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「青森」商標登録出願事件に見る中国における商標登録戦略

2003年7月
 夏宇(シャ・ウ)

最近、中国の企業により出願され公告された「青森」という商標登録出願に対し、日本の青森県及びその関連団体がその商標登録出願の拒絶を求めて中国商標局に異議の申立てを行ったことが話題を集めています。そして、弊社にもこの事件に関するご質問が多く寄せられています。そこで、今回は、弊社に寄せられた3つの代表的な質問に回答すると共に、日本の地名を表示する文字が第三者によって商標として中国国内で使用・登録された場合の対抗措置や予防措置について解説します。


1.そもそもなぜ日本の地名である「青森」が中国の企業により商標として登録出願されたのか

近年、青森県から中国本土へ、ホタテやイカなどの水産物を中心に輸出されており、その輸出額は2001年の時点で約38億円に達しています。青森県の名物であるリンゴは中国本土にはまだ輸出されていませんが、香港、台湾には年間6000トン近く輸出されています。中国本土は経済成長とともに青森産の高級リンゴへの需要が生まれ、近い将来有力市場になることが関係者に見込まれています。
今回の出願の背景には、このような「青森」という地名が持つ潜在的なブランドパワーがあったのではないかと想像されます。

2.なぜ外国の地名を表示する文字を商標として第三者が中国で登録できるのか

中国の商標法第10条には「公衆に知られた外国地名」は商標登録をすることができないと規定されています。逆に言えば、中国の公衆に知られていない外国地名ならば、商標として登録することができます。従って、今回の「青森」という日本の県名についての商標登録出願が中国商標局における審査において登録を許可されたのは、担当審査官が「青森」が日本の地名であることを知らなかったからか、又は、それを知っていたとしても「青森」が中国の消費者(公衆)に知られた外国地名ではないと判断したからであると考えられます。
「青森」の名を冠したリンゴが香港、台湾へ輸出されており、香港、台湾の消費者(公衆)に広く知られているとしても、それは中国の消費者(公衆)によく知られていることにはなりません。なぜなら、中国商標法は香港及び台湾にはその効力が及ばないからです。

3. 日本の地名を表示する文字を第三者に商標として中国で使用・登録された場合の対抗措置について

今回の「青森」という出願商標が登録されれば、今後「青森」などと記した商品の中国本土での販売は商標権侵害とされるおそれがあるばかりでなく、中国産リンゴが「青森リンゴ」として出回る可能性もあります。
まず考えられる対抗措置としては、その商標登録の取消を請求することです。この場合、その日本の地名が有名であり、中国の公衆に知られていることを証明する資料を提出し、又はその地名が有名であることを知りながら第三者が不正手段にて商標登録出願したことを示す証拠を提出する必要があります。ここでいう「公衆」には中国における一般消費者(特定分野の商品や産物を輸入販売する業者等を含む)を指します。例えば、今回の場合、「青森」の商標登録出願時にすでに「青森」が中国の公衆に知られていたことを証明しなければなりません。しかし、どのような人が一般消費者に該当するか、また、どのような範囲内の一般消費者に知られたら有名だと判断されるか、つまり中国全土での周知性が要求されるのか、一部地域でよいのかなどに関する判断基準には不明確なところが残されているようです。

一方、商標として誰にも出願登録されていない日本の地名が第三者に使用された場合、その日本地名の使用が登録商標の詐称(未登録であるにもかかわらず登録商標であると虚偽の表示をする場合など)に該当しない限り、商標法に基づく法的措置は採れません。しかし、この場合は「反不正当競争法」(日本の不正当競争防止法に相当する法律)の第5条(原産地表示を偽造して公衆を誤解させる品質の虚偽表示をすること)に基づいて使用の差止め請求等の法的措置を採ることができます。

4.中国商標登録における日本出願人が採るべき予防措置について

新聞報道によれば、今回の「青森」事件に対処するために、青森県や青森市、生産者団体は「県中国商標問題対策協議会」を設立しました。また、「青森」が中国でも有名な地名であることを立証するために、青森県は「青森ねぶた祭」、「2003年の青森冬季アジア大会」、「三沢基地(三沢市)」などを取り上げた中国人民日報の記事や青森リンゴを紹介した中国の雑誌などの資料をかき集めたそうです。2003年7月25日には、青森県や青森市、農林水産関係二十数団体は、「青森」が世界有数のリンゴ産地として知られる著名な地理表示であり、公衆に知られた外国の地名は商標登録することができないとして、商標出願公告に対する異議申立をしたとのことです。
しかし、世界有数のリンゴ産地としての「青森」が第三者に先に商標登録出願されたことは大変残念なことです。これについて「それ以前に青森側関係者が輸出等しているにもかかわらず、なぜ商標のフォローをしてなかったか」、また「なぜこのような重要なことを行政が分かっていなかったのか」と関係者が話していることも報道されています。
日本企業の中国への進出、そして、日本の生産物の中国への輸出が加速している中、中国でビジネスを行っていくためには、中国における知的財産権の保護のための対策をできるだけ早い段階で取っていくことが不可欠です。また、日系企業が中国で侵害されている権利の中には商標権侵害が最も多いことから、日本企業の中国における模倣品対策の一環として、まず商標権を取得することが最も重要であるといえます。
従って、日本企業が自社の商品やサービスにかかわる商標、社名(商号)などを中国で早期に出願し登録することはもちろん、有名な生産物を有する日本の地方自治体もその地名を商標として早期に中国で登録する戦略を立てるべきでしょう。また、防衛という観点から、それほど有名でない生産物を有する日本の地方自治体もその地名を商標として中国で登録する戦略を考えるべきでしょう。なお、日本の地名を中国で商標登録する際、一般商標として出願することはもちろん、その地方の生産物が有名である場合には、団体商標又は証明商標として出願することも可能です。