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【社内活性化の原点】経営理念について9

2007年9月
会長 弁理士 恩田博宣

京セラの経営理念を1項目ずつ取り上げ、恩田流のコメントをさせて頂いております。今回は採算意識、現場主義の2点について述べさせて頂きます。

1)採算意識を高める

「京セラでは、アメーバ単位で『時間当たり採算制度』を実施し、職場での仕事の結果が誰にでもはっきり分かるようになっています。社員1人1人が経営者意識をもって、どうすれば自分たちのアメーバの『時間当たり』を高めていけるかを真剣に考え、実践していかなければなりません。常日頃鉛筆1本やクリップ1つにいたるまで、ものを大切にしようと言っているのは、こうした思いのあらわれです。
床にこぼれ落ちている原料や、職場の片隅に積み上げられている不良品が、まさにお金そのものに見えてくるところまで、私たちの採算意識を高めて行かなければなりません。」

京セラの理念ではこのように述べられています。
京セラでは現場の職員が使う原料や部品の単価がいくらであるかということを熟知しています。一つのビスを落としそれを踏みつけてしまい、使用不能にしてしまいますと、幾らの損害が生じたかを職員自らが知るところまで採算意識が高められているのです。そこにはもったいないという意識が自動的に生じて、部品1個、原料1グラムを大切に扱うという精神が育っていくことになるといえます。

採算意識その1

筆者の事務所でもその努力が続けられています。まだまだ京セラのレベルにはとても届いていません。つい先日の資源ごみを出す日ということで、大量の雑誌や書類が駐車場に山積みにされました。しかし、その中にまだ使えるファイルが大量にあるのです。節約の思想が行き届いていないのです。経営者として指導が不十分であることを猛烈に反省させられました。
前回、当所のアメーバ経営について述べましたが、このアメーバ経営によって、筆者の事務所では部門ごとの採算が正確に出せるようになっています。当然、出張費を余分に使ったり、役に立たない書籍を購入したりすれば、その部門の採算は落ちてきますので、部長を始めとして自然のうちに「節約しよう」という感覚は育ってきています。
しかし、消耗品については、総務部で一括購入し、その費用は本部又は支店ごとに人数割りにして、その月の費用として落としてしまっています。消しゴム1つ使い切ったときは、そのチビけた消しゴムをもって総務へ行きますと、新しい消しゴムがもらえるということになっています。かなりの厳しさなのですが、「費用がかかるので節約しなければ」という気持ちを起こさせるには、更なる厳しさが必要だと言わねばなりません。
そこで、新しい試みとして消耗品も資産計上して、各職員に手渡したときにのみ、その部門の費用として計上するようにしました。
その成果のほどはまだ分かりません。また、節約額は大した金額にならないことは明らかですが、精神的に節約倹約ムードの醸成に役立つものと期待しています。

採算意識その2

この採算意識を高める上で、アメーバ経営は非常に効果が上がっています。  
部門ごとに、総売上、費用(人件費を除く)、売上から費用を差し引いた収益、総時間、そして、収益を総時間で割った時間当たり収益(付加価値)が毎月予定(予定採算表は年間売り上げ計画に基づいて、前月末までに作成されます)と実績について、算出されるものですから、自ずから各部門の成績がよいか悪いか分かるわけです。
採算を向上するためには、売上を上げるか費用を下げるかしかないのですから、必然的に関心は売り上げ向上又は費用削減に向かうこととなるのです。
どちらがメインになるかというと、売上を伸ばす方が何といっても力点になります。
しかし、筆者自身のことですが、アメーバ経営導入以前は夜東京や名古屋への出張から帰るとき、岐阜駅からはタクシーで帰ることが多かったのですが、アメーバ経営が始まって以来、夜遅くならない限り、バスを利用するようになりました。このような節約ムードを所内全体に広げるための率先垂範といったところです。

採算意識その3

また、QC活動による節約運動も効果を上げています。もっとも明細書の品質向上のためのQC活動を除けば、すべてのQC活動が節約運動だといえるのですが、もう少し身近な節約例について述べたいと思います。
総務部のグループが昼休みに「パソコンと照明の電源を切りましょう」という活動をしたおかげで、それらの習慣が根付きました。パソコンに昼休みには電源を切りましょうというシールを貼り、成果をあげました。月々3.5万円の節約になっています。また、事務所の消耗品は紙、文房具、トイレットペーパ等以前は1軒の販売店から購入していましたが、インターネットから安いものを購入するようにしたところ、これも月々3.5万円の節約となりました。もちろん、QC活動の成果でした。さらに、よく使う宅配便もその緊急度合いによって使用する会社を変えたり、値段交渉を行ったりした結果、これからも月々2.5万円の節約となりました。
また、改善提案活動の成果として、表面をすでに使用した紙の裏面を使用するようにしました。複写機やプリンターには、通常の使用では裏紙しか出ないようにセットされています。もし、クライアントに送る書類を打ち出すときには、設定を少し操作する必要があります。片側が白い紙が無駄にされることはなくなりました。事務所に残す紙の大半が裏紙になりました。

