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6. パテントマップの活用場面

前回は、特許調査により抽出された特許情報に基づいて「技術系統図型パテントマップ」を作成する方法を解説しました。

今回は、企業活動や研究開発活動の中の様々な場面で活用されるパテントマップについて、その活用場面にスポットを当てて、いくつかの事例をご紹介します。

(1)特許の位置付けを確認する

ある特定の特許が関連周辺特許の中で、どのような位置づけにあるのかを把握するために、技術系統図型パテントマップを作成しました。お目当ての特許の位置が分かることから、「パテントポジショニングマップ」と呼んでもいいかもしれません。

図27は、アスベスト処理技術に関する技術系統図型パテントマップです。
建物の鉄骨に吹き付けられている飛散性のアスベストを、飛散防止をしたうえで回収し、無害化、再資源化までを行なう技術に関連する特許を抽出し、パテントマップを作成しました。

図
図27 ベンチャー企業S社の特許のパテントポジショニングマップ

このパテントマップを作成するに至った背景をお話しますと、ベンチャー企業であるS社様から相談を受けたことがきっかけでした。ベンチャー企業S社様は、アスベストの飛散防止から再資源化までの一連の処理を低コスト、省エネで実現できる技術を開発し、それを1件の特許として出願されていました。このきらりと光るダイヤモンドの原石のような特許を使って、飛散性アスベスト処理ビジネスのビジネスプランを作成し、大手企業に新規事業として売り込みたいと考えられたのです。

新規のアスベスト処理ビジネスを提案するにあたり、市場調査についてはマーケティングに強いシンクタンクが担当し、技術や特許に関する分析とプランニングを弊社が担当することになりました。そこで、ベンチャー企業S社様の特許を含む、飛散性アスベスト処理技術に関連する特許についての技術系統図型パテントマップを作成したのです。

図27の右上にある「焼成」を行なう特許がベンチャー企業S社様の特許です。
このパテントマップを読み解くと、次の4つの特徴が浮かび上がりました。

  1. アスベストを封じ込めて回収するだけで完結している特許は、「樹脂系材料」で固めるものを筆頭に、「シリカ系材料」や「セメント、石灰」で固めるものなど、多く存在している。
  2. 封じ込めて回収したアスベストを再資源化する一連の処理に関する特許は、現時点では極めて少ない。
  3. 出願人名を見ると、大手企業の名前が少なく、今後の技術開発競争において優位な立場を築ける可能性が高い。
  4. 「焼成」という再資源化の処理は、「溶融処理」に比べて、低コスト、省エネで実施できる技術である。

そこで、ベンチャー企業S社様の特許の特徴である「低コスト、省エネで再資源化を行なう飛散性アスベストの封じ込め再資源化技術」をコンセプトとしてビジネスプランを検討することにしました。

このように、ある特許のポジションと、その特許が持つポテンシャルとベクトルを確認する場面でパテントマップが活用されています。

さらに、このテーマでは、図27のパテントマップをアイデア創出活動の場面でも活用しました。「低コスト、省エネで再資源化を行なう飛散性アスベストの封じ込め再資源化技術」に関する特許網(ポートフォリオ)構築の場面でも活用したのです。

(2)特許アイデアを深掘りする会議で活用する

一般的に企業内においては、発明者が創造した発明は発明届出書として提出されます。それを受け取った知的財産部では、先行技術調査を行ない、その後、特許事務所に特許出願を依頼されます。
通常は一人の主発明者から、一人の知財担当者を経由して特許事務所に特許出願が依頼されることが多いのですが、届出された発明が大変に優れている場合や、戦略的に特許による防御を厚くしたい場合には、複数の関係者が集まって、届出された特許アイデアを深掘りするための会議が開催されることがあります。

当然、会議に参加するメンバーは、深掘り対象の特許アイデアを理解するとともに、その周辺に存在する特許についても把握する必要があります。発明届出書を熟読するとともに、日々の業務の合間に関連する特許公報を何十件も読み込まなければならず、会議に参加するメンバーには相応の負荷がかかります。

このような、アイデア深掘り会議に臨む前の準備時間と負荷を軽減するために、関連特許の全体像と個々の特許の概要を俯瞰(ふかん)できるパテントマップを作成すればよいのです。そうすれば、会議の冒頭の30分〜1時間、パテントマップの説明を行なうだけで、参加メンバー全員が一定の知識と理解を共有すること可能になります。

