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「パテントメディア」

米国特許規則改正の行方

2008年1月
国際特許第3部 谷口緑理

2007年8月21日に公表された米国特許規則の改正内容は、米国の特許実務に携わる者に非常に大きな衝撃を与えるものでした。この改正は、2007年11月1日を施行日としていました。しかしながら、まさにその前日である10月31日に、バージニア州東部地区連邦地裁により規則改正の暫定的差止命令が出されました。

発効するとされていた改正内容は、主に次の3つの内容に分かれるものでした。なお、差止命令が発せられているため、改正内容の詳細については省略します。

1)クレーム項数の制限

一出願において独立クレーム5項、総クレーム25項を超えた場合には、審査補助書類(Examination Support Document、略称ESD)の提出が求められると規定されました。審査補助書類には、米国特許公報、外国特許公報、非特許文献をカバーする出願人による先行技術調査の結果を含まねばならず、かつその結果を踏まえて当該特許出願の各クレームが特許性を有することについて説明しなければなりません。また、審査補助書類の提出義務は出願時にとどまらず、先の調査結果で抽出された公報よりも関連性の高い文献を引用する情報開示陳述書(IDS)の提出や、先の調査でカバーされない補正を行った場合には、さらなる調査を行って、補足の審査補助書類を提出しなければならないという負担もありました。

さらには、同一ではないものの、互いの出願のクレームに対して特許性を有するほどにはクレームが異なっていない複数出願においては、複数出願のクレームの合計が、独立クレーム5項以内、総クレーム25項以内の要件を満たさなければ、各出願において審査補助書類の提出が求められることが規定されました。

2)継続審査請求(Request for Continued Examination、略称RCE)、継続出願、CIP出願の回数制限

一出願ファミリーにつき、RCEを2回以上行う場合、ならびに継続出願及びCIP出願を合わせて3回以上行う場合には、料金の支払いとともに、新たに提出する意見書、補正書、又は証拠がこれまでに提出されなかった理由を述べたpetitionの提出が求められることが規定されました。なお、米国特許商標庁(USPTO)の出したコメントから推測するに、2回目以降のRCEや3回目以降の継続出願又はCIP出願においてpetitionを提出しても、認められる可能性は比較的低いと考えられました。

また、分割出願ができるクレームは、限定要求で選択されず、かつ先の出願において審査もされていないクレームに限ることも規定されました。

3)関連出願・特許の開示義務の導入

少なくとも1名の発明者が共通し、かつ同一人により所有される、又は同一人に譲渡される予定であり、かつ出願日又は優先日(先の米国の出願の利益の享受を請求している場合、その出願の出願日も含む)が「同一又は2ヶ月以内」の米国出願・特許を開示することを義務付けることが規定されました。

また、この中でも特に、出願日又は優先日(先の米国の出願の利益の享受を請求している場合、その出願の出願日も含む)が「同一」の米国出願・特許がある場合には、ターミナルディスクレーマーを提出するか、相手の出願又は特許のクレームに対して本願のクレームが特許性を有する理由について説明を行うことも義務付けられました。さらには、相手が特許査定発行前の出願である場合には、特許性を有するほどには異なっていないクレームが複数の出願に存在する理由について説明することも求められました。

上記改正内容については、弊所のお客様からも多くのお問い合わせや困惑の声をいただきました。例えば、製薬会社や関連出願を多く出願する企業にとって、複数の関連出願において独立クレーム5項以内、総クレーム25項以内の要件を満たすことは非常に難しいとの意見が多く聞かれました。また、大企業になるほど複数の国内特許事務所及び米国法律事務所を使用しています。このため、発明者、出願日、優先日等についてすべて把握しているのは通常は出願人(又は譲受人)のみであり、出願人(又は譲受人)自らが膨大な数の出願について関連出願・特許を検索するシステムの構築を行わなければならず、新規出願の管理も非常に煩雑になるとの声も聞かれました。

こうした中で、この規則改正に対して2件の訴訟が提起されました。1件は個人発明家であるDr.Tafasによるもの、もう1件はGlaxoSmithKline社(以下、GSK社とします)によるものでした。GSK社は、Rocket Docketと呼ばれる迅速な審理を行うバージニア州東部地区連邦地裁に訴訟を提起し、改正規則の発効前に暫定的差止請求が認められるかどうかが話題となっていました。とはいえ、米国の特許実務家の多くは、暫定的差止請求が認められる可能性は低いであろうとの悲観的な予想をしていました。

当初10月26日に要求されていたヒアリングは、USPTOの要求により10月31日に変更されました。この直前に、駆け込みで第三者による意見書が3件提出されました。これらはすべて原告であるGSK社を支持するものばかりでした。

USPTOは当初、他の出願人が改正規則を遵守すべく準備をしているのに、GSK社のみがこのことを問題にしているとの主張をしていました。しかしながら、規模の異なる複数の企業によって意見書が提出されたのみならず、米国知的財産弁護士協会(AIPLA)が提出した意見書には、25,000件を超える係属中の自社案件について関連出願・特許の有無を確認しなければならないことを述べたIBM社の宣誓書を含んでいました。これらにより、規則改正は大きな影響を与えないとするUSPTOの主張に反し、企業の規模を問わず、規則改正が企業活動に非常に大きな影響を与えることが印象付けられました。

ヒアリングには多くの特許実務家や記者達が傍聴に押しかけたとのことであり、規則改正への関心の高さが示されました。ヒアリング後、裁判所は、規則改正を発効させないことによってUSPTOに与える苦難がないわけではないが、規則改正が発効することによってGSK社が被り得る被害の方が重いと判断したこと、及び第三者による意見書から判断するに改正規則が公共の利益を害する可能性があり、規則の正当性についてさらなる審理を要することを理由として、暫定的差止命令を出しました。

今回の命令はあくまでも暫定的なものであり、今後の審理においてUSPTOが勝訴する可能性や、たとえUSPTOが敗訴したとしても、改正内容を一部のみに限定して再度規則改正案が出される可能性もあり、依然先行きが不透明な状況にあります。しかしながら、規則に反対する各団体の動きも活発になってきており、裁判の行方に注目が集まっています。なお、第三者による意見書等において改正規則を出願済の案件にまで遡及させることは出願人に回復不可能な損害を与えるとの主張がなされていることから、過去の案件に遡及して改正が及ぶ可能性は少ないであろうと予測する専門家もいます。

今後の裁判の行方が気になるところではありますが、万が一規則が発効した場合の影響を鑑み、対応できるだけの準備を整えておくことが必要といえるでしょう。

また、審判や情報開示陳述書(IDS)に関するその他の規則改正案にも、出願人の負担が大きくなると予想されるものがあります。USPTOは、審査効率を上げ、より有効な審査を行うためにこれらの規則改正が必要であると主張していますが、その最終規則の発表にも注目が集まるところです。

2008年1月発行 第81号

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