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「パテントメディア」

経営理念について5

2006年5月
会長 弁理士 恩田博宣

京セラの経営理念を1項目ずつ取り上げ、恩田流のコメントをさせて頂いております。

1)常に創造的な仕事をする

「与えられた仕事を生涯の仕事として一生懸命行うことは大切ですが、ただそれだけでよいということではありません。一生懸命取り組みながらも、常にこれでいいのか、ということを毎日考え、反省し、そして改善、改良していくことが大切です。決して昨日と同じことを漫然と繰り返してはいけません。
毎日の仕事の中で、「これでいいのか」ということを常に考え、同時に「なぜ」という疑問をもち、昨日よりは今日、今日よりは明日と、与えられた仕事に対し、改善改良を考え続けることが創造的な仕事へとつながっていきます。こうしたことの繰り返しによってすばらしい進歩が遂げられるのです。」

京セラの理念ではこのように述べられています。
この理念を見て当所のことに当てはめてみますと、従業員1人1人がこのような精神をしっかりと持ち、日々創造的に仕事に取り組んでいるかといえば、そうはいきません。しかしながら、当所が20年来継続して取り組んで来たQCサークル活動に思い当たります。いささか手前味噌になり、恐縮ですが、当所の創造的な活動について、述べさせていただきます。

QCサークル活動というのは、仕事の現状に着目して、その問題点を多数洗い出し、なぜ、そのような問題がおこっているのか、特性要因図を作り、その原因をさがします。多くある原因のなかから、主たる原因を分析して、それに対して対策を打ちます。そうして効果の確認を行います。効果が不十分であれば、2次、3次の対策を打ちます。効果が得られればその効果が持続するように歯止めを掛けます。このようにQCサークル活動というのは、創造的に仕事に取り組むというよりは、むしろ現実の仕事に即して行う一種の改善作業といったらいいと思うのですが、このサークル活動を継続してやり続けた効果は非常に大きいのです。

例えば、当所では多くのスタッフから国内管理部に対し種々の問い合わせが、殺到するのです。「識別番号は何番ですか」「このお客さんはいつ審査請求の案内出すの」「料金体系はどうなっているか」「変更出願の様式を教えて」「審査請求3年になったのはいつ」等々、朝から晩までひっきりなしに問い合わせがあるのです。国内管理部では内線電話にかかりっきりにならねばならず、自分たちの出願手続き業務等の仕事に差し支えます。
そこで、国内管理部ではこの改善に取り組みました。1日何回電話がかかり、それに要する時間は何分かかるか、質問はどのようなものか、現状把握をしました。所内イントラネットのホームページを立ち上げ、質問の多い項目を全てイントラネットで見られるようにしたのです。そして、「ホームページを見て、回答が得られないときにのみ、問い合わせ電話を下さい」というようにしたのでした。
しかも、ホームページの作成方法まで勉強して、6ヶ月の間に充実したホームページができました。何と質問は95%も減ってしまったのです。そして、年間に換算してみますと何と180万円もの節約効果があったのです。

法改正があったり、内部の手続き変更があったりすると、95%がだんだん下がっていきます。2、3年ごとにさらにQC手法で改善するようにしていましたが、最近では日常の業務の中でメンテナンスが行われています。通算するとどうでしょうか、年間200万円以上の節約効果が上がっている勘定になります。
そのまま質問が増え続けていたならば、確実に1人2人の管理スタッフが増えていたところです。
当所では何か問題が発生すると、緊急なものを除いて、多くはQCサークル活動によって解決するということが行われています。多くの問題が解決されてきましたが、課題はいくらでも見つかるのです。従って、この活動は無限といってもいいのです。
本年2月2日にもその前約半年間にわたって、31グループが活動してきたのですが、その中から10グループが選抜されて成果の発表会が行われました。

ある明細書作成補助グループでは、次のような活動をしたのです。明細書作成について新人のスタッフが6人でQCサークルを作り、いかにそのスキルを早く上げるかという課題にチャレンジしました。
彼らは現在、先輩弁理士の添削指導をOJT形式で受けていますが、「もっと早く上達するにはどうしたらよいか」をテーマとしたのです。各人がそれぞれ自分が書き、上司のチェックを受けた明細書を持ち寄ります。そして、全員で依頼者側からいただいた提案書を読み、担当者が技術に関して、補足説明をします。

