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「パテントメディア」

経営理念について8

2007年5月
会長 弁理士 恩田博宣

京セラの経営理念を1項目ずつ取り上げ、恩田流のコメントをさせて頂いております。今回はアメーバ経営について述べさせて頂きます。

1)日々採算を作る

「経営というものは、月末に出てくる採算表を見て行うものではありません。細かい数字の集積であり、毎日の売上や経費の積み上げで月次の採算表がつくられるのですから、日々採算をつくっているのだという意識をもって経営にあたらなければなりません。毎日の数字を見ないで経営を行うは、計器を見ないで飛行機を操縦することと同じです。これでは飛行機はどこへ飛んでいき、どこに着陸するのか、わからなくなってしまいます。同様に日々の経営から目を離したら、目標には決して到達できません。採算表は1人1人の生きざまが累積した結果であるということを忘れてはなりません。」

京セラの理念ではこのように述べられています。
京セラでこの「日々採算をつくる」を実現しているのは、同社で開発されたアメーバ経営です。上記の理念は毎日決算を行うという趣旨ではありません。月次の決算をしっかり頭に入れて、「日々採算をつくる」という意識を常にもって経営決断をする必要があるという意味に解釈できます。
確かに月次決算は、翌月に入ったならばできるだけ早く出して、その決算を基にその月の経営をしなければならないことは自明の理です。しかし、当所でもそうでしたが、月次決算が出るまでには10日以上かかることが普通でした。それでもあまりそれを問題視したことはありませんでした。 
前月の結果が出たときには、もう月の半分も経過してしまっているということでは、まともではありません。前月の決算の結果を見て、反省し、よりよくするための手を打って行く必要があるからです。

2)アメーバ経営の導入

平成15年当時、筆者が所長を勤めていましたが、次男に所長の座を引き継ぐこととしました。
次男は平成6年に弁理士試験に合格し、すぐアメリカの大学(UCF)工学部(電子工学科)に入学、平成9年卒業後、当所において実務を勉強していました。
副機長を長く務めた機長は事故を起こしやすい。助監督を長く務めた監督はいい映画を作れない。5番バッターを長くやっていた野球の選手は、3、4番は打てなくなる。ということ硬く信じていた筆者は、「できる限り早く所長を次男に」という思いがありました。
筆者は64歳でした。そのとき稲盛和夫京セラ名誉会長の主催する盛和塾で勉強していた次男は、所長就任直後に「アメーバ経営を導入する」と言い出したのです。
そして、京セラコミュニケーションシステム(株)から1年間の指導を受け、当所のアメーバ経営は軌道に乗りました。

3)アメーバ経営とは

アメーバ経営というのは、京セラにおいて開発された経営手法です。そのエキスは、筆者は次のように理解しています。すなわち、組織を細分化し、その組織単位における採算を正確に出すことによって、各組織に生ずる問題点を正確に把握するとともに、正しい対策を打とうというものです。組織間の競争もあって、組織は活性化するのです。

また、アメーバの単位組織に対して、自分の組織の採算を意識させることができるのです。従来の組織と経理のやり方では、自分の単位組織の採算が明確に分かるようにはなっていないところがほとんどです。アメーバ経営になりますと、単位組織は自らその採算が分かり、さらに、組織の問題点を把握し、その解決を図ることもできるというわけです。単位組織が自立し、経営者感覚でその組織を運営できることにもなるのです。

事業体において、経常利益が売上の10%も上がっていれば、経営者はOK印を出してしまいます。「全体としてはうまく行っているから、まあいいか」と結論します。こういうことは、よくあります。
全体としてまずまずの成績であったとしても、通常、個々の組織はだめになっているところと、うまく行っているところがあります。それが普通です。しかし、それがどこで起こっているかに気づくまでには、相当の時間がかかります。気づいた時には、取り返しのつかないほど組織がだめになっていることもあり得ます。

また、小さな組織においては、大幅な赤字になっていても、それが全体の黒字やその他の事情によって隠蔽されてしまい、その赤字組織のメンバーにも、トップにも分からないこともあるのです。
そんなときこのアメーバ経営の場合は、採算の面から出来・不出来が明確になってきます。採算の悪い組織にメスを入れますと、採算のみならず、モチベーションの面でも、出来上がる商品の品質の面でも、だめになっているケースが多いのです。しかも、その発見が非常に早くなるといえるのです。

