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「パテントメディア」

特許ポートフォリオ開発

2008年9月
会長 弁理士 恩田博宣

京セラの経営理念をいくつか引用しながら、当所の取り組みを紹介してまいりました。引き続き当所の経営のあり方を紹介する予定ですが、1回お休みを頂きたいと思います。今回のパテントメディアは、当所が現在最も力を入れて取り組んでいる「特許ポートフォリオ開発特集」だということで、この課題に言及したいと思います。

1.始めに

あらゆる事業がグローバル競争の中で、熾烈な競争を繰り広げ、事業環境はどんどん厳しくなりつつあります。
筆者が弁理士登録をした昭和41年(1966年)当時の日本経済は、極めて急速な経済発展期でした。人手不足は深刻で人件費の高騰は毎年10%にも達するほどでした。弁理士会で定める料金表も隔年ごとに改定されていました。
そして、その値上げによって、職員に支払う給与は何とか世間並みを維持することができたのでした。しかし、平成12年弁理士法改正により、手数料は依頼者との交渉により決めるべきものとされ、標準料金表は廃止され、手数料に関する基準を弁理士会で決めることは違法ということになりました。
その後、弁理士が急増する事態となり、手数料の値上げということは全くなくなったばかりではなく、急速な値下げ傾向が続きました。特許事務所の運営もそのような環境で大変難しくなってきています。 
有能な人材を確保しようとすれば、どうしても高給優遇する必要があります。手数料が低ければ、それも実現困難ということになります。
一時代前には企業の知財部から特許事務所に入り、資格を取ったならば、独立をするというコースがあったのですが、現在では特許事務所へ就職した有能な人材が、大手企業の知財部へ転職するということがよくあります。
さらに、特許事務所にはいろいろな事業環境悪化の材料が並んでいます。

出願抑制策

まず、出願件数の減少傾向です。ピーク時には43万件あった特許出願は現在年間40万件を切るところまで減少しました。特許庁の「よく先行技術調査を行い、通るものだけを出願するように」という行政指導が行き届いてきたということでしょうか。長年の実務の経験から感ずるのは、「たくさんの出願をすると、その中に一定の割合で優れた発明が生まれる」ということです。出願件数を絞ればそれだけ優れた発明は少なくなるという原理があるように思います。そうすると、国家的な見地から見て、出願件数を絞る政策は優れた発明もそれだけ少なくなってしまうのですから、産業発達のためには、決していい結果を生まないと考えます。
出願抑制策のもう1つの問題点は、著名な企業で立派な知財管理を行っておられる企業において、かなりの時間をかけて先行技術の調査をしても、20%〜30%の新規性なしの拒絶(進歩性拒絶を除く)があるという事実があります。調査の専門家が先行技術調査をしてもこの程度の調査漏れがあるのです。ましてや進歩性まで確実に考慮に入れて正確な調査をするということは非常に困難を伴うのです。

外国出願の内製化

まず、出願件数の減少傾向です。ピーク時には43万件あった特許出願は現在年間40万件を切るところまで減少しました。特許庁の「よく先行技術調査を行い、通るものだけを出願するように」という行政指導が行き届いてきたということでしょうか。長年の実務の経験から感ずるのは、「たくさんの出願をすると、その中に一定の割合で優れた発明が生まれる」ということです。出願件数を絞ればそれだけ優れた発明は少なくなるという原理があるように思います。そうすると、国家的な見地から見て、出願件数を絞る政策は優れた発明もそれだけ少なくなってしまうのですから、産業発達のためには、決していい結果を生まないと考えます。
出願抑制策のもう1つの問題点は、著名な企業で立派な知財管理を行っておられる企業において、かなりの時間をかけて先行技術の調査をしても、20%〜30%の新規性なしの拒絶(進歩性拒絶を除く)があるという事実があります。調査の専門家が先行技術調査をしてもこの程度の調査漏れがあるのです。ましてや進歩性まで確実に考慮に入れて正確な調査をするということは非常に困難を伴うのです。

特許審査ハイウェイ

また、もっと深刻な影響があるだろうと憂慮されるのが、審査ハイウェイの先に見え隠れする実質的な世界特許制度です。審査基準の統一と日米欧3極特許庁が互いに審査結果を認め合う条約が発効するとともに、最近発効したロンドン条約のような取り扱いがなされれば、翻訳までもがなくなってしまうことになります。弁理士の仕事は翻訳や中間処理を含めて、激減することとなります。その上、その条約に韓国、中国が参加すれば、恐ろしいほどの影響が考えられます。

2.シンクタンクへの第一歩

弁理士を取り巻くこれらの状況に対応すべく、筆者の事務所では、中国における拠点の設立、意匠商標への注力、QCサークル活動・スキルアップ勉強会の実施、アメーバ経営の導入(パテントメディア79号(2007年5月号)参照)、所内改善提案制度の採用など、種々の対策を打っています。
そして、最近になって特に力を入れているのが、「特許ポートフォリオ開発」です。