採算意識その4

経費最小という考えが行き過ぎることがあります。特許事務所といえども、時代の流れに乗っていく必要があります。もし、乗り遅れたならばこの世の中から必要とされなくなり、いち早く姿を消す運命になりかねません。そのためには将来を見越して大きな投資を必要とすることがあります。それを金がかかるからといって投資を控えていては、将来の事業開発ができないことになってしまいます。例えば、コンピュータ投資です。金がかかるからといって止めていたならば、事務能率はどんどん下がることになって、採算点が非常に低くなってしまいます。当所がまだ50人そこそこの人数のときに、分不相応ともいえる月間50万円ものリース料を支払う必要のあるコンピュータシステムを導入しました。相当に誇りをもって訪問する人に説明していました。
あるとき大阪から1人の弁理士が見学に来られました。そして、見学の後「素晴らしいですね」とおっしゃり、続いて「何ぼ儲かりまっか」と尋ねられました。「はっ」としました。儲かるどころか、事務員2人も雇えば十分にかたづけられる仕事量しかこなしていなかったのです。倍以上の費用を使っている可能性さえありました。
「しまったなあ。もう少し仕事量が増えてからでもよかったかなあ」と反省しました。しかし、使い始めて2年もたたないうちに、とても事務員2人ではかたづけられない仕事量を処理していることに気づきました。そして、「コンピュータを導入してよかったなあ」とつくづく思ったことでした。
事務量が増えたからコンピュータを導入しようというのでは遅いといわねばなりません。
当所のコンピュータ組織は現在その延長線上にありますが、3,500件の国内出願の事務処理を6.5人(パートタイマー1人)の所員で処理できる程度のものとなっています。コンピュータが有効に使われている根拠になるのではないかと思います。
このIT投資はその後も、さらに、続きました。現在では8人のシステムエンジニア(SE)が常時所内ソフトの開発・改良に取り組んでいる状況を作り出しました。QCサークル活動やその他の改善提案はソフト開発に関係することが非常に多くなっています。そのため、SEの数はまだまだ不足状態です。最近ではQC活動によって改善を図ろうとすると、どうしてもコンピュータ組織やソフトそのものの改善が必要となることが多いのです。各所からソフト改善依頼が出てきますが、なかなかその要望にこたえきれないような状態なのです。それだけ当所のソフト改善が進んでいるともいえるのですが、SE不足状況ともいえるのです。
10年も前にアメリカのミネアポリスにある大手の特許事務所を訪ねたとき、「SEは所内に何名いらっしゃいますか」と尋ねてみました。総勢350人の事務所でした。答えは「17名いる」というものでした。当所は上海オフィスまで含めて240名ですので、その事務所に匹敵するだけのSEを揃えるとなると、12名は必要ということになります。
一般に日本の事務効率はアメリカの効率に比較して80%くらいにしかなっていないといわれます。当所の遅れもその例の1つなのかもしれません。

採算意識その5

当所でQC活動の中でソフト開発が能率の改善に大きな威力となった事例

1)外内出願について、現地代理人や依頼者から多くの書面が送られてきます。それらの書面は、当所ではすべてスキャンして電子ファイルに蓄積されます。しかし、例えば、現地から送られてきた出願指示書によって、出願時に発明者が正しいかどうかをチェックするときには、もう1回その出願指示書を引き出して、チェックしなければなりません。そのようにチェックのために後から引き出す書類はたくさんあります。審査請求指示書、拒絶理由通知、拒絶査定、年金納付、商標の指定商品に対する対応指示書等々数多くあります。これらを瞬時に取り出せるシステムづくりは、効率を上げる上で重要でした。その開発には相当の時間を要しましたが、わがSEが見事達成してくれました。このソフトによりチェックに要する時間は劇的に短縮されたのです。いちいちスキャンされた多くの書類の中から順番にページを繰りながら、必要な書類を見つけ出す必要がなくなったからです。