4)アメーバ経営の具体的手法

それではその手法について、順に説明させていただきます。
アメーバ経営をコントロールする部門は、2人で組織され、経営管理部と称しています。アメーバ経営のほかに当所が3年間登録を維持したISO9001での経験を基にしたOMS(ONDA MANAGEMENT SYSTEM)の管理も担当しています。定期的に行われる監査によって、各部門あるいは各個人の目標が周知されているか、所内のデータの扱いや、ミス発生時の対応等マネジメント全体が順調に推移しているか、に目を光らせています。

当所では最も大きな組織でも、12〜14人くらいで、全体で30を越える組織となっています。すべての組織はPC(PROFIT CENTER)部門とNPC(NON PROFIT CENTER)部門に分かれています。利益を稼ぎ出す実務部門とそれを支える管理部門です。
各部門は毎月その月が始まる前に、予定採算表というものを作ります。光熱費や家賃等多くの費用は人数割りで負担しますので、ほぼ自動的に各部門に対して割付されます。しかし、外注費(図面、翻訳等)や出張費や交際費、図書費等はその月毎にまた部門毎に、予定額を計上します。

例えば、明細書作成部門では前月送った原稿が何件分あり、今月はそのうち何件が出願につながるかが想定できるので、売上はこのくらいというように予定を立てます。もちろん、半期ごとにその期にいくらの売上を上げるかという目標は、部門長と所長の話し合いの中で決定されていますので、その月の売上予定の決定は、その目標を十分配慮したものとなります。その月の受注や原稿発送件数についても、どの企業から何件受注して何件送付するというように予定を立てます。
その結果、各部門の予定採算表が出来上がります。

受注高、総売上高、経費合計(人件費は除きます)、差引収益(粗利)、総時間、時間当たり売上、原稿発送高と、全体の経常利益率(人件費も計算されて、全体のもののみが出されます)がでます。これらは各部門のものと、国際部、国内部というように大きなグループの採算も判明するようになっています。予定採算表を見て、全体の成績がよくなければ、売上や経費の見直しが出来るわけです。
そして、もちろんですが、全体の予定採算も分かるのです。

1ヶ月経過します。その間各部門ではその予定を出来る限り忠実に実行すべく努力がなされます。経営管理部では日々の経過を集計し、1週間ごとに途中の採算を計算し、所内イントラネットで公表します。
事務所全体の売上は所内イントラネットのトップページに前日までの数値が掲載されます。今月売上、その予定額に対する達成率(%)、年度累積売上目標と累積売上とその予定額に対する達成率(%)が掲載されるのです。そして、その数値は毎日更新されます。
部門長はこの途中採算表をしっかり意識しながら売上と経費の調整をします。

他のグループのために時間を使ったときは、時間移動ということが行われます。出願第1部のメンバーが出願第2部のために発明のインタビューを行ったようなときには、その時間は出願第2部の消費時間が加算され、第1部の時間が減算されるのです。
時間移動には次のような例もあります。当所では明細書が完成しますと、パテントチェッカーと称するソフトで、その明細書の担当者がミスの有無を250項目に渡ってチェックします。例えば、部品番号の間違いがありますと、パテントチェッカーにより間違いが指摘されます。それをきちんと直していればいいのですが、もし、直してないと、次のようにして時間移動が行われるのです。
すなわち、出願事務を行う国内管理部においても、さらにもう1回チェックが行われます。そこで、明細書担当者のチェック漏れがあったようなときは、管理部で消費した時間が明細書部門へ移動されるのです。

そして、月初めに1週間以内に、月次の実績採算表が出来上がりますので、経営会議が開かれます。大きなグループ毎に分かれ、順に前月の成果を発表します。
経営管理部のスタッフと会長、所長は丸1日かかる経営会議のすべての場面に付き合うのです。
まず、会長、所長から先月の経営状況、今後の見通し等を交えて挨拶をします。次に経営管理部長から全体の数値が発表されます。それは次に述べます各部の発表と同じです。さらに、売上や経費について大幅に予定と違った原因に関しても報告があります。
次に本部長の発表です。例えば、国内明細書部門、国際部門全体を統括するのが本部長で、全体の数値と特筆すべきことの発表をするのです。
そして、各部門に移ります。例えば、国内出願は13の部門に分かれていますが、13人のグループ長が集まります。東京、大阪の部門長はテレビ会議で出席します。そして、すでに出来上がっている採算表を見ながら発表するのです。