もちろん、作成したパテントマップは会議の数日前に配布しても構いませんし、パテントマップ説明会の数日後にアイデア深掘り会議を開催すれば、一人ひとりがアイデア創出の事前準備をする時間を取ることができます。

図28は動力伝達解除機構に関する技術系統図型パテントマップです。

図
図28 動力伝達解除機構の技術系統図型パテントマップ

発明を強力な特許にするためには、既に存在する先行技術や周辺技術との差異を明確にして、その差異による優位性を強調していく必要があります。
そういったことから、深掘り対象の特許アイデアに対する先行技術と周辺技術とが一目で理解できるパテントマップを作成し、会議に参加するメンバーで共有化することは効果的であるといえます。

メンバー全員で、深掘り対象の特許アイデアに対して、多くの改良アイデア、代替アイデア、周辺アイデアを付加し検討していくことにより、発明をより上位の概念で捉えられることができ、広い権利範囲で、逃げ道となる隙間がない特許に発展させることができます。

(3)事業を展開する際の障害を把握する

新たな事業を展開する際には、その事業に関連する特許調査を行ない、障害となる特許の有無を洗い出します。この種の特許調査は、「パテントクリアランス調査」や「侵害特許調査」、「権利調査」と呼ばれています。

パテントクリアランス調査により抽出された特許を、技術系統図型パテントマップとしてまとめれば、どこに、どんな障害特許が存在しているのかを把握することができます。つまり、ライバル企業が戦いのために配置した地雷を確認しながら、自分たちの事業をリスク無く安全に展開することができます。このパテントマップは、いわば「地雷の在り処を示す地図」と言えます。まさに、パテントマップが「マップ=地図」と呼ばれる理由がそこにあります。

図29は、オンラインレンタルビデオショップの技術系統図型パテントマップです。

図
図29 オンラインレンタルビデオショップの技術系統図型パテントマップ

一般家庭にまで大容量で高速通信が可能な通信インフラが整備されていくのに伴い、ネットワークを介して行なわれるレンタルサービスも提供され始めました。
オンラインレンタルビデオショップに関するパテントクリアランス調査を実施したところ、8件の障害となりそうな特許が抽出されました。

同時に、オンラインレンタルビデオショップの技術系統図も作成しました。
「オンラインレンタルビデオショップ」を実現するために必要な手段は「会員」「映像作品」「配信」「期限」の4つです。
「会員」については、どのように会員登録し、会費の支払いをどうするのかが問題となります。「映像作品」については、ビデオやDVDの作品をどのように仕入れて、仕入れた作品を在庫としてどのように管理するのかが問題となります。「配信」については、データ形式と通信回線が問題となります。さらに、レンタル事業であることから「期限」を管理する必要があり、期限が来たら閲覧不能にするとか、複製をできなくする技術が必要になります。
これらの系統項目を具体化するための手段を代替手段とともに列挙しながら、技術系統図を作成します。さらに、作成した技術系統図に障害となりそうな特許を貼り付ければ、オンラインレンタルビデオショップの技術系統図型パテントマップは完成します。

このパテントマップを見れば、どこに障害となりそうな特許が存在しているのかが一目瞭然です。自分たちのビジネスを具現化していくときに、他人の特許権を侵害することがない手段を選択することができます。

この事例では便宜上、オンラインレンタルビデオショップに関連する特許のみを抽出していますが、単なる通信技術そのものや、閲覧不能化技術そのものについては、単独に別個な特許が存在していますので、当然、個々の要素技術についても詳細な特許調査を行なう必要があります。

特許情報は、毎週新たな公開特許公報が発行されていますので、関連する特許を新たに見つけたら、パテントマップに追加記載します。また、審査請求された特許については審査経過も日々変化していきます。このまま権利化されると問題になるだろうと予想されて抽出された公開特許公報の場合には、その後、登録されて特許権として存続しているのか、または、審査の結果、拒絶が確定したのか、年金の未納により権利が消滅していないかといった審査経過の段階の違いを識別できるように工夫すれば、本当に障害となる特許がどこにあるのかを見極めることができます。

