1. HOME
  2. パテントメディア
  3. 2009年バックナンバー
  4. 第84号 経営理念について12
「パテントメディア」

経営理念について12

2009年1月
会長 弁理士 恩田博宣

京セラの経営理念を1項目ずつ取り上げ、恩田流のコメントをさせて頂いております。今回は「経営12か条」の1つ「売上最大、経費最小」について述べたいと思います。

京セラの創始者稲盛和夫さんは「会社経営は一般的には大変難しいものだと思われているが、この経営12か条を守ってもらえば、京セラ程度の経営はできます」と言っておられるのです。われわれ零細企業の経営者から見れば、ほとんど神様ともいえる経営だと思われるのですが、この12か条を守れば、近づけるというわけです。僅かでも近づきたいものです。

1)売り上げを最大に伸ばし、経費を最小限に抑える

さらに、副題は「入るを量って、出ずるを制す。利益を追うのではない。利益は後からついてくる」となっています。

この理念を聞き、理解したとしても、われわれの常識として、売り上げを上げようとするならば、経費も増大することは当然だと考えてしまいます。しかし、この京セラの経営理念では、「売り上げは伸ばしても、経費は減らすのだ」という考え方が強く働いています。何回か拝聴した稲盛さんの講演から強く感じられたことです。

2)特許事務所の売上最大、経費最小

筆者の事務所における「売り上げ最大、経費最小」について述べたいと思います。

2−1)年度売上目標の決定

筆者の事務所では、年度が始まる前に所長が次年度の売上目標を決めます。

各部門長は次年度の部門の人材のスキルアップや人材採用計画とともに、その部門の売上目標額を提示します。そして、所長の目標と調整して合意の上、各部門の年度目標売上額が決定されます。

しかし、それらの各部門の目標額を全部門集計しても、所長が決めた年度目標に達することはまずありません。「もう1回良く計画を練り直して増額せよ」と指示して、全部門から修正額が提示されても、まだ不足することがほとんどです。

部門長の「それほど増額はできません」という理屈が実に正しいのです。

「○○社の出願は技術が非常に難しいので、時間がかかります。頑張れば何とかできるという目標はこのくらいが限度です。これ以上上積みすると、はじめからギブアップになってしまいます」等と合理的に正しく理由が述べられます。

そこで筆者の事務所では全部門長の提示した合計売り上げ目標を事務所目標とし、所長の目標をチャレンジ目標として両方とも公表します。

そして、チャレンジ目標を達成したときには、臨時ボーナスを支給するという慣例にしています。この5年間チャレンジ目標が達成されなかったのは1回のみでした。

このことから、部門長の立てる目標は、非常に控え目になることが明らかです。

各部門の目標が決定しますと、その目標は各部門において、部員に割り付けられます。そして、その年間目標は各月に割り付けられるのです。通常年間目標の12分の1が月次目標となるのですが、新人の場合には、実力の向上が見込まれるために、月次目標が順次上がっていくケースもあります。

2−2)売上目標の定着

所内ネットワークには、毎日事務所全体の売り上げが集計されて、年度の目標と月間目標の両方のチャレンジ目標に対する達成%が示されます。月に1度の経営会議においては、各部門の目標達成率が全部公表されます。部門長は自分でその月の部門の売上げ、経費、収益、時間当たりの収益等を読み上げ発表します。

否が応でも目標は意識下に刻み込まれるわけです。月々売り上げ目標の達成又は未達成が、自分だけではなく他の部門長にも明らかになります。これは目標達成に対する部門長への大きなプレッシャーになると思われます。

しかしながら、各部門とも各メンバーが売上を最大にするために、受注を確保するという活動としては、手持ちの出願依頼がなくなりそうなときに、担当するお客様に対して、「もし、次の案件がありましたら、ご依頼いただきたいのですが」と電話する程度で、特別の営業活動をするわけではありません。従って、受注残が少なくなったときは、他の部門で忙しいところの仕事を分けてもらうしかないのです。