1)筆者の事務所には20年来の調査部門があります。特許事務所の主たる仕事は、特許出願を行い、特許権を確立することですが、その特許事務所が予め特許性の有無を調査することは、当然に必須だと思ったのが、調査部門設立の動機でした。
長年調査部門が活動しているうちに、特許調査は種々の業務があるばかりでなく、その奥行きも非常に深いと実感するに至りました。特許性調査のみならず、特許クリアランス調査、無効理由調査、技術開発に先立つ技術情報収集調査、同じく課題を探索する調査、種々のマップを作成するための調査、空き技術を捜すための調査など、非常に多彩なのです。このようなところから、以下に記載する特許ポートフォリオ開発に行き着いたのです。

2)20年ほど前に筆者の事務所の顧客である大手の会社がシンクタンクに対して、新たな事業の柱を樹立すべく、どのような技術分野が有望かの提案を依頼しました。5つの分野が提案されました。シンクタンクは詳細な調査を元にその5つの分野を提案したのです。
それ以来筆者はそのような高度な提案をできる調査能力をもちたいという希望を片時も忘れたことはありませんでした。そのときが至るのを虎視眈々と狙っていました。
そんな希望と偶然合致したのが、某シンクタンク(Aシンクタンク)が士業に対するコンサルティングを行っていることを知ったことでした。「われわれもシンクタンクに脱皮したい」という目標を実現するときが来たように思えました。
もちろん、弁理士を取り巻く最近の厳しい環境を打破する付加価値の高いビジネス開発という大きな課題に直面していることも、時機到来といえます。
Aシンクタンクとの話し合いで、われわれをシンクタンクの入り口まで導いてもらうコンサルティングをお願いできたのです。
すなわち、当所が最終目的とするところは、知財を中心としたコンサルティングを行うシンクタンクとなることなのです。

3)当所には、この企画のバックグランドとなる支えは次のような事実です。
40年にわたる特許事務所としての経験、100名を越える技術に強いエンジニア、特許技術英語と外国特許実務に長けた国際部のスタッフ、国内外の長い調査経験を持つ優れた調査部員、特許図面をCADで描く図面スタッフ、事務を扱う国内管理部、国際管理部の職員、ベテラン揃いの営業マン、10人になろうとするシステムエンジニア、日本有数の実績を挙げている意匠商標スタッフ、中国の特許、意匠、商標を扱う二十数人の中国人スタッフ、合計250人に及ぶ人材です。

4)そして、長い準備期間を経て、第1回のセミナーが企画実行されました。「新規事業開発セミナー」でした。100億円以上の年間売上をしている企業数千社に案内を送りました。60社の申し込みがありました。
当所とAシンクタンクの提案は、同シンクタンクの有する「4000社のベンチャー企業の持つ種々の優れたシーズを提案します」というものでした。

5)そして、そのアイディアの採用を決めた企業に対して、その企業が開発業務を開始する前に、数多くのアイディアを出してもらいます。それらを特許出願してしまおうというのです。そうすれば、後からその技術分野に参入しようとするライバル会社に対して、大きな参入障壁を形成することができるというわけです。それだけその会社の新規事業の展開に有利性が増そうというものです。

6) 当所がそのガイドをするのです。
まず、その技術の分野の先行技術調査を詳細に行います。調査は原則世界中の技術を収集します。予算さえあれば、さらに、論文情報、特許文献以外の文献情報も収集できるのです。逆に予算が厳しい場合には、国内特許のみの調査で我慢するということもあります。
そして、その情報をいつでも自由に使用できるようにデータベース化します。このデータベースはその後の技術開発のサポータとして役立つのです。さらに、アイディア出しテーマの周辺分野を含む大量の特許を分析し、技術動向を把握するためにテキストマイニング機能を搭載した特許分析ツールを利用します。この分析ツールにより、数万件の特許についても課題その他の分析を行えます。
次にその調査によって収集したデータを分析し、マップ化します。そのマップは技術系統マップになります。後に行われるブレインストーミングに役立つように、特に課題やどこに空き技術があるのかを容易に判別できるようにします。
そして、そのマップに関する説明、すなわち、調査結果の説明会を行います。
対象はご依頼を受けた会社のその技術分野のエンジニア、営業マン、知財部員、そして、当所から派遣した同じくその技術分野の専門家です。
その技術分野にはどのような課題があるのか、それを解決するためにどのような手段がとられたかを系統立てて説明するのです。どの方向のアイディアが有望か、空き技術がどのあたりにあるのかも説明の対象です。

