとり,友好的な解決のために数多くの試みを行ったことも併せてお知らせします。・・・・・・このような場合の当社の通常の方針は,まず初めに顔料の製造者と連絡をとることです。本件では,そのような方法により解決することが不可能なようですので,当社としては,テープ製造者である貴社と連絡をとるより他に方法がありません。至急,貴社の見解をうかがいたく,お待ちしています。」
資料2

裁判所の判断

<立法趣旨の認定>

1 不正競争防止法2条1項14号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為を不正競争行為の一類型として規定する。 これは、営業者にとつて重要な資産である営業上の信用を虚偽の事実を挙げて害することにより競業者を不利な立場に置くことを通じて、自ら競争上有利な地位に立とうとする行為は、不公正な競争行為の典型というべきであることから、これを不正競争行為と定めて禁止したものである。

<原則論>

上記立法趣旨にかんがみれば、競業者に特許権等の知的財産権を侵害する行為があるとして、競業者の取引先等の第三者に対して警告を発し、あるいは競業者による侵害の旨を広告宣伝する行為は、その後に、特許庁又は裁判所の判断により当該特許権等が無効であるか、あるいは競業者の行為が当該特許権等を侵害しないことが確定した場合には、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するというべきである。

<原則をそのまま適用できない事情>

しかしながら、他方、特許権等の知的財産権を行使する行為は、正当行為として許されるものであるところ、特許法は、物の発明について、その物を生産する行為のみならず、その物を使用し、あるいは譲渡する行為等をも、発明の実施としているから(特許法2条3項1号)、特許権者は、その競業者が当該特許権を侵害する製品を製造し、これを譲渡している場合において、その譲受人が業として当該製品を使用し、あるいは再譲渡しているときには、特許権者は、競業者たる譲渡人のみならず、譲受人に対しても、その行為が特許権を侵害するとしてその責任を問うことが可能である。

<判断基準>

このような場合において、特許権者が競業者の取引先に対して行う前記告知は、競業者の取引先に対して特許権に基づく権利を真に行使することを前提として、権利行使の一環として警告行為を行ったのであれば、当該告知は知的財産権の行使として正当な行為というべきであるが、外形的に権利行使の形式をとっていても、その実質がむしろ競業者の取引先に対する信用を毀損し、当該取引先との取引ないし市場での競争において優位に立つことを目的としてされたものであるときには、当該告知の内容が結果的に虚偽であれば、不正競争行為として特許権者は責任を負うべきものと解するのが相当である。

<裁判所の下した結論>

そうであれば、被告がソニーに本件書簡等を送付した行為は、権利行使の一環として正当行為と評価すべきものであって、単に市場において優位な立場に立つことを目的として第三者に対して虚偽の陳述を行った行為と同視することはできず、結局のところ、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するということはできない。

結論:

告知が、違法性が阻却され(虚偽の事実であるという点は変更はありません。)、「競業者の営業上の信用を毀損し市場での競争において優位に立つことを目的としてされたもの」のみが本項にいう「信用毀損行為」を構成するとされています。

判断基準と実務上の指針

以下に本判決から導かれる実務上の留意点を示します。

  1. この判決の前の従前の流れは、真に権利行使の一環であっても、違法性が阻却されないというもので、まだこの論理構成を採用している裁判が多くあることです。 
    基本的には、この判決があっても、「競業者の営業上の信用を毀損し市場での競争において優位に立つことを目的としてされたもの」のみならず、「他人に告知し、又は流布した」内容が、客観的に「事実に反する」限り、本項にいう「信用毀損行為」を構成する虞が高いことには変わりがありません。十分な注意が必要です。
  2. また、この判決の流れに沿うものであっても「真に権利行使の一環としてされたもの」であるかどうかは総合的に判断されますが、競争関係にない他人に警告する場合は少なくとも下記の点に留意することが求められます。
  1. 訴訟の提起を前提としない場合は競争関係にない他人を警告はしてはならない。
  2. 警告する場合は、可能な限り順序として「最上流」(例えば製造元)の者から、しなければならない。
  3. 警告先の当事者自身が特許権を侵害しない場合は留意をすること。
  4. 仮に侵害するとしても、単に流通・販売に関わる者に対しては原則、警告してはならない。
  5. その他人が特許権侵害訴訟に対処する能力・経験が乏しい場合、訴訟リスクを認識できない場合は、特に注意すること。
  6. 内容は、題名や書き方の問題ではなく、実質的な内容で判断される。

以上

2009年5月発行 第85号

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