2)明細書のチェックソフト「パテントチェッカー」があります。出願人の名称や発明者の氏名が正しいか、日付は、明細書の図面番号は正しいか、一つの番号に名称が2つ付いていないか、図面の中に明細書で使ったすべての番号が表示されているか、引用形式の請求項があるときその引用が正しいか、「前記○○」という言葉があるとき○○が前にあるか、接続助詞の誤記、例えば、「とと、」と2つ続いてしまっているのを指摘する、発明の名称とクレームの末尾に出てくる名称が一致しているか、図面の簡単な説明と図面が矛盾していないか、例えば、グラフとなっているのに図面はグラフではないのを指摘する、明細書の詳細な説明で使用されていない文言がクレームで使用されていないか、等々これらのチェックがコンピュータによってなされます。当所の明細書の品格を相当程度上げています。明細書が作成されてこのソフトにかけて、間違いがなかったというケースはほとんど皆無です。

3)多数国出願でアメリカ出願を含む場合、気になるのがアメリカに対するIDSの提出です。アメリカ以外の国で拒絶理由が出たとき、それをアメリカへ提出しなければなりません。しかし、それをいちいち覚えていて正確に処理するのは、大変です。当所ではアメリカを含む多数国出願がありますと、アメリカ以外の国のアクションの入力時に、IDS提出作業が指示されます。すなわち対応アメリカ出願にはアメリカの出願があることを入力してありますので、アクションが来たときの入力時にIDS提出の必要性をコンピュータが聞いてくることになっているのです。IDS提出を忘れない手段として有効です。問題は依頼者の方で一つの発明案件について、複数の事務所へ外国出願を依頼していたり、当所へは日本出願のみを依頼し、外国については自社又は他の事務所で処理されたりしている場合には、適切に対処することは困難です。
以上いくつか、採算意識を向上させているケースについて述べましたが、ソフトの開発については、原稿を改めて述べたいと思います。

2)現場主義に徹する

「ものづくりの原点は」製造現場にあります。営業の原点はお客様との接点にあります。
何か問題が発生したとき、まず何よりもその現場に立ち戻る事が必要です。現場を離れて机上でいくら議論や理屈をこね回してみても、決して問題解決にはなりません。
よく「現場は宝のやまである」と言われますが、現場には問題を解くためのカギとなる生の情報が隠されています。絶えず現場に足を運ぶことによって、問題解決の糸口はもとより、生産性や品質の向上、新規受注などにつながる思わぬヒントを見つけ出すことができるのです。これは、製造や営業にかぎらず、全ての部門にあてはまることです」

京セラの理念ではこのように述べられています。
この解説の中で稲盛さんは「これは製造業であれ、流通業であれ、あらゆる業務に通じることです」とおっしゃっています。
その例として、稲盛さんが「素晴らしい能力を発揮されている秘密は何ですか」と訪ねられたとき、中坊公平弁護士は「私はすべて現場から教わるのです。現場には必ず解決のカギがあります」と答えられたという話が紹介されています。
筆者の特許事務所の業務において、経験した現場主義の重要性について、紹介したいと思います。

現場主義の重要性その1

もう今では15年も前の話だと記憶しているのですが、外国出願を本格的に手がける前提として、適当な特許事務所を選択するために、多くの国の特許事務所を歴訪したことがありました。東南アジア方面のツアーでインドネシアに行ったときのことです。ジャカルタでいくつかの事務所を訪問しました。
そのうちの1つの事務所を訪問して、「現場を見てみないと、分からないものだ」と、つくづく思ったことがありました。
そこは大きな事務所だったのですが、「ここでお待ちください」と案内されたところが、2階に上がったところの踊り場でした。そして、傍らには壊れた扇風機が転がっているし、ほこりもたまっていました。その後、所長室へ案内されました。大変広い部屋でした。調査事件を依頼してあったので、それがどうなっているかを質問してみたところ、その包袋はなかなか出てきませんでした。それでもしばらくして出てきました。
しばらく歓談した後、所内案内をお願いし、事務所ツアーをさせてもらいました。びっくりしたのは包袋を収納した倉庫の状況でした。あふれた多くの包袋が床の上に斜めに倒れた状態でほったらかしてあるのです。これでよく包袋が出てくるものだと感心もしました。全体として感じたことは、「この事務所には依頼したくないな」ということでした。まさに「現場を見て判断せよ」は真理です。