7)そして、その参加者によって新規アイディアを出すブレインストーミングが行われます。
1.結合改善 2.批判厳禁 3.自由奔放 4.大量歓迎
という、ブレインストーミングの原則が守られるようにします。しかし、つい癖が出るというのでしょうか。上司から「そんなものできっこないだろう」「その分野は過去に失敗しているからだめだ」等と批判がましい発言が飛び出すことがあります。その場合、司会の方から注意をします。
出てくるアイディアは、当所から派遣された書記がすべてのアイディアを記録します。参加者はとにかくアイディアを出し、その尻馬に乗ってさらにそのアイディアを改善し発展させたアイディアを出してもらえばいいのです。
多くのアイディアが出てきます。面白いのは、1つのアイディアが出たときに、そのアイディアをそのままいただいてそれをさらに発展改良させたアイディアが出てくることです。ブレインストーミングでは、このような状況になって行くことが理想なのです。

8)当所の明細書作成担当のその技術分野の人材が出席するのは次のような理由によります。
明細書作成時には、いかにその概念を大きくするかが、大きな課題となります。そのために請求項に含まれる概念を広げるために、多くの別例を提案して、明細書上に記述します。当所においては、最低1つ以上の担当者の考えた別例を書くことがルールになっています。インタビュー時にも別例についてはしっかり聞いてきます。発明者の考えた別例が2つだとしますと、明細書担当者が記述する別例は平均6つです。
3倍の別例を事務所側から提案するのです。このように事務所の技術者は発明の裾野を広げるということを常に行っています。オリジナリティの高いアイディアを提案するのは得意ではありませんが、小さな改良的なアイディア出しはきわめて得意といっていいのです。

9)しかし、途中で行き詰ってしまい、誰もアイディアを出せなくなってしまうことがあります。このような事態に備えてこのプロジェクトでは、参加者をさらに刺激をして、アイディアを出してもらう対策を用意しています。
それは、当所の明細書担当者の発明展開ノウハウを集約した20の発想法です。すべての発想法について豊富な事例を用意しています。例えば、「リバース」という発想法では、逆をやってはどうですかという発想法です。通常、人が上に上がろうとするとき、階段を上ります。しかし、階段を上がらせれば、人は上がらなくてもすむのです。それがエスカレーターです。
このように現状を逆に捉える発想法です。
わらを数センチの長さに切断する回転カッターがあったとします。回転軸に対して一定の半径のところに刃が固定されているのが普通の発想です。この固定をぶらぶらにしようという発想も同じくリバースの発想です。回転軸に対して、一定の半径のところにある刃に重錘を取り付けるとともに、回転軸に対して回動自在となっているレバーによって、刃と回転軸を連結するのです。運転を開始すると遠心力により回転刃は半径方向へ起立して切断刃としての機能を十分に発揮するというものです。こうすると切断できないほどの大量のわらが供給されたときにも、刃は回転方向後方へ後退し、機械自身が壊れないという効果を発揮します。

10)第1回のブレインストーミングが終わりますと、書記の記録に基づいて、出たアイディアをすべて書き出します。そして、すでに調査を行った先行技術の空きを埋める形でマップに追加されるのです。そうしますと体系的にどのあたりのアイディアが出てきたのか明確になります。マップの空き部分が埋められていないときは次のブレインストーミングのときに、空き部分のアイディアが出されるように誘導されるのです。
空き部分を埋めるアイディアが更に出やすくなるように、空き部分の技術課題を解決する特許情報を収集し、2回目のブレインストーミングの前に参加者にインプットしてからアイディア出しを行います。3回目のブレインストーミングもアイディア出しのトリガーとなる情報を提供しながら更にアイディア出しを行います。こうして創出された多くのアイディアを集約しポートフォリオ上で有効と思われるアイディアを選択し出願アイディアシートにまとめます。

11)出願アイディアシートは出願アイディアを1件1葉で記録し、そのアイディアに関連する技術の公報番号等書誌次項を付け加えてあります。 原則その書面があれば、知財部に対して、出願依頼ができるようになっているのです。

12)このようにしてブレインストーミングは終了しますが、その後適当な機会にライバル企業との特許勢力図のその後の変化を確認し、活動の成果を評価すべきと思われます。
このように自社の事業の市場における優位性を確保するために特許ポートフォリオ開発は重要であると筆者は考えます。

3.結び

シンクタンクへの道のりはまだまだ遠いのですが、とにかく第一歩を踏み出しました。多くの企業でもブレインストーミングは盛んに行われています。多くの場合「○月○日ブレインストーミングを行うので、一人3つ以上のアイディアを考えておくように」というようにして行われます。成果はもちろんあります。当所のものは、それに詳細な事前調査とその分析そしてマップ化、さらに行き詰まったときの発想法を付加したものです。より有効なアイディアを多数出させようとするものです。ご利用をお待ちしています。

2008年9月発行 第83号

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