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4. 技術系統図型パテントマップ

前回までは、いろいろな種類のパテントマップを一つずつ取り上げながら、それぞれのパテントマップから何が読み取れるのかを解説してきました。
今回は、「技術系統図型パテントマップ」をご紹介します。

(1)技術系統図型パテントマップの概要

技術系統図型パテントマップの概要をお話しする前に、これまでにご紹介した代表的なパテントマップである「流れ図」「マトリックス」「ツリー」「グラフ」の特徴を振り返るとともに、今回ご紹介する「系統図」も加えて比較評価をしてみました。評価した項目は、「作成の容易性」「拡張性」「動向の予測」「発明創出の容易性」「活用の容易性」の5項目で評点付けを行ないました。

表1 各種パテントマップの比較評価

マップの種類
特徴
実効性評価
作成の容易性
拡張性
動向の予測
発明創出の容易性
活用の容易性
合計
流れ図
技術の時間的推移、即ち技術動向が把握でき、将来の技術予測が可能
2
1
10
6
4
23
マトリックス
縦・横の組合せで技術を異なった角度から見ることができ、技術の穴場、開発の落ちを発見できる
3
3
6
9
4
25
ツリー
特許技術を技術分類し、情報を体系化したもの。出来上がった樹の成長度合いから技術的穴場、技術の集中部分を把握し、技術予測を行う
2
1
4
12
6
25
グラフ
技術の変遷の量的把握(企業動向、技術動向、業界動向)
5
1
8
3
6
23
系統図
目的を達成するために必要な手段を樹木図状に展開する。目的に対する手段の細分化が可能。全体の一覧性がある
2
3
10
14
6
35

 

各パテントマップに一長一短、得意分野があることが見受けられます。では、今回ご紹介する系統図型パテントマップは、どうでしょうか。動向の予測と発明創出の容易性のいずれもが高得点であることが伺えます。
また、系統図型パテントマップは、樹木図状に目的を実現するために必要な手段を掘り下げ、展開していくという手法から、手段を細分化することが可能です。私たちが実現したい目的に対する手段が階層ごとに並ぶため、それらの位置を体系的に確認しつつ、全体を一覧することも可能です。そのため、実効性が高いパテントマップであると考えられます。

特に、強い特許を生み出していくにあたり、自社特許のポジションを確認する場面や、特許網の状況を把握する場面で活用することが可能です。さらに、アイデアを創出する場面でアイデア創出のきっかけとなるトリガー情報としても活用することが可能なパテントマップです。
この技術系統図型パテントマップは、技術開発活動の様々な場面で活用が可能であり、使い勝手が良いパテントマップであると私たちは考えています。

 

技術系統図型パテントマップを具体的に紹介いたしましょう。

図15をご覧ください。技術系統図の概要を示しました。

図
図15 技術系統図型パテントマップ

「機能」を実現するために何が必要なのかを書き出していくことが、このパテントマップの特徴です。図15を見ると、機能を実現するために半月記号を介して手段(手段A、B)がぶら下がっています。さらに、三日月記号を介してそれらの手段を具体化した手段(手段A1、A2、B1、B2)がぶら下がっています。これらの記号は、いったいどんな意味を持っているのでしょうか。
前述の半月記号は「ANDゲート」と呼ばれています。下位にあるものは、上位にあるものを実現するために必要不可欠な構成であることを表しています。図15では、機能を実現するために、手段A、Bは必要構成要件であることが把握できます。
後述の三日月記号は「ORゲート」と呼ばれています。これは、上位にあるものを実現するために取り得る手段を示しています。つまり、代替手段が列記されているとお考えください。図15では、手段A、Bを実現するために、さらに具体化された複数の手段(手段A1、A2、B1、B2)が並んでいることがお分かりいただけます。

お読みいただいている方の中には、「これは、技術系統図型パテントマップではなく、FTAなのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。ここでいうFTAとは、時事ニュースで耳にする「自由貿易協定」のことではありません。Fault Tree Analysisの略で、「フォルトツリー解析」「故障の木解析」とも呼ばれおり、故障や事故の分析手法のことを指しています。故障を起こさないための製品設計を目的とした分析手法をパテントマップに応用したものが技術系統図型パテントマップなのです。