現場主義の重要性その2

当所は2002年にISO9001の認定を受けましたが、認定のためにだけ用意しなければならない書類と要する時間の多さに不効率を感じましたので、3年後の2005年にISOの認定を辞退することにしました。しかし、ISOには多くの利点もあります。OMS(ONDA MANAGEMENT SYSTEM)と名前を変えて、ISOの実質は継続することとしました。OMSではISOの実質的な部分はすべて引き継いでいますが、会長職の筆者は経営管理部門が部門ごとの監査をするときには、付き合うことになっています。
そこでも現場を見ることの重要さを改めて認識させられることがありました。
当所では各部門長の意見を聞き、所長方針としての年間売上目標が決定されます。その目標は各部門に対して割り付けられます。その部門の目標はさらに各部員に対して割り付けられるのです。その年間目標は各月目標に落とされます。監査ではまず「今月の売上目標はいくらですか。現在、いくらまで行っていますか」という質問をします。監査が軌道に載るまでは、それを直ちに答えられるスタッフは非常に少ない状態でした。部門長が各スタッフの目標はきちんと周知していてくれるものとばかり思っていたのですが、現場において確認してみると、事実はそれとは大きく食い違っていたということでした。「実行されているはず」との確信があっても、事実は実行されていないということは、いくらでも起こることですが、改めて自分の足元でも起こっていたことを知らされて、現場での確認の重要性を思い知らされた次第です。
監査のとき、スタッフの机を点検してみました。おやつ用と見られる各種スナック、歯ブラシや練り歯磨き、おそらくは今後見る可能性のない古い明細書のコピーや勉強の資料、参考書等が見られました。しかし、中にはきれいに片付けられ、余分なものを一切収納していない者もいました。
また、机に入りきらない各種資料が机の下に大量に積み重ねられているというひどいケースもあったのです。このような状況も現場に足を運ばない限り、分からないことです。ISOに感謝せねばなりません。

現場主義の重要性その3

筆者は東京商船大学卒業です。当時の商船大学では1年生から3年生まで、毎年1ヶ月間乗船実習がありました。実際の練習船に乗って実習をするのです。筆者は機関科でしたから、特にエンジンルームの現場における実習を多くこなしました。さらに、4年生の時には3ヶ月の工場実習と同じく3ヶ月の乗船実習がありました。卒業後、船会社に就職しましたから、職場は船のエンジンルーム、船にはディーゼルエンジン、タービン、ボイラ、ポンプ、冷凍機、ウインチ、発電機、モータ、遠心分離機、工作機械等の多種類の機器を備えていますから、エンジニアは機械、電気の専門家であるとともに、ボイラの水管理には化学知識もいります。
つまり何でも屋であるわけです。当時は船の乗組員が機械を定期的に分解整備していました。事前に図面を見て間違えないように行います。電気回路図を見てはメンテナンスをやっていました。出入港の時は発電機の並列運転を行います。電気的な知識と実務の融合した面白い場面です。
このように通常の工学部の学生よりは、より現場における実習が多く、機械も電気も化学も浅く広くしかも、現場も学ぶことができた筆者は、就職後の現場経験も踏まえて、弁理士になった昭和41年にはぴかぴかの弁理士でした。どのような出願が来ようと怖いものはありませんでした。今となっては相当な浦島太郎となっていますが。
現場で習得した知識と経験は弁理士としても大変大きな力となりました。まだ、開業して間もない頃、しばしば、現場へ招かれる機会がありました。まだ、試作ができ上がったばかりで、どこにアイデアがあるか発明者自身も、知財部の担当者も認識していません。詳しくその装置の構造と機能について聞き出します。このインタビューでは現場経験は遺憾なく生かされます。
技術理解も早いわけです。そして、インタビューが終わるときは、もうどのように出願するかのアイデアはできています。「全体システムとして1件、個々の部分の4箇所にこれこれのアイデアがあるので、全体で5件の出願が可能だと思います」と、クレームとなるべきポイントとその効果を合わせて説明します。
発明者はびっくりしたような顔をしています。「何とか1件出せないかなあ」と心配していたのに、5件も出せると聞いてびっくりしたというのです。
こんな発明のインタビューは筆者の最も得意とするところでした。その結果「オンダさん、もっと当社の出願をたくさんやっていただけませんか」と言われたこともありました。「弁理士になってよかったなあ」と、感慨にふけったことでした。これも現場主義の重要性を示していると思います。

3)まとめ

以上、採算意識と現場主義について述べさせて頂きました。いずれも事業体を運営する上で重要なことですが、ともすると安きに流れ、採算意識が希薄になったり、面倒くさくて現場での確認を忘れたりしてしまいがちです。改めて筆者自身も採算意識をしっかりと持つとともに、現場での確認を忘れないようにしたいと思います。

2007年9月発行 第80号

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