次にどのようなクレームが適当か、明細書のストーリはどうあるべきか、議論します。クレーム案を作ります。ストーリを作ります。それから、チェック前の明細書を見ます。どうあるべきかを議論します。次に、チェック後の明細書をみて、どこがどのように添削されたかを見ます。なぜそのように訂正されたのか、理由や背景を検討します。分からないときはチェック者に聞きます。そして、後輩の勉強のために、その検討事項のまとめを作成します。明細書作成に必要な注意事項が具体例とともに説明されたマニュアルが作成されるのです。
このような検討が半年間に8件の明細書について行われました。
メンバーの経験が共有化されることにより、明細書作成スキルのスピードアップに役立ったことが容易に想像されます。又、余分に8件の明細書を経験したわけですから、技術の習得にも役だったことだと思われます。

このような活動が20年以上続けられたのですが、その成果は絶大です。数名のグループが30以上結成され、1ラウンド約6ヶ月にわたって、活動するのです。活動時間は週1時間です。就業時間内に行われます。成果をほとんど上げられないグループも存在します。半年間の活動に時間で換算しますと約1500万円がかかっています。従って、活動中にはそれ以上の成果を上げないといけないのですが、実際にはもっと低くてもいいのです。なぜならば、多くのQC活動は最後に歯止めが行われます。その歯止めが確実に効けば、その効果は永久に聞くことになるからです。

先の国内管理部の活動を思い起こしていただけば、分かるのですが、今年も180万円節約できたならば、来年も再来年も180万円ずつ稼ぎ続けることができるからです。
次の明細書の力量アップの活動では、効果をお金に換算できない活動でした。しかし、活動によって明細書のスキルアップが早ければ早いほど、戦力に加わるときが早くなるのですから、利益のあることは歴然です。歯止めは後輩に残すマニュアルですが、後輩のスキルアップに貢献するという効果が期待できるのです。

その外に当所には提案制度があります。なかなか提案が出てこないものですから、事務部門を中心に最低月に1件は提案するように義務付けています。何件提案され、何件採用、何件却下、何件保留というように毎月報告されます。
当所では個人的にパソコンの使用方法をいろいろ考えたり、明細書の書き方を工夫したり、事務処理の効率的な流れを考えたりしている者は、もちろんいるのですが、組織として創造的に仕事をするという面は、QC活動と提案制度が主だといっていいでしょう。

さらに、当所のもう1つの創造的な面について、述べたいと思います。QCあるいは提案活動の中では、システム開発すなわちソフトに対する要望が非常に多いのです。当所ではシステムエンジニア(SE)が7人在籍し、ソフト開発や改善に従事しています。目立つのは出願人の住所氏名等書誌的事項を何回も登録しなければならなかったものを、1回で種々のソフト全てに共通に登録できるようにする改善が国内でも国際部でも何回かありました。

システム開発への要望は非常に数が多く、SEが7名いても全部の要望にはとても対応できない状況です。そこにも当所の創造的な活動の一端が現れているのではないかと思います。
そうした活動の中でシステム開発部からは非常にユニークなソフトが開発されました。パテントチェッカーと称していますが、出来上がった明細書をチェックするソフトなのです。出願人や発明者の表示は正しいか、部品番号が正しいか、図面中に全ての番号が表示されているか、「前記○○」との記載があるときその前に○○があるか、請求項の引用に矛盾はないか等々、願書、明細書、要約、図面について、約250項目のチェックを行うものなのです。おかげで当所の明細書は「間違いが少なく品質がいい」との評価をいただいております。これなども創造的に仕事をするという精神の発露だと思われます。

2)一対一の対応の原則を貫く

「物事を処理するにあたっては、丼勘定で捉えるのではなく、一つ一つ明確に対応させて処理することが大切です。
たとえば、伝票なしで現金やものを動かしたり、現金やものの動きを確認せずに伝票のみで処理したりするようなことがあってはなりません。売掛金の入金チェックにしても、どの売り上げ分をどの入金分で受け取ったのかを個々に対応させながら一対一で消し込むことが必要です。また、生産活動や営業活動においても、[総生産]や[総収益]といった、いわゆる収益とそれを生み出すために要した経費を正確に対応させ、厳密な採算を行うことが必要です。」

京セラの経営理念ではこのように述べられています。
海外の特許事務所から請求書が来たのですが、それが何の請求かさっぱり分からないというケースがありました。事件番号も書いてなければ、何日の事件かということも分からないのです。問い合わせてもチンプンカンプンなのです。つまり、どの事件の請求であるか分からないのですから、一対一の対応が取れていないということになります。支払おうにも支払いができないのです。この事務所とは即刻取引を停止しました。

