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「パテントメディア」

経営理念について7

2007年1月
会長 弁理士 恩田博宣

京セラの経営理念を1項目ずつ取り上げ、恩田流のコメントをさせて頂いております。

1)地味な努力を積み重ねる
大きな夢や願望をもつことは大切なことです。しかし、大きな目標を掲げても、日々の仕事の中では、一見地味で単純と思われるようなことをしなければならないものです。したがって、時には「自分の夢と現実の間には大きな隔たりがある」と感じて思い悩むことがあるかもしれません。
しかし、どのような分野であっても、すばらしい成果を見出すまでには、改良、改善の取り組み、基礎的な実験やデータの収集、足を使った受注活動等の地味な努力の繰り返しがあるのです。
偉大なことは最初からできるのではなく、地味な努力の「一歩一歩の積み重ねがあってはじめてできる」ということを忘れてはなりません。

京セラの理念ではこのように述べられています。この理念に関して筆者の事務所において経験した地味な努力の一端を紹介したいと思います。

1.人材の採用

筆者の事務所が創業したのは昭和43年(1968年)でした。当時日本は高度成長期にあり、人手不足は尋常なものではありませんでした。六畳間に机を置いて始めた特許事務所ですので、しゃれたオフィスとは違います。まず1人の女性事務員を採用するのも大変でした。しかし、当時大企業では結婚すると退職するという慣行があり、偶然ですが既婚の優秀な事務担当者を採用することができました。でも、半年もたたないうちに「妊娠しました。今日辞めます」と突然の退職。困りました。次に雇った職員は、就業時間が始まってから、化粧をしているものですから、注意したところ、「辞めさせていただきます」と、1週間もたたないうちに退職。

明細書や図面の担当者の採用はさらに困難を極めました。工学部卒業生等は6畳間に毛の生えた事務所にはとても来てくれません。法学部の卒業生に拝むようにして入ってもらい、図面を書くのを教えました。少し使えるようになったころ、「実家が事業を始めますので」と退職。こんな状態が続き、とても組織的な事務所等できないのではないか、1人でやるしかないのかと思い悩みました。

しかし、筆者の心には組織的で大企業に使ってもらえる事務所を作るのだという確固たる目標がありました。辞められても、辞められても、悲しい思いをしながらも、次の人材を採用しました。定着はなかなか困難でしたが、それでも1人また1人と少し長続きする者が増えていきました。明細書補助者も確保しなければなりません。経験者等は、岐阜という田舎ではとても採用できません。最初、農学部出身の人が入ってくれました。一から教育です。基本を教え、書かせてみて、添削をして返す、を繰り返します。なかなか上達しません。「オンダ特許を潰す気か」と怒鳴りながら、同じことを何回も教えました。1人育ち2人育ち、少しずつ明細書処理件数が増加してきた開業5年目のころでした。著名な会社の知財部に勤務し、神様のような明細書の下書きを書ける人材が、筆者の事務所に就職してくれたのです。

「お前はへこたれることなく、よく頑張った。ご褒美だ」といわんばかりの天からの恵みといわねばなりません。小さな努力の積み重ねから得られた成果とはいいがたいのですが、「もう、人の採用はいやだ。あきらめよう」と1人でやり始めたならば、この成果はなかったのです。やはり小さな努力の成果といいたいところです。

このような約40年間の努力の結果、手前味噌になりますが、岐阜という片田舎において、180人の組織を作ることができました。東京、大阪、上海各支所を含めますと230人の組織になります。
京セラの理念の通り、今日一日の努力というものは、非常に小さくともその積み重ねは1年2年5年10年と積み重ねることにより、大きな成果につながることはよく理解できます。

2.意匠出願

次に当所の意匠出願に関する取り組みを紹介したいと思います。現在、年間600件から700件の意匠出願を代理しています。
この数字は大した大きさではないのですが、日本の意匠出願自体4万件足らずと全体の件数が少ないこと、さらに代理人がついている件数が非常に少ないことを考慮しますと、結構大きな数字なのです。おそらく独立している代理人の代理件数としては、国内で1、2番を争う件数だと思います。

ここまで来られたのも一つ一つの地道な努力の積み重ねでした。特許や実用新案の出願が依頼されますと、形のある発明や考案の場合には、必ず「意匠出願をやりましょう」というように勧めます。OKが取れますと、意匠は1件では範囲が分かりません。大きな範囲で権利を確保しようとするならば、類似出願(現在の関連出願)が必要です。「予算が許すならば、是非やりましょう」と勧めます。小さな実績が少しずつ蓄積されていきました。中にはポケットナイフや洋ばさみのケースでしたが、類似を含めて判断すると、特許顔負けの広い権利を獲得できたケースもあったのです。

これをネタに大企業にもアプローチしました。その説得は非常に難しいものでした。20年間も勧め続けてやっと実るということもありました。ある企業から、意匠は権利発動するとどうしても、「あそこが違うここが違うと、言い訳をされ、結局うやむやになってしまうだけだ」という話を聞いて、「類似意匠をうまく使えば広い権利が取れるのです」と説得をして、意匠権の出願戦略を任されました。デザイナーが木型で4分の1モデルを作っているころからお邪魔をし、相談に乗りました。その結果約20件の類似意匠を含む権利が確定したのです。大きな権利にしたくないという審査官の意向もあり、かなりの紆余曲折があったことも事実です。
その結果、その意匠の類似の範囲に入ってきた競合他社に、類似することを認めさせ、多額の頭金とランニングロイヤリティを獲得できたケースを経験できました。

