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平成20年産業財産権法等の改正について

2009年5月
弁理士 中嶋恭久

1.平成20年改正法は一部を除き今年の4月1日から施行されています。この改正で特に気をつけなければならないのは、平成18年法改正との関係で審判請求・補正・分割の関係が複雑になっていることです。併せて、産活法についてもご紹介をします。

2.平成20年特許法改正の概略

  1. 特許・商標関係料金が引き下げられました。
    平成20年6月1日から特許の出願手数料・特許料のほか、特に商標登録と更新登録料が大幅に安くなっています。商標の活用が望まれるところです。
  2. 仮専用実施権・仮通常実施権の制度の創設
    特許登録前でも実施権の登録ができるようになりました。
  3. 不服審判請求期間の見直し(特許法・意匠法・商標法)
    特許・意匠・商標出願において、拒絶査定不服審判請求期間が査定から30日以内だったのが「3月以内」に拡大されました。なお、意匠・商標では補正却下不服審判にも適用されます。特許については、出願分割・手続補正との関係を後で詳述します。
  4. 優先権書類の電子的交換の対象国が拡大されました。(特許法・実用新案法)

3.通常実施権等

1.通常実施権等登録制度の見直し

i)仮専用実施権、仮通常実施権

これまでは、特許原簿を作成して登録をして特許権が発生しないと、そもそも許諾する権利の根拠もないし、登録をする原簿自体もなかったので、登録前の専用実施権や通常実施権の登録はできませんでした。ところがこれまでも企業間で特許権発生以前にライセンス契約を結ぶことは珍しくありません。これは、特許になった場合の実施権の予約とも言えるものです。ところが、出願人が経営が苦しくて特許を受ける権利を他人に譲渡してしまう、あるいは破産して管財人の管理下に入ってしまうことも想定されます。このような場合、譲受した他人や管財人は実施権を認める必要はないのです。そこで、そのような場合でも安全にライセンスを受け続けられるように仮の登録を認めたものです。

A)通常実施権の匿名登録

ライセンス契約とは、各企業の市場での提携関係、その企業の不足している技術力と、その依存先等、その企業の戦略上の理由から他社に知られたくない場合も多いものです。このような事情から通常実施権を許諾してもこれを登録すると公表されるため、登録を控えるケースが多々ありました。しかしながら上述のとおり転得者に対して対抗する必要がある場合も多かったので、匿名で通常実施権の登録ができるようになりました。

2. 特定通常実施権登録制度の施行

特許法の改正ではありませんが、「産業活力再生特別措置法等(産活法)の一部を改正する法律」という法律で、「特定通常実施権登録制度」が創設され、平成20年10月1日より登録申請書の受付を開始しています。特許法の改正ではないので特許庁の管轄ではなく直接経産省の管轄になりますので特許法改正の解説本には記載されていません。 
この「特定通常実施権登録制度」とは、通常実施権の発生原因となる法人間の包括ライセンス契約を「特定通常実施権許諾契約」として、これに基づいて特定される特許権の通常実施権を登録します。このときこれまでと異なるのは、特許番号でなく特定通常実施権許諾契約の内容に基づいて特許権を特定します。 
具体的には、(1)許諾対象の権利の種類(例えば「特許権」)、(2)取得時期(例えば平成21年1月1日から12月31日に取得したもの)、(3)実施製品又は技術(例えば、「半導体デバイス」)、(4)その他有益事項として取得原因(例えば、「自ら取得したもの」)、例示・除外(例えば「特許○○号は含み、○○号は含まない。」)などにより特定します。 
このように包括的に管理することで、1件1件の管理が不要となります。登録免許税は、一申請に付き150,000円です。番号を特定した通常の登録では1件15,000円ですので、特許事務所の費用も考えれば数件あれば包括的にライセンスしたほうが管理上のみならずコスト的にも有利になります。

4.拒絶査定不服審判の請求と出願分割と補正の関係について

1.18年改正法の以後の分割時期の追加

18年改正法では、分割出願ができる時期が追加されました。それまで分割出願は、「補正ができる時期=分割出願ができる時期」という関係でしたので、補正ができる時期を考えれば分割出願ができる時期が簡単に分かりました。 
しかし、それでは拒絶査定を受けた場合は、そのままでは補正ができない、つまり分割もできなくなってしまいました。そこでやむなく出願分割をするだけのために高い印紙代を払い拒絶査定不服審判を請求し、補正の期間をひねり出していました。 
また、思いがけずすんなり特許になってしまうと、うれしい反面、かえって「付記クレームも権利が取れたのではないか」とか、「もっとうまく実施品や他社製品をカバーする広いクレームにすることができたのではないか」と考えることもあります。 
そこで、18年改正法では、それまでの「補正ができる期間」に加えて、原則「拒絶査定・特許査定のうち最初の査定から30日経過するまでの期間」は分割ができるようになりました。
この法律は、出願日(分割出願ならば親の出願日)を基準として、「平成19年4月1日以降の出願」に適用されます。まず、この点をしっかり頭に置いて下さい。

2.18年改正法以前に出願された出願の分割

出願時が基準ですので、18年改正法施行日である平成19年4月1日以降であっても、それまでに既にされた出願は、拒絶査定があっても拒絶査定不服審判を請求しないと分割できないし、特許査定の場合は何をしても分割できません。