このことから推測できるのは、その事務所は非常にずさんな仕事をやっているだろうということです。事務所の善し悪しを判断する一番よい方法は、現地へ行ってその事務所の様子を見せてもらうことです。話をして経営姿勢を聞くことです。次に判断のもととなるのは、事務管理がうまく行っているかどうかということです。出願依頼をすれば直ちに「受け取りました。管理ナンバーを○○○○番にしました。何月何日頃に出願の予定です」という返事が来る。請求に間違いがない。支払いがいい。等です。管理が悪いところにいい仕事ができるということはありません。すなわち、一対一の対応ができない事務所はダメだということになりましょう。

又、請求書がなかなか届かないというケースがありました。半年分くらい溜めてからドカーンと来るのです。海外からの請求がありますと、立替払いでまず海外への送金をします。それで請求金額が確定しますので、日本のお客様にはじめて請求できるということになります。このケースでは、仕事をしても半年以上入金がないわけですから、日本の特許事務所としては、資金繰りが大変になるわけです。
ところが何回お願いしても、事務改善の兆しがないのです。日本のお客様からもプッシュしてもらいました。ついには現地に飛んで談判し、やっと改善されるといった具合でした。

これらのケースは日々の仕事の一対一の対応が取れていないケースといえるでしょう。その日の仕事が完結すれば、その日の内にその事件に関する全ての処理を完了しなければなりません。できないときでも、できる限り早く処理しなければなりません。しかし、このケースでは請求処理のみが、とんでもない時間後回しになってしまっていたのです。その事務所でも収益の回収が遅れて経営上は大変なことは明らかです。
中小企業の中には、支払いがかなりの金額になるまで貯まると、とりあえず50万円振り込みますといって、内金のような感じで支払ってこられるところがあるのです。その企業でもどの請求書の分を支払ったか分からないし、こちらでも日付順に落としていっても、それでよいのかどうか分かりませんし、最後には端数が出てしまうのですから、会計処理上は非常に困るわけです。
どの企業でも、どの事務所であっても、事務処理の仕方、支払いの仕方を見ていれば、その企業の善し悪しはまず分かるものだといっていいでしょう。
これは各事件と支払いとの一対一の対応が取れていなかったケースといえます。

特許出願の原稿を書いてお客様の所へ送ります。チェックされた原稿が返ってきます。そして出願の運びになるのですが、原稿の送付が月末近くだと、その出願は翌月になりますので、費用は今月発生、しかし、売り上げは来月発生ということになります。一対一で対応していないことになります。毎月行われる経営会議において、各部門長はその月の業績を発表するのですが、この矛盾に悩んでいます。正確にやろうとすると、原稿送付の時点で売り上げを上げる等面倒なことをせねばなりません。当所では数ヶ月平均して業績を評価するようにしています。
次に月次決算をして、「全体として8%の経常利益が出て儲かっているから、まあいいか」と安堵してしまうことが非常に多いのです。すなわち、全体としてまずまずの利益が出ていると、全体がうまく行っているかのように錯覚するのです。改善の余地がないことになります。

しかし、当所ではアメーバ経営(注1)によって、部門毎の採算をきちんと出すようにしました。そうすると、部門によっては慢性的な赤字体質だったりするのです。同じ国内部門又は国際部門であったとしても、高収益を上げる部門と、そうでない部門があることが分かりました。又、それがどの部門であるかもハッキリします。そうしますと対策が的確に打てるようにもなります。
改めて分かったことは、QC活動、ISO、あらゆる事務処理のコンピュータ化等かなりの経営努力をしてきたにもかかわらず、国内明細書部門はごく僅かな利益しかあがっていないという事実でした。

余談になりますが、これはここ十数年度重なる企業からの値引き要請に応えてきたことによるものであることは、明らかです。まだこの傾向は続いていますので、トップの舵取りはますます厳しくなって行くことが予想されます。
一対一の対応をすることにより、見えないものが見えて来るようになるのです。一対一の対応を取るということは、経営上きわめて重要な指針であるといえます。

注1:アメーバ経営というのは、京セラにおいて開発された経営手法であって、経営の主体を細分化し、各単位をアメーバと称し、そのアメーバ毎の採算を正確に計算し、経営の指針としようとするやり方です。各部門の総売上、人件費を除く経費、総売上から経費を差し引いた収益、総売上を出すために使った総時間、収益を総時間で割った時間当りの付加価値について、月初に予定が、月末に結果が算出され、経営会議において各部門長が、その部門の達成率を重要項目とともに発表するのです。経費は細かく各部門へ割付けられます。他部門のために仕事をしたときは時間移動が行われます。どの部門が目標を達成したか、どの部門の成績が悪いか明確になります。目標達成意識も向上します。(パテントメディア第75号社内活性化の原点「ガラス張り経営をする」参照

2006年5月発行 第76号

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