2−3)監査

売り上げ目標の刷り込みは、監査によっても行われています。各部においてはその月次の目標が各個人に割り付けられています。毎月、経営管理部が監査を行うときに、その月の月次目標がいくらかを尋ねます。そして、今日現在いくらまでできているか、今月達成の見込みがあるかどうかについて聞きます。監査のあることは、予め知らされていますので、ほとんどの部員は正確に答えることができます。この監査が習い性となり、当所のスタッフは常に目標を意識して日々の仕事をすることになります。この意識は目標の刷り込み、さらには目標達成に大きな威力を発揮することになるのです。

2−4)営業活動

目標が常に達成されるためには、それだけの受注を確保する必要があります。筆者の事務所では、営業企画部に3名が所属し、常時営業活動をしています。主として企業訪問をして、事務所の宣伝をし、受注につながるようにするものです。

主たる活動の流れは次のとおりです。まず、セミナーを無料で開きます。特許に関するもの、意匠商標に関するもの、外国制度に関すること等数多くをこなしています。

そして、そのセミナーに出席されて、筆者の事務所との取引に興味のある発言をされた企業を優先的に訪問します。そのような企業がないときには、セミナーに出席された企業の中からコンフリクトのない企業を選んで、丁重に訪問をお願いして訪ねるのです。多くの場合、気持ちよく受け入れていただけます。受注に結びつけるのは、決して簡単ではありませんが、長年続けていますと、この活動が実を結ぶことが出てくるのです。今年8月までの年度において、1年間に営業企画部門が開拓した新顧客は約10社、年度中の売上は7,800万円に達しました。

また、筆者の事務所には中国上海に拠点があります。提携の特許事務所と商標事務所へは、日本の会社から多くの知財部の方々が訪問していただけます。そんなときは、日本へも情報がもたらされますので、早速営業企画の担当者がその会社を訪問させていただき、営業の実を挙げることもあります。上海の拠点も大いに営業的に役立っているといえます。

2−5)品質、納期、価格、量的貢献

以上、売上を最大にする取り組みですが、さらに売上最大にするために重要なことは、日ごろの仕事の質をあげ、納期を早め、料金体系をリーズナブルにすることが重要であることは、いうまでもありません。さらに、量的な貢献も大手企業とのお付き合いでは重要です。

明細書の品質向上に関するQCサークル活動はたくさんありました。そうして、現在の事務所の明細書スタイルが確立されました。

  • 請求項原則5つ以上記載すること、
  • 実施例レベルの範囲の狭い請求項は請求項には記載せず、発明の詳細な説明の末尾にその効果とともに記載すること、(拒絶理由によって、請求項に書いたものが全て拒絶されたときは、新規事項の追加の心配なく請求項に格上げできる。この考え方は某企業において全面的に採用され、他の事務所の明細書もすべてその書き方に改められた)
  • 請求項以外の文章は3行以内で記載すること、(主語述語を明確にして、誤解を招く文章にしないために必要。筆者の事務所では「3行革命」と称しています。コンピュータでチェックされ、4行を超えるとチェックソフトが訂正を指示するようになっています。このポリシーはその出願が外国出願になるとき、翻訳のし易さにも貢献しています)
  • コンピュータソフトによる250項目の明細書チェック、
      「図面番号の間違い」、
      「図面にある番号が必ず明細書にあるかどうか」、
      「明細書にある番号が必ず図面にあるか」、
      「出願人、発明者の住所名称が正しいか」、
      「請求項にある文言が必ず発明の詳細な説明に記載されているか」、
      「前記○○との記載がある場合、その前に○○があるか」、
      「請求項に(ほぼ)(好ましくは)(約)(実質的には)等不明確な記載はないか」、
      「PL上の問題となる記載はないか」、
      「請求項の引用に間違いはないか(第4項なのに第4項を引用している等)」

等です。このチェックで明細書の特許法第36条拒絶が非常に少なくなっています。また、お客様からは「明細書の品がいい」との評価もいただいています。

特許庁に提出される書類や、外国へ送られる書類には、ほとんどチェックリストが出来上がっています。過去の問題発生の解決手段がすべて凝縮されているわけです。年々詳細になっていきます。

2−6)事務管理の品質向上

事務管理の品質向上は、大きなミスを防ぐとともに、事務効率を上げる上で大変重要です。ほとんどがQCサークル活動によって事務効率の向上が行われています。ペーパレス化は国内特許、そして、外国出願については特別のプロジェクトチームによって行われましたが、意匠、商標、そして、登録申請その他の雑事件のペーパレス化はすべてその担当部門のQC活動によって実現しています。