図
図16 燃料漏れ故障のFTA例

では、FTAの事例を見てみましょう。図16は、自動車の燃料供給経路において「燃料漏れ」という故障を起こさない設計を構築するために行なったFTAの例です。

まず、燃料漏れを起こす可能性がある燃料供給経路を考え、書き出します。図16では、ANDゲートを介して「燃料タンク」「燃料ポンプ」「燃料配管」「燃料噴射弁」が必要不可欠なものとして位置づけられています。次に、それらの部位を形成する構成部品がORゲートを介してぶら下がり、さらにそれらの構成部品において発生し得る燃料漏れの故障原因を漏れなく想定して列記します。図16では、燃料ポンプの吐出部における不良箇所を深堀し、「ホース締め付け不足」「ホース接合部不足」「本体接続部不良」を燃料漏れが起こりうる事象として挙げています。このように故障箇所、故障原因を細分化していくことで、それらを生じさせない具体的な対策を講じた製品設計を行えるのです。

このように、あらゆる故障事象を想定して、故障しない製品を設計するための手法がFTAです。このFTAを特許に置き換え、ある製品の全体から各部に至るまで、あらゆる部分の特許を体系的に、かつ一目で確認できるようにしたものが「技術系統図型のパテントマップ」です。

図
図17 燃料供給機能の技術系統図型パテントマップ

 

図17は、自動車の燃料供給機能について作成した技術系統図型パテントマップです。先のFTAと形は似ていますが、並んでいる項目が異なることがお分かりいただけると思います。

「エンジンへの燃料供給」という機能に対して、ANDゲートを介し「燃料タンク」「燃料ポンプ」「燃料配管」「燃料噴射弁」が位置づけられています。もうお分かりいただけると思いますが、これらはエンジンへの燃料供給という機能において必要不可欠な手段を示しています。そして、それらの手段は、ORゲートを介して代替手段を有していることが分かります。

燃料ポンプを見ると、「羽根車式ポンプ」という手段もあれば、液体の送給方式が異なる「ピストン式ポンプ」という手段もあり得ることが分かります。
さらに、そのピストン式ポンプを見てみましょう。「シリンダ表面処理」方法に工夫を施してピストンの摩擦抵抗を減らし長寿命化することも考えられますし、「ストローク数」や「ピストン容積」を変更調整も考えられます。

この手法を使って自社の特許を分析すれば、保有する複数の特許を体系的に捉えることが可能です。貴社の技術開発の成果を保護するためには、ANDゲートをたどり、その全てのルートについて特許を取得する必要があるため、作成した技術系統図型パテントマップを見れば、自社の特許網が堅牢な状態なのか、脆弱な状態なのかを確認することもできます。
自社のみならず競合他社の発明も同様に並べれば、階層ごとに自社と他社の勢力分布を把握することができますし、今後の開発、知財戦略の指針となることでしょう。
また、多大なエネルギーを費やして「無からアイデアを創出する」のではなく、細分化された構成要素を参酌にしながら、技術の進捗発展を先取りするような代替手段や改良発明を検討することも可能です。

本来理想とする技術系統図型パテントマップの作成方法は、まず先に技術系統項目を洗いざらい抽出し系統図を作成します。その次に、各項目に対応する既存特許を貼り付けていきます。この作成方法ですと、技術系統項目の抽出作業が必要なため、テーマに関する技術知識がなければ作ることはできません。では、新製品や新規事業など、技術知識を持ちあわせないテーマの場合には、どうしたらいいのでしょうか。

その場合には、特許調査により抽出された特許を技術ごとに層別することで系統項目を作成する方法があります。前述の技術系統項目を先に抽出してから既存特許を貼り付けていく場合には、特許が貼り付かない技術系統項目が明らかになることがあります。つまり、その技術系統分野に特許の手当てがなされていない空白の分野を発見することが稀にあります。しかし、後述の特許調査結果を基にして系統項目を作成する場合には、特許が存在しない分野の項目は、当然のことながら見つけ出すことはできません。
そのため、特許情報を基にして技術系統図型パテントマップを作成した場合には、作成された系統項目の代替項目、具体化項目を後追いで抽出する必要があります。