(4)開発テーマや製品コンセプトを模索する

研究開発部門においては、日々、研究開発テーマを模索していると思います。また、事業部においては既存製品の来るべきモデルチェンジに向けて、次世代機のコンセプトの模索が行なわれていると思います。

近い将来に取り組むべき課題を検討することが、研究開発テーマや新製品コンセプトの採択に直結していると思います。

図
図30 技術課題の時系列流れ図

図30は、縦軸に技術課題の分類、横軸に出願年度を配置した、技術課題の時系列流れ図です。どこの会社が、どのような技術課題に、いつ頃取り組んでいたのかを把握することができます。

過去からの開発テーマへの取り組みの変遷を把握しながら、特に、近年見られる顕著な動向を参考にして、これから自分たちが取り組むべき、「研究開発テーマ」「新製品コンセプト」の検討を行ないます。
セルの色を会社別に色分けしておけば、企業毎の技術開発動向の違いを把握できます。また、公報pdfデータへのハイパーリンクを埋め込んでおけば、公報全文データの参酌も可能です。

新たに発行される公開特許公報を継続的に入手しチェックする活動をSDI(Selective Dissemination of Information:指定範囲の情報の継続的な提供)といいます。通常は、事業部において既存製品についてのSDI活動が行なわれ、ライバル企業の特許出願動向や、特許技術のトレンドの把握に努められていることと思います。弊社でも、お客様が指定された条件に基づき、新たに発行された公報を定期的にウォッチングするサービスを提供しています。
SDI活動を続けることは、先にも述べたように競合他社の研究開発動向や関連業界の最新の技術動向を知る上で大変有効です。そうであるならば、あえて時系列の流れ図を作る必要性はないのではと思われるかもしれません。

実は以前、ある自動車部品メーカー様からの依頼で技術課題の時系列流れ図を作成した際に、次のような発見がありました。

「熱伝導性の向上」という課題について時系列流れ図を作成したところ、開発企業として注目していた自動車部品メーカーではなく、自動車メーカー自身が近年になり出願を集中させていたのです。この動向をご覧になった自動車部品メーカーの技術者の方は、「改めてパテントマップを作成して眺めなければ、気づかない挙動だった。」とおっしゃり、早速新たな取り組みテーマとして「熱伝導性を向上させる素材の開発」を採用されていました。
このように、時系列流れ図を作成して分析してみると、新たな知見が得られるケースもあります。

(5)他社特許管理の様々な場面でパテントマップを活用する

自社特許については、実際に自分たちが特許出願を行なってきた軌跡であり、おおよその状況については把握できていると思います。しかし、他社特許については、積極的に特許調査を行ない、関連特許を収集して来ない限り、他社の状況について把握することはできません。
他社特許対策を実施していく様々な場面において、パテントマップを有効活用することが望まれます。

特許情報は「技術情報としての側面」と「権利情報としての側面」の両方を合わせ持つと言われています。

図31では、他社特許監視を行なう上で、「技術情報としての側面」と「権利情報としての側面」とに分けてパテントマップの活用場面について整理してみました。

図
図31 他社特許活用のための活動

まずは、技術情報として活用される際には、技術動向の分析と把握を行ない、その分析結果に応じて、事業戦略と特許戦略の見直しが行なわれます。さらに、策定した戦略に基づき、自社特許網の構築が行なわれます。
技術動向を分析し、戦略の見直しが行なわれる場面では、前述の「技術課題の時系列流れ図(図30)」や「パテントポジショニングマップ(図27)」のようなパテントマップが効果的に活用できます。
特許網の構築が行なわれる場面では、「動力伝達解除機構の技術系統図型パテントマップ(図28)」の事例で紹介したように、技術系統図型パテントマップが効果的に活用できます。

次に、権利情報として活用される際には、問題特許の抽出が行なわれ、その後、問題特許への対策案が立案されるとともに、立案された対策が実施されます。
問題特許の把握と対策の検討を行なう場面では、前述の「オンラインレンタルビデオショップの技術系統図型パテントマップ(図29)」のようなパテントマップが効果的に活用できます。

今回は、「パテントマップの活用場面」について解説しました。研究開発活動の中の様々な場面で、パテントマップが効果的に活用できることをご理解いただけたと思います。

次回は、6回シリーズの最終回となりますが、技術系統図型パテントマップを活用したアイデア創出事例についてご紹介します。


 

 

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