新入社員が入所してきた時の教育マニュアルもQC活動によって作成されました。図面部では、「さくさくひとりだち、すいすい現役脳カリキュラム」というタイトルのマニュアルを作成し、新入社員のスムーズな立ち上がりに役立っています。他部署においても多くの新人教育マニュアルが存在し、人材の早期育成に一役買っています。また、出来上がったマニュアルは作りっぱなしにならないよう、QCによって定期的に見直され確かな歯止めが掛けられています。

さらに、女性の多い職場においては、出産による人員不足が一時的に生じます。筆者の事務所では女性職員が出産したとき、1年間育児休暇をとるのが普通で、すべての育児休暇取得職員に対し、完全にもとの職場へ復帰させるようにしてきました。そのため最近は出産ラッシュとなっており、育児休暇中の職員が8人、近いうちに育児休暇に入る職員が7人います。育児休暇を終わって復職する職員は、法律改正やソフトの改善等があるために、かなり浦島太郎になっているのです。この浦島太郎職員がすぐに追いつけるためのマニュアルも各部ごとに出来上がっているのです。そして、歯止め対策によって、事情が変われば、直ちに更新もされています。実際に昨年国際管理部において、6人のうち1人が1年間育児休暇をとることとなったとき、QC活動により5人でできる体制を作り上げた活動は見事というほかありませんでした。

このように事務所では、事務効率改善はもっぱらQCサークル活動によって、多大の効果を挙げています。

23年間の活動は、今年の全国選抜事務・販売・サービスQC大会において金賞を、そして、筆者が経営者賞を、さらに、図面部のCADに関する活動が石川馨賞を獲得するという成果に結びつきました。また、10月には岐阜県QC若鮎大会において、総務部の包袋整理に関する活動が岐阜県知事賞を得る等、一気に花開いた感じがします。

2−7)納期

納期に関する改善は、結局明細書作成の効率化に行き着くのですが、次のような対策が採られています。

  • 請求項をインタビュー直後に記載する
  • インタビューにおいて必ずメモを取るようにする
  • インタビューにおいて、クレームの骨子について発明者や知財担当者の確認を取っておく
  • 明細書のストーリを決めたら一気に書き上げる
  • 内外からの電話や話し掛けにディスターブされないように集中タイムを設ける

2−8)価格

価格については最近ではほとんど交渉の余地はありません。お客様側が提案される料金表を受けるか否かが問題となるだけです。筆者の事務所においてここ10年以上値上げをしたことはありません。しかし、お客様からはしばしば値下げ要求があります。この要求に対しては、いただける出願の量、難しさ、外国出願の有無等の要素をよく検討して、慎重に決めるようにしています。メジャーの会社から出願依頼をいただき、「やれ嬉や」と料金交渉することなく、明細書を作成し、請求書を発行する段になって、料金体系を知ってびっくり。とても筆者の事務所では採算が取れないことが判明し、泣く泣くお断りをしたこともありました。

2−9)量的貢献

筆者の事務所はすべての技術に対して、対応できる体制をとっています。しかも、年間国内特許出願(外内を含む)だけで4,000件近くの処理能力がありますので、よほどの集中がない限り、量的要望に応えることができます。そして、常にエンジニアの新人を採用し、キャパシティの増強に努めています。

2−10)経費の節約

交通費や備品購入にかかる費用の節約も、経費最小の大切なポイントです。

新幹線の利用においては、所長も会長もグリーン車に乗るのは、エクスプレスカードのポイントが貯まったときのみです。社有車については、所長の専用車は無く、家庭で使う乗用車は自前です。会長の車は事務所のものですが、仕事優先ですので、従業員が使用する場合には会長は遠慮します。

そのほか5万円以上の買い物をするときは、すべて所長の許可を取ることとなっています。

2−11)QCによる節約

筆者の事務所においては、QCサークル活動は23年間継続されています。活動は品質向上系と節約(業務効率向上)系に分けられます。節約に関するQC活動は通常効率アップを目標において開始されます。どのような活動をするかテーマの選定は原則各グループが自主的に自分たちの業務に関して、改善すべき課題を選択しますが、その課題がトップから見て不適当と判断されたときや、外にもっと重要な課題があるとされたときは、トップのほうからテーマを指示することもあります。