(2)背もたれ付き椅子の技術系統図の事例

具体的な事例として、「背もたれ付き椅子」についての技術系統図パテントマップの例と、そのパテントマップを活用したアイデア創出の手法について紹介します。

図
図18 背もたれ付き椅子のアイデア創出事例

図18は、背もたれ付き椅子の技術系統図の一部分です。

「背を支持させて楽に座る」という機能を実現するための必要構成要件は「脚部」と「座部」と「背の支持部」です。
「背の支持部」の具体的な構造としては、「背のみを支持するもの」のほかに、「背と頭を支持するもの」や「背と腕を支持するもの」が考えられます。さらに、背の支持により楽に座るための構成としては「背もたれの角度を最適にする」ことが考えられ、具体的には「荷重に対応して動く調整機構」が考えられます。

技術系統図パテントマップを用いたアイデア創出は、系統項目の更なる「代替手段」「具体化手段」を検討したり、系統項目の組み合わせや、系統項目を横展開することによって行います。
例えば、図18では、「背の支持部が荷重に対応して動く」というアイデアについて、「背の支持部」から「腕置き部」へ横展開が行なわれています。背の支持部のアイデアを参考にして、「腕置き部を荷重に対応して変位させる」というアイデアが創出された例です。

無から有を生み出す作業は、創造力を最大限発揮して初めて達成されるものであり、大変困難であることは読者の皆様も体験されていると思います。
特許アイデア創出においても、真っ白な状態から新たなアイデアを創出することは大変困難な作業となります。
そこで、技術系統図パテントマップをトリガーとして活発なアイデア創出活動を行なうのです。

(3)電子化による共有化

技術系統図型パテントマップはそのテーマに関する特許の全体像を俯瞰(ふかん)するのに効果的なパテントマップではありますが、一枚の紙面の中に掲載できる特許の件数は限度があります。記載内容にもよりますが、A3サイズの紙に掲載できる特許概要の件数は20〜30件程度に限定されてしまいます。

テーマに関連する特許が新たに発行されれば、パテントマップに追記する必要があります。しかし、A3用紙いっぱいに記載された技術系統図型パテントマップには、新たに特許を追記するスペースはありません。

こういった、拡張追記するときの問題点を解決するための一つの方法として「Web閲覧タイプの技術系統図型パテントマップ」を提案しています。

図
図19 Web閲覧タイプの技術系統図型パテントマップ

図19は、前項で紹介した「背もたれ付き椅子」についてのWeb閲覧タイプの技術系統図型パテントマップです。ブラウザで閲覧が可能なように、HTML文書にてパテントマップを作成しています。

Web閲覧タイプの技術系統図型パテントマップはHTML文書のフレーム機能を使って、左右の2つのフレームに区画しています。
左側のフレームには、技術系統図の系統項目名のみをフォルダ階層形式で表示するようにしており、項目名の下には、既知特許番号や創出アイデア番号を表示するようにしています。フォルダのアイコンをクリックすることによって、下位の項目名称の表示/非表示を選択できるようにしています。
そして、右側のフレームには選択された既知特許や創出アイデアの概要が表示されるようにしています。出願人、番号、発明のポイント、代表図、審査経過などの情報が表示されるよう作り込むことができます。

このように、作成したパテントマップをHTML文書で電子化することにより、特殊なソフトウエアをインストールすることもなく、ネットワークを介してパテントマップを共有化することが可能になります。

 

今回は、「技術系統図型パテントマップ」についての内容や事例について紹介しました。

表1において、技術系統図型パテントマップの「作成の容易性」の評価点が低くなっていますが、いくつか事例をご覧いただき、技術系統図型パテントマップの作成には手間がかかりそうであることがお分かりいただけたと思います。
次回は、この「技術系統図型パテントマップ」の作り方について解説します。


 

 

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