3.20年改正法以後の拒絶査定不服審判請求期間

拒絶査定不服審判請求ができる期間が拒絶査定謄本送達日から「30日以内」だったのが「3月以内」に拡大されました。これまで、内容を吟味する暇もなくとりあえず手付けの審判請求をせざるを得ないケースもありましたが、そのようなケースも減ります。なお、この法律は、拒絶査定謄本送達日を基準に、「平成21年4月1日以後に拒絶査定謄本が送達される出願」に適用されることになりますので、先の18年改正法が適用される出願とともに、これもしっかりと頭に置いて下さい。

4.20年改正法以後の補正ができる時

拒絶査定不服審判をするときには、「審判請求と同時」に特許請求の範囲及び明細書の補正をしなければなりません(第17条の2第1項第4号)。
なお、審判請求の理由は、これまでと同じように「追って補充」として方式補正で対応でき、補正指令がかかった場合はその指定期間内に補充できます(審判便覧21−03.1)。
ところで、この「同時」というのは、特許庁で極めて厳密に判断されます。「同時」というのは、端末を使う場合「連続して手続が入力されているもの」だけを「同時」と言っています(特例法施行規則14条1項)。後の日はもちろんダメですが、それどころか審判請求をした1分後に慌てて手続補正書を送信したとしても、完全に「同時」でない限り「同日」でも手遅れです。言い換えれば、連続して入力したデータを1回の送信ボタンで送信することが必要です。この「紐付け(ここでは便宜的にこう呼びます。)」がなければ、後で補正によりリカバリーすることもできず、原則救済はありません。端末の送信ボタンを押す前の画面、押した後の受領書を、重ねて確認することになります。もし、同時送信されていなかったと判ったら、もう一度「審判請求書」と「手続補正書」のセットを出し直して、先に失敗した送信分を取り下げることになります。もちろん、このとき取り下げる書類の特定を間違えると元の木阿弥です。なお、強いて言えば、「同日」に「書面」で「郵送」して紐付けするという裏技? 荒業? もあるといえばあります(特例法施行規則14条2項)。

5.20年改正法以後の分割について

20年改正法以後の分割出願の時期的要件は、基本的にはそれまでと変わらず、
(i) 補正をすることができる時又は期間(44条1項1号)
(A) 特許査定謄本送達日から30日以内(同2号)
(B) 拒絶査定謄本送達日から3月以内(同3号)となります。
ただし、1号の規定は4で述べたように拒絶査定不服審判請求時の補正は、請求と同時にしかできませんので、わざわざ条文を「期間」から「時又は期間」としています。この「時」というのは、上述のように「審判請求書」と「同時」という意味ですから、分割出願をするときには、「審判請求書」と「手続補正書」と、さらに「分割出願の出願書類」を、「同時」に送信し「紐付け」をしなければなりません。
また、3号の規定(拒絶査定の場合)は拒絶査定不服審判の請求は拒絶査定謄本送達日から3ヶ月となったので、これに合わせて拒絶査定不服審判請求をしない場合も30日から3ヶ月になっていますが、2号の規定(特許査定の場合)は、そのまま変わらず特許査定謄本送達日から30日に限られています。

6.「同時」にするべき手続をしなかった場合の法律効果

上述の「紐付け」ができていないと、手続補正書は時期的要件違反の手続補正書となり、手続却下の対象となり、救済策はありません。もし送信直後に気がつけば、未だ打つ手はありますが、その後これが判明する時には、当然補正できるチャンスは既に失われており、前置審査なしに拒絶査定時の特許請求の範囲及び明細書、図面の状態で合議体の審判を受けることになります。
また、「紐付け」のない分割出願も時期的要件を満たさないため、同様に却下されます(方式審査便覧15.20)。

7.まとめ

このように、平成20年改正法が施行される平成21年4月1日以降でも、出願の日及び査定謄本送達日により取り扱いが異なりますから、その都度確認することが重要です。
以上説明したように、審判請求と補正と分割の関係は大変複雑になっています。そこで、これらを表にまとめてみました。

特許出願の分割ができる時又は時期

出願日
平成19年3月31日以前
平成19年4月1日以後
謄本送達日
平成21年3月31日以前 特許査定 分割できない 謄本送達日から30日以内 かつ 設定登録前
(44条1項2号)*3、*4、*5
拒絶査定 審判請求なし 分割できない 謄本送達日から30日以内
(44条1項3号)*1、*4
審判請求あり 審判請求日から30日以内
(44条1項)*1
審判請求日から30日以内
(44条1項1号)*1
又は 謄本送達日から30日以内
(同3号)*1*4
平成21年4月1日以降 特許査定 分割できない 謄本送達日から30日以内
かつ 設定登録前
(44条1項2号)*3、*4、*5
拒絶査定 審判請求なし 分割できない 謄本送達日から3月以内
(44条1項3号)*2、*4
審判請求あり 謄本送達日から3月以内
かつ
審判請求と同時
(44条1項)*2、*6
謄本送達日から
3月以内
かつ 審判請求と同時
(44条1項1号)*2、*6
又は 謄本送達日から3月以内
(同3号)*2*4

*1 出願人が在外者の場合は、「30日」を60日延長して「90日」と読み替える。
*2 出願人が在外者の場合は、「3月」を1月延長して「4月」と読み替える。
*3 国内外の出願人を問わず、請求により特許料納付を30日以内に限り延長できるため、その場合は「60日」となる。
*4 特許査定/拒絶査定があると、明細書等の補正ができないので、出願当初明細書に記載があっても直前明細書(分割時の明細書)に記載がなければ分割要件に違反する。
*5 特許査定の場合は、特許料を納付して登録されてしまったら分割できない。
*6 審判請求と「同時」は、極めて厳格に解釈されるので注意。同時でなければ出願却下。

2009年5月発行 第85号

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