就業時間中に貴重な時間を使って活動するわけですから、十分な成果を挙げてもらう必要があるからです。

QC活動の順番はおよそ次のようになります。

自分たちの仕事の現状をよく調べて問題点をいくつか抽出します。そして、どのテーマを選んだらよいかを評価し、テーマが決まります。

そして、現状を良く調べます。その結果問題点の主たる要因を見つけ出します。その要因をつぶすための対策を複数打ちます。対策を打った後、効果を確認します。そして、元の木阿弥にならないように、歯止めをかけ、活動全体の反省をします。そうすると仕事のやり方が変わり品質が向上され、効率化されるのです。

現在、全所員を31から36のグループに分け、1ラウンド6ヶ月で何らかのQC活動を行います。全グループが十分な活動をするわけではありませんが、素晴らしい成果を挙げるグループが10グループくらいは出ます。

その活動が品質向上にもたらす成果も素晴らしいのですが、節約効果(効率向上効果)は非常に大きなものがあります。

卑近なところでは、昼休みに事務所の照明灯とパソコンを消して、月3.5万円の節約、近所の文具屋さんから購入していた文具を、インターネットを介して安いところから買うようにして、月間3.5万円の節約になりました。さらに、宅配便を種類(急ぐ、時間指定、安い)によって、使う会社を選び月3万円の節約という活動がありました。

英文和訳に機械翻訳をうまく利用して、正確性と、翻訳スピードを上げて約40%の効率アップ、各部署から国内管理部に来る質問に対する回答を、所内ネットワークのホームページに掲載して、年間200万円の節約、5ヶ月以上の外国売上の未回収分が2,500万円以上あったものを、QCで取り上げ、請求書を分かりやすくし、未回収分を1,000万円以下に抑えた活動もありました。

その外に次のような活動がありました。

国際出願関係

英文クレーム作成の効率化、翻訳の効率化
外内出願業務の効率化、辞書を引く速度の向上

国内出願関係

明細書作成中断ロスの低減
明細書インタビューの効率化
明細書新人の早期立ち上げ
明細書作成準備時間の効率化

国際事務管理関係

現地代理人への問い合わせ業務の効率化
外注翻訳手配の効率化、日限管理体制の効率化
外内中間処理の効率化、外国連絡業務の効率化
内外アクション延長費用の削減
PCT出願事務の効率化
外国出願事務のレター処理時間の短縮
外国からの問い合わせに対する応答の効率化
内外経理業務の効率化、外内請求書関連業務の見直し
IPC分類付与方法の改善

意匠商標関係

商標調査体系の改善、意匠図面の効率化
意匠中間処理の効率化
意匠商標業務の所内ペーパレス化
内外意匠の処理事務の質の向上と時間短縮

国内事務管理関係

包袋の経過記入の自動化、新人教育の効率化
異議審判管理事務の改善
作業の標準化と教育業務の軽減
年金業務の効率化

図面関係

図面作成時間の短縮、図面再利用率の向上
図面作成新人教育用マニュアルの見直し

調査業務関係

特許調査業務の効率化、特許調査報告書作成の効率化
データベース使用料の削減

システム関係

パソコンセットアップの手順の確立と効率化

少しずつの節約ができたとしても、その金銭を換算した額は非常に高額になるのです。また、QCサークル活動では、上がった成果が元の木阿弥にならないように歯止めがかけられます。そうしますと節約や効率アップは、そのとき1回だけではなしに、半永久的に続くことになるのです。調査の結果によれば、約80%歯止めがかかっていることが確認されています。

このように、QCサークル活動による節約効果はかなり評価できると考えます。そのため、単に筆者の事務所のみならず、特許事務所や知的財産部における事務効率改善のためのQC活動はきわめて重要と考えます。

蛇足になりますが、現在盛んに行われているQC活動は、製造現場の改善活動がほとんどなのです。もし、日本全国の事務・販売・サービス活動の分野で活動が行われたなら、日本は競争力の点で、また世界で優位な地位に立てるのではないかと思うのです。

以上が当所の売上最大、経費最小に関する取り組みでした。

2009年1月発行 第84号

お問い合わせフォーム

営業日カレンダー

メールマガジン