「総売上高5月予定○○円、
5月実績△△円、予実比□□%、6月予定○○円、
経費合計5月予定○○円、
5月実績△△円、予実比□□%、6月予定○○円、
差引収益5月予定○○円、
5月実績△△円、予実比□□%、6月予定○○円、
総時間5月予定○○.○時間、
5月実績△△.△時間、予実比□□%、
6月予定○○.○時間
時間当たり5月予定○○円、
5月実績△△円、予実比□□%、6月予定○○円」

というように発表するのです。
この場合予実比というのは、予定の売上に対して実績が何%になっているかを示すものです。100%に近いほどいいわけです。時間当たりというは、その部門の1時間当たりの売上(付加価値)を表しています。
トータル売上において、目標を達成してもその組織において残業が異常に多ければ採算は合わないことになります。そこで、時間当たりの付加価値を出すことにより、効率よく組織運営がなされているかどうかも判断出来るのです。
次に重点項目について、発表します。

それは、受注と出願状況、中間処理の状況、予定していた事項と異なる事態が発生したときの状況、例えば、予定していた受注が大幅に少なかったとか、逆に予定より多くの受注があったとかの状況です。なぜそのような状況が起こったかの理由とともに説明されます。各部ごとの特殊事情があればそれも発表されるのです。例えば、大幅に目標未達の場合には、その言い訳がされるのです。明細書担当者のAさんが上司のチェックから外れたとか、Bさんが素晴らしい成績を上げたとか、Cさんがお客様から大変褒められたとか、通常と異なる状況は何でも報告されるのです。

さらに、次月(今月)の予定についても、発表されます。
さらに、全部門が取り組んでいるQCサークル活動及びスキルアップ勉強会の経過についても報告されるのです。総務部は長期未回収の売掛金の増減についても報告します。経営管理部や会長・所長からの質問や意見表明が行われます。
このようにして経営会議が始まるのは9時20分、終わるのは、17時30分くらいになります。

5)アメーバ経営の効果と弊害

前述のように各部門の採算がまるでレントゲンで写したかのように、明瞭にでてきます。そうすると所内の問題点の発見が非常に早くなるのです。もっと端的には、全体として採算を見ている限り、なかなか分からない成績の悪い部門がはっきりと目前に示されますので、すぐに適切な対策を講ずることができるのです。

そして、各部門の採算がはっきり示されるので、各部門のメンバーの目標達成意識も非常に高まります。アメーバ経営を導入する前には、月次で目標を達成する月が1年のうち6〜8ヶ月であったものが、導入後は達成出来ない月が1、2ヶ月になったことも非常に大きな効果でした。
また、経営会議は同一部門の部門長が一堂に会して行われますので、他部門のマネジメントを参考にすることが出来ます。例えば、明細書部門の部門長は他の明細書部門の発表を全部聞いています。そこで他の部門がいかにうまくやっているかが分かりますし、他部門の采配に問題があることも理解出来ます。それは自分の部門の運営に役立つのです。

一方、問題点も発生しました。
目標を高く設定すればするほど、達成が難しくなりますので、できるだけ低く設定することに努力することとなります。それは所長との交渉で決まりますので、いろいろ理由を述べて低い目標を所長に納得させた方が得という訳です。
この傾向はどうしても生じてしまいます。しかし、期を重ねていると、毎回目標達成するグループとそうでないグループとがでてきますので、時間とともにどの部門長が低めに言い、どの部門長が大きめに言うかは、大体判明してくるのも事実です。

また、本来の採算は当然に人件費も含めて計算されなければなりません。人件費を除いては経営の真の姿が明示出来ないからです。しかし、アメーバ経営においては、人件費が経常利益という全体の結果を出すについては、考慮されますが、通常の経営会議において発表される数値の中では出てきません。これは個人の給与の額等個人情報に属することが公表されるのを防ぐ趣旨なのです。時間当たりの付加価値が高くても、給与の高い人ばかりでは、経常利益には結びつきません。当所のアメーバ経営にはこのような課題もあるのです。

6)まとめ 

アメーバ経営は、全体として常に経営上の問題点が表に出るような仕組みですので、経営の手段としては非常に有効なものであるといえます。事実当所の経営は導入前と比較しますと、経営上の数値はかなりの改善がありました。すなわち、職員の数字に対する関心も高くなるとともに、経常利益もアップしたのです。さらに、モチベーションもかなりの程度上がったと感じます。

2007年5月発行 第79号

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