そのほかにも機器に使う消耗品の意匠に関して、真製品のパーセントが70%程度であったものを98%まで上げるのに、意匠出願戦略が奏功したということもありました。
年間に何億本も使用する建設資材に関して、類似意匠を数件登録することによって、大きな範囲でライバル社1社を差し止めるとともに、その他の各社からの参入を抑止したというケースもありました。

この意匠出願に関するに筆者の事務所の努力も、1歩1歩の積み重ねでした。それはそれは気の遠くなるような話でした。「特許出願をするのに何で意匠をやらねばならないのか」という疑問に明快に答えるのはそう簡単ではありません。どのような類似出願を行うか、その類似意匠を考える創作者との共同作業も手間取るものです。1件1件説得し、経験し、その実績を示しながら、又説得するということの連続でした。その上に現在の出願件数があるのです。

3.明細書

筆者の事務所では、明細書が十分に書けるようになると、新人弁理士が書いた明細書のチェックに業務が変わります。自らは書かないで、チェックする側に回るのです。そうすると全体の能率は落ちます。事務所全体の作成効率が上がらないのは、優秀な担当者が新人弁理士のチェックに回ってしまうからなのです。

そして、育った人材のなかには、「知財部へ行きます」「独立します」「他の特許事務所へ行きます」と辞めるケースもあります。本当に悲しいのですが、引き止められるケースはまれです。ただただ徳のなさ、修行の足りなさを反省する外ありません。
それでも明細書作成者の養成をあきらめることはできません。筆者の事務所には、扱い件数をさらに増やすという大きな目標があるからです。
筆者は今でも、新人弁理士の書いた明細書は、得意とする機械電気に限られますが、実施形態のところを必ずチェックします。そして、訂正をし、呼んで問題点を指摘することを絶え間なくやっています。それこそ気の遠くなるような作業です。大きな目標を持っているのに、「トップが1つ1つの明細書を見ていていいのだろうか。もっとほかに重要な仕事があるのではないだろうか」という疑問を感ずることがしばしばです。しかし、そういう時はこの京セラの理念を思い起こします。偉大な成果も日々の一つ一つの努力の積み重ねからなのです。「だから、特許事務所としては結構大きな組織になったではないか」とも言い聞かせます。

4.朝礼の継続

筆者の事務所では長年にわたって朝礼が行われています。現在では毎週月曜日朝15分間所長と会長が話をします。
主として所員がどのように仕事にかかわるべきかという話が多くなります。当所では経営理念手帳が作られており、平均的にその内容に関することが多くなります。経営理念は本誌の表紙の裏ページで毎回1項目ずつ紹介しております。是非ごらん頂きたいと思います。今回は「4.お客様に対する姿勢」の「いつでも相談してもらえるようにする」を紹介しています。

1 経営に関する考え方
最高品質のサービスを提供する、お客様の利益を最優先に追求する、スピード決断しすぐ行動する……

2 仕事への取り組み姿勢
新しい分野にチャレンジする、よいと思えるものはまずやってみる、所員が力を合わせて事に当たる……

3 判断の基準
お客様の利益に貢献しているか、動機善なりや私心なきや、事実に基づいて判断しているか……

4 お客様に対する姿勢
かゆいところに手の届くサービス、スピーディーに対応する、本音で付き合える人間関係を作る……

5 商品、サービスに対するこだわり
困りごとなら何でも解決する、納期厳守、オリジナリティを付加する、常に創造的な仕事をする……

のように、各項目は20ずつ、合計100項目からなっています。
所長会長がこれらに関することを、手を変え品を変え、繰り返し繰り返し述べるのです。事実この理念手帳は所員10名がプロジェクトチームを作って作り上げたものなのですが、大方所長会長が過去に朝礼で説明したことが内容となっています。
時々のニュースや話題の中から選ばれることがあります。セクハラがニュースとなればセクハラの警告をし、世界特許が話題となれば、当所に対する影響を説明するといった具合です。今月の出来高を知らせ、目標達成を促すようなこともあります。
開業以来毎日続けてきましたが、平成に入り時間がかかりすぎるということで1週間に1回ということになりました。この効果は次のように現れています。所員の考え方を大筋で共通にできるということです。

「利益は常に公明正大なものでなければならない」ということを、例えば、1件で出願できるものを、お客様が2件でとおっしゃったからといって、2件で出願するようなことは、お客様のポケットに手をつっこんで1万円札を何枚か取り上げたと同じである。1件で出願できることを説得しなければならない。ということを常々いっていますと、所員の行動は徐々にその方向に変化していきます。
「ミスが起こったときはどんな些細なことでも、必ず所長会長に報告せよ。」ということを、例を挙げて説明していますと、所員の行動はそのように変化していきます。

このことは事務所が一致団結して、成果を上げようとするときに大変重要なのです。所員所員によって、言うことを聞いてくれたり、くれなかったりでは一丸となって突き進むことはできないからです。成果が上がらないからです。
「230名の所員が毎週15分ずつ使ったらその費用はいったい幾らになると思うのだ」と朝礼廃止を主張されたことがありました。確かに毎年大変な費用を使っていることになります。しかし、トップの意向を所員が理解し、その方向に全体が一丸となって進むための意思統一のためには、絶対に必要なことであると考えています。朝礼はまだまだ続けます。

2007年1月発行 第78号
  • 年頭ごあいさつ (所長 弁理士 恩田誠)
  • 【社内活性化の原点】経営理念について7 (会長 弁理士 恩田博宣)
  • 中国専利法の改正動向 (中国専利代理人 丁憲傑)
  • 意匠出願の活用 5つのヒント (意匠商標部)
  • 特許とIT (システム開発部 伊藤靖彦)

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